経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




17/9/18(955号)
制裁の狙いと効果

    中国とロシアの本音

    15日、予想通り北朝鮮はミサイルを発射した。世間では国連の制裁決議に対する抗議と解説されている。しかしこれだけ頻繁に発射を繰返しているところ見ると、実際のところ自分達のペースで事を進めているに過ぎないと思われる。つまり制裁決議がなくとも、いずれミサイルの発射を行っていたのである。これからも核とミサイルの実験を続けると見られ、緊迫の度合は日々上がって行くことになる。

    今のところ北朝鮮は核とミサイルの開発を中断する気配を見せていない。もっとも中断するだけでは米国は対話に応じないと筆者は考える。もし北朝鮮にそのような甘い対応をすれば、イランの核開発を助長することになる。このような点を分かっていない人々が世間には多い。中断ではなく核廃棄が米国の対話の条件であるが、現体制の北朝鮮はこれを拒否するに決まっている。したがって国連の制裁はますます強化されることになる。つまり極限まで兵糧攻めが続くことになる。


    11日に新たな国連の制裁があっさりと決まった。事前の予想では中国やロシアが反対し、かなり揉めると言われていた。また議長国が中国の影響が強いエチオピアであったが、米国が提出した制裁の修正案は全会一致で決議された。米国の修正案が前もって中国やロシアの賛同を得ていたのである。

    表向きには、中国とロシアは圧力(制裁)ではなく対話を重視すべきと主張している。特にロシアは北朝鮮の経済開発を支援するロードマップを示していた。しかし前から本誌で述べて来たように、中国とロシアの本音は朝鮮半島の非核化と筆者は思っている。もちろんロシアのロードマップ(経済開発の支援)なんて、リップサービスであり半分冗談である(経済開発の支援が必要なのはむしろロシアの方であろう)。

    決議が全会一致で決まったことを見ても、中国とロシアの本音が透けて見える(中国やロシアには裁決の棄権という手段もあった)。つまり最後の頼みの綱であったロシアまでが裏切ったことになる。したがって北朝鮮にとって、今回の決議はかなりのショックだったと筆者は見ている。


    中国とロシアが半島の非核化を望んでいても、両国にはこれを実現する力はない。これを実行できるとしたら米国の他にはないことを両国は分かっている。特に中国は朝鮮半島の非核化を強く切望している。おそらく今回の6回目の核実験で一番動揺したのは中国だったと筆者は見ている。

    評論家などの中には、中国と北朝鮮の間には中朝軍事同盟があり、米朝の間で軍事衝突があれば中国は北朝鮮を軍事的に支援するはずといまだに言っている者がいる。しかし今日の中朝主脳の関係は最悪である。中国は今回決まった国連の制裁決議の一部(北朝鮮労働者の解雇)を先立って8月から既に実施していたほどである。


    昔から極東アジア(中国、ロシア(ソ連)、北朝鮮、韓国)の国々は、他国との条約や契約を軽んじる傾向がある。日本は日ソ不可侵条約を信じて痛い目に会った。韓国は日韓基本条約を忘れたように行動している。中国とも日中平和条約を結んでいるが、尖閣諸島への中国の挑発は止まない。日朝平壌宣言は既に有名無実化している。

    これらの事例を見ても分るように、中朝軍事同盟が今日でも有効と考える方がおかしい(既に同盟関係は風化している)。北朝鮮にとって一番の敵は米国であるが、二番目は中国という見方もあるくらいである。筆者の想像では、中国とロシアの本音は米国に北朝鮮をなんとかしてくれといったところである。事前の予想に反して、今回の国連の制裁決議が極めてスムーズに決まったのも、中国とロシアのこの本音が反映したからと筆者は考える。制裁決議の裁決後、中国とロシアの国連大使の二人がにこやかに話をしながら議場から出て来た姿が印象的であった。どうも今回の核実験が中国とロシアにとって転機となった可能性は高いと筆者は思っている。


    制裁は兵糧攻め

    北朝鮮の核とミサイルの開発が止められないことを見て、国連の制裁は効果がないという者がいる。続けて彼等は「だから圧力(制裁)ではなく対話が必要」と言う。しかしそもそも日本や米国が目指しているのは北朝鮮の核放棄である。前述の通り、例えこれ以上実験をやらないと言っても対話の条件にならない。逆に実験を続けるなら制裁を強化するだけである。

    制裁によって北朝鮮の核とミサイルの開発を止められないことは織込済みである。しかしこれまでの制裁の効果が限定的だったことも事実である。さらに制裁逃れ的な行動もあった。しかし制裁を強化することによって、制裁の効果は上がって行くと思われる。


    たしかに今回は制裁で原油の輸出全面禁止が外れた。ただ原油輸出量は前年実績に抑えられ、石油製品輸出量は200万バーレル(30万t)に制限された。中国がパイプラインで送っているのが50万t、その他の方法で50万tほどが北朝鮮に輸出されているという。

    大きいのは北朝鮮からの繊維製品の輸入禁止と筆者は見ている。北朝鮮は原料・材料を中国から輸入し加工した製品を中国に輸出している。金額は年間830億円程度である。これと石炭の輸出禁止(前回の制裁で既に禁輸になっている)を合わせると、北朝鮮の輸出の9割が無くなる。原油の輸入額が50万tで150億円、100万tで300億円ということを考えると、繊維製品の輸出額の830億円はかなり大きい。したがって外貨不足で原油も買えなくなる事態も有りうる(原油禁輸の手間が省かれる)。


    中国、ロシアなどへの出稼ぎ労働者の制限によって、かなり外貨の獲得額が減少しそうである。北朝鮮政府が出稼ぎ労働者から得ている収入が年間10億ドルと言われている。制裁強化によってこれがどの程度減るのか注目される。

    原油の全面禁輸が実現せず、米国の仕掛は失敗という論評があった。しかし米国も最初から全面禁輸は無理と踏んでいたと思われる。むしろ最初は高いハードルを示し、その後修正案を出すことによって制裁をうまく決議まで持って行った。これもトランプ流の交渉術と言える。原油の制限は次回の制裁まで持ち越したことになる。


    今回の制裁がどれほどの効果があるのか正確には分らない。たしかにまだ抜け道はあると思われる。しかし確実に北朝鮮経済にとって一定の打撃となるはずである。実際、北朝鮮の今回の制裁に対する反発はかなり大きかった。

    先週号で述べたように制裁で北朝鮮の国力は削がれることになる。制裁が強化される度に北朝鮮経済は縮小するのである。まさに兵糧攻めということになるが、ただ暴発が起らない程度の制裁を行うという難しさはある。いきなりの原油の全面禁輸は、現段階ではさすがに行過ぎという判断であろう。また誰も言わないが、「兵糧攻め」ということは事実上戦争は始まっていると解釈しても良いのではないかと筆者は思っている。核が絡む冷戦下の戦争はこのような形になるのかもしれない(必ずしもバンバン撃ち合ったりしない)。


    北朝鮮関連で問題が起ると、テレビに妙な北朝鮮の専門家が頻繁に登場し解説を行っている。この人物は、最近、アントニオ猪木氏と一緒に平壌を訪れている。彼がテレビで行うコメントは、全て北朝鮮政府の考えを斟酌したものである。まさに北朝鮮政府の広報官である。何故この時期に、日本のテレビはこのような人物に発言の機会を与えているのか筆者には理解ができない。

    米国は米国人の北朝鮮への渡航を禁止にした。どうも日本は、渡航禁止ではなく渡航自粛の段階のようである。ジャーナリストも渡航しているようである。もちろん北朝鮮は好意的な報道やコメントを行う者しか入国を認めない。



来週もテーマは未定である。



17/9/11(第954号)「北朝鮮への「圧力と対話」」
17/9/4(第953号)「北朝鮮の核を考える」
17/8/28(第952号)「日本のテレビ局をBPOに告発」
17/8/14(第951号)「日本の構造改革派の変遷」
17/8/7(第950号)「今回の内閣改造について」
17/7/31(第949号)「加計問題の教訓」
17/7/24(第948号)「加計問題と日本のマスコミ」
17/7/17(第947号)「消化不良の参考人招致の質議」
17/7/10(第946号)「前川前事務次官の参考人招致」
17/7/3(第945号)「官邸への報復」
17/6/26(第944号)「加計学園の獣医学部新設騒動」
17/6/19(第943号)「小池都知事の不安煽り政治」
17/6/12(第942号)「米国のパリ協定離脱」
17/6/5(第941号)「テロ等準備罪(共謀罪)の話」
17/5/29(第940号)「安倍総理の憲法改正の提案」
17/5/22(第939号)「半島有事への日本の備え」
17/5/15(第938号)「朝鮮半島の非核化」
17/5/1(第937号)「予備自衛官の大幅増員を」
17/4/24(第936号)「理解されないシムズ理論の本質」
17/4/17(第935号)「シムズ理論と「バカの壁」」
17/4/10(第934号)「経済再生政策提言フォーラムとシムズ理論」
17/4/3(第933号)「シムズ理論の裏」
17/3/27(第932号)「シムズ理論とシムズ教授」
17/3/20(第931号)「シムズ理論とアベノミクス」
17/3/13(第930号)「アメリカの分断を考える」
17/3/6(第929号)「移民と経済成長」
17/2/27(第928号)「トランプ大統領のパリ協定離脱宣言」
17/2/20(第927号)「トランプ現象の研究」
17/2/13(第926号)「為替管理ルールの話」
17/2/6(第925号)「日米主脳会議への対策はアラスカ原油輸入」
17/1/30(第924号)「そんなに変ではないトランプ大統領」
17/1/16(第923号)「今年の展望と昨年暮れの出来事」
16/12/26(第922号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(まとめ)」
16/12/19(第921号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(モラルハザード他」
16/12/12(第920号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(日銀の独立性他」
16/12/5(第919号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(物価上昇編(2))」
16/11/28(第918号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(物価上昇編(1))」
16/11/21(第917号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(基本編)」
16/11/14(第916号)「トランプ大統領誕生は良かった?」
16/11/7(第915号)「Q&A集作成のための準備」
16/10/31(第914号)「中央銀行に対する観念論者の誤解」
16/10/24(第913号)「落日の構造改革派」
16/10/17(第912号)「ヘリコプター・マネー政策への障害や雑音」
16/10/10(第911号)「事実上のヘリコプター・マネー政策」
16/10/3(第910号)「財政均衡主義の呪縛からの覚醒」
16/9/26(第909号)「日本経済こそが「ニューノーマル」」
16/9/19(第908号)「プライマリーバランスの回復は危険」
16/9/12(第907号)「労働分配率と内部留保」
16/9/5(第906号)「経済学者の討論の仕方」
16/8/29(第905号)「吉川教授と竹中教授の討論」
16/8/22(第904号)「芥川賞受賞作「コンビニ人間」」
16/8/8(第903号)「新経済対策への評価」
16/8/1(第902号)「大きな車はゆっくり回る」
16/7/25(第901号)「アベノミクス下における注入と漏出」
16/7/18(第900号)「経済循環における注入と漏出」
16/7/13(第899号)「16年参議員選の結果」
16/7/4(第898号)「奇異な話二題」
16/6/27(第897号)「ヘリコプター・マネーと国民所得」
16/6/20(第896号)「ヘリコプター・マネーと物価上昇」
16/6/13(第895号)「ヘリコプター・マネーと消費増税の比較」
16/6/6(第894号)「消費増税問題の決着」
16/5/30(第893号)「安倍政権の次のハードル」
16/5/23(第892号)「アベノミクス停滞の理由」
16/5/16(第891号)「ヘリコプターマネーは日本の救世主か」
16/5/2(第890号)「毎年1,000件もの新製品」
16/4/25(第889号)「日本は消費税の重税国家」
16/4/18(第888号)「財政問題に対する考えが大きく変る前夜」
16/4/11(第887号)「民進党が消費税増税を推進する背景」
16/4/4(第886号)「財政問題が解決済みということの理解」
16/3/28(第885号)「終わっている日本の経済学者」
16/3/21(第884号)「国際金融経済分析会合の影響」
16/3/14(第883号)「信用を完全に失った財務省」
16/3/7(第882号)「「政界」がおかしい」
16/2/29(第881号)「一向に醸成されない「空気」」
16/2/22(第880号)「緊縮財政からの脱却」
16/2/15(第879号)「超低金利の今こそ国債発行を」
16/2/8(第878号)「日銀の「マイナス金利」政策の実態」
16/2/1(第877号)「CTAヘッジファンドの話」
16/1/25(第876号)「今後の原油価格の動きは「売り投機筋」に聞いてくれ」
16/1/18(第875号)「日本の経済論壇は新興宗教の世界」
16/1/11(第874号)「日本のデフレギャップは資産(財産)」


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