経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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16/3/21(884号)
国際金融経済分析会合の影響

  • スティグリッツ教授とシニョリッジ政策

    先週号で述べた通り、安倍総理等は16日の国際金融経済分析会合にスティグリッツ教授を招き話を聞いた。やはり教授は、消費税の再増税に反対し、財政政策を出動させるよう意見を述べている。また前回の消費税再増税の前にポール・クルーグマン教授を招聘し話を聞いているが、今回もクルーグマン教授から再度意見を聞くことになっている。ちなみに前回、クルーグマン教授は再増税に反対している(今回も同様に反対するものと見られる)。

    スティグリッツ教授との意見交換で注目されるのは、総理及び総理近辺の数名と40分間に渡り別室でさらに話合いが行われたことである。しかしこの話合いの内容は公表されていない。筆者は、ひょっとすると話がシニョリッジ政策に及んだのではないかと勝手に憶測している。もし筆者の憶測通りとするとまさに「一大事」である。


    実は13年前、03/5/5(第295号)「政府紙幣発行政策の誤解」で取上げたように、来日したスティグリッツ教授は講演で日本にシニョリッジ政策の実施を提案している。何回も述べているように、今日、日銀が既に300兆円もの国債を買上げており、この広義のシニョリッジ政策の半分は終わっている(13年前のスティグリッツ教授提案のシニョリッジは政府紙幣による)。残るのはこれで得られるシニョリッジ益というものを、何時、どのような形で使い日本をデフレから脱却させるかである。

    しかしこの種の話が仮になされていたとしても、これを公にすることが難しいのが日本の現状である(もっとも日本でなく他の国でも難しい)。06/4/24(第434号)「もう一つ勇気を」で述べたように、この講演でスティグリッツ教授でさえ「経済学者が政府紙幣発行を主張する時は、経済学界から追放されることを覚悟しておかなければならない」と半分冗談を言っている。つまりシニョリッジに関する話は、まだ世間ではタブーに近いのである。


    面白いのは06/4/24(第434号)「もう一つ勇気を」で述べたように、13年前このスティグリッツ教授を日本に招待したのは日経新聞である。また政府紙幣(プリンティングマネー)発行発言が飛出したのが財務省主催の講演会である。ひょっとすると構造改革派の巣窟である日経新聞と増税と財政支出削減に熱心な財務省にも、一部にまともな考えの人々がいるという推理が成立つ。

    しかしスティグリッツ教授のこの提案に対し、当時、経済の専門家から初歩的で的外れの疑念や批難が続いた。ちなみにこの混乱している議論の中で、当時の内閣官房参与(前財務省財務官)で現日銀総裁の黒田東彦氏は「日銀がもっと大量に国債を購入することが現実的」と唯一まともな発言をしている。このように13年前の話の中の登場人物達が、みごとに今日でも繋がっているのである。


    今日、日本にとって一番有効な政策は「シニョリッジ」による財政政策と筆者は考える。同じ手法は、供給力に問題のある中南米諸国やアフリカ諸国では簡単に使えない。巨額のデフレギャップを抱える日本でこそ実施すべきであり、かつ可能なのがこの「シニョリッジ政策」である。

    日本経済の問題は需要不足である。この原因は、将来に備えた企業と国民の過剰貯蓄、さらに国民の高齢化である(借金してまでの大型消費は減退・・これらについては来週また取上げる)。経済がこの状態に陥れば、政府が金を出して需要を創出することが適切な政策となる。ところで財政支出となれば、直に公共投資という話になる。しかし公共投資だけではなく、今日の日本の状況を見ると年金などの社会保障や教育分野などへの政府支出増が適切と筆者は考える。


  • 「日本の財政問題」は事実上解決済み

    歳出削減と増税(特に消費税増税)しか頭にないガチガチの財政再建派は、13年春の黒田日銀の大きな方向転換の意味を全く理解していない。この時、日銀は国債の買入れ限度枠を撤廃した。それまでは日銀の内規で国債の買入れ限度を日銀券の発行額としていた(70兆円程度)。したがって日銀は、この措置によって青空天井で国債を買えるようになったのである。

    この時点で「日本の財政問題」は事実上解決したのである。しかし日本で一体何人の者がこのことに気付いたか興味はある。もし財務省に先週紹介した相沢英之衆議院議員(元大蔵事務次官)と同じレベルの官僚がいたなら、おそらくこの人物だけはこれに気付いたと思われる。ちなみに先週号で話をしたように相沢氏は筆者達に「私は政府貨幣発行までは必要はないと思うよ。政府が国債を発行し、それを日銀がどんどん買えば済む話じゃないか。」と言っておられたのである(この話は、他のメディアを通じたものではなく、筆者と小野日本経済復活の会会長の二人が議員会館の相沢事務所で直接聞いた)。まさに現実は相沢さんの言う通りに進んでいる。


    しかし筆者は、当初、日銀のこの宣言を半信半疑で受取っていた。と言うのは日銀がどこまで国債を本気で買い進むのか一抹の不安があったからである。ところが黒田日銀は、本当にどんどんと国債を買ったのである。これには筆者も多少驚いた。

    筆者の試算では、差引の日本の純債務は600兆円程度である(日本の借金が1,000兆円を超えるとまだ言っている者は全員嘘つきと思って良い)。この半分の300兆円まで日銀は既に日本国債を購入した。このことを確認した昨年の10月頃から、本誌は「シニョリッジ政策」を再度取上げ始めた。


    ところで同じ「シニョリッジ政策」であっても、客観的に見て、「政府貨幣(紙幣)」の方が日銀による国債買入れよりハードルが高いと筆者達は見ている。現に硬貨として政府貨幣は発行されているが、財政支出に充てるほどの多額の政府貨幣の発行となればすんなりとは国民も理解できない。「それならこれまでの歳出削減や消費税の増税は一体何だったのだ」ということになる。

    また現実を踏まえるなら高額の政府貨幣(紙幣)の発行が必要となり、おそらく「通貨の単位および貨幣の発行等に関する法律」(昭和62年6月1日、法律第四二号)の改正が必要となる。しかし法律の改正ということになれば、与党の政治家が躊躇する可能性は大きくなる。特に今日の国会の様子を見ていると、野党は昔の「何でも反対党」に戻っている。建設的な国会審議はほぼ不可能と筆者は感じる(特に政府貨幣(紙幣)発行に強く賛同していた民主党の国会議員も残っていない)。


    その点、日銀が国債を買うという「シニョリッジ政策」の方が受入れられやすい。だいだい既に300兆円もの国債を買っているのである。また今後も日銀の国債の買入れは続くと見通される。後は日銀が買った分の国債は、事実上、国の借金にはならないということが皆に理解されるようにすれば良いのである。

    おそらく丁寧に説明すれば国民の半分以上はこのことを理解できると筆者は感じる。問題は、「シニョリッジ政策」を推進する立場に立つであろう政治家や官僚が納得するかである。たしかに以前、自民党だけでなく民主党にも熱心に「政府貨幣(紙幣)発行」を推進しようという政治家がある程度いる話を本誌でも紹介した。ただ大学でポンコツとなった新古典派経済学を学んできた若い政治家とっては、シニョリッジは多少理解が難しいかもしれない。

    また片方(もう片方は日銀)の主役になるべく立場の財務官僚は微妙である。これまで歳出削減と消費税増税に邁進してきた財務官僚が、いきなり「財源はどれだけでもある」と言われても戸惑うであろう。また昔の大蔵官僚(故相沢英之衆議院議員など)が持っていたバランス感覚の遺伝子が、どれだけ今日の財務官僚に引継がれているかが不明である。


    スティグリッツ教授に続き、国際金融経済分析会合で安倍総理はポール・クルーグマン教授から話を聞くことになっている。昔のクルーグマン教授は金融政策一辺倒であった。しかし13/1/14(第739号)「年頭にあたり」で述べたように、いきなり教授は「プラチナ硬貨を発行(つまりシニョリッジ政策)」を唱え始めた。最近、教授は日本にとって金融政策だけでなく財政政策も必要と指摘している。このように優秀な経済学者は、柔軟に持論の軌道修正を行えるのである。それにしても今回の国際金融経済分析会合の安倍政権への影響が気になる。



来週は、「シニョリッジ政策」に関して日本の経済学者やエコノミストを取上げる。




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