経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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16/5/16(891号)
ヘリコプターマネーは日本の救世主か

  • ヘリコプターマネーとバラマキ

    最近、ヘリコプター・マネーという言葉をよく耳にするようになった。この言葉の意味を「通貨発行益を使った財政政策(財政支出や歳出)」と筆者は理解している。つまりヘリコプター・マネーとはシニョリッジ(政策)のことである。シニョリッジ(政策)はまさに筆者達がずっと前から主張してきた政策である。

    もしこの話が本当なら15/11/23(第869号)「今度こそは盛上がるかシニョリッジ」で述べたことが、実現する可能性が出てきたことを意味する。ただ11/1/17(第646号)「永久債の日銀引受け」で述べたように、「ヘリコプターマネー」と表現するのは、人々にシニョリッジ政策がいかにも道徳に反しモラルハザードを生むかという悪い印象を与えることが狙いと見られる。この表現を使い始めた人々が主に財政支出に反対する財政再建原理主義者と筆者は承知している。しかし「ヘリコプターマネー」が一般的になっているのなら、筆者達もこの表現を使った方が良いと思われる。これからはヘリコプターマネーについてよく説明し、一般の人々の持つイメージを変えることに尽力した方が賢明と筆者は考える。


    たしかに「ヘリコプターマネー」という言葉のイメージは、世間の反感を集める「バラマキ」という言葉を連想させる。聞いた者は、何のビジョンがないままヘリコプターから金がばらまかれるという悪いイメージを持つ。マスコミに登場するほとんどの識者と呼ばれる人々は、この「バラマキ」を否定的に「効果がなく無駄な財政支出」を指す時に使う。受取る側も「バラマキ」という言葉を悪いことと自動的に認識している。

    しかしそもそも筆者は「バラマキ」を必ずしも悪いことではないと思っている。むしろ「バラマキ」とは反対に、一ケ所に「ドカッ」と集中的に財政支出を行う方が問題を起こす恐れあると感じる。特に今後増えるであろう社会保障費は、国民の隅々に適正にバラ撒かれる必要がある。このように何も考えず単純に「バラマキ」を悪いことと決めつける方が間違っているのである。また「バラマキ」とセットで扱われる「ヘリコプターマネー」に対する不当な評価を糺すためにも、まず「バラマキ」に対する認識を変える必要がある。


    要するに問題は財政支出(予算)の割振りである。もちろん中には「ドカッ」と大きな予算を割当てることが必要と思われる事業がある。大型の公共投資などはその代表例であろう。しかし一方で国民の隅々まで恩恵が及ぶ財政支出も必要なのである。前述のごとくこの典型例が社会保障費と筆者は考える。

    要するに国民の効用を最大するような財政支出(予算)の組合せを目指すことが大事ということである。そして当たり前のことであるが、これは最終的に政治が決めることであり、この予算の割振りを決める政治家を国民が選んでいるのである。ところが各政党の予算の割振り対する考えが混乱している(同じ政党の政治家でも考えが異なる)。したがって有権者は一体誰に投票したら最良の財政支出の組合せが実現するのか迷っているのが現状である。


    またここで大きな問題となるのが財政支出(予算)の財源である。ただでさえ財政支出(予算)の割振りで混乱しているのに、今日の日本では、これに加え財源の捻出方法(例えば消費税増税)を巡っても政治家や国民の間で揉めている。このように大混乱している日本で突如として浮上したのがヘリコプターマネーというアイディアである。

    そしてこのヘリコプターマネーこそが日本の救世主になり得ると筆者達は主張しているのである。もしヘリコプターマネーが実現すれば、日本が抱える難しいと思われている問題のかなりの部分が解決すると筆者は見ている。もちろんこれに反対する者は新たな混乱を招くだけと猛反発している。


  • ヘリコプターマネーによる国民一律年金

    前段でヘリコプターマネーによって日本が抱える困難な問題がかなり解決すると述べた。これについて簡単に説明をする。日本の人々が抱える大きな問題の代表は将来の経済的な不安と筆者は見ている。つまり年金に対する不安である。

    日本には厚生年金や国民年金という公的年金がある。しかし昔のように払った年金保険料の5〜6倍の年金が支給されるということは今後は考えられない(せいぜい2〜3倍)。ある程度の年金給付額を維持するには、年金支給開始年齢を引上げるか、年金保険料を上げるしかない。しかしこれらは現役世代にとって大きな負担になる。

    また低額の国民年金しか受給しない人々も相当数いる。国民年金は40年間も保険料を満額納付しても、年金額は毎月たった6万円台にしかならない。さらに政府は、GPIF(年金積立金運用独立行政法人)の運用方針を変え株式での運用を増やしたが、株価が下がり結果は裏目となっている。このような日本の年金の状況では、人々が将来に不安を持つのも当然である。


    そこで筆者はヘリコプターマネーを財源にする国民一律の年金支給制度の創設を提案する。支給額は一ヶ月5万円程度を考えている。支給対象者を3,000万人(支給開始年齢によって変るが)とすれば、年間の総支給額は18兆円になる。これによって日本の公的年金は厚生年金(含む公務員共済)、国民年金、一律年金の3階建になる。

    国民年金だけの人や厚生年金が少額の人は、一律年金の5万円が加わることによって最低限の生活は保障されると筆者は考える。また厚生年金の現在の給付額を維持することは不可能であり、将来減額せざるを得ないことは皆が分っている。しかし全ての人々が加入しているわけではないので厚生年金に国費を投入することは事実上不可能である。つまり厚生年金の減額分を補填するには、国民一律年金制度創設といった方法しかないと筆者は考える。


    まず一律年金制度の創設によって、全ての国民(無年金者や将来の年金受給者も含む)に恩恵が行渡る。一律年金の額にもよるが、現在の厚生年金の保険料納付額をある程度減額することも可能である。保険料納付額が減額できれば企業の負担額も減る(公務員共済の場合は政府や地方自治体の負担額が減る)。

    厚生年金保険料の企業負担額が減ることによって、企業は正社員を雇いやすくなる。また法人税減税の場合には恩恵が黒字企業にしか及ばないのに対して、保険料減額は全ての企業に恩恵が及ぶ。


    国民一律年金の年間支給額を18兆円とすれば、この6割程度が消費に回ると想定される。乗数値を2とすれば、最終需要は22兆円程度増えると推計される。名目GDPがほぼ同額増えるとすれば、名目経済成長率は4%超押上げられる(需要増による誘発投資の効果を除いても)。名目経済成長率が4%超嵩上げされるなら、当然、現行の税率でも消費税、法人税、所得税などの税収はかなり増える。

    一律年金は地方創生政策にも寄与する。日本の地方は高齢者が多く、残念ながら地方経済は年金収入に頼っている度合が大きい。もし人々の年金収入が増えれば、間違いなく地方の消費はかなり活発になる。これによって過疎地域へのコンビニやスーパーの進出も有り得る。また他の商業施設も出来ることを考えると、地方の雇用機会はかなり増える。


    このように一律年金制度創設は良いこと尽くめであるが、当然、物価が上昇が起ると必死に訴える者が出てくると予想される。しかし需要が増えこれによって多少物価が上昇しても、国民が容認する範囲ならかまわないと筆者は考える。実際、日本の生産設備の稼働率は70%を少し越える程度の低水準であり、また需要が増えればむしろ価格が下落する物(例えば通信費など)への消費の割合が増えている今日、極端な物価上昇はないと筆者は考える。日銀が目標としている2%の物価上昇率の達成さえも微妙と思っている。

    どうしても物価上昇が懸念されるのなら、それこそ本来の形のインフレターゲット政策を導入すれば良いと筆者は考える。例えば物価上率が3%(かろうじてバブル景気のピーク時に3%の物価上昇率を記録したことがある)を越えるほどの景気過熱(なつかしい言葉)になるなら、金融政策を緩和スタンスから多少の引締めに移行することが考えられる。しかし筆者のこの提案をヘリコプターマネーに反対する者は絶対に認めないであろう。どちらが正しいのかを判定するには、規模を小さくしても実際にやってみるしかないと筆者は思っている。



今週取上げた一律年金制度はいずれ導入せざるを得ない政策と筆者は思っている。これをヘリコプターマネーで行うか、あるいは消費税増税で賄うかという論点にそのうち整理されると考える。この話を来週号で取上げるつもりでいたが、「消費税増税先送り」という観測が飛出したので来週はこちらについて述べる。




16/5/2(第890号)「毎年1,000件もの新製品」
16/4/25(第889号)「日本は消費税の重税国家」
16/4/18(第888号)「財政問題に対する考えが大きく変る前夜」
16/4/11(第887号)「民進党が消費税増税を推進する背景」
16/4/4(第886号)「財政問題が解決済みということの理解」
16/3/28(第885号)「終わっている日本の経済学者」
16/3/21(第884号)「国際金融経済分析会合の影響」
16/3/14(第883号)「信用を完全に失った財務省」
16/3/7(第882号)「「政界」がおかしい」
16/2/29(第881号)「一向に醸成されない「空気」」
16/2/22(第880号)「緊縮財政からの脱却」
16/2/15(第879号)「超低金利の今こそ国債発行を」
16/2/8(第878号)「日銀の「マイナス金利」政策の実態」
16/2/1(第877号)「CTAヘッジファンドの話」
16/1/25(第876号)「今後の原油価格の動きは「売り投機筋」に聞いてくれ」
16/1/18(第875号)「日本の経済論壇は新興宗教の世界」
16/1/11(第874号)「日本のデフレギャップは資産(財産)」
15/12/21(第873号)「敬虔なクリスチャンの感覚が日本を沈没させる」
15/12/14(第872号)「「名目GDP600兆円」達成のシナリオ」
15/12/7(第871号)「日本の経済学界の惨状」
15/11/30(第870号)「堂々と新規の国債発行を」
15/11/23(第869号)「今度こそは盛上がるかシニョリッジ」
15/11/16(第868号)「小黒教授の文章(論文)への反論」
15/11/9(第867号)「小黒一正教授の文章(論文)」
15/11/2(第866号)「シニョリッジ政策は現在進行中」
15/10/26(第865号)「避けられる物事の根本や本質」
15/10/19(第864号)「安保法案騒動に対する感想」
15/10/12(第863号)「安保法制改正の必要性」
15/10/5(第862号)「フォルクスワーゲンの排ガス不正問題」
15/9/28(第861号)「今回の安保騒動」
15/9/21(第860号)「数年後、中国はIMFの管理下に?」
15/9/7(第859号)「中国の為替戦略の行き詰り」
15/8/31(第858号)「唐突な人民元の切下」
15/8/24(第857号)「改めてメガ・フロートを提案」
15/8/10(第856号)「鰯の頭も信心から」
15/8/3(第855号)「個別的自衛権だけなら国連からは脱退」
15/7/27(第854号)「時代に取残された人々」
15/7/20(第853号)「宮沢俊義という変節漢」
15/7/13(第852号)「「緊縮財政路線」はジリ貧路線」
15/7/6(第851号)「議論のすり替えとデマ」
15/6/29(第850号)「安倍政権に対する提言」
15/6/22(第849号)「憲法は不要」
15/6/15(第848号)「22才のベアテが作った日本国憲法条文」
15/6/8(第847号)「中国は外貨不足?」
15/6/1(第846号)「中国は資金繰り難?」
15/5/25(第845号)「今こそ郵貯と財投をアジアに広めろ」
15/5/18(第844号)「AIIBの資金力は「ゴミ」程度」
15/5/11(第843号)「中国との付合い方」
15/4/27(第842号)「中国はマイナス成長?」
15/4/20(第841号)「ドイツ軍の敗走開始の話」
15/4/13(第840号)「反・脱原発派の陥落は近い?」
15/4/6(第839号)「「エコ」の横暴と呪縛」
15/3/30(第838号)「原油の高値時代の後始末」
15/3/23(第837号)「ドバイショック再現の可能性」
15/3/16(第836号)「価格暴落でも供給増」
15/3/9(第835号)「原油価格は二番底に向かう?」
15/3/2(第834号)「実態がない地政学的リスク」
15/2/23(第833号)「米大手金融機関の「情報発信力」」
15/2/16(第832号)「「今が潮時」とうまく撤退」
15/2/9(第831号)「代替資源(非在来型資源)のインパクト」
15/2/2(第830号)「原油価格の動きに変調」
15/1/26(第829号)「低調になった経済論議」
15/1/19(第828号)「「どんぶり勘定」の経済運営」
15/1/12(第827号)「IMFの借金取りモデルの導入」


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