経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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16/7/13(899号)
16年参議員選の結果

  • 党勢がプラスなのに議席減

    参議員選の結果が出たが、拍子抜けするほどマスコミ各社の事前調査に近いものであった。一応、予想通り与党の勝利となったは事実である。しかし凋落傾向だった民進党の善戦が目立ち、自民党は逆風が吹いたわけではないが議席の伸びが今一つであった。

    マスコミ各社は、今回の選挙結果に対して色々な分析を行い、各々コメントを行っている。おそらくそれらは正しいと思われる。そこで本誌は、前回までと同様、各党の比例区の獲得投票数を使って独自の分析を行ってみる。比例区の獲得投票数の推移は、政党の勢いを見るのに便利と筆者は思っている。

    ところで「お維新」の前回の数字は「維新」時代のものである。また増減率は今回(16年)と前回(13年)を比較し算出した。
    各党の比例区の獲得投票数(万票)と増減率(%)
    政党名今回(16年)前回(13年)前々回(10年)3回前(07年)増減率
    自民党2,0111,8461,4071,6548.9
    民進党1,1757131,8452,32664.8
    公 明7577577647760.0
    共 産60251535644116.9
    社 民15412622426422.2
    お維新515636ーーーー▲19.0
    みんなーー476794ーーーー
    その他38725445543052.4
    合 計5,6015,3235,8455,8915.2


    まず比例区の総投票数は前回(13年)より278万票(5.2%)増えた。これは投票率が2%程度上がったことと有権者の年齢が18才に引下げられたからである。

    全体的な大きな流れとして、みんなの党が解党しこの票のうちある程度が民進党に流れたと推測される。ただ民進党の64.8%もの増加は、前回(13年)の落込み方が極端だったことの反動でもある。


    この表で面白いことが分る。自民党と共産党は比例区票で前回(13年)より各々8.9%増、16.9%増と善戦したが(比例区で共産は増減なしであったが自民は1議席増)、逆に総獲得議席は自民が9議席、共産が2議席各々減らしている。これに対して公明は、比例区の獲得投票数で前回と全く同じなのに総獲得議席は3議席伸した。これは選挙区で自民が10議席、共産が2議席減らしたのに対し、公明は比例区で増減なしであったが、選挙区で3議席も増やしたからである。

    選挙区で自民党が議席を減らした主な理由は二つある。一つは定数の変更である。10増10減(1回の選挙では5増5減になる)の影響で、自民党は地方の選挙区で最大5議席を失った。反対に都会の定数が増えたため選挙区で公明党が手堅く3議席増やした。

    二つ目の理由として地方の自民党への批判票の受け皿が民進党に一本化されたことが挙げられる。まずこれまで維新やみんなの党といった第三極政党にある程度流れていた自民党への批判票が、民進党に集中したのである。また共産党も民進党に選挙協力し、見込みのない選挙区に立候補者を立てなかった。これらによって北海道・東北で自民党はことごとく民進党に競り負けている。

    大阪維新(旧維新)は、関西に選挙活動を集中させることによって兵庫で議席を確保するなど案外健闘した。これによって比例区で2議席減らしたが、総獲得議席は1議席減に止めた。また最近勢いづいていた共産党は、どうも足踏み状態に陥ったようだ。そして比例区票の推移を見ると公明党は今回がピークと思われる。


  • 補正予算と経済循環

    選挙後の最大のテーマは、秋に策定が予定されている大型補正予算と筆者は考える(マスコミにとっては都知事選かもしれないが)。この補正予算の規模と財源が注目点となる。規模は10兆円以上が想定されているが、ポイントはどれだけ20兆円に近付けるかである。これによって自民党内の財政再建派・財政規律派の勢力がどれだけ残っているのか推測されると筆者は思う。

    財源は新規国債の発行で良いと筆者は考える。公共投資なら建設国債、その他の財政支出なら赤字国債ということになる。民進党の岡田代表も社会保障費の支出に赤字国債と言っているくらいなのだから、赤字国債発行のハードルは低くなっている。これに対して自民党の一部から「赤字国債とは無責任」という声が出ていることの方がおかしい。こんな事を言っているようでは、自分の首を自分で絞めることになりかねない。

    長期金利がマイナスになっている今日、国債発行を、異端視、あるいは敵視する感覚が異常である。日本の財政学者・経済学者と同様、現実の経済のことを全く分かっていないのである。筆者は、国債利回りが一定の水準(例えば1.5%)に達するまで国債を増発するといった発想があっても良いとまで思っている。


    補正予算の財源に財投(財政投融資)という話が持上がっている。財投には財投債と財投機関債がある。財投債は国が発行し政府の保証がある。財投機関債は財投機関が発行し政府の保証はない(財投機関の社債みたいなもの)。

    財投はなんらかの収益を生む公共投資の財源に使われる(例としては高速道路)。利息の支払いや元金の返済には、この収益が充てられる。昔は郵貯、簡保、公的年金の資金を財務省(大蔵省)の資金運用部が直接運用に回していたが、郵政改革によって債券が発行されるようになった。金利は国債より若干高いのが通例である。

    補正予算の財源に財投ということは、何らかの収益事業を想定しているのであろう。たしかに今日のような低金利なら、収益水準がかなり低い事業までが財投の対象になる。また金融機関も深刻な運用難に陥っている。若干でも国債より高い金利が期待される財投債や財投機関債は金融機関から歓迎されると見られる。


    筆者は、建設国債や財投による公共投資や公共事業は結構なことと思っている。しかし公共投資は実行するまでに長い時間を要する。計画を立て、環境アセスメントを行い、場合によっては地域住民からの賛同を得る必要がある。これらのプロセスを省略したり軽視すると、公共事業自体がうまく行かない。場合によってはまた「無駄な公共事業」という批難が起ることも有り得る。

    直に実行できる公共事業は限られている。例えば工事を開始したが途中で予算切れとなって工事が中断したままの案件が挙げられる。このケースは、予算さえ付けば直にも工事は再開できる。しかしこのようなケースが山のようにあるとは思われない。多くの新規の公共投資は、事業計画の立案から順番を追い、時間をかけ実行することになる。


    ところで大型補正予算を求める与党の政治家は、落込み始めた日本経済を緊急的に上向かせることを目論んでいると思われる。このためには予算措置を行った事業は実施され、直ちに日本経済の循環に政府資金が注入(投入)され、新たな所得を発生させることが必要になる。このことは先々週号16/6/27(第897号)「ヘリコプター・マネーと国民所得」と先週号16/7/4(第898号)「奇異な話二題」で説明した。

    つまり補正予算が組まれるだけでなく、この予算が実際に消化され政府資金を日本経済の循環に流入させることが大事である。この観点から公共投資を中心にした補正予算というものはいかがなものかと筆者は言いたいのである(決して筆者は補正予算による公共投資は否定していないが)。日本経済を急速に上向かせることが第一の目的なら、社会保障費などの歳出なども併せて考えるべきである。しかしこの場合には、赤字国債の追加発行を覚悟する必要がある。 



来週は貯蓄・投資と経済循環の関係をもう一度取上げる。



16/7/4(第898号)「奇異な話二題」
16/6/27(第897号)「ヘリコプター・マネーと国民所得」
16/6/20(第896号)「ヘリコプター・マネーと物価上昇」
16/6/13(第895号)「ヘリコプター・マネーと消費増税の比較」
16/6/6(第894号)「消費増税問題の決着」
16/5/30(第893号)「安倍政権の次のハードル」
16/5/23(第892号)「アベノミクス停滞の理由」
16/5/16(第891号)「ヘリコプターマネーは日本の救世主か」
16/5/2(第890号)「毎年1,000件もの新製品」
16/4/25(第889号)「日本は消費税の重税国家」
16/4/18(第888号)「財政問題に対する考えが大きく変る前夜」
16/4/11(第887号)「民進党が消費税増税を推進する背景」
16/4/4(第886号)「財政問題が解決済みということの理解」
16/3/28(第885号)「終わっている日本の経済学者」
16/3/21(第884号)「国際金融経済分析会合の影響」
16/3/14(第883号)「信用を完全に失った財務省」
16/3/7(第882号)「「政界」がおかしい」
16/2/29(第881号)「一向に醸成されない「空気」」
16/2/22(第880号)「緊縮財政からの脱却」
16/2/15(第879号)「超低金利の今こそ国債発行を」
16/2/8(第878号)「日銀の「マイナス金利」政策の実態」
16/2/1(第877号)「CTAヘッジファンドの話」
16/1/25(第876号)「今後の原油価格の動きは「売り投機筋」に聞いてくれ」
16/1/18(第875号)「日本の経済論壇は新興宗教の世界」
16/1/11(第874号)「日本のデフレギャップは資産(財産)」
15/12/21(第873号)「敬虔なクリスチャンの感覚が日本を沈没させる」
15/12/14(第872号)「「名目GDP600兆円」達成のシナリオ」
15/12/7(第871号)「日本の経済学界の惨状」
15/11/30(第870号)「堂々と新規の国債発行を」
15/11/23(第869号)「今度こそは盛上がるかシニョリッジ」
15/11/16(第868号)「小黒教授の文章(論文)への反論」
15/11/9(第867号)「小黒一正教授の文章(論文)」
15/11/2(第866号)「シニョリッジ政策は現在進行中」
15/10/26(第865号)「避けられる物事の根本や本質」
15/10/19(第864号)「安保法案騒動に対する感想」
15/10/12(第863号)「安保法制改正の必要性」
15/10/5(第862号)「フォルクスワーゲンの排ガス不正問題」
15/9/28(第861号)「今回の安保騒動」
15/9/21(第860号)「数年後、中国はIMFの管理下に?」
15/9/7(第859号)「中国の為替戦略の行き詰り」
15/8/31(第858号)「唐突な人民元の切下」
15/8/24(第857号)「改めてメガ・フロートを提案」
15/8/10(第856号)「鰯の頭も信心から」
15/8/3(第855号)「個別的自衛権だけなら国連からは脱退」
15/7/27(第854号)「時代に取残された人々」
15/7/20(第853号)「宮沢俊義という変節漢」
15/7/13(第852号)「「緊縮財政路線」はジリ貧路線」
15/7/6(第851号)「議論のすり替えとデマ」
15/6/29(第850号)「安倍政権に対する提言」
15/6/22(第849号)「憲法は不要」
15/6/15(第848号)「22才のベアテが作った日本国憲法条文」
15/6/8(第847号)「中国は外貨不足?」
15/6/1(第846号)「中国は資金繰り難?」
15/5/25(第845号)「今こそ郵貯と財投をアジアに広めろ」
15/5/18(第844号)「AIIBの資金力は「ゴミ」程度」
15/5/11(第843号)「中国との付合い方」
15/4/27(第842号)「中国はマイナス成長?」
15/4/20(第841号)「ドイツ軍の敗走開始の話」
15/4/13(第840号)「反・脱原発派の陥落は近い?」
15/4/6(第839号)「「エコ」の横暴と呪縛」
15/3/30(第838号)「原油の高値時代の後始末」
15/3/23(第837号)「ドバイショック再現の可能性」
15/3/16(第836号)「価格暴落でも供給増」
15/3/9(第835号)「原油価格は二番底に向かう?」
15/3/2(第834号)「実態がない地政学的リスク」
15/2/23(第833号)「米大手金融機関の「情報発信力」」
15/2/16(第832号)「「今が潮時」とうまく撤退」
15/2/9(第831号)「代替資源(非在来型資源)のインパクト」
15/2/2(第830号)「原油価格の動きに変調」
15/1/26(第829号)「低調になった経済論議」
15/1/19(第828号)「「どんぶり勘定」の経済運営」
15/1/12(第827号)「IMFの借金取りモデルの導入」


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