経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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17/3/13(930号)
アメリカの分断を考える

    国家として体をなしていないアメリカ

    トランプ大統領候補の選挙戦術と選挙中の発言は、アメリカ人の「分断」を決定付けたという批難がある。ただ一転し施政方針演説では国民の団結を訴えるなど、大統領は迷走する印象を与えている。しかしトランプ政権の支持率が低迷しているにも拘らず、共和党支持者のトランプ政権の支持率は相変わらず異常に高い(一部メディアの調査では88%という話がある)。

    一方のリベラルな主張を行っている各種団体は、トランプ大統領への攻撃を一段と強めている。このようにトランプ大統領が米国民の融和を唱えても、両者の分断は決定的になっている。したがってトランプ氏の存在そのものが、アメリカ人の分断を決定付けたという説はまんざら嘘ではない。


    一口に国民の分断と言っても色々な形がある。例えば年令層による国民の分断なんかもその一つである。ちなみに米国以外でもこの種の分断はある。英国はEU離脱を決めたが、その要因の一つが残留派の若者より離脱派の高年令層の勢いが勝ったからである。しかし米国で真っ先に取上げられる「分断」は出身国や民族の違いによるものであろう。特に大統領選中トランプ候補が発したイスラム教徒への警戒は、多くの米国人の本音であるが表立って言うことは憚れることであった。

    色々な国からの移民で形成された米国は「人種のるつぼ」と呼ばれてきた。しかし出身国と民族が異なる米国民はとても融合しているとは言えず、「るつぼ」ではなく「モザイイク模様」とか「サラダボールの野菜の状態」と表現されることがある。筆者もこちらの方が適切と感じる。つまり米国という国は元々「分断」を起こす要素を抱えていると言える。したがって米国人同士の会話では、民族や宗教の話は避けるのがこれまでの常識と聞いていた。ところがトランプ大統領は、敢てこのタブーに挑戦するような言動を行って来た。


    しかし米国を理解する上で一番重要な「分断」は地域による分断と筆者は考える。毎回の大統領選を見ても分るように、共和党と民主党が取る州は決まっている。わずかに共和党と民主党の支持率が拮抗した州がいくつかあり、具体的にはオハイオやフロリダといった州である。したがってこのような州の選挙結果によって大統領が決まると言って良い。それならばこのような州だけで大統領選を行えば良いとさえ筆者は思っている。

    共和党が取るのは「保守」が優勢な州であり、これに対し民主党が勝つのは「リベラル色」の濃い州となっている。保守的な州は南部や中西部といった米国の真ん中であり、リベラルが強い州は大都市がある両岸である。保守の州民はリベラルの州民を「軽薄なやつらだ」と嫌っている。一方、リベラルの州民は、保守の州民を「頑迷な田舎者」と軽蔑している。


    ただこのような地域住民同士の反目は、日本など米国以外の国にもある程度見られる光景である。しかし特に建国から歴史が浅い米国は、国家としての統合したイメージが極めて薄い。米国に住んだことのがある者の中には「一体この国はどうなっているのか」と感じる者も出てくる。例えば米国に留学したことがある西部邁さんは、実際に生活し「アメリカは国家として体を成していない」とよく酷評していた。ちなみに最初の留学先は、リベラル色の強いカリフォルニア大学バークレー校であった。西部さんは「これはたまらない」と留学先をケンブリッジ大(ジョーン・ロビンソン教授の元へ)に変えたという話をしていた。

    特に日本人でも保守的な考えを持つ者にとって、カリフォルニア州のようなリベラルな風土に対しては強い抵抗感があったのであろう。ただ平均的な日本人にとっては、むしろカリフォルニアやニューヨークのように世界中の人々を容易に受入れる地域の方が住みやすいと感じるかもしれない。


    大統領選は第二次南北戦争

    地域に根ざす米国の分断を考えることは、今後の米国の政治やトランプ政権の行方を占う上で役に立つと筆者は考える。これに関し17/2/20(第927号)「トランプ現象の研究」で「米国議会における勢力の推移」を用いて分析を行った。この結論は、少なくとも下院において民主党が多数派を占めることは未来永劫まず来ないということである。

    したがって仮に民主党から大統領が出ても、常に議会とのねじれを抱え思うような政策が実行できないという事態に必ず陥る。つまり民主党から出る大統領は政治的に弱いということになる。また大統領が弱いということによって、米国は他の国から足元を見られ軽んじられることになる。オバマ政権の後半は、まさにこの状態であった。また弱いアメリカは、覇権国家を目指す中国や訳の分らない北朝鮮が存在する東アジアの国々にとって災難であったと筆者は思っている。


    米国が地域的に分断され互いに反目する姿は昔からあった。この分断が原因で南北戦争という内戦が勃発したほどである。筆者は04/11/8(第366号)「第二次南北戦争」で、毎回の大統領選はこの南北戦争の延長戦のようなものと述べた。

    ただ戦う相手と連合の組合せが少し違って来ている。150年前の南北戦争は南部の農業地帯と北部の工業地帯の戦いであった。しかし今日の南北戦争は当時の南軍と北軍の一部が連合(保守派)し、カリフォルニアやニューヨークなどの両岸の地域(リベラル派)と戦うという図式に変わっている。


    保守派連合の地域とリベラル派連合の地域の経済基盤は異なる。前者は主に農業と伝統的な工業を経済基盤にしているのに対し、後者はIT、金融、そしてサービスなどが主要な産業である。また大手メディアはリベラル色の強い大都市に本拠を置いている。

    住んでいる人々のイメージと気質も大きく異なる。大きなカボチャを装置を使って飛ばすことを競い合っているのが保守地域の人の代表的なイメージである。退屈ではあるが素朴であり信用できるのが保守地域の人々と筆者は感じる。

    しかし日本人がアメリカ人として認識しているのは、リベラル色の濃い地域の人々が多い。この地域の人々は気さくで話しやすく付合いやすい。ただ一獲千金を常に狙っている感じで油断ができないといったイメージである。


    最後に今後の「アメリカ」を筆者なりに予想してみる。筆者は、米国は段々と保守化するのではないか見ている。リベラル派が圧倒しているニューヨークやロサンゼルスのような大都市でも保守に鞍替えする人々がこれから出て来ると筆者は見ている。ただし保守化と言っても、大都市の人々が南部の人々に似て来るという意味ではない。そうではなくリベラル派の主張に疑問を持つ者が増えると受取ってもらって良い。

    今でも「反トランプ」の示威運動を激しく行っている人々はいる。しかしメディアがよく取上げているため目立っているが、人数としては少ないようである。またリベラル団体の抗議活動やアカデミー賞授賞式での「反トランプ活動」の様子を見ても嘘くささを感じる。むしろ大都市でも「隠れトランプ」が増えているという印象を筆者は持つ。



来週は日経新聞に5回掲載された特集「日本国債(描けぬ出口)」を取上げる。



17/3/6(第929号)「移民と経済成長」
17/2/27(第928号)「トランプ大統領のパリ協定離脱宣言」
17/2/20(第927号)「トランプ現象の研究」
17/2/13(第926号)「為替管理ルールの話」
17/2/6(第925号)「日米主脳会議への対策はアラスカ原油輸入」
17/1/30(第924号)「そんなに変ではないトランプ大統領」
17/1/16(第923号)「今年の展望と昨年暮れの出来事」
16/12/26(第922号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(まとめ)」
16/12/19(第921号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(モラルハザード他」
16/12/12(第920号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(日銀の独立性他」
16/12/5(第919号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(物価上昇編(2))」
16/11/28(第918号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(物価上昇編(1))」
16/11/21(第917号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(基本編)」
16/11/14(第916号)「トランプ大統領誕生は良かった?」
16/11/7(第915号)「Q&A集作成のための準備」
16/10/31(第914号)「中央銀行に対する観念論者の誤解」
16/10/24(第913号)「落日の構造改革派」
16/10/17(第912号)「ヘリコプター・マネー政策への障害や雑音」
16/10/10(第911号)「事実上のヘリコプター・マネー政策」
16/10/3(第910号)「財政均衡主義の呪縛からの覚醒」
16/9/26(第909号)「日本経済こそが「ニューノーマル」」
16/9/19(第908号)「プライマリーバランスの回復は危険」
16/9/12(第907号)「労働分配率と内部留保」
16/9/5(第906号)「経済学者の討論の仕方」
16/8/29(第905号)「吉川教授と竹中教授の討論」
16/8/22(第904号)「芥川賞受賞作「コンビニ人間」」
16/8/8(第903号)「新経済対策への評価」
16/8/1(第902号)「大きな車はゆっくり回る」
16/7/25(第901号)「アベノミクス下における注入と漏出」
16/7/18(第900号)「経済循環における注入と漏出」
16/7/13(第899号)「16年参議員選の結果」
16/7/4(第898号)「奇異な話二題」
16/6/27(第897号)「ヘリコプター・マネーと国民所得」
16/6/20(第896号)「ヘリコプター・マネーと物価上昇」
16/6/13(第895号)「ヘリコプター・マネーと消費増税の比較」
16/6/6(第894号)「消費増税問題の決着」
16/5/30(第893号)「安倍政権の次のハードル」
16/5/23(第892号)「アベノミクス停滞の理由」
16/5/16(第891号)「ヘリコプターマネーは日本の救世主か」
16/5/2(第890号)「毎年1,000件もの新製品」
16/4/25(第889号)「日本は消費税の重税国家」
16/4/18(第888号)「財政問題に対する考えが大きく変る前夜」
16/4/11(第887号)「民進党が消費税増税を推進する背景」
16/4/4(第886号)「財政問題が解決済みということの理解」
16/3/28(第885号)「終わっている日本の経済学者」
16/3/21(第884号)「国際金融経済分析会合の影響」
16/3/14(第883号)「信用を完全に失った財務省」
16/3/7(第882号)「「政界」がおかしい」
16/2/29(第881号)「一向に醸成されない「空気」」
16/2/22(第880号)「緊縮財政からの脱却」
16/2/15(第879号)「超低金利の今こそ国債発行を」
16/2/8(第878号)「日銀の「マイナス金利」政策の実態」
16/2/1(第877号)「CTAヘッジファンドの話」
16/1/25(第876号)「今後の原油価格の動きは「売り投機筋」に聞いてくれ」
16/1/18(第875号)「日本の経済論壇は新興宗教の世界」
16/1/11(第874号)「日本のデフレギャップは資産(財産)」


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