経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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18/4/23(983号)
日米主脳会議に対する筆者の感想

    今回の日米主脳会議は一応成功

    日米主脳会議はほぼ予想通りの形で進んだ。筆者の一番の関心事はもちろん北朝鮮への対応である。来る米朝主脳会談で、核放棄を北朝鮮に確実に飲ませることを安倍総理がトランプ大統領に確認する必要があった。この確認とは米国が勝手に北朝鮮と「変な妥協」を行わないないことの確認と理解してもらって良い。

    この確認ができれば、今回の日米主脳会議は成功と筆者は考えた。これについては初日の日米主脳会議で確認がとれ、非核化実現へ両国は「最大限の圧力」を維持することで一致した。2日目の経済・通商に関する日米主脳会議は「オマケ」みたいなものと筆者は捉えている。


    日本のメディアの論評は、相変わらずピントがずれている。鉄・アルミの輸入制限の日本の適用除外や米国のTPPへの復帰が叶わず、日米主脳会議は成果は小さかったというメディアさえあった。しかし鉄・アルミ輸入制限の悪影響は極めて軽微である。むしろ適用除外を無理に求めて、韓国のように為替に関する余計な要求などが出ることの方がまずかった。

    TPPは成長戦略の一つとして捉えているように、明らかにこれは日本の新たな輸出振興政策である。米国はこれを見透かしているので、拒否するのが当たり前である。もし米国にTPP復帰を迫るのなら、これは自由貿易に加え新しい安全保障の枠組みと米国を説得する他はないと筆者は思っている。

    むしろ米国から「日本は数百億ドルの対米貿易黒字を減らせ」と迫られなくて幸いであった。ちなみに中国は、1,000億ドルの対米貿易黒字を減らすよう要求されている。トランプ大統領は日本の対米貿易黒字が大きいと(第3位)指摘したが、今回、具体的に黒字削減を要求しなかった。安倍総理は、これには助かっている。

    しかしトランプ大統領がいずれ日本に対米黒字の削減を要求して来ることは十分有り得る。しかし安倍政権の現在の経済政策スタッフの中でこれを真剣に考えている者はいないようだ。今の状態では、最後に「それでは米国から兵器を購入しましょう」と本当につまらない結果になると筆者は思っている。


    今日、財務官僚のいい加減さや無能さが大きな話題になっている(これは来週取上げる)。しかし経済政策スタッフの中心となっている経産省出身の官僚も相当なものである。筆者は安倍政権の経済政策スタッフの入れ換えが必要と思っている。今の経済政策スタッフは、3本目の矢である「投資を喚起する成長戦略」が最重要政策と思っている。

    したがって成長戦略ではTPPが重要政策とされ、また外国人観光客の増加が目玉政策である。しかしいずれも外需依存を強める政策である。今、日本にとって必要な経済政策は、外需ではなく内需を拡大して貿易黒字を削減することである。日本人の所得を増やし、日本人が買い物や観光ができる社会の実現である。


    また成長戦略の中で最重要と位置付けられているのが国家戦略特区である。しかし国家戦略特区の経済効果は極めて小さい。17/8/14(第951号)「日本の構造改革派の変遷」で取上げたように、問題となった今治の獣医学部新設の直接投資額とその波及効果を合算しても経済効果はたった200億円程度にしかならない(筆者の試算)。

    そしてこの小さい案件を扱う国家戦略特区諮問会議の議長に総理が就くといった制度設計を行った。しかし総理は形だけのトップであり、最後の判定まで特区の事業者の選定にタッチしないことになっている(特区に申請する事業体を最後に知る形になっている)。ただ総理の名を利用して、岩盤規制とやらに穴を開けるのが推進者達(規制緩和こそ経済成長の源泉と信じる構造改革派の観念論者)の拙い目論みであった。


    ところが無関係のはずの安倍総理を忖度して特区の事業者が選定されたという話になり、総理は総攻撃を受けることになった。これは明らかに国家戦略特区の制度上の欠陥である。さらに国家戦略特区の仕組を知らない人々が奇妙な文章(首相案件)を作成したりして、今回の混乱を招いたと筆者は推測する。

    結果的に、構造改革派の薄っぺらなアイディアを元にした国家戦略特区制度によって、安倍総理は「地雷原」を歩くはめになったと筆者は考える。そして今治の獣医学部新設が大問題になったため、国家戦略特区は動きが止まったという。


    米国抜きでは東アジアは暗黒地帯

    18/3/19(第978号)「米朝主脳会談を推理」18/3/26(第979号)「米中貿易戦争」の冒頭で、米国の対北朝鮮政策を担ってきたのは、国務省ではなくCIAと筆者は推測を述べた。CIAと北朝鮮政府の接触は昨年には既に始まっていたと見ている。まず昨年の暮、唐突にトランプ大統領がツイッターで「金正恩委員長という人物は実に賢い」とつぶやいたことに筆者は注目した。

    この頃には、金正恩委員長が核を放棄しても良いと米側に伝えていたと想われる。また平昌オリンピックの美女応援団のユニフォームが揃っていてあまりにも用意周到と筆者は指摘した(かなり前から準備していた)。そして対北朝鮮政策を担当してきたCIAの長官であるマイク・ポンペオ氏が国務省の長官に就くのは自然の流れと述べた。何とそのポンペオ氏が、3月の末に隠密裏に北朝鮮を訪れ金正恩委員長に接触していたというスクープがワシントン・ポストに載った。トランプ大統領もこれを認めている。

    おそらくこれは米朝首脳会議の打合せのための訪問であろう。つまり米朝首脳会議の準備は着々と進んでいるのである。ともあれここまでは筆者の推理がほぼ当っていたことになる。


    金正恩委員長は「もう核実験やICBMは完成したので、追加の実験は必要ない」と言っている。しかし核兵器を廃棄するとは言っていない。まだ圧力を緩める訳には行かない。

    ところがテレビで「北朝鮮は米国に届くICBMを完成させたので、米国と対等の交渉を始められた」と間抜けな事を言う者がいるので驚く(テレ朝の解説委員の玉川氏など)。制裁と軍事的圧力に屈し金正恩委員長が白旗(核放棄)を上げたから、米国は米朝主脳会談に応じたと筆者は考える。


    最初から北朝鮮の負けゲームと筆者は見る。妥協協議を始めるなら、経済制裁が強化される前に始める必要があった。もっと言えばトランプ大統領が登場する前から妥協協議を開始するべきであった(オバマ大統領の方がずっと御しやすかった)。相手(米国)にさんざんカードを与え終わってからゲームを降りると言っているのだから、「降伏」以外の何物でもない。だから拘束している米国人を解放するとか、自分からカードをどんどん切っている。

    まあ、筆者と玉川氏のどちらが正しいかは米朝主脳会談の結果を見ればはっきりするであろう。筆者は、一般の米国民を別にして米軍関係者は北朝鮮が完成したと言っている核兵器なんて「へ」とも思っていないと推測する。


    中国や北朝鮮から譲歩を得られたのは、米国の想定外の圧力がものを言ったからと筆者は思っている。中国には1,500億ドルの輸入品に対する追加関税であり、北朝鮮に対しては経済制裁と軍事力による威嚇であった。両方ともトランプ大統領が主導した。

    21世紀に入り、世の中は人間の理性と知性で動くと思われた。ところが今日の東アジアの現実は、前近代的な「脅し」や「軍事力」でなければ何事も全く動かないのである。それらを伴わない「対話」や「話合い」は何の役にもたたない。

    ましてや中国と北朝鮮は「ハッタリ」の国である。ところがトランプ大統領の得意技も「ハッタリ」である。この「ハッタリ」同士の争いをトランプ大統領は優位に進めている。これはトランプ大統領の「ハッタリ」の方が迫力があり、「ハッタリ」に多少なりとも現実感があるためである。また「ハッタリ」を実行するかもしれないと思わせるスタッフで周囲を固めたことが良かったと筆者は見ている。


    不幸にも日本は「力」しか信じない独裁体制国家の中国や北朝鮮の近くに位置する。ところが戦後の日本は完全に腰が抜けている。これを「平和主義」と呼んで誤魔化してきた。生前の西部邁さんも「日本は戦争でたった一回負けただけで腰が抜けた」とよく言っていた。日本が腰抜けということを見透かし、これらの国々は日本の言うことを聞こうとしない。

    日本が米国との同盟関係を強化し、トランプ大統領という独特のキャラクターの持ち主が登場したからこそ事態が動き始めたのである。米国を批判するのは自由であるが、もし米国という存在がなければ東アジアはまさに「暗黒地帯」のままである。ともかく残念ながら腰が抜けている日本は米国を頼るしかない。

    したがってその同盟国の米国への貿易黒字の削減に、安倍政権は本気になって取組む必要があると痛感した(大きな内需拡大が必要・・むしろ日本国民にとっても好ましい)。これが今回の日米主脳会議に対する筆者の感想である。しかし今の貧弱な経済政策スタッフのままでは、現安倍政権はとてもそのような政策を打出すことは無理である。



財務官僚への批難が起っている。来週は、筆者なりの切り口でこれを取上げる。

ゴールデンウィークにつき来週号のアップは早めに行う予定である。



18/4/16(第982号)「通商摩擦は中国の敗北」
18/4/9(第981号)「米中の通商摩擦の行方」
18/4/2(第980号)「森友学園問題の真相」
18/3/26(第979号)「米中貿易戦争」
18/3/19(第978号)「米朝主脳会談を推理」
18/3/12(第977号)「トランプ政権の脆弱な経済スタッフ」
18/3/5(第976号)「米国でのシニョリッジ政策」
18/2/26(第975号)「世界的な「金余り」の実態」
18/2/19(第974号)「VIX指数の不正操作」
18/2/12(第973号)「VIX指数暴落か」
18/2/5(第972号)「日本政府の貸借対照表」
18/1/29(第971号)「日本の経済論壇の病根」
18/1/22(第970号)「再びノストラダムスの大予言」
18/1/15(第969号)「今年のキーワードは「渾沌」」
17/12/25(第968号)「狙いは需要創出政策の阻止」
17/12/18(第967号)「経済論議混迷の根源はNAIRU」
17/12/11(第966号)「日本の経済の専門家はおかしい」
17/12/4(第965号)「需要で日本の経済成長は決まる」
17/11/27(第964号)「続・「今から嘘をつくぞ」の決まり文句」
17/11/20(第963号)「PB黒字化は本当に国際公約か」
17/11/13(第962号)「これからの重大な政治課題」
17/11/6(第961号)「旧民進党の研究」
17/10/26(第960号)「48回衆議員選の分析」
17/10/16(第959号)「北朝鮮の国営メディアと同じ」
17/10/9(第958号)「総選挙の結果の予想」
17/10/2(第957号)「総選挙と消費増税」」
17/9/25(第956号)「解散は早い方が良い」」
17/9/18(第955号)「制裁の狙いと効果」」
17/9/11(第954号)「北朝鮮への「圧力と対話」」
17/9/4(第953号)「北朝鮮の核を考える」
17/8/28(第952号)「日本のテレビ局をBPOに告発」
17/8/14(第951号)「日本の構造改革派の変遷」
17/8/7(第950号)「今回の内閣改造について」
17/7/31(第949号)「加計問題の教訓」
17/7/24(第948号)「加計問題と日本のマスコミ」
17/7/17(第947号)「消化不良の参考人招致の質議」
17/7/10(第946号)「前川前事務次官の参考人招致」
17/7/3(第945号)「官邸への報復」
17/6/26(第944号)「加計学園の獣医学部新設騒動」
17/6/19(第943号)「小池都知事の不安煽り政治」
17/6/12(第942号)「米国のパリ協定離脱」
17/6/5(第941号)「テロ等準備罪(共謀罪)の話」
17/5/29(第940号)「安倍総理の憲法改正の提案」
17/5/22(第939号)「半島有事への日本の備え」
17/5/15(第938号)「朝鮮半島の非核化」
17/5/1(第937号)「予備自衛官の大幅増員を」
17/4/24(第936号)「理解されないシムズ理論の本質」
17/4/17(第935号)「シムズ理論と「バカの壁」」
17/4/10(第934号)「経済再生政策提言フォーラムとシムズ理論」
17/4/3(第933号)「シムズ理論の裏」
17/3/27(第932号)「シムズ理論とシムズ教授」
17/3/20(第931号)「シムズ理論とアベノミクス」
17/3/13(第930号)「アメリカの分断を考える」
17/3/6(第929号)「移民と経済成長」
17/2/27(第928号)「トランプ大統領のパリ協定離脱宣言」
17/2/20(第927号)「トランプ現象の研究」
17/2/13(第926号)「為替管理ルールの話」
17/2/6(第925号)「日米主脳会議への対策はアラスカ原油輸入」
17/1/30(第924号)「そんなに変ではないトランプ大統領」
17/1/16(第923号)「今年の展望と昨年暮れの出来事」


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