経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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17/2/13(926号)
為替管理ルールの話

  • 日米主脳会談に向けた提案

    トランプ新大統領との日米主脳会談が行われ、この会談の内容は各種マスコミで伝えられている。両者の間で密約めいた話がない限り、日本側の関係者にとっては上出来の内容と言える。心配された「日本の対米貿易黒字」「円安を導くための為替介入」などの話はほとんど出なかった模様である。

    また尖閣諸島への日米安保条約第五条の適用を確認した。さらに米軍駐留経費に関する日本側の負担増の話はなかった。それどころか大統領は「米軍を駐留させてくれて感謝している」とさえ言っている。これらを心配していた関係者は安堵するどころか拍子抜けであったろう。


    トランプ大統領は、選挙期間中、かなり極端なことを言っていた。しかも就任直後から選挙公約を実現するための大統領令を矢継ぎ早に出している。当然、日本側としては通商問題や為替問題が主脳会談のテーマに出るものと構えていた。ところがこれらの問題に対しては何も不満は出なかったのである。どうもトランプ大統領は、数ある選挙公約の取捨選択を行い軌道修正しているようである。

    しかし筆者は通商問題や為問替題が全く消えたとは考えない。トランプ政権の主要人事が決まっていないので、日本への対応がまだはっきりしない事情もあると理解している。今後、政権の体制が整えば、選挙中に発していた数々の対日要求のうちある程度は復活して来るものと筆者は見ている。実際、為替問題については麻生財務相とペンス副大統領の協議に委ねることになった。


    先週号で筆者は、日米主脳会談に向けいくつかの具体的な提案を行った。「アラスカ原油と米国産LNGの輸入」「財政政策による国内需要の創出」「日米での為替管理ルール作り」である。ただこれらの政策は決して一方の国だけを利するものではない。

    これまでも日本は、外圧、特に米国からの圧力をうまく利用して良い方向に政策を転換してきた歴史がある。例えば財政再建派の強い反対を押切って財政政策による内需拡大に転換したことがあった。これなんかはむしろ日本にとって好ましいことであった。今回もおそらく同様の事態が起り得ると筆者は思っている。少なくとも消費税の再増税といった話はどこかに行ってしまうと考える。


    これらの提案の中で「日米での為替管理ルール作り」は重要なテーマと筆者は考える。そこで今週はこれについてもっと詳しく説明する。ところで為替の管理に関してはとんでもない誤解がある。世界全体の為替相場を管理している国際機関がないことをほとんどの人々は知らない。

    当然、公正な世界貿易を管理すると考えられているWTOが為替の管理にも関与していると思っている者が多い。ところが関税などの貿易障壁やそれ以外の非関税障壁に頻繁に口を出すWTOが、最大の障壁となり得る為替には一切タッチしない。これについては過去にも本誌で指摘したことである。


    05/8/1(第400号)「中国の為替戦略」で指摘したように、中国は1元=1米ドルだった為替レートを1元=8米ドル台まで切下げた上で国際貿易に参入した(WTOに加盟)。しかしこの為替水準は購買力平価を著しく下回るものであった。これによって各国の製造業は中国に生産拠点を移さざるを得なくなったのである(中国の人件費はタダ同然)。また生産拠点を移転せずとも、競争力を維持するために人手の掛る工程は中国に委ねる形を採ることとなった。

    この結果、毎年、中国は膨大な貿易黒字を記録することになった。しかし大きな貿易黒字が発生しているにも拘らず、人民元は長い間1元=8米ドル台を維持していた。当然、人民元は高くなって良い状況であった。しかし中国は、ずっと為替介入を行って人民元高を阻止していた。この結果が、中国による大きな米国国債の保有や欧州の債券の保有である。


  • ルール作りの段階から日本は参加すべき

    さすがに米国でも膨大な対中貿易赤字と異常な人民元安は問題になり、歴代米政権も人民元安の是正を求めた。しかし中国は簡単には米国の要求を受入れない。ようやく1元=6米ドル台までの切上げを容認するに止まった。このような「お茶を濁す」対応では米中の貿易不均衡が是正するはずはない。

    中国は米国の要求を最初から突っぱねるつもりでいたのである。中国は、日本経済がおかしくなったのは、プラザ合意など米国の対日要求を飲んだからと思い込んでいる。したがって為替については「お茶を濁す」対応で済ませていたのである。ただ中国にとってまずいことに国内からの資金流出が始まり、今日、米国から人民元の切上げを迫られても対応が難しい状況に陥っている。


    不思議なことにこれまでの米政権は、中国の為替政策が「お茶を濁す」程度の対応だったのにも拘らず、中国に対して強く是正を求めることはなかった。ところがトランプというエキセントリックな大統領が登場し、ついに中国の不公正を激しくに責め始めたのである。しかし筆者は、このような米国の対応は10年以上も遅れたと感じる。

    トランプ大統領は何らかの要求を中国に発するものと見られる。日本はこのトバッチリを受けないための対応を早めに考えておく必要がある。特に為替について何らかの対策を講じるべきである。その一つが「日米での為替管理ルール作り」である。


    筆者は、為替管理ルールとして購買力平価(103〜105円程度)と経常収支を基に適正レートを算定することを提案する。また適正レートには幅を持たせ、これから外れる場合には為替介入などの対応を出来るようにする。今日の円レートは一頃(プラザ合意当時)のように適正レートから著しく乖離していないと見られる。したがって適正レートが仮に現在より若干円高となり、実際の為替レートが適正レートと同じになったとしても日本経済にとって大きな打撃とはならないと思っている。

    むしろ適正レートのゾーンから外れた場合、為替介入が行えるといった取決めを盛込むことの方が有意義と考える。これによって80円という円高や130円という円安といった事態を避けられるのなら、日本の企業は計画的な経営が可能になるというメリットがある。


    ただ日本は経常黒字が大きいことを指摘されると弱い。昨年の日本の経常黒字は20兆円程度になっている(数年前まで経常収支はトントンであった)。おそらく経常黒字をGDPの2.5%に抑えるといった類の取決めを米国から迫られる可能性がある。これに対応するには日本はODAを増やすとか米国への直接投資を増やすといった手段しか筆者は思いつかない(これらの他では内需拡大に努めるといったことぐらい)。

    たしかにこの「為替管理ルール」はあくまでも筆者の構想である。しかしこれに類したルールが構築される可能性はあると筆者は考える。もしこのようなルールが一旦制定されれば、日本だけでなく中国などの他の経常黒字国にも適用されることになる。それならばルール作りの段階から日本は参加すべきと考える。


    本来ならこのようなルール作りはWTOなどの国際機関が行うべきである。ところがWTOは、まるでやる気がなく為替はIMFの管轄と言っている。しかしIMFの方もまるで考えいない(それどころかIMFは人民元のSDR採用といった間抜けなことをやっている)。

    そのようなことも有ってか、トランプ大統領は国連などの国際機関に不信感を持ち、これらの機関への資金拠出に難色を示している。まず国際機関には、片寄った思想を持った者が多数潜り込んでいるようである。また思想的に問題がなくとも国際機関のメンバーの官僚化が目立ち、やるべきことをやらないのである。英国のEU離脱はこのようなところにも原因があったと筆者は見ている(EU本部の官僚化は酷いという話を聞く)。



来週はトランプ現象を取上げる。

丹羽春喜大阪学院大学名誉教授が亡くなられたという報が届いた。ご容態が悪いということは聞いていたが、昨年の暮に逝去されたという。筆者は、2002年から1年ほど丹羽経済塾に参加し政府紙幣について教授から直接学んだ。丹羽教授は政府紙幣に関し日本での一番の権威であった。昨年11月に宍戸駿太郎筑波大名誉教授が亡くなられ、今度は丹羽教授である。



17/2/6(第925号)「日米主脳会議への対策はアラスカ原油輸入」
17/1/30(第924号)「そんなに変ではないトランプ大統領」
17/1/16(第923号)「今年の展望と昨年暮れの出来事」
16/12/26(第922号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(まとめ)」
16/12/19(第921号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(モラルハザード他」
16/12/12(第920号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(日銀の独立性他」
16/12/5(第919号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(物価上昇編(2))」
16/11/28(第918号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(物価上昇編(1))」
16/11/21(第917号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(基本編)」
16/11/14(第916号)「トランプ大統領誕生は良かった?」
16/11/7(第915号)「Q&A集作成のための準備」
16/10/31(第914号)「中央銀行に対する観念論者の誤解」
16/10/24(第913号)「落日の構造改革派」
16/10/17(第912号)「ヘリコプター・マネー政策への障害や雑音」
16/10/10(第911号)「事実上のヘリコプター・マネー政策」
16/10/3(第910号)「財政均衡主義の呪縛からの覚醒」
16/9/26(第909号)「日本経済こそが「ニューノーマル」」
16/9/19(第908号)「プライマリーバランスの回復は危険」
16/9/12(第907号)「労働分配率と内部留保」
16/9/5(第906号)「経済学者の討論の仕方」
16/8/29(第905号)「吉川教授と竹中教授の討論」
16/8/22(第904号)「芥川賞受賞作「コンビニ人間」」
16/8/8(第903号)「新経済対策への評価」
16/8/1(第902号)「大きな車はゆっくり回る」
16/7/25(第901号)「アベノミクス下における注入と漏出」
16/7/18(第900号)「経済循環における注入と漏出」
16/7/13(第899号)「16年参議員選の結果」
16/7/4(第898号)「奇異な話二題」
16/6/27(第897号)「ヘリコプター・マネーと国民所得」
16/6/20(第896号)「ヘリコプター・マネーと物価上昇」
16/6/13(第895号)「ヘリコプター・マネーと消費増税の比較」
16/6/6(第894号)「消費増税問題の決着」
16/5/30(第893号)「安倍政権の次のハードル」
16/5/23(第892号)「アベノミクス停滞の理由」
16/5/16(第891号)「ヘリコプターマネーは日本の救世主か」
16/5/2(第890号)「毎年1,000件もの新製品」
16/4/25(第889号)「日本は消費税の重税国家」
16/4/18(第888号)「財政問題に対する考えが大きく変る前夜」
16/4/11(第887号)「民進党が消費税増税を推進する背景」
16/4/4(第886号)「財政問題が解決済みということの理解」
16/3/28(第885号)「終わっている日本の経済学者」
16/3/21(第884号)「国際金融経済分析会合の影響」
16/3/14(第883号)「信用を完全に失った財務省」
16/3/7(第882号)「「政界」がおかしい」
16/2/29(第881号)「一向に醸成されない「空気」」
16/2/22(第880号)「緊縮財政からの脱却」
16/2/15(第879号)「超低金利の今こそ国債発行を」
16/2/8(第878号)「日銀の「マイナス金利」政策の実態」
16/2/1(第877号)「CTAヘッジファンドの話」
16/1/25(第876号)「今後の原油価格の動きは「売り投機筋」に聞いてくれ」
16/1/18(第875号)「日本の経済論壇は新興宗教の世界」
16/1/11(第874号)「日本のデフレギャップは資産(財産)」


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