経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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16/4/18(888号)
財政問題に対する考えが大きく変る前夜

  • 巧妙に組込まれている財政再建路線

    今日の日本は、人々の財政問題に対する考えが正しい方向に大きく変る前夜と筆者は見ている。だがこれで変ることが出来ないのなら、日本経済は崩壊するとまでは言わないが徐々に衰退する他はないと見る。したがってこれからの一年くらいは極めて重要な時期と筆者は思っている。

    これまで「日本の財政は先進国の中で最悪」とか「財政再建は待ったなし」と言った完全に間違った認識が日本中をマインドコントロールしてきた。安倍政権は、今後、これからの脱出を試みることになる。ただ官邸だけが財政再建カルトから目覚めたとしても、他の者(与党の政治家など)がマインドコントロールから脱出できないかもしれない。それでは官邸だけが浮いた状態になる。


    筆者は、与野党を問わず政治家の日本の財政についての認識がどの程度のものか正確には分らない。しかしかなりの政治家はまだ「日本の財政は最悪」と思い込んでいると見られる。また20年近く緊縮財政を押付けられて来た結果、「日本の財政は悪いに決まっている」と逆に刷込まれている者さえいる。

    では自民党の中でどのくらいの数の国会議員が財政再建カルトに洗脳されているかである。これは想像する他はないが、14/11/24(第822号)「解散・総選挙の裏側」で取上げたエピソードが参考になると思われる。ここでは14年暮れの安倍総理が再増税延期を決断する直前の自民党内の激しい攻防を伝えた。

    「野田党税調会長を中心とした増税推進派の議員連盟の参加者が100名を越え、一方、45名ほどいた議員連盟「増税を慎重に考える会」は財務省官僚の切崩し工作で三分の一に減った」と述べたように、最初は増税推進派が圧倒していた。ところが解散観測が流れると増税推進派の会合の参加者は20〜30名まで減った。どうも残ったこの20〜30名ほどがガチガチの財政再建派と筆者は見ている(この時の総選挙を経ているがガチガチの財政再建派の人数は変らないと思われる)。しかし心情的あるいはムード的に増税推進派と見られる自民党議員は軽く100名を超えると見ておく必要がある。


    財政再建派がいつも単純に増税を推進し財政支出削減に熱心なだけと誤解してはいけない。自民党の基本方針は既に財政再建路線が巧妙に組込まれているのである。具体的には「税と社会保障の一体改革」である。つまり社会保障関連の歳出を少しでも増やそうとすることが、事実上不可能になっている。「社会保障関連の歳出を増やすには、消費税の再増税が条件になる」という概念で自民党が縛られているからである。したがって消費税の再増税がはっきりしない今日、新たな社会保障関連の歳出が出来ない仕組になっている。

    今日、保育園の待機児童が問題になっている。この原因の一つが低賃金による保育士の不足であり、この解決方法は待遇改善ということが分かっている(給料を月額数万円上げれば解決するという話)。しかしこれが社会保障関連の歳出とみなされ、消費税を再増税しないと実現しないという話になっている。

    先日、稲田政調会長が「保育士の給料を月額6千円増やす予定であるが、これは社会保障関連であり恒久財源が必要になる。したがって直には実行できない」と発言していた。どうも消費税が再増税されないと財源が捻出できないか、あるいは他の社会保障予算を削る他はないという意味と筆者は捉える。これは三党合意の「税と社会保障の一体改革」が元になっており、法律ではないが与党内の「自主規制」になっていると筆者は理解している。


  • 決め手はやはりシニョリッジ政策

    日本のマスコミは報道しないが、他にも「税と社会保障の一体改革」に起因する様々な問題が起っている。例えば先日、年金保険料の納付不足で無年金になっている知人の高齢者に話を聞いて驚いた。年金の支給は最低25年の保険料の納付が必要である。しかしこの高齢者のように納付実績が25年にわずかに届かない人々がかなりいる。このようなケースの救済策として必要納付年数を25年から20年に引下げる(将来さらに引下げる)という案が数年前に出ていた。

    筆者はこの話をこの高齢者に話をしたことがある。そこでご本人は年金事務所にこれについて話を聞きに行ったという。ところが年金事務所は「そういう話はあるが消費税の再増税が実現しないと実施はない」と説明したという。要するに保育士の給料と同様に、年金も消費税増税の人質に捕られているのである。

    同じ理由で無年金となった別の高齢者は「生活保護を受けるか死んでしまうか本当に悩んでいる」という切実な話をしていた。このような70才前後になっても無年金なため働き続けて収入を得る必要に迫られている人々がかなりいるが、これらの人々の声は全部かき消されているのである(待機児童問題だけはクローズアップされている)。おそらく社会保障に関して似た問題が沢山あると筆者は思っている。このように響きだけはきれいな「税と社会保障の一体改革」がいかに非人道的なものか考える必要がある。


    「税と社会保障の一体改革」は政治家の自由な活動を著しく縛っている。おそらく多くの与党の政治家は最近になってこれに気付いたと筆者は思っている。自民党は、野党時代、時の勢いで「三党合意」を取決めた。しかしこれによって結果的にガチガチの財政再建派と官僚の術中に嵌ったのである。

    今後の日本を考えると社会保障は重要な政治テーマである。しかし政治が何をやろうとしても財源を確保するため、増税か他の社会保障関連歳出を削る必要に迫られる。しかも単年度ベースで辻褄を合せることが要求される。


    ただ与党の政治家にはこの状況を打開する方法はあると筆者達は思っている。このための簡単な方法は、消費税増税以外に財源を求めることである。一つは特別会計の過剰で不必要な積立金(いわゆる埋蔵金)を拠出させることである。官僚はガチガチ財政再建派を使って「これは恒久財源にならない」と徹底抗戦するであろうが、政治家がかまわず「出せ」と言えば済む話である。

    二つ目は将来の経済成長を前提にした、5年、10年先の税収増を財源にすることである。だがこれは自民党内でもこれまでさんざん議論されてきたことであり、いつも神学論争に陥るテーマである(税収の対名目GDP弾性値がいつも問題になる)。しかも考え方としては正しいとしても、金額が不確定でありまた説得力がやや弱いことが難点である。しかし少なくとも予算の単年度主義を打破するには有効と考えるので、また持出してみるのも面白いと筆者は考える。


    しかし本命は、やはり筆者達が長年主張しているシニョリッジ政策やシニョリッジ政策に通じる政策と筆者は思う。ただいきなり政府紙幣の発行や国債の日銀の直接引受(財政法第5条によって国会が決議すれば可能)はハードルが高い。まず既に事実上シニョリッジ政策が実施されていることを政府が国民に対して説明することが有効と筆者は考える。

    ただその前に多くの政治家がその仕組と実態を理解することが必要である。ちなみに16/4/4(第886号)「財政問題が解決済みということの理解」他で説明したように、日銀の国債の購入残高が300兆円を超え実際の国の借金は300兆円程度まで減少している(1,000兆円を超えるなんて真っ赤な嘘)と筆者は試算している(高橋洋一氏のように100兆円程度まで減ったとする者までいる)。つまり「税と社会保障の一体改革」の元になっていた日本の財政問題は既に解決済みなのである。このことを大半の政治家が理解するまで筆者達は説明し続ける必要がある。



来週は今週の続きである。消費税を巡る数々の「嘘」も取上げる。




16/4/11(第887号)「民進党が消費税増税を推進する背景」
16/4/4(第886号)「財政問題が解決済みということの理解」
16/3/28(第885号)「終わっている日本の経済学者」
16/3/21(第884号)「国際金融経済分析会合の影響」
16/3/14(第883号)「信用を完全に失った財務省」
16/3/7(第882号)「「政界」がおかしい」
16/2/29(第881号)「一向に醸成されない「空気」」
16/2/22(第880号)「緊縮財政からの脱却」
16/2/15(第879号)「超低金利の今こそ国債発行を」
16/2/8(第878号)「日銀の「マイナス金利」政策の実態」
16/2/1(第877号)「CTAヘッジファンドの話」
16/1/25(第876号)「今後の原油価格の動きは「売り投機筋」に聞いてくれ」
16/1/18(第875号)「日本の経済論壇は新興宗教の世界」
16/1/11(第874号)「日本のデフレギャップは資産(財産)」
15/12/21(第873号)「敬虔なクリスチャンの感覚が日本を沈没させる」
15/12/14(第872号)「「名目GDP600兆円」達成のシナリオ」
15/12/7(第871号)「日本の経済学界の惨状」
15/11/30(第870号)「堂々と新規の国債発行を」
15/11/23(第869号)「今度こそは盛上がるかシニョリッジ」
15/11/16(第868号)「小黒教授の文章(論文)への反論」
15/11/9(第867号)「小黒一正教授の文章(論文)」
15/11/2(第866号)「シニョリッジ政策は現在進行中」
15/10/26(第865号)「避けられる物事の根本や本質」
15/10/19(第864号)「安保法案騒動に対する感想」
15/10/12(第863号)「安保法制改正の必要性」
15/10/5(第862号)「フォルクスワーゲンの排ガス不正問題」
15/9/28(第861号)「今回の安保騒動」
15/9/21(第860号)「数年後、中国はIMFの管理下に?」
15/9/7(第859号)「中国の為替戦略の行き詰り」
15/8/31(第858号)「唐突な人民元の切下」
15/8/24(第857号)「改めてメガ・フロートを提案」
15/8/10(第856号)「鰯の頭も信心から」
15/8/3(第855号)「個別的自衛権だけなら国連からは脱退」
15/7/27(第854号)「時代に取残された人々」
15/7/20(第853号)「宮沢俊義という変節漢」
15/7/13(第852号)「「緊縮財政路線」はジリ貧路線」
15/7/6(第851号)「議論のすり替えとデマ」
15/6/29(第850号)「安倍政権に対する提言」
15/6/22(第849号)「憲法は不要」
15/6/15(第848号)「22才のベアテが作った日本国憲法条文」
15/6/8(第847号)「中国は外貨不足?」
15/6/1(第846号)「中国は資金繰り難?」
15/5/25(第845号)「今こそ郵貯と財投をアジアに広めろ」
15/5/18(第844号)「AIIBの資金力は「ゴミ」程度」
15/5/11(第843号)「中国との付合い方」
15/4/27(第842号)「中国はマイナス成長?」
15/4/20(第841号)「ドイツ軍の敗走開始の話」
15/4/13(第840号)「反・脱原発派の陥落は近い?」
15/4/6(第839号)「「エコ」の横暴と呪縛」
15/3/30(第838号)「原油の高値時代の後始末」
15/3/23(第837号)「ドバイショック再現の可能性」
15/3/16(第836号)「価格暴落でも供給増」
15/3/9(第835号)「原油価格は二番底に向かう?」
15/3/2(第834号)「実態がない地政学的リスク」
15/2/23(第833号)「米大手金融機関の「情報発信力」」
15/2/16(第832号)「「今が潮時」とうまく撤退」
15/2/9(第831号)「代替資源(非在来型資源)のインパクト」
15/2/2(第830号)「原油価格の動きに変調」
15/1/26(第829号)「低調になった経済論議」
15/1/19(第828号)「「どんぶり勘定」の経済運営」
15/1/12(第827号)「IMFの借金取りモデルの導入」


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