経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




16/2/29(881号)
一向に醸成されない「空気」

  • 積極財政への環境は整っている

    アベノミクスが最初の一年で終了し、その後、日本の財政は緊縮型に転換していることを先週号で説明した。緊縮財政の具体的な姿は消費税の増税と補正予算の減額である(他にも細かな増税が次々と実施されている)。ところが楽観主義者のリフレ派は、当初、緊縮財政でも大胆な金融緩和を続ければ大丈夫と言っていた。

    しかし四半期の経済成長率がまたマイナスになるなど、日本経済の低迷がさらにはっきりして来た。どうもこれまでの企業業績の好調も単に円安・資源安で支えられていたに過ぎなかったと見られる。したがって今年に入っての円高への転換と資源安の一巡は、今後の日本経済の一層の不調を暗示する。日本の株価の下落もこれらを反映している。

    さすがにリフレ派の中でも財政の出動を主張する者が増えてきた。実際「5兆円の補正予算を」という噂まで飛び出ている。しかし3.5兆円の来年度の補正予算でさえ国会審議中なのだから、話が具体化するのはもっと先の話と筆者は思っている。


    ところで日本は財政出動や積極財政に転換するための環境が極めて良くなっている。一つは15/11/2(第866号)「シニョリッジ政策は現在進行中」で取上げたように、黒田日銀の異次元の金融緩和によって既に300兆円もの国債を日銀が買っていることである。これは何度も説明したが、日本の国の借金が実質的に300兆円減ったことを意味する

    日本の国の借金は1,000兆円を超えると言われているが、一方で日本政府は莫大な金融資産(外貨準備など)を保有している。これを差引き純債務を算出すると600兆円程度になる。したがって借金が300兆円減ったということは、残りは300兆円ということになる。つまり今のペース(年間40兆円)で日銀が国債を買い進めると7〜8年で実質的に国の借金はなくなる。しかし日経新聞などはいまだに日本の財政は最悪といった大嘘を平気でついている。


    二つ目の環境変化は、歴史的な超低金利である。それどころか低金利を通り越し10年国債の利回りがマイナスになっている。つまり今日ほど国債を大量に発行するのに良い時代は考えられない。筆者は、大量でしかもなるべく長期の国債を発行すべきと提案している。

    日本で一番償還期間が長い国債は40年債である。この利回りを1.2%と言ってきたが、直近では1.1%まで下がっている。したがって40年より長い国債を利回り1.5%以下で発行することは十分可能である。仮に先週号で述べたように超長期の国債を150兆円発行しても、金利は年間2兆円程度に収まる。つまりたった年間2兆円の負担で150兆円もの自由に使える資金を確保することができる。

    2兆円は消費税で言えばわずか1%程度である。もちろん発行した超長期国債を日銀が市中から買うことも考えられる。この場合には実質的な国の金利負担はなくなる。ただこの話(シニョリッジ)を進めれば複雑になるので、取り敢えずここでは止めておく。


    さらにもう一つ付け加えるなら日本の物価がなかなか上がらないことである。これも財政出動や積極財政にとって極めて好都合である。日銀は、物価上昇を意図して大胆な金融緩和を行っているのに、一向に物価が上がらず困惑している。また石油などの資源安と円高が加わり、日本では一層物価上昇が難しくなっている。

    さらに日本人の消費傾向が変化し、需要が増えることによってむしろ価格が下がる物への支出の割合が大きくなっている。IT機器購入費や携帯電話などの通信関連費がその典型例である。これらは需要が増えるにつれ価格が下がる傾向がある。つまり需要が増えると必ず価格が上昇するという話は、既にポンコツとなった新古典派経済学の信奉者である間抜けな経済学者(もちろん財政学者も含む)とエコノミスが言っていることである。


  • 笑える「報道の自由」

    前段で述べたように、日本は財政出動や積極財政を実施するための好条件が揃っている。ところがこれを行おうという「空気」が一向に醸成されない(追加の補正予算の話が出ているようだが、麻生財務相があっさりとこれを否定した)。まことに不思議なことであるが、今のところ日本ではしょうがないと考える他はない。

    筆者はこの「空気」を変えるにはポイントがあると考える。ただそれを考えるには日本の「空気」を支配していると思われる主体の分析がまず必要と考える。具体的に主体とは「マスコミ界」「政界」「官界」ということになる。

    今日、これらが互いの出方や様子を見ながら牽制し合っている。最終的に重要なポイントを押さえることによって、財政出動や積極財政への雪崩現象が起る前夜となることを筆者は期待したい。これら以外の主体として日本の経済学界が考えられるが、全くお話にならないので割愛する。


    今週は日本のマスコミを取上げる。まず日本のマスコミは、活発な議論を喚起しようという気が全くない。むしろ一定の方向に読者や視聴者を誘導しようとする意図が見える。ここには一般の読者や視聴者は「ばか」だから、エリートの自分達がリードしなければならないという思い込みがある(昔の左翼の「前衛」と同じ発想)。

    先日、総務大臣の発言を巡り「テレビ報道の自由」が問題になった。報道ステーションなどは、さっそくこのことで政府に噛み付いていた。しかし筆者に言わせれば「報道の自由を阻害しているのはお前達の方であろう」ということである。報道ステーションやTBSのモーニングサンデーなどの番組の解説には片寄った考えの持ち主しか出ない。

    安保法制が問題になった時には、安保法制に反対する者しか出演しない。原発に関しては反原発派しか相手にしない。そして財政政策に関しては、財政再建論者や構造改革派しか番組には登場しない。一頃テレビ番組に出ていた積極財政論者達は20年くらい見かけない。これだけのことをやっておきながら「報道の自由」なんてよく言うよと笑えるのである。


    ところがこのようなテレビの報道姿勢こそがテレビ局の利益と固く結び付いていることまでは人々は思いが及ばない。今日のような左翼的(反体制的)な報道の方が視聴率が取れることにテレビ局は気付いたのである。日本には昔からの左翼思想に染まった者が一定割合いるため、そこに向けて放送内容を整えた方が視聴率を取れると筆者も思っている(しかしこのような左翼は年々減って行くのでいずれジリ貧になるが)。むしろバランスを取ろうとすると視聴率は低迷するのである。


    実際、古館一郎氏の「報道ステーション」の始まった頃は、反体制が売りであった前身のニュース・ステーションとは番組内容を一変させた。これによってお昼のワイドショーが得意とする下世話なテーマも増えた。しかしこの番組の方針変更が裏目に出て視聴率は低迷した。

    当時、ニュース・ステーションの制作会社だった久米宏氏のオフィス・トゥ・ワンのディレクターの一人を筆者はたまたま知っていた(六本木のオフィス・トゥ・ワンの事務所にも一度行ったことがある)。このディレクターから当時始まったこの「報道ステーション」をどう思うかと聞かれたことがある。筆者が「実につまらない」と答えると(本当につまらないと感じていた)、彼は大変喜んでいた。その後、「報道ステーション」は番組内容をニュース・ステーション時代に戻し視聴率を上げたのである。


    財政出動や積極財政へ転換した方が、経済活動が活発になり広告費が増えマスコミにとって利益が大きいはずなのに一向にその気配がない。まるで日本のマスコミ界は金縛りに会っているみたいである。しかし財政出動や積極財政に踏出さないのもテレビ局や新聞社にとって利益と思っているからと筆者は考える(正確には不利益を被らないためと言った方が良い)。

    たしかにこの意見は読者の方にも分かりにくいと筆者も思っている。新聞がこぞって消費税増税のためのキャンペーンを繰り広げたことを思い出してもらえば良い。当時、筆者は、新聞社と財務当局との間に新聞の軽減税率の適用の密約があるのではないかと憶測を述べた。今日、新聞の軽減税率適用が規定路線になっていることを見れば筆者の憶測が正しかったということになる。日本のマスコミ界は広告代理店を通じ財務当局と繋がっていると筆者は見ている。このように日本のマスコミは自分達の利益を考えて動いているのである。



来週は今週の続きで「政界」を取上げる。




16/2/22(第880号)「緊縮財政からの脱却」
16/2/15(第879号)「超低金利の今こそ国債発行を」
16/2/8(第878号)「日銀の「マイナス金利」政策の実態」
16/2/1(第877号)「CTAヘッジファンドの話」
16/1/25(第876号)「今後の原油価格の動きは「売り投機筋」に聞いてくれ」
16/1/18(第875号)「日本の経済論壇は新興宗教の世界」
16/1/11(第874号)「日本のデフレギャップは資産(財産)」
15/12/21(第873号)「敬虔なクリスチャンの感覚が日本を沈没させる」
15/12/14(第872号)「「名目GDP600兆円」達成のシナリオ」
15/12/7(第871号)「日本の経済学界の惨状」
15/11/30(第870号)「堂々と新規の国債発行を」
15/11/23(第869号)「今度こそは盛上がるかシニョリッジ」
15/11/16(第868号)「小黒教授の文章(論文)への反論」
15/11/9(第867号)「小黒一正教授の文章(論文)」
15/11/2(第866号)「シニョリッジ政策は現在進行中」
15/10/26(第865号)「避けられる物事の根本や本質」
15/10/19(第864号)「安保法案騒動に対する感想」
15/10/12(第863号)「安保法制改正の必要性」
15/10/5(第862号)「フォルクスワーゲンの排ガス不正問題」
15/9/28(第861号)「今回の安保騒動」
15/9/21(第860号)「数年後、中国はIMFの管理下に?」
15/9/7(第859号)「中国の為替戦略の行き詰り」
15/8/31(第858号)「唐突な人民元の切下」
15/8/24(第857号)「改めてメガ・フロートを提案」
15/8/10(第856号)「鰯の頭も信心から」
15/8/3(第855号)「個別的自衛権だけなら国連からは脱退」
15/7/27(第854号)「時代に取残された人々」
15/7/20(第853号)「宮沢俊義という変節漢」
15/7/13(第852号)「「緊縮財政路線」はジリ貧路線」
15/7/6(第851号)「議論のすり替えとデマ」
15/6/29(第850号)「安倍政権に対する提言」
15/6/22(第849号)「憲法は不要」
15/6/15(第848号)「22才のベアテが作った日本国憲法条文」
15/6/8(第847号)「中国は外貨不足?」
15/6/1(第846号)「中国は資金繰り難?」
15/5/25(第845号)「今こそ郵貯と財投をアジアに広めろ」
15/5/18(第844号)「AIIBの資金力は「ゴミ」程度」
15/5/11(第843号)「中国との付合い方」
15/4/27(第842号)「中国はマイナス成長?」
15/4/20(第841号)「ドイツ軍の敗走開始の話」
15/4/13(第840号)「反・脱原発派の陥落は近い?」
15/4/6(第839号)「「エコ」の横暴と呪縛」
15/3/30(第838号)「原油の高値時代の後始末」
15/3/23(第837号)「ドバイショック再現の可能性」
15/3/16(第836号)「価格暴落でも供給増」
15/3/9(第835号)「原油価格は二番底に向かう?」
15/3/2(第834号)「実態がない地政学的リスク」
15/2/23(第833号)「米大手金融機関の「情報発信力」」
15/2/16(第832号)「「今が潮時」とうまく撤退」
15/2/9(第831号)「代替資源(非在来型資源)のインパクト」
15/2/2(第830号)「原油価格の動きに変調」
15/1/26(第829号)「低調になった経済論議」
15/1/19(第828号)「「どんぶり勘定」の経済運営」
15/1/12(第827号)「IMFの借金取りモデルの導入」


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