経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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16/4/4(886号)
財政問題が解決済みということの理解

  • 政治家の理解度

    16年度予算が成立して、安倍総理はこの予算の前倒し執行を要請している。このことは16年度に第二次補正予算を組むことを示唆する。おそらく5月のサミット前にこの話は具体化するものと世間は見ている。

    本当は、14年度、15年度でも第二次補正予算をという話が出ても不思議のない経済状況であったが、その素振りもなかった。どうも財政出動がなくとも、金融緩和と円安でなんとかなるという雰囲気があった。この14年度からの緊縮財政への転換の結果、本当の意味でのアベノミクスは13年度の一年間で終わった。


    しかし頼りにしていた円安が円高に転換し、またマイナス金利にまで突入した金融緩和政策もさしたる効果は期待できず、安倍政権の周辺もやっと正気になったと言える。まずこのまま消費税の再増税を行っても良いのか自信を失っている。それどころか四半期ベースの経済成長率も連続のマイナスに陥りそうである。この現実を見て、ようやく政界も目が醒めたのであろう。

    緊縮財政への転換の背景に、2020年のプライマリーバランスの回復実現のため新規国債の発行は絶対に行わないという「呪縛」がある。したがって増える社会保障費を消費税増税で全てを賄うといった現実離れした縛りがある。しかしこのようなことは絶対に不可能である。たしかに必要な社会保障費をどんどん削り保険料などの国民負担を増やせばこれも可能であるが、それでは政治と経済が持たないであろう。


    ところが先々週号16/3/21(第884号)「国際金融経済分析会合の影響」で述べたように、既に「日本の財政問題」は事実上解決済みなのである。これは13年の春に日銀が国債の買入れ限度枠を撤廃したからである。実際、既に日銀は300兆円の国債を買入れており、これは実質的に国の借金が300兆円減ったことを意味する。

    しかし問題は、政治家がこのことをどれだけ理解しているかである。筆者の感触では、残念ながら分かっている人はまだ少数派に限られている。ただうまく説明が届けばこのことを理解してもらえる政治家は多いはずである。ところが分かっていても、これまでの流れがありなかなかこれを口に出せない雰囲気がある。

    特に「プライマリーバランスの回復」と言って財政再建に奔走してきた政治家(最近では財政規律派と呼ばれているらしい)は、このことが広く知られると完全に立場がなくなる。したがってこの手の政治家は緊縮財政政策の転換に徹底抗戦するものと見られる。しかしこの完全に間違った考えが、これまで日本国民を苦しめ不幸に落としこんできた。ところが財政再建派は、そのようなことを全く気にしていないと見られる。どうしてこのような「人でなし」の集団が日本に生まれたかについては来週号で取上げる。


    14年度から日本経済ははっきりと下降している。今日、円安と資源安でなんとか持ちこたえている状態である。しかしこの経済低迷の原因の分析が十分になされていない。筆者は、そのうちどこかが計量分析したものを発表するものと思っていたが、これを見落としているのかまだ見かけない。

    そこで筆者なりにこの原因を極めてラフに分析する。筆者は、消費税増税と補正予算減額の悪影響がほぼ同額の4割程度ずつと見ている。残りの2割が細かな増税と社会保険料の増額などと考える。特に社会保険料が増えているため、毎年賃金はアップしているが可処分所得は一向に増えていない(リーマンショック後下がったまま)。

    また小さいと思われるが、リーマンショック後の景気対策として乱発されたエコポイント政策の後遺症も考えられる。耐久消費財の消費を各種のエコポイントなどで刺激しても、消費の先食いになるだけである。耐久消費財の耐久性も上がっているので、結果的にこの政策が今日の消費不振に繋がっている部分があると筆者は見ている。


  • 「物価上昇」懸念という反対論

    日銀短観の悪化などが示すように日本経済は下降している。アベノミクスが進行中と言われている中での経済不振は深刻である。繰返すが本当のアベノミクスは13年度の一年だけであり、これ以降は財政再建派主導の緊縮財政でアベノミクスは潰された。安倍総理周辺もようやくそのことに気付き、今日、焦って第二次補正予算と騒ぎ出した。

    ただはっきりしているのは、今後、安倍政権が財政支出を伴う総需要創出政策に踏出すことである。しかし財政再建派は強力であり、あらゆる手段を講じてこの動きに抵抗すると予想される。たしかに仮に反対論を押切って実施する総需要創出政策の結果が良ければ、財政再建派は立場を失うのである。例えば経済成長率が高まるだけでなく税収が増え日本の長期債務のGDP比率が下がることが考えられる。これによって財政再建派こそが「詐欺集団」または「カルト集団」ということが証明されるのである。


    財政出動による総需要創出政策(ここに消費税の再増税の延期を含めても良い)に対する財政再建派の妨害が予想される。まず不思議なことに経済同友会などの財界が反対している。官公労を中心にした労組や野党も反対である。さらに消費税の増税キャンペーンを行ってきた大手マスコミがこれに加わる。

    予想される反対論の一つは「物価上昇」懸念である。おそらく日経などのマスコミが、御用学者やカルト経済学者を動員してこのための論陣を張ると筆者は予想する。しかし面白いことに同じマスコミの中には財政出動に賛同する声も生まれており、今回は反対一色にはならないと思われる。


    「物価上昇」を懸念する声は、当然、御用学者から既に出てくる。だいたい日本政府(内閣府)が潜在成長率を0.5%、つまりデフレギャップが2〜3兆円と間抜けなことを言っているのである。しかし仮に第二次補正予算が10兆円ということになれば、乗数値を「2」として最終需要は20兆円増えることになる。したがってデフレギャップが2〜3兆円しかないのに最終需要が20兆円も増えるとなれば、当然、物価が高騰するという話になる。

    例えば04/11/1(第365号)「妄言・虚言の正体」で紹介したように、A教授(正しくは大阪大学のB 教授)は「1兆円も財政支出を増やすと、私のシミュレーションプログラムでは、物価がどんどん上昇し、計算不能に陥る」ととんでもないことを言っていた。これも日本のデフレギャップが2〜3兆円といったデタラメをシステムに組込んでいるからと考える(ただし乗数値だけはこの計算に限り比較的正しいものを用いていると見られるが・・この手の経済学者はシステムの部品を色々と使い分けている可能性がある)。

    このような日本の経済学界のシミュレーション分析の奇妙な現状を11/12/19(第691号)「シミュレーションモデルの話」で取上げた。そしてここでは小林慶一郎一橋大学教授が使っている新古典派一般均衡モデルの問題点を指摘した。おそらくA教授と小林教授は同様のシミュレーションプログラムを使っていると筆者は認識している。さらに内閣府のシミュレーションプログラム(2001年にIMFのプログラムを導入)もほぼ同じと筆者は見ている(実際、A教授は内閣府に出向して仕事をしていたほど。)


    少々気が早いが、安倍政権が第二次補正予算を組むのなら「相当」の規模の予算を組むことを筆者は希望する。また財源として特別会計の剰余金(埋蔵金)や財投という話が出ているが、筆者としては新規の国債(なるべく償還期限の長い)の発行を期待している。これらの施策によって良い結果が生まれ、また言われていたような問題が起らないということが人の目にもはっきりと分ることが重要である。

    また筆者は、これによって2020年のプライマリーバランスの回復実現のため新規国債の発行は絶対に行わないという「呪縛」を叩き壊してもらいたい。だいたい今は「2020年のプライマリーバランスの回復」と言っているが、ちょっと前までは「2013年までに回復」と言っていたような極めて軽いものである。そもそも前段で述べたが「日本の財政問題」は既に事実上解決済みである。



来週は、唐突に感じられるかもしれないが民進党を取上げる。民進党だけが消費税の再増税の延期に反対するようである。また米大統領候補のトランプ氏の「日本にある米軍基地の撤退発言」も面白いので取上げよう。




16/3/28(第885号)「終わっている日本の経済学者」
16/3/21(第884号)「国際金融経済分析会合の影響」
16/3/14(第883号)「信用を完全に失った財務省」
16/3/7(第882号)「「政界」がおかしい」
16/2/29(第881号)「一向に醸成されない「空気」」
16/2/22(第880号)「緊縮財政からの脱却」
16/2/15(第879号)「超低金利の今こそ国債発行を」
16/2/8(第878号)「日銀の「マイナス金利」政策の実態」
16/2/1(第877号)「CTAヘッジファンドの話」
16/1/25(第876号)「今後の原油価格の動きは「売り投機筋」に聞いてくれ」
16/1/18(第875号)「日本の経済論壇は新興宗教の世界」
16/1/11(第874号)「日本のデフレギャップは資産(財産)」
15/12/21(第873号)「敬虔なクリスチャンの感覚が日本を沈没させる」
15/12/14(第872号)「「名目GDP600兆円」達成のシナリオ」
15/12/7(第871号)「日本の経済学界の惨状」
15/11/30(第870号)「堂々と新規の国債発行を」
15/11/23(第869号)「今度こそは盛上がるかシニョリッジ」
15/11/16(第868号)「小黒教授の文章(論文)への反論」
15/11/9(第867号)「小黒一正教授の文章(論文)」
15/11/2(第866号)「シニョリッジ政策は現在進行中」
15/10/26(第865号)「避けられる物事の根本や本質」
15/10/19(第864号)「安保法案騒動に対する感想」
15/10/12(第863号)「安保法制改正の必要性」
15/10/5(第862号)「フォルクスワーゲンの排ガス不正問題」
15/9/28(第861号)「今回の安保騒動」
15/9/21(第860号)「数年後、中国はIMFの管理下に?」
15/9/7(第859号)「中国の為替戦略の行き詰り」
15/8/31(第858号)「唐突な人民元の切下」
15/8/24(第857号)「改めてメガ・フロートを提案」
15/8/10(第856号)「鰯の頭も信心から」
15/8/3(第855号)「個別的自衛権だけなら国連からは脱退」
15/7/27(第854号)「時代に取残された人々」
15/7/20(第853号)「宮沢俊義という変節漢」
15/7/13(第852号)「「緊縮財政路線」はジリ貧路線」
15/7/6(第851号)「議論のすり替えとデマ」
15/6/29(第850号)「安倍政権に対する提言」
15/6/22(第849号)「憲法は不要」
15/6/15(第848号)「22才のベアテが作った日本国憲法条文」
15/6/8(第847号)「中国は外貨不足?」
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15/5/25(第845号)「今こそ郵貯と財投をアジアに広めろ」
15/5/18(第844号)「AIIBの資金力は「ゴミ」程度」
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15/4/20(第841号)「ドイツ軍の敗走開始の話」
15/4/13(第840号)「反・脱原発派の陥落は近い?」
15/4/6(第839号)「「エコ」の横暴と呪縛」
15/3/30(第838号)「原油の高値時代の後始末」
15/3/23(第837号)「ドバイショック再現の可能性」
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15/3/2(第834号)「実態がない地政学的リスク」
15/2/23(第833号)「米大手金融機関の「情報発信力」」
15/2/16(第832号)「「今が潮時」とうまく撤退」
15/2/9(第831号)「代替資源(非在来型資源)のインパクト」
15/2/2(第830号)「原油価格の動きに変調」
15/1/26(第829号)「低調になった経済論議」
15/1/19(第828号)「「どんぶり勘定」の経済運営」
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