経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




16/6/20(896号)
ヘリコプター・マネーと物価上昇

  • 本当のデフレギャップを公表すべき

    16/5/16(第891号)「ヘリコプターマネーは日本の救世主か」で、ヘリコプターマネー(シニョリッジ政策)を財源とする国民一律年金制度の創設を提案した。しかしヘリコプターマネーの使い道は何もこれに限定するものではない。国民にとって必要な財政支出なら何でも良い。例えば教育費、公共投資、防衛費、また他の社会保障費などでもかまわない。

    特に国民一律年金制度を取上げたのには理由がある。後ほど取上げるが、筆者はヘリコプターマネーと物価上昇の関係が一番の問題としてクローズアップされることを見越している。ヘリコプターマネーと物価上昇の関係についての説明には国民一律年金を使うのが分かりやすいと筆者は考えるのである。


    ヘリコプターマネーに反対する人々(主に財政再建派と財政規律派)は、ヘリコプターマネーによって引き起されるであろう数々の問題を並べ猛反論する。おそらく「モラルハザードが起る」「円が叩き売られ超円安になる」「中央銀行の独立性が阻害される」「日本国債が叩き売られ金利が暴騰する」などがその理由として挙げられると筆者は予想する。しかしまず「モラルハザード」に関しては、16/6/6(第894号)「消費増税問題の決着」で取上げたように、高齢者による万引の急増など見られるように既に日本では反対の理由で「モラルハザード」が起っているのである。

    次はヘリコプターマネーの為替変動への影響である。おそらく財政規律派は、ヘリコプターマネーを導入することによって「日本は財政規律に緩い国」と見なされ国内から資金が逃出し円安になると言出すであろう。しかし筆者はヘリコプターマネーによって国内の総需要が増え経済活動が活発になり、反対に日本への資金流入が増えむしろ円高になることに警戒を強める必要があると見ている。また国民所得が増えることによって長期的には貿易収支の黒字が減りこれは円安要因となる。このように為替への影響は複雑で予見できない部分が大きく、正直に言ってコメントすることが難しい。


    しかしこれらの数々の批判の中で、財政再建派と財政規律派がヘリコプターマネーに対して一番前面に出す批判は「物価上昇」と筆者は思っている。わずか数兆円のヘリコプターマネーでも「止めどもなく物価が上がる」と言いかねない。また続けて彼等は「ヘリコプターマネーで需要が増え名目GDPが増えても実質GDPは全く増えない」という例の常套句を繰出すと思われる。

    04/11/1(第365号)「妄言・虚言の正体」「私のシミュレーションプログラムでは1兆円も財政支出を増やすとハイパーインフレが起る」と言って引下がらないA教授の話をした。しかしこのA教授は決して例外ではなく、ほとんどの日本の経済学者やエコノミストは同様の主張をしている。これは彼等が日本のデフギャップがほとんどないと認識しているからである。


    内閣府も日本のデフレギャップを公表しているが、その数字はわずかGDPの0.5%とか数兆円である(直近では6兆円と公表)。したがって彼等は、日本のこの状況でヘリコプターマネーによる需要創出策を実施するととんでもない物価上昇(ハイパーインフレ)が起ると脅しに近い警告を発している。

    ところがここに来てヘリコプターマネーの議論が想定外に盛上がっている。これがきっかけなのかインチキなデフレギャップを取上げている者達も言い方を少しずつ変えている。最近では卑怯な彼等は「デフレギャップが解消された段階では物価が上昇しやすくなる」とトーンダウンしている。これまでの嘘がバレるのが近いと感じているのかもしれない。

    しかしそのような曖昧で意味のない数字なら公表する必要はないと筆者は言いたい。また公表するのなら本当のデフレギャップの数字を出すべきである。本当のデフレギャップは数十兆円とか100兆円を越えると言ったレベルの話になると筆者は見ている。またもし100兆円を越えるようなら、逆にデフレギャップは議論することすら意味がないと筆者は考える。つまりデフレギャップなんて気にすることなく、ヘリコプターマネーによる需要創出政策をどんどん進めれば良いのである。


  • 本当の「財源」は日本の余剰生産力

    前出の16/5/16(第891号)「ヘリコプターマネーは日本の救世主か」でヘリコプターマネーによる一ヶ月5万円の国民一律の年金制度を提案した。支給対象者を3,000万人とすれば年間の総支給額は18兆円になる。この6割程度が消費に回り、また乗数値を2とすれば最終需要は22兆円程度増えると計算される。そしてこれによって名目経済成長率は4%超押上げられると推計される。

    問題は年間22兆円の需要増に日本の供給サイドが対応できるかということになる。そしてこのような話は、現実に照らし具体的に考えた方が分かりやすいと考える。一月5万円の国民一律の年金を受取った3,000万人の消費増によって、日本の最終需要が月間2兆円程度増えるということである。ヘリコプターマネーに反対する学者や財政再建派は「このような事をやれば止めどもなく物価が上がる」と猛反発するのに対し、「この程度では日本の供給サイドはスムーズに対応し、物価はほとんど上昇しない」と筆者達は主張する。


    消費性向(正確には限界消費性向)が0.6(追加所得の6割を消費に回す)なら、一月5万円の国民一律の年金のうち3万円を使うということになる。これによってスーパーやコンビニ、そしてデパートなどの商業施設の売上が平均して4%ほど増える(タクシーなどのサービス需要も4%程度増える)。製品の生産者は4%ほど生産を増やすことになる。また製品や商品を配送している業者の配送量も4%ほど増える。

    年に一回旅行していた年金受給者の一部は旅行回数を2回に増やすかもしれない。また経済的に困窮している子や孫への仕送りを少し増やす年金受給者も出てくるであろう。地方のシャッター商店街も少しは客が増え、店を再開するところも現れるかもしれない。


    現実の経済を知っている者は、ほとんどの生産者やサービスの提供者は5%や10%の需要が増えても直に対応できることを当たり前の事と思っている。むしろ少しでも売上を増やすため、供給サイドは日々営業活動や広告宣伝活動を行っているのである。

    16/5/2(第890号)「毎年1,000件もの新製品」で取上げたように一つのコンビニチェーンは毎年1,000件もの新製品を創っている。これも売上が思うように伸びないからである。また反ヘリコプターマネー派が言うように本当にデフレギャップがわずか数兆円ということならば、景気は超過熱の状況にあることを意味する。まさに商品が右から左に直ちに売れる状態であり、商品の棚がカラッポ(中南米の国などで見かけるような)になっているはずである。またそれが本当ならコンビニチェーンが毎年1,000件もの新製品を作る努力は全く必要ないのである。このようにデフレギャップがたった数兆円という話は真っ赤な嘘である。


    年金支給額が月5万円増えても、一日三食の人が四食に増やすことはない。ただ所得が増えれば多少質の良い商品に消費がシフトすることは考えられる。しかし日本の供給サイドはこれにも十分対応できる。

    このことは06/3/13(第428号)「コンビニ弁当の話」でも述べた。不景気でコンビニの弁当工場が300円の弁当を作っていたとする。そこに所得増によって消費者に余裕が生まれ500円の弁当が売れるようになったら、弁当工場は300円の生産ラインを使って500円の弁当を作り始めるであろう。ラインを増やすことなく、明日からでもコンビニの弁当工場はこれに対応できるのである。またこのようなことはコンビニ弁当に限ったことではない(そば屋や床屋なども同様)。


    社会保障費を少し増やすだけでも「財源は」と騒ぐ財源病患者の政治家や経済学者が日本に跋扈している。しかしヘリコプターマネーが何らの形で認知されれば、国の財務諸表上をこね繰り回して捻出するような財源の意味は薄くなる。むしろ増える需要に対応できる日本の供給力の方が重要になる。

    つまり本当の「財源」は日本の余剰生産力であると筆者は考える。これこそが本当の日本のデフレギャップである(ヘリコプターマネー反対派がわずか数兆円と言っているのはインチキデフレギャップである)。筆者は、日本には十分な余剰生産力があると見ている。しかしこれを証明するには、少額でもかまわないからヘリコプターマネー政策を実施してみる他はないかもしれない。



来週は今週の続きであり、ヘリコプター・マネーの国民所得への影響も取上げる。

話を進めるに当り、日本の経済学者(財政学者)が繰出すインチキなデフレギャップ、インチキな潜在成長率、そしてインチキな生産関数が「壁」として立ちはだかる。今週はとりあえずインチキデフレギャップについて述べたが、いずれまとめて取上げる。真相を知れば、読者の方も怒りをおぼえるであろう。

とうとう日経新聞は「やさしい経済学」というコーナーでヘリコプター・マネーについての連載を始めた。執筆者は若田部早稲田大学教授である。財政再建一辺倒であった日経新聞も、財政問題に対する考えが大きく変る前夜なのかもしれない。




16/6/13(第895号)「ヘリコプター・マネーと消費増税の比較」
16/6/6(第894号)「消費増税問題の決着」
16/5/30(第893号)「安倍政権の次のハードル」
16/5/23(第892号)「アベノミクス停滞の理由」
16/5/16(第891号)「ヘリコプターマネーは日本の救世主か」
16/5/2(第890号)「毎年1,000件もの新製品」
16/4/25(第889号)「日本は消費税の重税国家」
16/4/18(第888号)「財政問題に対する考えが大きく変る前夜」
16/4/11(第887号)「民進党が消費税増税を推進する背景」
16/4/4(第886号)「財政問題が解決済みということの理解」
16/3/28(第885号)「終わっている日本の経済学者」
16/3/21(第884号)「国際金融経済分析会合の影響」
16/3/14(第883号)「信用を完全に失った財務省」
16/3/7(第882号)「「政界」がおかしい」
16/2/29(第881号)「一向に醸成されない「空気」」
16/2/22(第880号)「緊縮財政からの脱却」
16/2/15(第879号)「超低金利の今こそ国債発行を」
16/2/8(第878号)「日銀の「マイナス金利」政策の実態」
16/2/1(第877号)「CTAヘッジファンドの話」
16/1/25(第876号)「今後の原油価格の動きは「売り投機筋」に聞いてくれ」
16/1/18(第875号)「日本の経済論壇は新興宗教の世界」
16/1/11(第874号)「日本のデフレギャップは資産(財産)」
15/12/21(第873号)「敬虔なクリスチャンの感覚が日本を沈没させる」
15/12/14(第872号)「「名目GDP600兆円」達成のシナリオ」
15/12/7(第871号)「日本の経済学界の惨状」
15/11/30(第870号)「堂々と新規の国債発行を」
15/11/23(第869号)「今度こそは盛上がるかシニョリッジ」
15/11/16(第868号)「小黒教授の文章(論文)への反論」
15/11/9(第867号)「小黒一正教授の文章(論文)」
15/11/2(第866号)「シニョリッジ政策は現在進行中」
15/10/26(第865号)「避けられる物事の根本や本質」
15/10/19(第864号)「安保法案騒動に対する感想」
15/10/12(第863号)「安保法制改正の必要性」
15/10/5(第862号)「フォルクスワーゲンの排ガス不正問題」
15/9/28(第861号)「今回の安保騒動」
15/9/21(第860号)「数年後、中国はIMFの管理下に?」
15/9/7(第859号)「中国の為替戦略の行き詰り」
15/8/31(第858号)「唐突な人民元の切下」
15/8/24(第857号)「改めてメガ・フロートを提案」
15/8/10(第856号)「鰯の頭も信心から」
15/8/3(第855号)「個別的自衛権だけなら国連からは脱退」
15/7/27(第854号)「時代に取残された人々」
15/7/20(第853号)「宮沢俊義という変節漢」
15/7/13(第852号)「「緊縮財政路線」はジリ貧路線」
15/7/6(第851号)「議論のすり替えとデマ」
15/6/29(第850号)「安倍政権に対する提言」
15/6/22(第849号)「憲法は不要」
15/6/15(第848号)「22才のベアテが作った日本国憲法条文」
15/6/8(第847号)「中国は外貨不足?」
15/6/1(第846号)「中国は資金繰り難?」
15/5/25(第845号)「今こそ郵貯と財投をアジアに広めろ」
15/5/18(第844号)「AIIBの資金力は「ゴミ」程度」
15/5/11(第843号)「中国との付合い方」
15/4/27(第842号)「中国はマイナス成長?」
15/4/20(第841号)「ドイツ軍の敗走開始の話」
15/4/13(第840号)「反・脱原発派の陥落は近い?」
15/4/6(第839号)「「エコ」の横暴と呪縛」
15/3/30(第838号)「原油の高値時代の後始末」
15/3/23(第837号)「ドバイショック再現の可能性」
15/3/16(第836号)「価格暴落でも供給増」
15/3/9(第835号)「原油価格は二番底に向かう?」
15/3/2(第834号)「実態がない地政学的リスク」
15/2/23(第833号)「米大手金融機関の「情報発信力」」
15/2/16(第832号)「「今が潮時」とうまく撤退」
15/2/9(第831号)「代替資源(非在来型資源)のインパクト」
15/2/2(第830号)「原油価格の動きに変調」
15/1/26(第829号)「低調になった経済論議」
15/1/19(第828号)「「どんぶり勘定」の経済運営」
15/1/12(第827号)「IMFの借金取りモデルの導入」


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