経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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16/4/11(887号)
民進党が消費税増税を推進する背景

  • 官公労に依存する民進党

    今週は唐突ではあるが民進党を取上げる。ただ民進党そのものについて多くを語るつもりはない(例えば国民のほとんどが民進党に期待していないと言ったことなど)。取上げることは筆者が奇妙に思う民進党の基本方針である。その一つが消費税の再増税への対応である。

    民進党を除く野党は、再増税に対し反対あるいは延期する方針を明らかにしている。自民党は建前上は延期しない考えだが、今後は再増税延期に大きく傾いて行くと思われる。ところが民進党だけが再延期に反対することを先日表明した。

    各種の世論調査でも既定路線となっている消費税再増税に賛成する者は少数派になっている。それどころか増税そのものに反対する声が大きくなっている。3ヶ月後には参議院選挙が実施され、また場合によっては衆議院選挙も同日に行われるという観測である。今日のように評判の悪くなった消費税の再増税を公約に本当に民進党は選挙を戦うつもりなのか誰しも疑問に思うはずである。


    この民進党の奇妙な動きは分析してみる価値があると筆者は考えた。まず民主党時代の支持者は、無党派層(浮動票)と労組であった。小選挙区制が始まった頃から、支持する政党を持たない無党派層が急激に増えた。無党派層の投票行動はその時のムードに流される。

    無党派層の投票行動を左右するムードの醸成にはマスコミが深く関わっている。郵政選挙では、小泉首相がマスコミを操作することに成功し、無党派層の支持を集め自民党が大勝した。しかし自民党の短命政権が続くと、自民党政権に飽きた無党派層は自民党離れをした。無党派層は次に手垢のついていない民主党に傾いた。マスコミも「民主党に一度政権を託してみよう」というムードを作った。大きな風を受けた鳩山民主党は、09年の総選挙で大勝し初めて政権を奪取した。

    しかしあまりにも稚拙な民主党の政権運営が続いたため、無党派層が今度は民主党から離れた。筆者は、無党派層の民主党離れを決定付けたのは野田政権の消費税増税と見ている。民主党関係者は、党勢衰退の原因を「消費税」ではなく「党の分裂」としている。しかし決定打は消費税であったと筆者は思っている。だいだい党の分裂も消費税増税をきっかけに起ったのである。12年(前々回)と14年(前回)の総選挙で無党派層は完全に民主党を見限った。民主党を離れた無党派層は、前回、一部が共産党に流れ残りは棄権に回った(前々回は維新とみんなの党にかなり流れた)。


    14/12/19(第825号)「総選挙後の動きと課題」で説明したように、無党派層に見限られた民主党であるが、今でも野党第一党の地位にある。前回の総選挙で大敗したと言え、一応、選挙では1,000万弱の比例票を獲得している(その前々回(2009年)の総選挙では何と2,500万票も得ていた)。どうも1,000万票が民主党の基礎票と思われる(自民党1,800万票、公明党700万票が基礎票)。

    この1,000万票の基礎票の確保には、民主党の支持母体である労組の働きが大きいと筆者は見ている。民主党は旧社会党や旧民社党の支持母体であった労組の支持を引継いで、選挙となればこの労組に頼っている。ポスター張りや電話による投票依頼を行う実行部隊は労組から派遣される。したがって民主党(民進党)への風が止んだ今日、選挙は労組に依存する度合がますます高まっている。

    ただ一口に労組(連合)と言っても、日教組や自治労と言った官公労と一般の民間企業の労組がある。どう見てもイデオロギー色の強い前者の官公労の方が選挙活動に熱心である。同じ連合の傘下にあっても一方の民間企業の労組は選挙に関心が低い。ましてや民進党が消費税の再増税を唱えて選挙に挑むとなれば、民間労組の一般組合員は選挙協力どころか民進党離れを起こすと筆者は見ている。


    消費税増税を推進する官僚と官公労

    選挙のことを考えると民進党の消費税への対応は極めてリスクが大きい。また軽減税率導入に際しても「その財源はどうするのか」と自公政権に噛み付いていた。このような岡田民進党の有権者の神経を逆なでする方針は一見理解不能である。しかし民進党の支持組織(選挙運動の際の実行部隊)を考えると納得が行くのである。

    今日の民進党を支えているのは労組であり、ただ労組と言っても官公労だけである。そしてこの公務員の集りである官公労が消費税増税を推進していると考えると、民進党の行動も理解できるのである。そしてまさにこの官公労と官僚(特に財務官僚)は利害が一致しているのだ。

    しかし民主党に風が吹いていた時代(比例票を2,500万票も集めていた)が去った今日、民進党の中で官公労の選挙協力なくして当選できる立候補者はほとんどいない。大阪維新から離れた「維新」も官公労の選挙協力を期待して民主党に合流したと言える。たとえ「野合」「期待しない」と批難されても彼等には聞く耳がない。


    民主党は政権を取るまでは「公務員の天下りの根絶」「事務次官会議の廃止」と言ったむしろ反公務員的な政策を掲げていた。これも無党派層の圧倒的な支持を受けていたため、このような方針を採ることができたのである。ところが今日、官公労の意向に逆らっては民進党の中では誰も生きて行けないと筆者は思っている。

    選挙に大敗してからの民主党の左翼旋回は鮮明である。昨年夏からの安保国会でも際立っていた。安保法案への反対行動は一頃の旧社会党より極端であった。しかしこれも民主党が官公労によって完全に牛耳られていることを考えると理解ができる。


    では何故、官僚を始め公務員が消費税にこれほど執着するのかということになる。しかしこの答えは簡単である。彼等は消費税こそが金を配るという彼等の権限を保証し、また将来の公務員の生活を保証すると思い込んでいるからである。

    一方、所得税や法人税は景気の波に大きく左右される。またバブル崩壊後、度々日本の名目GDPが減少するといった、それまであまり経験したことがない現象に何回も遭遇した。さらに国際的な流れから所得税や法人税を下げることがあっても上げることはほぼ不可能である。こうなれば安定した消費税の増税しかないと彼等が思っても仕方がないのである。


    そもそも07/5/7(第480号)「日本の公務員」などで述べたように、公務員はその置かれた立場から「インフレ」を極端に嫌う。07/5/28(第483号)「荻原重秀と新井白石」などで取上げたように、日本の歴史教科書の記述においてもこの公務員の意向を反映していると筆者達は見ている。デフレ政策を採った指導者を持ち上げ、インフレ政策を行った為政者を貶める記述が目立つのである。

    消費税を推進する官公労に対して、民間の労組の一般の組合員は強い疑問を持つはずである。筆者は、消費税を巡り今年の国勢選挙を境に連合は分裂するのではないかとさえ思っている。ただ連合は分裂するためのエネルギーも既に残っていないという見方もある。


    筆者は、一方の利益を剥ぎ取り、それを他に回すという発想を採らない。ところが今日の日本人はこのゼロサム思考に染まっている。公務員が得するために民間に損をさせるとか、反対に民間の生活を守るため公務員の待遇を下げると言った発想である。しかし筆者は全体のパイは大きくして皆が満足する政策が理想と考える。



来週は、今週の続きで「財源」を巡る不毛な議論を取上げる。

タックスヘイブンを活用している各国要人を暴露した「パナマ文章」が話題になっている。このパナマショックがどれだけの広がりを見せるか注目される。またこの中で関係する米国人が少ないことが指摘され、これは米国の陰謀という話まで出ている。これに対して「2014年の外国口座税務コンプライアンス法(FATCA)の施行」「米国にはデラウェラ州やワイオミング州のように租税回避地に近いものがある」「米国人にとってパナマのようなラテン国家はなじみが薄い」と言った様々な解説がなされている。

筆者は、パナマという国が第二次大戦後、ずっと反米国家であったことが影響しているのではないかと想像する。パナマ運河の利権を巡り、米国とパナマはぎくしゃくして来た。特にノリエガ将軍時代(83〜89年)は対立が頂点に達した(ノリエガは、昔、CIAの工作員だったという話がある)。関係が多少なりとも良くなったのは89年の米軍のパナマ侵攻以降である。つまりずっと米国富裕層がパナマの法律事務所を利用するといった状態ではなかったと筆者は見る。このようなことを考えるとパナマとの関係が悪かったことが、まさに米国富裕層にとって幸いしたのではと筆者は思っている。




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