経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




16/2/1(877号)
CTAヘッジファンドの話

  • 高速ロボットによる取引

    ここのところ原油価格の動きに合せるかのように株価が変動してきた(原油価格だけでなく、為替相場と株価が密接に連動して動くケースも多い)。原油価格が下落すると米国の株価が下落し、これが飛び火し日本の株価も下落するといった具合であった。特に今年に入ってからは原油価格が下がりっぱなしで、これに呼応して株価も連日大幅安を演じてきた。

    あるテレビの情報番組で米国石油市場のトレーダーの生の声を伝えていた。彼は「何があったのか、このように原油価格が連日下がることは経験したことがない」「これまでの下落相場では、大きく下がると必ず買いが入り一旦はある程度値を戻したが、今回は下落の一方通行である」と言っていた。また「大きな力が働いて下落相場をリードしている」と続けた。さらにこのトレーダーは「これが誰なのか分らない」と言っている。しかし彼は市場を操作している者を薄々承知していると筆者は思っている。


    今日の原油市場と株式市場を動かしているのは、CTA(コモディティー・トレーディング・アドバイザーズ・・商品投資顧問)ヘッジファンドと言われている。この話は日経新聞にも載っている。野村証券のサイトではCTAを「商品先物のみではなく通貨、株式指数先物など広範な金融商品に分散投資して金融資産を運用する企業や運用者を指す」と解説している。

    CTA自体は、金融工学や統計学をベースにしたコンピュータソフトである。資金運用者はこれをロボットと呼び、今日、あらゆる市場の高速取引に使っている。CTAヘッジファンドはこれで富裕層や年金の資金運用を行っているという話である。


    CTAは最初にゴールドマンサックス(GS)が開発したものであり、GSはこれを資金運用に使っていた。しかし今日、他のファンドなどの資金運用者も同様のソフトを使っているのである。たしかに彼等が同じようなソフトを取引に使っているのだから、市場の流れが一つの方向に傾きやすいということにもなる。

    このように実際の取引を行っているのは高速ロボットということになる。例えば原油先物を売ると同時に株式指数先物を売るということを瞬時にこのロボットはやってくれる。しかしソフトを作り、実際にこれを使って資金運用を行っているのは人間である。ロボットは人間の命令で動いているに過ぎない。


    CTAの特徴は、一つの市場ではなく複数の市場で同時に取引を行うことである。その典型例が上述したように原油先物を売ると同時にNY株式指数先物を売るといった取引である。場合によってはこれらと同時にドル・円先物を売るということも有り得る。

    注目すべきことに、CTAと関係のない他の市場参加者の投資パターンもCTAのソフト仕様書の通りになってしまうのである。例えばWTIが売られ原油先物が下がると、これを見て一斉にNY株式市場でも株が売られるという現象が起る。これも市場参加者が「原油が下がれば株も下がる」ということをいつの間にか学習させられて来たからある。このような結果、現実に原油価格が下がれば株価も下がるといったことになる。


    もう一つ重要なことは、市場の大きさである。米国の株式市場や債券市場は原油先物市場よりずっと大きい(ただ商品先物市場の中では原油先物市場が断然大きいが)。しかしこの小さなはずの市場で原油先物価格が下がれば、株式指数先物が下がり、これに連なりニューヨーク株式市場の現物の株価も下落するというパターンに陥る。

    つまり小さな原油先物市場の動きが最終的に大きなNY株式市場までも動かしいると筆者は見ている。ちょうど犬(株式市場)は尻尾(しっぽ)を振るが、今日、尻尾(原油市場)が犬を振っているようなものである。したがって比較的小さな投機資金で原油価格が動くのなら、これによって大きな株式市場までも動かせるということになる。


  • 奇妙な市場の動き

    CTAソフトが活発に使われることによって、市場の動きが奇妙なことになっていると筆者は感じる。まず15/3/2(第834号)「実態がない地政学的リスク」で、筆者は地政学的リスクで原油価格が大きく変動することに疑問を呈してきた。ただし地政学的リスクによって原油価格が動くことを全て不合理と言っているわけではない。ただ筆者は、この種のリスクの影響が過大に見積もられていることが間違っていると言いたいのである。

    多くの場合、単に投機筋の利益に繋がるように「地政学的リスク」というものが利用されていると筆者は見ている。実際、同じ地政学的リスクなのに市場の反応が全く逆になることさえある。先日、サウジがイランと断交し、両国の軍事的な紛争に発展しそうな出来事が起った。この日の原油先物(WTI)のチャートを見ると、瞬間的に従来の反応通り2ドル程度急激に上がった(これは納得がゆく反応である)。ところがその後一転下がり始め、この日は結果的に大幅安で引けた。

    以前なら「サウジのイランとの断交」は明らかに地政学的リスクであり、原油価格の上昇要因になっていたはずである。ところが今回は結果的に下落要因とされたのである。理由は、これによって将来のOPECの結束が難しくなったということであった。何とも説得力のない理由である。


    この後も原油先物は下げ続けとうとう20日に26.19ドル(ドバイ原油は23.10ドル)を付けた。20ドルを切っていないが、これを二番底と言って良いと筆者は思う。そして先週になって相場の様相が大きく変った。おそらくFOMCと日銀の金融政策決定会合が予定されていたことが原因と筆者は推測している。

    原油先物(WTI)が値を戻すと同時に、世界の株価も戻し始めた。今回の原油先物が上昇のきっかけは、イスラム国がリビアの石油貯蔵設備を破壊したこととされている。まさに今度はこれが地政学的リスクとされたのである。しかしリビアは国が乱れ既に石油生産は底にある。いまさら地政学的リスクと言われてもピンと来ない。

    このように同じ地政学的リスクであっても「サウジのイランとの断交」は、売り投機筋にとって時期的に尚早だったのであろうか、全く逆の動き(原油先物の大幅下落)になったと筆者は理解している。このように地政学的リスクと言ってもほとんどのケースは実態はなく、現実の経済活動に影響することがないのが本当のところと筆者は見ている。

    要するに地政学的リスクは、繰返すが単に市場を主導している投機筋に利用されているに過ぎないと筆者は思っている。しかし投機筋によって実際に市場が動くのだから、地政学的リスクという言葉は意味を持ってくるのである。一般の投資家も「これは可笑しい」と思っても、これに沿って売買を行う他はない。まさにCTAソフトを使う投機筋(勝利側の投機筋・・資金力と情報発信力のある筋)の思う壷である。


    そもそも原油価格が下がることによって株価が下がるという話が可笑しいのである。冷静に考えると原油価格が下がることによって困るのは、産油国を除けば石油産業とこれに関連する企業に限られる。むしろ石油製品を使っている一般の企業や消費者にとって、原油価格の下落は大きな恩恵をもたらす。また日米とも原油の輸入大国なのだから、両国とも原油価格下落は国全体で見れば大きなメリットになるはずである。つまり原油価格が下落すれば、株価が上昇するのが正常な反応と筆者は思っている。

    ところが原油価格の下落に伴い株価も下落するといった異常なパターンが定着しているのである。しかし不思議なことにほとんどの市場関係者やエコノミストが、これを奇妙な市場の動きとは指摘しないのである。彼等は「原油の需給バランスが崩れた」、「中国経済の減速」が原因と間抜けなことばかり言っている。ひょっとすると彼等は何者かに怯えているのかもしれない。ただし原油価格下落が株価下落に繋がる事柄が一つだけ考えられる。これについては来週号で説明する。



来週は今週の続きである。今週予定していた原油価格の三番底の話についても述べる。

29日(金)の日銀の金融政策決定会合で飛び出た「マイナス金利」がサプライズと受止められ、市場は翻弄された。しかし少しこれを分析すると、明らかに市場の反応は行過ぎと筆者は感じる。長期金利はとうとう0.1%を割込み、何と0.095%になった。ドル・円も121円台に急落した。どうも市場は「マイナス」という言葉に過剰反応したと思っている。

筆者が注目したのは翌日物のコールレート(無担保)の動きであった。ずっとここのところ0.075%程度で動いていたが(前日の28日は0.074%)、「マイナス金利」発表後、0.066%と微妙な下がり方をした。したがって10年物金利が0.095%で翌日物のコールレートが0.066%ということは、「長短金利の逆転現象」という前代未聞の事態が日本でも起る寸前まで来たことを意味するのである(米国では「長短金利の逆転現象」は過去に起っている)。これらについても来週号である。




16/1/25(第876号)「今後の原油価格の動きは「売り投機筋」に聞いてくれ」
16/1/18(第875号)「日本の経済論壇は新興宗教の世界」
16/1/11(第874号)「日本のデフレギャップは資産(財産)」
15/12/21(第873号)「敬虔なクリスチャンの感覚が日本を沈没させる」
15/12/14(第872号)「「名目GDP600兆円」達成のシナリオ」
15/12/7(第871号)「日本の経済学界の惨状」
15/11/30(第870号)「堂々と新規の国債発行を」
15/11/23(第869号)「今度こそは盛上がるかシニョリッジ」
15/11/16(第868号)「小黒教授の文章(論文)への反論」
15/11/9(第867号)「小黒一正教授の文章(論文)」
15/11/2(第866号)「シニョリッジ政策は現在進行中」
15/10/26(第865号)「避けられる物事の根本や本質」
15/10/19(第864号)「安保法案騒動に対する感想」
15/10/12(第863号)「安保法制改正の必要性」
15/10/5(第862号)「フォルクスワーゲンの排ガス不正問題」
15/9/28(第861号)「今回の安保騒動」
15/9/21(第860号)「数年後、中国はIMFの管理下に?」
15/9/7(第859号)「中国の為替戦略の行き詰り」
15/8/31(第858号)「唐突な人民元の切下」
15/8/24(第857号)「改めてメガ・フロートを提案」
15/8/10(第856号)「鰯の頭も信心から」
15/8/3(第855号)「個別的自衛権だけなら国連からは脱退」
15/7/27(第854号)「時代に取残された人々」
15/7/20(第853号)「宮沢俊義という変節漢」
15/7/13(第852号)「「緊縮財政路線」はジリ貧路線」
15/7/6(第851号)「議論のすり替えとデマ」
15/6/29(第850号)「安倍政権に対する提言」
15/6/22(第849号)「憲法は不要」
15/6/15(第848号)「22才のベアテが作った日本国憲法条文」
15/6/8(第847号)「中国は外貨不足?」
15/6/1(第846号)「中国は資金繰り難?」
15/5/25(第845号)「今こそ郵貯と財投をアジアに広めろ」
15/5/18(第844号)「AIIBの資金力は「ゴミ」程度」
15/5/11(第843号)「中国との付合い方」
15/4/27(第842号)「中国はマイナス成長?」
15/4/20(第841号)「ドイツ軍の敗走開始の話」
15/4/13(第840号)「反・脱原発派の陥落は近い?」
15/4/6(第839号)「「エコ」の横暴と呪縛」
15/3/30(第838号)「原油の高値時代の後始末」
15/3/23(第837号)「ドバイショック再現の可能性」
15/3/16(第836号)「価格暴落でも供給増」
15/3/9(第835号)「原油価格は二番底に向かう?」
15/3/2(第834号)「実態がない地政学的リスク」
15/2/23(第833号)「米大手金融機関の「情報発信力」」
15/2/16(第832号)「「今が潮時」とうまく撤退」
15/2/9(第831号)「代替資源(非在来型資源)のインパクト」
15/2/2(第830号)「原油価格の動きに変調」
15/1/26(第829号)「低調になった経済論議」
15/1/19(第828号)「「どんぶり勘定」の経済運営」
15/1/12(第827号)「IMFの借金取りモデルの導入」


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