経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


今年は今週号が最後、新年は1月15日発行を予定

17/12/25(968号)
狙いは需要創出政策の阻止

    勝手に意味をスリ変え

    ここ数週に渡りデフレギャップや潜在成長率などを取上げてきたが、これに関する議論が混乱していることを説明した。混乱の原因は、同じ経済用語でも使う者によってその意味が異なるからと筆者は考える。特に主流派と言われる経済学者やエコノミストが問題である。この違いをはっきりさせないまま彼等は勝手に議論を展開する。

    そもそも彼等は経済論議を深めようといった意思を全く持っていない。もし議論を深めるつもりなら、最初に使う経済用語の意味や定義をはっきりさせる必要がある。しかし始めから議論なんかするつもりがないので、主流派の経済学者やエコノミストはこの重要なプロセスを省略し、一方的に片寄った持論を押付ける。日経新聞などはこの手のプロパガンダまがいの論説で溢れている。これら対し「おかしい」という意見を日本のメディアはまず取上げない。唯一の例外は、日経新聞では「カトー」氏のコラムぐらいである。


    彼等と筆者達ではデフレギャップや潜在成長率の認識が異なる。筆者達は実際の供給力の天井と現実の名目GDPの差がデフレギャップと捉え、そのデフレギャップを元に算出した最大可能な成長率が潜在成長率と認識している。日本の供給力の天井は、主流派の経済学者やエコノミストが想定しているよりずっと高いというのが筆者達の主張である。

    デフレギャップが1〜2%とか、ましてやデフレギャップがマイナスになる事態(つまりインフレギャップの発生)なんて絶対に考えられない。おそらく彼等は、日本ではなくインフレが常態化している中南米やアフリカなどの経済を想定した経済モデルでも使っているのであろう(あるいは「セイの法則」がある程度通用した19世紀の経済を想定)。


    ところが今日、デフレギャップが極小(彼等のばかげたデフレギャップの算出方法で)となったにもかかわらず、一向に物価が上昇しない現実に直面している。先週号で述べたように、困惑した主流派の経済学者やエコノミストはデフレギャップのゼロの意味を「必ず物価が上がる」ではなく「上がりやすい状況になる」と卑怯にも勝手にスリ変えている。その程度の話なら、何故、彼等がこれまでデフレギャップや潜在成長率をことさら取上げて来たのか意味がない。

    筆者は、政府機関は人心を惑わせるこれらの数字の算定を即刻止めるべきと言いたい(少なくともこれらのデタラメな経済数字の公表はするな)。もっとも主流派の経済学者やエコノミストの意図は見え透いている。人々(政治家を含め)が需要不足に関心が向かないないよう、供給サイドがパンク状態ということを強調したいのであろう。要するに財政出動による需要創出政策を阻止することが真の狙いと見られる。


    先週号で説明したように、日本のデフレギャップや潜在成長率は、NAIRU(インフレ非加速的失業率)を意識して算出されている。この詐欺的な算出方法に同調する日経新聞は、日本中の人手不足の現場を必死になって捜し回って記事にしている。人手不足だからこれ以上の需要創出政策は不要と言いたいのであろう。

    しかし人手不足の職場は、不正規雇用が中心で低賃金のところばかりである。例えば時給1,000円のアルバイトが足らないといった類の話になる。このような職場には、外国人の労働者が目立つのですぐ分る。しかし日経新聞を始め、日本のメディアは「時給1,000円」の意味を考えない。年間2,000時間も働いても(日本の正規雇用労働者の年間労働時間の平均はもっと少ない)、たった2百万円の収入にしかならない仕事である。一時的、あるいは片手間で働くのなら別だが、外国人を除けばそのような職場に人が集るわけがない。

    もう一つの人手不足の現場は、昔から人々が敬遠する3Kの職場である。特に団塊の世代が引退しているので人手不足が顕在化している。ところがまだ有効求人倍率を見て、日本は完全雇用と言っている間抜けなエコノミストがいる。しかし求人の中にどれだけ多くの「ブラック職場」が含まれているか彼等は関知しないようだ。


    履歴効果に負けないために

    観念論者が唱えるNAIRU(インフレ非加速的失業率)や自然失業率を使ったデフレギャップや潜在成長率の算定方法が、「おかしい」という声はとうとう米国でも起っている。失業率が完全雇用に近いと言われるレベルまで下がっているのに、米国でも一向に物価は上昇しないし賃金の上昇も鈍い。特にこれを気にしているのが米FRBである。

    16/8/22(第904号)「芥川賞受賞作「コンビニ人間」」で述べたように、求人が増えているといっても「雇用の質」が問題とイエレンFRB議長は適確な指摘をしている。米FRBが金融政策の転換に慎重なのも、このような米国の雇用情勢が影響している。移民が多く新興国並の需要がまだ期待できる米国でも、自然失業率というものに対する疑問が呈されているのである。米国より経済が成熟し高齢化が進む日本で、NAIRU(インフレ非加速的失業率)を意識した議論がまかり通っていることの方が異常である。


    そして日本経済が長く不調を続けることによって、本当の経済力を失うことを心配する声がある。先週号で紹介した「不況は潜在成長率を下げる」という「カトー」氏のコラムである。ここで言う潜在成長率は、NAIRU(インフレ非加速的失業率)に基づいて算出されるインチキ潜在成長率ではなく、本当の意味での日本の潜在的な成長力と筆者は理解している。ケインズが言っていた資本主義経済における経営者のアニマルスピリットみたいなものと考えて良い。

    たしかにここ30年間を見ても、経済が上向くと「次は財政再建だ」という声が必ず上がり、緊縮財政に転換し日本経済の成長を阻止する動きが起った。例えば異次元の金融緩和と大型補正予算で13年度は日本経済が上向いたが、14年度の消費増税と補正予算の大幅削減で日本経済は沈んだ。このようなことを続けていては、経営者のアニマルスピリットが萎えるのは当たり前である。

    また「カトー」氏は同コラムでサマーズ元財務長官の「履歴効果」を引合いに出している。「履歴効果」とは「不況が長引くと物的資本や人的資源への投資が減少し、不況の影響が履歴のように潜在成長率に残っていく」というものである。そして「カトー」氏は「履歴効果のことを考えると、潜在成長率の低下は需要不足によるところが大きい」と指摘している。したがってこの対策には拡張的なマクロ政策が必要と「カトー」氏は結論付けている。


    サマーズ元財務長官は14/6/30(第803号)「サマーズとトマ・ピケティ」14/7/28(第807号)「三教授のサマーズ論の解説」で紹介したように、「米国経済の長期停滞論」を展開している。サマーズ氏は、米国のデフレギャップが10%以上あると主張している。つまりNAIRU(インフレ非加速的失業率)や自然失業率を使ったデフレギャップの算出方法を完全否定しているのだ。したがってこれでは賃金が上がるはずがないとサマーズ氏は指摘している。

    米国のデフレギャップが10%なら、生産設備の稼働率が米国より常に10%程度低く推移していた日本のデフレギャップは15〜20%程度と見て良いと筆者は思っている。またサマーズ氏は、「履歴効果」に負けないためには需要創出のマクロ政策が必要と説いている。ただし需要創出は財政政策を中心にすべきと主張し、金融緩和政策に偏重することをサマーズ氏は警戒している。

    これは金融緩和政策への偏重によるバブル生成とバブル崩壊を危惧するからである。またサマーズ元財務長官は、米国だけでなく日本の経済政策にも同様のことが言えると指摘している(金融政策偏重に警鐘)。この意見に筆者は賛成である。しかし日本の来年度の予算編成を見ても、とても十分な財政政策が組込まれているとは思われない。筆者は新規国債発行による大胆な財政政策を主張してきた。しかし残念ながら、日本ではこれからも金融政策に偏重した政策が続くのである。



今年は今週号が最後であり、次回号は新年1月15日に発行を予定している。それでは、皆様、良いお年を!

年が明けてからは、やはり半島情勢が最大の関心事になると思われる。筆者は、戦闘は起っていないが既に戦争は始まっていると認識している。北朝鮮はサイバー攻撃を仕掛け、一方、米国を中心に経済制裁を行っている。経済制裁は兵糧攻めを意味する。この兵糧攻めで、北朝鮮の戦闘遂行能力をどれだけ削ぐことができるかという話である。



17/12/18(第967号)「経済論議混迷の根源はNAIRU」
17/12/11(第966号)「日本の経済の専門家はおかしい」
17/12/4(第965号)「需要で日本の経済成長は決まる」
17/11/27(第964号)「続・「今から嘘をつくぞ」の決まり文句」
17/11/20(第963号)「PB黒字化は本当に国際公約か」
17/11/13(第962号)「これからの重大な政治課題」
17/11/6(第961号)「旧民進党の研究」
17/10/26(第960号)「48回衆議員選の分析」
17/10/16(第959号)「北朝鮮の国営メディアと同じ」
17/10/9(第958号)「総選挙の結果の予想」
17/10/2(第957号)「総選挙と消費増税」」
17/9/25(第956号)「解散は早い方が良い」」
17/9/18(第955号)「制裁の狙いと効果」」
17/9/11(第954号)「北朝鮮への「圧力と対話」」
17/9/4(第953号)「北朝鮮の核を考える」
17/8/28(第952号)「日本のテレビ局をBPOに告発」
17/8/14(第951号)「日本の構造改革派の変遷」
17/8/7(第950号)「今回の内閣改造について」
17/7/31(第949号)「加計問題の教訓」
17/7/24(第948号)「加計問題と日本のマスコミ」
17/7/17(第947号)「消化不良の参考人招致の質議」
17/7/10(第946号)「前川前事務次官の参考人招致」
17/7/3(第945号)「官邸への報復」
17/6/26(第944号)「加計学園の獣医学部新設騒動」
17/6/19(第943号)「小池都知事の不安煽り政治」
17/6/12(第942号)「米国のパリ協定離脱」
17/6/5(第941号)「テロ等準備罪(共謀罪)の話」
17/5/29(第940号)「安倍総理の憲法改正の提案」
17/5/22(第939号)「半島有事への日本の備え」
17/5/15(第938号)「朝鮮半島の非核化」
17/5/1(第937号)「予備自衛官の大幅増員を」
17/4/24(第936号)「理解されないシムズ理論の本質」
17/4/17(第935号)「シムズ理論と「バカの壁」」
17/4/10(第934号)「経済再生政策提言フォーラムとシムズ理論」
17/4/3(第933号)「シムズ理論の裏」
17/3/27(第932号)「シムズ理論とシムズ教授」
17/3/20(第931号)「シムズ理論とアベノミクス」
17/3/13(第930号)「アメリカの分断を考える」
17/3/6(第929号)「移民と経済成長」
17/2/27(第928号)「トランプ大統領のパリ協定離脱宣言」
17/2/20(第927号)「トランプ現象の研究」
17/2/13(第926号)「為替管理ルールの話」
17/2/6(第925号)「日米主脳会議への対策はアラスカ原油輸入」
17/1/30(第924号)「そんなに変ではないトランプ大統領」
17/1/16(第923号)「今年の展望と昨年暮れの出来事」


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