経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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16/1/25(876号)
今後の原油価格の動きは「売り投機筋」に聞いてくれ

  • 他の商品とは異なる原油価格の動き

    昨年の10月まで45〜46ドル(WTI)と比較的安定していた原油先物価格が、11月辺りから再び下落し始めた。大方の予想に反しとうとう30ドルを割込むところまで来た。特に12月からは、ほとんど反発することもなく下げ続けている。そこで今週は、原油価格の動向や原油安の影響について述べる。

    本誌は昨年15/2/2(第830号)「原油価格の動きに変調」からスタートし、9週間に渡り原油価格を取上げた。ここで行った分析や原油価格の動向は、ほぼ当っていたのではないかと筆者は思っている。ただ正直なところ、筆者は、今日のような原油価格の大幅下落といった事態がもう少し早く(半年くらい)始まるものと想っていた。


    まず原油価格の推移である。15/3/9(第835号)「原油価格は二番底に向かう?」で、筆者は今日のような原油価格暴落の可能性に触れた。ここでは元東燃社長であり元日銀審議委員であった中原伸之氏の「20ドルを割込む場面も有り得ると」という発言を紹介した。中原氏はその条件として一旦40ドルを割込む場面があることを挙げている。たしかに昨年12月に40ドルを割込むことによってこの条件が満たされ、筆者は原油価格の動向に注目してきた。

    ひょっとするとドバイ原油の20ドル割れは、一瞬なりとも実現する可能性が出てきた。たださすがに20ドル割れは、筆者も底という認識がある。しかし底を付けた後の原油価格の推移については、筆者もはっきりとしたことが言えない。しかし昨年の春から夏にかけての50ドル台への復帰は無理と考える。この根拠は、やはりそこまで価格が上昇すれば、シェールオイル開発ラッシュの再開が考えられるからである。


    11月辺りからの原油価格の下落の理由を、エコノミスト達は「需給のバランスが崩れたから」としている。特に中国経済の減速をヤリ玉に挙げられている。しかし昨年の中国の原油輸入量は対前年で9%増えているのである。こう言うと、彼等は将来の中国の需要が予想より減るからと苦しい言い訳をする。またイランへの制裁解除による原油供給増の話も一年前から分かっていたことである。

    筆者は、昔から原油価格が需給だけで決まったことはないと思っている。昔はほぼメジャーや0PECが決めていた。市場価格(WTIなど)に連動して原油価格が決まるようになってからは、大手金融機関(投資銀行など)が関与する投資(投機)マネーが市場での価格決定に大きな影響力を持つようになったと筆者は認識している。これに伴ってメジャーや0PECの価格支配力はかなり小さくなった(ロシアなどの非0PEC国の産出量が増えたことも影響)。つまりこのように原油価格はこれまで様々な主体によって操作されて来たと言って良い(今日操作している主体については後ほど述べる)。


    しかし全く現実の需給が全く反映されないということではない。例えばに100ドル時代の終焉のきっかけの一つとなったシェールオイル開発は供給サイドの話である。これはメジャーや0PECのコントロールが効かない群小の開発業者が行っている。しかし実際の需給の影響は、エコノミスト達が考えているより小さいということである。

    だいたい15/3/2(第834号)「実態がない地政学的リスク」で述べたように、毎年、世界の需要が約1%増え供給も約1%増えるといった極めて地味な需給関係で推移してきた。年間1%、つまりたった100万b/dの変動である。したがって原油価格が以前の3分の1以下に大暴落した今日、実際の需要が爆発的に増えても不思議ではないが、現実にはそんなことは起っていない。

    15/3/9(第835号)「原油価格は二番底に向かう?」で述べたように、2000年代に入り商品市場に投機資金が流入し、これが原油だけでなく全ての商品価格を押上げた(原油価格は極端に上昇)。しかしリーマンショック後の商品価格は、金と原油だけは他の商品と異なった動きをしている。全ての商品はリーマンショツク前に上昇し、リーマンショックで大暴落したが(金だけはリーマンショック時、逆に上昇)、その後、リーマンショック前の水準まで急回復した。しかしそこが天井で原油を除く全ての商品価格は直に下落を開始した。ところが原油だけは14年の暴落開始まで、4年間もリーマンショック前と同じ100ドルという高値を維持してきたのである。


  • 売り投機筋の完全勝利

    15/2/16(第832号)「「今が潮時」とうまく撤退」で述べたように、筆者は原油価格の形成に米大手金融機関が深く関わってきたと認識している。ところが金融規制改革法(ドット・フランク法)」や13年12月に成立したボルカー・ルールによって、米大手金融機関は商品市場から事実上撤退せざるを得なくなった。またコントロール不能なシェールオイルの増産で、原油価格の高値維持が難しくなった。

    最終的に原油貯蔵施設や大量の原油在庫を持つ米大手金融機関が市場から撤退した(結果的に極めて良いタイミングで撤退した)。つまり異常な高値を支えてきた主体が消えたのだから、原油価格が暴落したと筆者は理解している。原油価格を高値で維持することは米大手金融機関にとって意味があった。まず自分達が石油在庫を持っているのだから当然高値が好ましい。また高値によって市場の規模が大きくなり、資金の流入を促せるのである(他の商品の市場規模は小さい)。しかし皮肉にも高値維持がシェールオイル開発を助長したと言える。


    やはり注目されるのが今後の原油価格の推移である。まず米大手金融機関の撤退後、市場の主役になると目されたのがグレンコアなどの資源商社である(資源商社の中には米大手金融機関の原油貯蔵施設を買いとったところもある)。ところが最大手のグレンコアなどは、反対に経営危機に陥っているという噂で株価は低迷している。

    15/3/23(第837号)「ドバイショック再現の可能性」で述べたように、もし資源商社が先物の裁定取引に徹していれば損失は出ない。当時、資源商社は現物の原油を買って期日の遠い物を売るといった裁定取引を行っている(コンタンゴ(順ざや)プレーと呼ばれる)。これは先物が極端に高くなって市場価格に歪みが生じていたからである。しかし投機筋だけでなくこれらの資源商社も余計に現物を買っていた可能性が強い。


    また当時から先物が高くなっていたことに筆者は注目する(金利も僅かに影響するが)。これも市場参加者の多くが、そのうち原油が値を戻すと思ったいたのであろう。おそらく100ドルというバカ高値の時代が長く続いた名残と筆者は見ている。重要なのは投機筋の中には大量に原油の現物を買っていた者がいたことである。現物を買った者はタンカーを使って洋上備蓄していた。その影響がありタンカーの基準運賃(ワールドスケール(WS))が上昇したほどである。ところが昨年11月頃からワールドスケール(WS)は下落に転じている。

    原油価格は昨年の春から夏にかけての50ドル台から上昇しなくなった。価格上昇に賭け、原油の現物・先物を買っていた投機筋は苦しい立場に置かれた。おそらく決済を先延ばししてこれに耐えてきたと思われる。しかしこれにトドメを刺したのがFRBの利上げ決定と筆者は思っている。実際の利上げ決定は12月であったが、11月には利上げが確実視されていた。こう見てくると昨年の11月は一つの重要なターニングポイントであったと言える(本誌はシニョリッジ政策の話を始めた)。


    今日の原油価格の動向は、投機筋の動きを見ると理解しやすいと筆者は考える。つまり買い投機筋と売り投機筋の壮絶な闘いが行われているのである。しかし原油価格の推移を見ても分るように、明らかに売り投機筋の完全勝利である。またワールドスケール(WS)の推移を見ても、11月辺りから買い方の投売りが始まっていたとも見られるのである(筆者はこれがもっと早く起ると思っていた。それにしてもこのような重要な話はなかなか報道されない)。

    筆者は、売り投機筋は強力な資金的なバックがあると見ている(はっきり言えば米大手金融機関なども関与)。彼等は原油市場で原油先物を売るだけでなく、同時に株式も売っていると考えられる。昨年から原油価格が下がると必ずNYダウが下がった。これを市場関係者は、これを米国の石油会社の経営に悪影響があるからと説得力のない解説をしていた。しかしこれで皆がなんとなく納得していた(このセリフを吐いていた市場関係者も売り投機筋とグルだった可能性がある)。


    ところが実際には、石油会社だけでなく他の企業の株式も売られていたのである。今日の原油価格や株価の動きを見ていると(これにドル・円の為替相場を加えて良い)、売り投機筋の描いたシナリオ通りに事が進んでいると筆者は思っている。したがって今後の原油価格の動き(株価や為替も含め)は「売り投機筋」に聞いてくれということになる。少なくとも間抜けな新古典派経済学の信奉者であるエコノミストや経済学者に、何を聞いても意味がないということである。

    最後に筆者が現時点で関心のあるポイントを三つ挙げておく。一つは3月の実施が確実視されている「FRBによる利上げ」である。日本や欧州の中央銀行が金融緩和に動いているのに、本当に米国だけが利上げを実施できるかということである。二つ目は資源商社などの経営破綻が起るかということである。最後は、エキセントリックな行動で知られるサウジの副皇太子のこれからの動きである。しかしもちろん最も重要なことは、売り投機筋(おそらく米大手金融機関が関与)が何を考えているかである。



来週は今週の続きである。テーマは「三番底はあるか?」ということにしよう。

ECB(欧州中央銀行)の追加緩和報道をきっかけに、世界中の株価が急反発している。またほぼ同時にリビアの石油貯蔵設備がイスラム国によって破壊されたことをきっかけに原油先物価格(WTI)も急反発した。しかしどちらも大した出来事ではないのに、市場は極端に反応している。また為替も急速に円安に戻している。ここからの市場の動向を読むことが重要である。まさに原油先物価格(WTI)の三番底があるかということである。




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