経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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17/9/4(953号)
北朝鮮の核を考える

    核保有国の責任が問われるべき

    29日、北朝鮮が北海道を越えるミサイルを発射し、日本は朝から大騒ぎになった。今週は予定を変更し北朝鮮の核問題を取上げる。ここのところ小康状態が続き米国も自信を回復つつあったが、今回の北朝鮮の行動は米国にとってショックであった。グアムへのミサイル攻撃の示唆に対する、米国が行った牽制の効果は半減したようだ。

    日本のメディアでは、専門家や色々な立場の人々がこれに関し様々なコメントを行っている。また彼等はこれからの北朝鮮の行動についても予想している。しかしテレビなどでは、視聴者に不安を与えることが憚れるのか踏込んだ発言は控えられている。したがって彼等の予想は半ば希望である。


    例えば米朝はどこかで話合いがつき、軍事衝突は何とか避けられるといったものが多い。中には北朝鮮の核保有を認める他はないといった腰砕けの発言者もいる。「圧力ではなく対話」論を展開する人々である。彼等は日本政府が米国を説得し早く交渉のテーブルに就かせるべきと主張する。まるで北朝鮮の代理人である。

    日本が主張すべきことはあくまでも「朝鮮半島の非核化」である。この線は絶対に譲れない。今のところ安倍政権はこの線を崩していない。


    まず今日の緊張状態で、日本ができることは限られる。半島危機が迫っているが急いで防衛力の整備を行うと言っても限界がある。これまで平和国家を目指すことが当たり前のように語られ、防衛予算も最低限でやってきた。今さら近隣で軍事的脅威が高まったと言っても手遅れである。陸上型イージス(イージス・アショア)の導入が決まったが、配備されるのは5年後である。

    それにしても北朝鮮の核武装に対して中国とロシアは対応が甘い。ロシアなどは今でも「圧力では解決しない」とか「もっと対話が必要」と言っている。まさに他人ごとである。


    当然、今日問題にすべきはNPT(核拡散防止条約)体制のはずであるが、不思議なことにこの話がほとんど出ない。日本は非核国として1976年にこの条約を批准した。しかし条約は典型的な不平等条約であり、当時、日本は批准に躊躇した。この条約によって非核国の加盟国は核開発を行わないことになった。これに対し核保有国の加盟国は核廃絶に向かって核軍縮が義務付けられている。また暗黙の了解として、核保有国は新たな核保有国が生まれないよう努めることになっている。また日本は米国の核の傘に入ることになった。

    ところが北朝鮮は、2003年にNPTから脱退し今日核を保有するに到った。このような事態を招いたのは核保有国の責任であり、特に中国とロシアの失態と言える。ましてやロシアなどは北朝鮮の核開発に密かに協力して来たという話さえある。結果として、今日、東アジアではNPT体制は崩れたのである。このままでは韓国や日本の核武装も認めざるを得ない状況である。ところがどうも中国とロシアは自分達の責任という自覚がないのである。これは韓国や日本が核武装する事態を全く想定しないからであろう。


    今日の半島危機に対して日本のできる事は限られると前述した。しかし中国とロシアに対して、NPT(核拡散防止条約)体制をどう考えるのか真剣に問詰めることはできる。2003年のNPT脱退から、この両国は北朝鮮の核保有を阻止するために何ら有効な対策を講じてこなかった(6者協議は意味が無かったことになる)。もっとも米国のオバマ政権も8年間何もやってこなかったようなものである。

    安倍総理は近々プーチン大統領に会うことになっているが、このNPT体制についての話を出すべきである。中国とロシアは中央集権の国で、習主席やプーチン大統領は絶対的な権力を持っているかのように見られている。しかしこれは我々の買いかぶりであって、両者の本当の「力」は案外限られている可能性がある。それが見透かされているのか、中国とロシアは北朝鮮になめられているように見える。今後、両国が北朝鮮に関して、一体何ができるのか見極める必要がある。


    NPT(核拡散防止条約)体制の崩壊

    世界の核兵器は廃絶した方が良いに決まっている。しかし現実には核保有国は核を放棄する気はない。ただ核を保有していると言っても、周りの国があまり気にしないケースもある。例えば日本は米国、英国、フランスの核保有をあまり心配していない。NPT非加盟国のインドとパキスタンの核保有もそれほど脅威と感じていない(ただパキスタンはちょっと怪しい)。

    しかし北朝鮮の核は脅威そのものである。その理由は、北朝鮮という国が全く信用できないからである。まず各国を裏切って核兵器開発を続けてきた歴史がある。日本にとっては拉致問題が未解決である。またこれまでもラングーン事件や大韓航空爆破などいくつものテロを起こしている。そのような国が核を保有することは脅威以外の何ものでもない。


    核兵器を包丁に例えることができる。家庭の主婦や料理人が包丁を使って料理をしていても誰も心配しない。しかし怪しい者が同じ包丁を持って街を歩いていたら、周りの人々は恐怖を感じる。いくら包丁を他人に向けないと本人が言っても、警察官を呼んで取り押さえてもらうのが普通である。

    世界には北朝鮮という国をよく理解していない者がいる。このような人々が「圧力より対話」と言っていると筆者は理解している。また北朝鮮から核兵器や核技術が第三国に流出する可能性があり、このことが起れば世界的な核拡散が現実のものとなる。テロの標的になっているロシアのプーチン大統領が、この事態をどう考えるのかもう一つ分らない。安倍総理とプーチン大統領の今回の会談が注目される。


    NPT(核拡散防止条約)加盟に伴い、日本はIAEA(国際原子力機関)の査察を受けることになった。日本にある核物質が核兵器に転用されないための査察である。実際のところ核保有国から見て、潜在的な核兵器開発国として一番警戒したのが日本である。したがってIAEAの査察予算の半分は日本に使われていた。

    ところが日本だけをマークしていた間に、インド、パキスタン、そして北朝鮮が核保有国になったのである。まことに間抜けな話である。しかも今でも保有するプルトニウムが核兵器に転用されないかIAEAの査察官が日本に常駐しているのである(日本が保有しているプルトニウムは純度が低いので、そのままでは核爆弾に使えない)。事実上、査察官は中国と北朝鮮の代理人みたいなものになっている。


    北朝鮮の核保有によって、少なくとも東アジアにおいてはNPT体制が崩壊したことを認識する必要がある。また北朝鮮のICBMの完成によって米国の核の傘が当てにならなくなると考え(米国本土への核攻撃を警戒し米国が同盟国を見捨てる可能性が出てくる)、韓国の野党は独自の核開発を主張し始めた。そう言えばトランプ大統領も日本と韓国の核兵器開発を容認する発言を行っていた。実際、日韓の核保有は米国の専門家の間で決して突飛な話ではなくなっている。

    日本は北朝鮮の核保有を認めるわけには行かない。しかし北朝鮮が核を放棄する前提で対話のテーブルに就く可能性は極めて低い。また日本の核兵器開発は非現実的な話である。しばらくは今日の膠着状態が続くものと思われる。


    正直に言って、筆者は朝鮮半島情勢の正確な行方は分らない。ただ情勢がより深刻な方向に動いていることだけは感じる。今後も北朝鮮は核兵器開発とミサイル実験をずっと続けるであろう。これに対して米国と中国がどう動くかである。

    中国についは今度の党大会後の動きに関心が集っている。しかし中国は期待されるほどの働きが出来ないのではと筆者は見ている。問題は米国である。米国は湾岸戦争とイラク攻撃の際に予告なく突然行動を起こしている(多くの専門家が最後に米国は踏み止まると予想していた)。また9月1日から米国人の北朝鮮への渡航禁止措置が採られたことに筆者は注目している。



何事も無ければ、来週は加計問題や日本のマスコミを取上げる。



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17/6/19(第943号)「小池都知事の不安煽り政治」
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17/6/5(第941号)「テロ等準備罪(共謀罪)の話」
17/5/29(第940号)「安倍総理の憲法改正の提案」
17/5/22(第939号)「半島有事への日本の備え」
17/5/15(第938号)「朝鮮半島の非核化」
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17/4/24(第936号)「理解されないシムズ理論の本質」
17/4/17(第935号)「シムズ理論と「バカの壁」」
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17/3/6(第929号)「移民と経済成長」
17/2/27(第928号)「トランプ大統領のパリ協定離脱宣言」
17/2/20(第927号)「トランプ現象の研究」
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17/2/6(第925号)「日米主脳会議への対策はアラスカ原油輸入」
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