経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




17/12/4(965号)
需要で日本の経済成長は決まる

    慢性的な日本の需要不足

    日本は、マイナスにはなっていないが極めて低い経済成長を続けている。筆者は幾度も言って来たが、この原因は日本の慢性的な需要不足である。日銀は異次元の金融緩和を続けているが消費や投資は一向に盛上がらない。かろうじて輸出が好調なので、なんとかマイナス成長は避けられている。

    消費が伸びないのは、所得が増えないからである。金利は最低水準で推移しているが、需要が増えないので投資もなかなか増えない。設備投資が増えているのは、外需が好調な電子部品メーカーなどの輸出産業に限られる。しかしこれも為替の動向によって、これからどうなるか分らない。現在の1米ドルが112円という為替レートは、購買力平価(100〜105円)より円安である。日本の経常収支の黒字幅は大きくなっており、今後、国際的な批判を受ける可能性がある(日銀の金融緩和が円安誘導策と見なされるかもしれない)


    日本の慢性的な需要不足の原因は、所得が増えないことと日本の消費年令人口(30〜40才台)が減り続けていることにあると筆者はずっと指摘してきた。しかし日経新聞を開けば、日本経済の低成長の原因は生産人口の減少や生産性の低下という論説ばかりである。つまり問題は需要サイドではなく供給サイドと言っているのである。だから連日のように日本は生産性を上げる施策が必要と日経新聞は特集を組んでいる。

    3週間前の本誌で、政治家が積極財政派、構造改革派、そして財政再建派(財政規律派)の三派閥に別れているという話をした。経済学界もこれに呼応して、概ね三つのグループに分れている。端的に分類すれば、古典派(新古典派)経済学に基づく構造改革派と財政再建派、そして財政による需要創出の有効性を唱えるケインズ主義の積極財政派である。特に供給サイド重視は構造改革派の考えと見なして良いであろう。生産性を向上させることによって経済が成長できるというこの経済理論に、日経新聞などはいまだにどっぷり漬かっている。また構造改革派と財政再建派が結託して、一時期、積極財政派を押さえていたという話をした。規制改革によって、日本の生産性を上げれば経済成長が可能という話(筆者達に言わせれば戯言)はここから導き出されていた。これは財政支出を強く牽制することが目的と筆者は考える。


    たしかに個々の企業経営者にとって、生産性を上げることは経営そのものと言って良いくらい重要である。特に売上が伸びている企業の経営者にとっては、生産性を上げることが使命と言える。反対に売上が伸びない企業は、売上を増やす努力と同時に、固定費を削減することによって生産性を上げる必要がある。そして固定費を削減するとは、すなわち合理化でありリストラということになる。

    ところで日本の全ての企業が売上を伸しているわけではない。全体として総需要が伸びない日本経済の現状では、リストラで生産性を上げるしか選択肢がない企業が多いはずである。たしかに生産性を上げるためには、このようなリストラを進めることは個々の企業にとって正しいかもしれない。


    しかし日本の総需要が伸びない中での生産性向上を目指す企業経営は、結果的にリストラによる失業を発生させることになる。日経新聞などはやたら人手不足を喧伝しているが、賃金が上がらないところを見ると多くの企業はむしろリストラ(特に中高年の事務職)をしたがっていると筆者は分析している。たしかに人手不足の産業分野(総じて低賃金の職場)が点在しているが、多分にこれは団塊の世代の大量引退が影響していると筆者は見ている(総需要が増えているための人手不足ではない)

    しかし個々の企業にとって生産性向上のためのリストラが避けられないとしても、上記の通り国民経済全体にとっては失業を伴うというマイナスの現象を生む。これはケインズ経済学でいう「合成の誤謬」ということになる。筆者は、個々の企業が合理化のためにリストラを行うことを必ずしも否定しない。ただ社会的にこのリストラの痛みを最小限にするように、同時に総需要の増大政策を政府は行うべきと筆者は主張しているのである。


    成長率は自生的需要の伸び率で決まる

    筆者は、日本経済の低成長は供給サイドではなく慢性的な需要不足が原因と指摘してきた。このテーマに関しては13/4/8(第751号)「久しぶりの「朝まで生テレビ」」16/5/2(第890号)「毎年1,000件もの新製品」で取上げた。大型消費の中心となる30〜40才台の人口、つまり消費年令人口が減り続けている。

    要するに借金をしても大型消費を行おうという年令層の人口が減っているのである。この日本の慢性的な需要不足の解決と経済成長には、需要創出しかないと筆者は考える。


    高度経済成長以降の日本経済は供給サイドに問題はなく、需要の動向が経済成長率を決定してきたというのが、筆者達の持論である。このことを示すのが02/7/15(第260号)「セイニアリッジ政策への反対意見」で提示した次の表である。

    GDPと自生的有効需要の伸び率比較(%)
    年度GDP総額民間投資+純輸出政府支出(うち公共投資)
    70→002.562.492.572.38(2.34)
    80→001.661.661.831.51(1.41)
    80→951.601.601.671.53(1.63)
    95→001.041.041.100.96(0.87)

    この表は、故丹羽春喜大阪学院大学教授が、ジャパンポストと言う雑誌の02年6月1日号に掲載したものである(ジャパンポストは後に廃刊)。民間投資(設備投資と住宅投資)と純輸出、さらに政府支出と言った自生的(独立的)な需要の総額の伸び率と、GDPの伸び率の関係を示したものである。基礎データの出所は、経済企画庁の「国民経済計算年報」と内閣府のホームページである。

    まずこの表から解ることは、民間投資、純輸出、政府支出などの自生的(独立的)な需要の乗数値はかなり安定していると推定されることである。つまり多くの経済学者やエコノミストが言っているような乗数値の低下と言うことはなさそうである(数値の推移を見る限り、たしかに80年以降は、70年代より若干小さくなっているが、かなり安定している)。

    また注意が必要なことは、表の政府支出は国と地方の財政支出の合計である。世間では、度重なる景気対策で政府支出が増大していると言った話になっているが、それらは全くの「デマ」と言うことをこの表は如実に示している。


    ケインズ経済学の基本理論では、民間投資(設備投資と住宅投資)、純輸出、政府支出といった自生的(独立的)な需要で所得(Y)が決定する(自生的需要×乗数値)。そして所得(Y)が決まれば、消費性向が一定なので消費(C)が決定する(消費(C)は所得(Y)の従属関数)。つまり民間投資、純輸出、政府支出といった自生的な需要が決まれば、自動的にGDPと経済成長率が決まる。現実にこの表の数字でGDPと総額の伸び率がほぼ一致していることを見ても(気持が悪いほど一致している)、ケインズ経済学の基本理論が正しいことが証明されていると考えて良い。

    これは日本の高度成長が終わり、インフレギャップが解消しデフレ経済が始まったからである。丹羽教授は75年から日本はデフレ経済に陥ったと見ていた。つまり日本の経済成長はこの1975年から総需要の大きさで決まるようになったのである。したがって経済成長を高めるには、自生的な需要を増やす施策を講ずれば良いことになる。ただ消費年令人口(30〜40才台)が減り続けている今日、いくら金融緩和を行っても民間投資(設備投資と住宅投資)の伸びには限度がある。自生的な需要の項目の中で、政府が明確に動かせるのは政府支出だけである。やはり新規国債発行による、大胆な財政支出の継続が必要という結論になる。



来週は、今週号の続きである。



17/11/27(第964号)「続・「今から嘘をつくぞ」の決まり文句」
17/11/20(第963号)「PB黒字化は本当に国際公約か」
17/11/13(第962号)「これからの重大な政治課題」
17/11/6(第961号)「旧民進党の研究」
17/10/26(第960号)「48回衆議員選の分析」
17/10/16(第959号)「北朝鮮の国営メディアと同じ」
17/10/9(第958号)「総選挙の結果の予想」
17/10/2(第957号)「総選挙と消費増税」」
17/9/25(第956号)「解散は早い方が良い」」
17/9/18(第955号)「制裁の狙いと効果」」
17/9/11(第954号)「北朝鮮への「圧力と対話」」
17/9/4(第953号)「北朝鮮の核を考える」
17/8/28(第952号)「日本のテレビ局をBPOに告発」
17/8/14(第951号)「日本の構造改革派の変遷」
17/8/7(第950号)「今回の内閣改造について」
17/7/31(第949号)「加計問題の教訓」
17/7/24(第948号)「加計問題と日本のマスコミ」
17/7/17(第947号)「消化不良の参考人招致の質議」
17/7/10(第946号)「前川前事務次官の参考人招致」
17/7/3(第945号)「官邸への報復」
17/6/26(第944号)「加計学園の獣医学部新設騒動」
17/6/19(第943号)「小池都知事の不安煽り政治」
17/6/12(第942号)「米国のパリ協定離脱」
17/6/5(第941号)「テロ等準備罪(共謀罪)の話」
17/5/29(第940号)「安倍総理の憲法改正の提案」
17/5/22(第939号)「半島有事への日本の備え」
17/5/15(第938号)「朝鮮半島の非核化」
17/5/1(第937号)「予備自衛官の大幅増員を」
17/4/24(第936号)「理解されないシムズ理論の本質」
17/4/17(第935号)「シムズ理論と「バカの壁」」
17/4/10(第934号)「経済再生政策提言フォーラムとシムズ理論」
17/4/3(第933号)「シムズ理論の裏」
17/3/27(第932号)「シムズ理論とシムズ教授」
17/3/20(第931号)「シムズ理論とアベノミクス」
17/3/13(第930号)「アメリカの分断を考える」
17/3/6(第929号)「移民と経済成長」
17/2/27(第928号)「トランプ大統領のパリ協定離脱宣言」
17/2/20(第927号)「トランプ現象の研究」
17/2/13(第926号)「為替管理ルールの話」
17/2/6(第925号)「日米主脳会議への対策はアラスカ原油輸入」
17/1/30(第924号)「そんなに変ではないトランプ大統領」
17/1/16(第923号)「今年の展望と昨年暮れの出来事」
16/12/26(第922号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(まとめ)」
16/12/19(第921号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(モラルハザード他」
16/12/12(第920号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(日銀の独立性他」
16/12/5(第919号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(物価上昇編(2))」
16/11/28(第918号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(物価上昇編(1))」
16/11/21(第917号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(基本編)」
16/11/14(第916号)「トランプ大統領誕生は良かった?」
16/11/7(第915号)「Q&A集作成のための準備」
16/10/31(第914号)「中央銀行に対する観念論者の誤解」
16/10/24(第913号)「落日の構造改革派」
16/10/17(第912号)「ヘリコプター・マネー政策への障害や雑音」
16/10/10(第911号)「事実上のヘリコプター・マネー政策」
16/10/3(第910号)「財政均衡主義の呪縛からの覚醒」
16/9/26(第909号)「日本経済こそが「ニューノーマル」」
16/9/19(第908号)「プライマリーバランスの回復は危険」
16/9/12(第907号)「労働分配率と内部留保」
16/9/5(第906号)「経済学者の討論の仕方」
16/8/29(第905号)「吉川教授と竹中教授の討論」
16/8/22(第904号)「芥川賞受賞作「コンビニ人間」」
16/8/8(第903号)「新経済対策への評価」
16/8/1(第902号)「大きな車はゆっくり回る」
16/7/25(第901号)「アベノミクス下における注入と漏出」
16/7/18(第900号)「経済循環における注入と漏出」
16/7/13(第899号)「16年参議員選の結果」
16/7/4(第898号)「奇異な話二題」
16/6/27(第897号)「ヘリコプター・マネーと国民所得」
16/6/20(第896号)「ヘリコプター・マネーと物価上昇」
16/6/13(第895号)「ヘリコプター・マネーと消費増税の比較」
16/6/6(第894号)「消費増税問題の決着」
16/5/30(第893号)「安倍政権の次のハードル」
16/5/23(第892号)「アベノミクス停滞の理由」
16/5/16(第891号)「ヘリコプターマネーは日本の救世主か」
16/5/2(第890号)「毎年1,000件もの新製品」
16/4/25(第889号)「日本は消費税の重税国家」
16/4/18(第888号)「財政問題に対する考えが大きく変る前夜」
16/4/11(第887号)「民進党が消費税増税を推進する背景」
16/4/4(第886号)「財政問題が解決済みということの理解」
16/3/28(第885号)「終わっている日本の経済学者」
16/3/21(第884号)「国際金融経済分析会合の影響」
16/3/14(第883号)「信用を完全に失った財務省」
16/3/7(第882号)「「政界」がおかしい」
16/2/29(第881号)「一向に醸成されない「空気」」
16/2/22(第880号)「緊縮財政からの脱却」
16/2/15(第879号)「超低金利の今こそ国債発行を」
16/2/8(第878号)「日銀の「マイナス金利」政策の実態」
16/2/1(第877号)「CTAヘッジファンドの話」
16/1/25(第876号)「今後の原油価格の動きは「売り投機筋」に聞いてくれ」
16/1/18(第875号)「日本の経済論壇は新興宗教の世界」
16/1/11(第874号)「日本のデフレギャップは資産(財産)」


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