経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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正月休みにつき来週、再来週は休刊 次回号は1月16日を予定

16/12/26(922号)
ヘリコプターマネーに関するQ&A集(まとめ)

  • 半分実施されているヘリコプターマネー政策

    ヘリコプターマネー政策の論点は、これによって物価がどの程度上昇するかに集約される。ヘリコプターマネーに賛同する者はほとんど物価は上がらないと言っているのに対し、反対する者はハイパーインフレが起ると譲らない。おそらくこの議論は永遠に平行線を辿る。

    しかしこの議論に結論が出ない限りヘリコプター・マネー政策には踏み出せないというのも困ったことである。もっともヘリコプターマネーに関する議論を別にして、実際に実施するかどうかの判断は政治に委ねられている。そもそも政治家達は、日本の経済学者やエコノミストのことを信用しなくなっている。この状況では、小さな規模でもかまわないから完全な形でヘリコプター・マネー政策を実施してみることである。実施した結果を見て効果と問題点を評価することが最も現実的な方策と考える。


    Q39:ヘリコプターマネー政策は既に実施されているという声を聞きますが

    A:たしかに既にヘリコプターマネー政策、つまりシニョリッジ政策は実施されているという見方が有ります。実際、日銀は日本国債を400兆円ほど市場から買って保有しています。Q10:で説明したように国債を日銀が保有することによって実質的に財政負担は無くなっています。つまり日本では通貨発行益は既に発生しているのです。この事実をなかなか日本のマスコミが伝えないだけです。現実として日本ではヘリコプターマネー政策の半分は実施されているという見方ができるのです。

    〈解説〉ヘリコプター・マネー政策が既に実施されているという事実は、ヘリコプター・マネー政策に反対してきた者にとって由々しいことである。だから反対論者は、日銀の量的緩和を清算する「出口戦略」にこだわっている。またヘリコプターマネー政策の半分が実施されているのに、反対論者が警告していた「ハイパーインフレ」や「国債の叩き売りによる金利高騰」は全く見られない。

    Q40:では残りの半分はどのような形で実施されるのですか

    A:簡単なことですが政府が財政支出を増やせば良いのです。分りやすい方法は、政府の財政支出の財源となる国債を日銀が直接引受けることです。ただしこれは財政法5条で禁止されています。つまり正攻法でヘリコプターマネー政策を実現させるには、財政法の改正を行うことが必要になります。しかし時の政権がここまで踏込むことは、なかなか難しいでしょう。

    Q41:財政法改正を行わない形でのヘリコプターマネー政策の実施はできないのですか

    A:同様に政府が財政支出を増やし財源となる国債を一旦市場で発行し、それを日銀が買入れるという形が考えられます。これは事実上のヘリコプターマネー政策ということになります。しかし政府は、今日のように日銀が国債を購入するのはあくまでも金融政策の一環と主張し、財政支出に関し日銀との連係を否定しています。

    Q42:たしかに日銀が400兆円もの国債を買っているのに、あまり政府は財政支出を増やしていませんね

    A:そこがヘリコプターマネー政策にまつわる最大の問題です。まず日銀が既に400兆円もの国債を保有し膨大な通貨発行益が生まれています。ところがマスコミを始め日本のほとんどの人々は、このことを理解していないのです。むしろ日本の財政は最悪であり、財政再建が急務と思っている人々がいまだに多いのです。このような雰囲気に支配されている日本では、デフレ脱却を目指す安倍政権であっても簡単には財政支出を増やすことはできません。

    〈解説〉デフレ脱却や名目GDP600兆円を目指す安倍政権であっても、財政規律派(財政再建派)の支持もあって成立っている。つまり積極財政が好ましいことが分かっていても、簡単には財政支出を増やせないのが現実である。実際、安倍政権としては消費増税を延期することが精一杯であった。


  • ヘリコプターマネー政策は余剰生産力の活用

    Q43:ではどのような形でヘリコプターマネー政策を実施することになりますか

    A:まず財政法5条の改正によって国債を日銀が直接引受ける形は無理と考えます。したがって残るのは、事実上のヘリコプターマネー政策ということになります。日銀がこれだけ国債を買っているのだから、とにかく政府は赤字国債を発行して大胆な財政出動を行うことです。ただしこれも簡単なことではありません。

    Q44:何故、簡単ではないのですか

    A:やはり日本では財政規律派(財政再建派)の力が依然として強いからです。安倍政権は「新規国債の発行を増やさない」「2020年までのプライマリーバランスの回復」を目標に掲げています。つまり安倍政権が、これらの財政規律派(財政再建派)が作った呪縛からいつ解き放たれるかにかかっています。

    〈解説〉「新規国債の枠」「プライマリーバランスの回復」がヘリコプターマネー政策の足枷になっている。安倍政権は、新規国債の発行を極力抑える一方で、たしかに埋蔵金の活用や財投債の発行を増やしている。またシーリングが厳しい本予算の増額ではなく、縛りの緩い補正予算を増やしている。

    しかしこれらの政策だけでは大きな需要増大は期待できない。まず「新規国債の枠」や「プライマリーバランスの回復」を放棄しなければ、ヘリコプターマネー政策は不要ということになる。

    Q45:最後の質問として、結局、ヘリコプターマネー政策とは端的に言えば何ですか

    A:日本には昔から余剰生産力が存在しています。これがデフレギャップです。この余剰生産力の活用を意図するのがヘリコプターマネー政策です。

    まず需要さえあれば、この余剰生産力は活用されGDPは伸びます(つまり経済成長が可能)。たしかに日本経済が成長期なら民間の投資や消費の増大によって余剰生産力が活用されます。しかし今日の日本経済のように成熟し少子高齢化の元では、自然に需要が増えるということはありません。この状況では政府が財政支出を増やして余剰生産力を活用する他はないのです。

    しかし財政支出を単純に増やせば当面財政が悪化します(もっとも財政を赤字にしても、財政支出を増やすことによって長期的に見れば、かえって財政状態が良化するという考えもある)。そこで登場するのがヘリコプターマネーなど通貨発行益を使う政策です。これによって財政赤字を増やすことなく、需要を増やすことができます。ただ需要が増え過ぎてインフレが起らないようインフレターゲット政策を併せて行うことが肝要でしょう。

    〈解説〉財政支出に関して財源だけが注目され問題にされているが、日本の余剰生産力にもっと目を向けるべきである。ましてやヘリコプターマネー政策ような通貨発行益を使った政策が可能なら、財政負担は生じない。むしろ増える需要に供給側が対応できるかが問題になる。

    例えば仮に国民一律の年金を導入によって国民の消費が増え、スーパーやコンビニでの売上が増えても十分対応できるのならかまわないのである。また政府の医療支出が増えても、医師が対応でき薬の製造が間に合うのなら良いのである。さらに教育費や研究費の国の負担を増やすことも考えられる。この場合も研究者が不足して研究費の増大に対応できないというはないのである。

    たしかに供給側を眺めると、ところどころにタイトな所がある。しかしそのような職種や現場は、決まってずっと惰性で低賃金や過酷な職場環境が放置されてきたところばかりである。経済学上で言えば、競争条件が厳しいところばかりである(端的に言えば完全競争に近い市場)。この問題を解決するには政府の適切な介入や財政措置が必要である(これを外国人労働者を増やすことなどによって安易に解決しようとするのは大きな間違いである)。



正月休みにつき来週、再来週は休刊であり、次回号は1月16日を予定している。来年こそはヘリコプターマネー政策がどこまで進むか注目される。それでは皆様、良いお年を!



16/12/19(第921号)「ヘリコプター・マネーに関するQ&A集(モラルハザード他」
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16/12/5(第919号)「ヘリコプター・マネーに関するQ&A集(物価上昇編(2))」
16/11/28(第918号)「ヘリコプター・マネーに関するQ&A集(物価上昇編(1))」
16/11/21(第917号)「ヘリコプター・マネーに関するQ&A集(基本編)」
16/11/14(第916号)「トランプ大統領誕生は良かった?」
16/11/7(第915号)「Q&A集作成のための準備」
16/10/31(第914号)「中央銀行に対する観念論者の誤解」
16/10/24(第913号)「落日の構造改革派」
16/10/17(第912号)「ヘリコプター・マネー政策への障害や雑音」
16/10/10(第911号)「事実上のヘリコプター・マネー政策」
16/10/3(第910号)「財政均衡主義の呪縛からの覚醒」
16/9/26(第909号)「日本経済こそが「ニューノーマル」」
16/9/19(第908号)「プライマリーバランスの回復は危険」
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