経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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17/11/13(962号)
これからの重大な政治課題

    三派閥の変遷

    総選挙という政治イベントが終わった。北朝鮮有事という捉え所がない問題を別にして、安倍政権にとって次の最大の課題は憲法改正と言われている。しかし筆者は、もう一つ極めて重大な政治課題を今週号で取上げる。それは財政が絡む経済政策である。

    これまで筆者は、自民党の議員を経済・財政に対するスタンスで大別すると、積極財政派、構造改革派、そして財政再建派(財政規律派)に別れると説明してきた。これらの派閥は経済と財政に関する考え方は大きく異なる。これについては17/8/14(第951号)「日本の構造改革派の変遷」で、構造改革派の盛衰を中心に説明をした。これらの派閥は、互いに争ったり、時には手を組んだりしながら今日に到っている。

    例えば橋本政権では構造改革派と財政再建派が連係して積極財政派を押さえた。この時には規制緩和(構造改革)によって経済成長が可能なのだから、財政出動は不要という論理で橋本政権は緊縮財政(消費増税と歳出削減)に転換した。しかしこの幼稚な経済理論は間違いだったので、日本経済は緊縮財政によって急速に落込み不良債権問題が再燃した。この結果、自民党は参議員選で大敗し橋本首相は退陣した。


    その後も、これら三派の闘いは続いた。特に小泉政権では「構造改革なくして経済成長なし」といった虚言・妄言が幅を利かし、構造改革派の勢いが頂点に達した。一方、積極財政派の主要メンバーは、郵政改革騒動で自民党から追出され05年の総選挙では刺客まで立てられた。

    自民党内で積極財政派が落目になったため、公共投資の削減や地方交付税の減額などの緊縮財政が続けられた。財政当局は、これによる経済の落込みを誤魔化すため、常軌を逸した巨額の為替介入を行い(小泉政権時代、これによって国の借金が急増している)、円安誘導を行った(この反動でその後超円高が続き、円安継続を前提に巨額投資を行った大企業は窮地に陥った)。これにより東海地方のような輸出産業が集結する地域だけは景気が維持されたが、地方経済は散々であった。

    07/8/6(第493号)「自民党の自殺」他で述べたように、この結果、07年の参議院選、09年の衆議員選で大敗し自民党は野党に転落した。このように構造改革派や財政再建派が出しゃばると、必ず日本経済は落込み自民党は選挙で大負けした(民主党政権も、財務官僚に乗せられ消費増税を推進し政権が崩壊した)。たしかに小泉首相は消費増税を行わなかったが、免税業者や簡易課税制度の対象業者の課税売上高の限度額の引下げを行って消費増税の準備を行った。とにかく小泉首相は構造改革派であると同時に財政再建派という最悪の政治家であった。07年参議院選、09年衆議員選での自民党の大敗北は、5年間の小泉政権の無茶苦茶な経済政策と緊縮財政が原因と筆者は本誌でずっと指摘してきた。


    観念論者の構造改革派は、当初、財政出動を否定するといった点で財政再建派と手を結んでいたが、「経済成長が先か、財政再建が先か」の議論をきっかけに財政再建派とケンカ分れをした。その後は、構造改革派の主要メンバーは消費増税に反対するようになり、むしろ積極財政派と変らなくなった。特に経済成長を唱え上げ潮派と称するようになってからは、財政出動にも特に反対しなくなった印象がある。今日、加計問題などが起り、規制緩和による経済成長路線が現実離れしているという認識が広がり、教条的な構造改革派は窮地に陥っている(ただ筆者は経済成長に繋がらなくとも必要な規制改革は行うべきという立場)。

    財政再建派=消費増税派の認識が完全に間違っていることが14年の消費増税の経済への悪影響ではっきりと証明され、財政再建派の勢いはなくなった。たしかに与党は19年の消費税の再増税を今回の選挙公約に掲げたが、これも本当に実施されるか怪しい。いまだに自民党内で消費増税推進を唱えている集団は、反安倍政権の政治家の巣窟になっている観がある。もっとも消費増税を推進する自民党内の勢力が、グループを創って安倍政治に反発しているという見方も成立つ。


    まともなのは「カトー」だけ

    12年の第二次安倍政権発足後、筆者は積極財政派がかなり復権してきたという感想を持つ。まず05年の郵政選挙で自民党を追出された積極財政派はかなり復党している。またデフレ克服がアベノミクスの中心命題であり、その柱の一つが「機動的な財政出動」になっている。

    今回の総選挙の公約である消費増税分を教育無償化に充てるという発想も、積極財政派の考えを踏襲したものと考える。もっとも消費増税しなくとも、14年からの消費増税分の使い道を遡って変えるという方法もある。14年からの増税分は2割が社会保障に使われ、残り8割が財政再建に回されている。つまり毎年消費増税分の8割が経済循環から漏出し需要不足の要因となっている(この他に細かな増税や社会保険料の引上げがある)のだから、いくら金融緩和を行っても日本経済が下振れせずとも上向かないのは当たり前である。

    ところが13年に日銀の異次元の金融緩和が始まり世界は一変した。日銀がほぼ青空天井で日本国債を買うことを決めたのである。この時点で日本の財政再建問題とやらは解決したのである(もっとも日本の金利が世界一低く推移していたことから分るように、その前から日本では財政は問題ではなかった)。ただこの仕組については本誌で何回も取上げてきたので、ここでは説明を省略する。しかしこのことがなかなか認識されず、いまだに多くの政治家だけでなくマスコミ、エコノミストさえこの意味がよく解っていない。


    もっともこれを認めれば、日本の財政は最悪で財政再建が急務と言っていた日経新聞などは、これまでの自分達の論調が間違っていたことになり立場がなくなる。したがって日経などは「大胆な金融緩和で日本の金融市場で歪みが生じた」とどうでも良い批判を行っている。また日経は異常に「金融緩和の出口」にこだわっている。これも日銀がこのまま金融緩和政策を続ければ、これまでの日経の主張の間違いが段々とバレるからと筆者は理解している。

    物価急騰などの弊害が全く見られないのに、「出口戦略を議論せよ」という日経の言い分は本当に馬鹿げている。筆者は何十年も日経新聞を読み続けているが、論調が著しくおかしくなったのは90年代の半ばからである。政府が日経の主張に沿った経済政策を行う度に、内閣が一つ潰れた。特に日経が誉め讃えていた小泉政権が終わった翌年には、自民党は参議員選で大敗し衆参でねじれが生じ、09の衆議院選の大敗によってとうとう自民党は政権を失った。

    当時、日経新聞によく見られた論調は、「構造改革が不十分だから日本経済は不調から脱し切れない」「既得権にもっと切込むべき」であった。ずっと日経は論説だけでなく、コラムも異常な論調なものばかりである。今日、唯一まともなのは、時折、大機小機に掲載されるペンネーム「カトー」のコラムだけである。


    このように自民党政権の歴史の中で、財政再建派が前面に出るとろくなことがなかった。しかし世間では、借金を返すことが当たり前で美徳とされている。また財政再建派には財務省という大きな後ろ楯がいる。したがって簡単に財政再建派を排除することはできないと思われている。

    小池希望の党代表の「排除」「しがらみを断つ」という言葉が話題になった。しかし自民党という政党は、考えの違う者を「排除」するということはない。唯一反対派が排除されたケースは、郵政選挙の時だけである。実際、今の閣僚の中にもはっきりと財政再建派と分る者が数名いる。

    金融緩和が実施されている今日、むしろ必要なのは積極財政政策である。安倍一強と言われているが、安倍政権がはっきりと積極財政政策を打出した時には、党内や閣僚の中から反対する者が出てくると思われる。この反対勢力を安倍総理がうまく説得できるかが今後のポイントになる。筆者は17/7/10(第946号)「前川前事務次官の参考人招致」で取上げたように、魔の2回生(現在は晴れて魔の3回生)の20名弱が集り「政策目標になっているPB(プライマリーバランス)の放棄」や「積極財政」を訴える勉強会を始めたことに期待している。ひょっとするとこの魔の3回生から傑出した政治家が出てくるような気がする。



来週は今週の続きで、「PB(プライマリーバランス)の放棄」などを取上げる。



17/11/6(第961号)「旧民進党の研究」
17/10/26(第960号)「48回衆議員選の分析」
17/10/16(第959号)「北朝鮮の国営メディアと同じ」
17/10/9(第958号)「総選挙の結果の予想」
17/10/2(第957号)「総選挙と消費増税」」
17/9/25(第956号)「解散は早い方が良い」」
17/9/18(第955号)「制裁の狙いと効果」」
17/9/11(第954号)「北朝鮮への「圧力と対話」」
17/9/4(第953号)「北朝鮮の核を考える」
17/8/28(第952号)「日本のテレビ局をBPOに告発」
17/8/14(第951号)「日本の構造改革派の変遷」
17/8/7(第950号)「今回の内閣改造について」
17/7/31(第949号)「加計問題の教訓」
17/7/24(第948号)「加計問題と日本のマスコミ」
17/7/17(第947号)「消化不良の参考人招致の質議」
17/7/10(第946号)「前川前事務次官の参考人招致」
17/7/3(第945号)「官邸への報復」
17/6/26(第944号)「加計学園の獣医学部新設騒動」
17/6/19(第943号)「小池都知事の不安煽り政治」
17/6/12(第942号)「米国のパリ協定離脱」
17/6/5(第941号)「テロ等準備罪(共謀罪)の話」
17/5/29(第940号)「安倍総理の憲法改正の提案」
17/5/22(第939号)「半島有事への日本の備え」
17/5/15(第938号)「朝鮮半島の非核化」
17/5/1(第937号)「予備自衛官の大幅増員を」
17/4/24(第936号)「理解されないシムズ理論の本質」
17/4/17(第935号)「シムズ理論と「バカの壁」」
17/4/10(第934号)「経済再生政策提言フォーラムとシムズ理論」
17/4/3(第933号)「シムズ理論の裏」
17/3/27(第932号)「シムズ理論とシムズ教授」
17/3/20(第931号)「シムズ理論とアベノミクス」
17/3/13(第930号)「アメリカの分断を考える」
17/3/6(第929号)「移民と経済成長」
17/2/27(第928号)「トランプ大統領のパリ協定離脱宣言」
17/2/20(第927号)「トランプ現象の研究」
17/2/13(第926号)「為替管理ルールの話」
17/2/6(第925号)「日米主脳会議への対策はアラスカ原油輸入」
17/1/30(第924号)「そんなに変ではないトランプ大統領」
17/1/16(第923号)「今年の展望と昨年暮れの出来事」
16/12/26(第922号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(まとめ)」
16/12/19(第921号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(モラルハザード他」
16/12/12(第920号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(日銀の独立性他」
16/12/5(第919号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(物価上昇編(2))」
16/11/28(第918号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(物価上昇編(1))」
16/11/21(第917号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(基本編)」
16/11/14(第916号)「トランプ大統領誕生は良かった?」
16/11/7(第915号)「Q&A集作成のための準備」
16/10/31(第914号)「中央銀行に対する観念論者の誤解」
16/10/24(第913号)「落日の構造改革派」
16/10/17(第912号)「ヘリコプター・マネー政策への障害や雑音」
16/10/10(第911号)「事実上のヘリコプター・マネー政策」
16/10/3(第910号)「財政均衡主義の呪縛からの覚醒」
16/9/26(第909号)「日本経済こそが「ニューノーマル」」
16/9/19(第908号)「プライマリーバランスの回復は危険」
16/9/12(第907号)「労働分配率と内部留保」
16/9/5(第906号)「経済学者の討論の仕方」
16/8/29(第905号)「吉川教授と竹中教授の討論」
16/8/22(第904号)「芥川賞受賞作「コンビニ人間」」
16/8/8(第903号)「新経済対策への評価」
16/8/1(第902号)「大きな車はゆっくり回る」
16/7/25(第901号)「アベノミクス下における注入と漏出」
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16/7/13(第899号)「16年参議員選の結果」
16/7/4(第898号)「奇異な話二題」
16/6/27(第897号)「ヘリコプター・マネーと国民所得」
16/6/20(第896号)「ヘリコプター・マネーと物価上昇」
16/6/13(第895号)「ヘリコプター・マネーと消費増税の比較」
16/6/6(第894号)「消費増税問題の決着」
16/5/30(第893号)「安倍政権の次のハードル」
16/5/23(第892号)「アベノミクス停滞の理由」
16/5/16(第891号)「ヘリコプターマネーは日本の救世主か」
16/5/2(第890号)「毎年1,000件もの新製品」
16/4/25(第889号)「日本は消費税の重税国家」
16/4/18(第888号)「財政問題に対する考えが大きく変る前夜」
16/4/11(第887号)「民進党が消費税増税を推進する背景」
16/4/4(第886号)「財政問題が解決済みということの理解」
16/3/28(第885号)「終わっている日本の経済学者」
16/3/21(第884号)「国際金融経済分析会合の影響」
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16/2/15(第879号)「超低金利の今こそ国債発行を」
16/2/8(第878号)「日銀の「マイナス金利」政策の実態」
16/2/1(第877号)「CTAヘッジファンドの話」
16/1/25(第876号)「今後の原油価格の動きは「売り投機筋」に聞いてくれ」
16/1/18(第875号)「日本の経済論壇は新興宗教の世界」
16/1/11(第874号)「日本のデフレギャップは資産(財産)」


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