経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




14/3/10(788号)
中国経済にまつわる奇妙な話

  • バブル崩壊の開始?

    ここ2週間ほど、中国経済の変調というテーマで述べてきた。今後の中国経済は、「変調」といった程度から「減速」、あるいはもっと酷い場合には「崩壊」という段階まで想定される。筆者の関心は、それらが起った場合の、世界経済や日本経済への影響である。

    たしかに中国経済の世界経済に占める比率は、近年大きくなった。したがって本来は、仮に中国経済に変化があった場合、各国は少なからず悪影響を受けることが考えられる。ところが多くの人々は、中国経済に不安を感じていても、いま直に何らかの対策を講じようとはしない。中国経済が仮に崩壊しても、自分達に及ぶ影響は小さいと思っているのかもしれない。実際、これまでもずっと「中国経済はそのうち崩壊する」と囁かれていたにしては、最近まで世界で一番の経済成長を続けるなど見かけは順調であった。


    ただ人々は何となく中国経済に不安を感じているといった段階であろう。この不安の源は「中国経済は何か変なことになっているのでは」といった漠然とした感触である。特に中国の統計に対する信頼性の低さが不安だけを煽る。

    「群盲象をなでる」の例え通り、自分達の見聞きする範囲で物事を判断する他はないのが今の中国である。目の前で高級車がどんどん売れているを見ている人は、まさか中国の経済が崩壊するなんて考えにくい。ましてや全人代で今年も7.5%の経済成長率を目指すと言われれば、多少不安があってもそれを疑うことができない。なにしろこれまで政府の目標に近い経済成長が達成されてきたという実績は重い。したがっていまだに中国は一番有望な新興国市場と見なしている海外ファンドがあっても不思議はないのである。


    筆者は、中国経済の崩壊は、不動産バブルの崩壊から始まると見ている。しかし不動産バブルの崩壊による経済不調は、直前になっても徴候が見えにくいところに特徴がある。90年代の日本の土地バブル崩壊の場合は、バブル崩壊の時点でこれから景気が急速に悪化するなんて気付いていた者はほとんどいなかった。むしろそれまでの異常な地価の高騰が一服することは良いことと感じていたくらいであった。

    日本の場合、地価が下がり始めても、都会はまだ好景気を維持していた。さらに首都圏の地価が下落を開始しても、資金が関西に移動したため、関西の地価高騰のピークはさらに一年くらい遅くなった。筆者は中国でも似たことが起ると見ている。

    ただ同じ不動産バブルであっても、日本と中国では異なる点がある。日本では、東京を中心とした首都圏からバブルが発生し、それが関西、さらに地方の中核都市まで順番に広がった。そして地方の中核都市にバブルが達した頃からバブル崩壊が始まった。崩壊の順番も同じで首都圏から始まった。ところが中国では、ほぼ全土で同時に不動産ブームが起った。バブル崩壊も、北京や上海といった中国の中心都市ではなく、杭州などむしろ地方の中核都市から始まったようである。これは中国においては、地方政府が主体となってその地方の経済が運営されていることが関係していると筆者は見ている。


    一旦バブルに陥った場合、価格に安定価格というものはない。これは不動産に限らず、株式や商品などにも言えることである。価格がさらに高騰を続けるか、あるいは逆に暴落するかしかない。これは高利を狙った投機マネーが流入するからである。つまり価格の上昇が止まれば、次は下落であり、もし価格が上がり過ぎていたなら暴落である。

    筆者は、いくつかの地方の中核都市で不動産価格の下落が始まったことに注目している。もし筆者は、この自分の推理が正しいとして、この動きはいずれ中国全土に広がると思っている。ただ中国経済がバブルという話を否定する人々がいる。しかし筆者はまさに中国はまさにバブルと考える。だいたい高級車から売れているとか、2,500万円もするマンションがどんどん売れているといった今の中国の現象を、「おかしい」と思わない方がおかしいと筆者は考える。

    これに対して、中国には多くの富裕な人々がいるという反論が聞こえそうである。そしてここが今後の中国政府の政策を占う上でのポイントとなる。つまり中国政府がこの富裕層を守るためにバブル経済を延命させるのか、それともバブルが崩壊してもかまわないと富裕層を切捨てるかである。理財商品の行方もこれに掛かっていると思っている。中国政府内にはバブル経済の延命を模索する動きもあるようだが、どうも富裕層は切捨ててもかまわないという判断が下されていると筆者は見ている。


  • 銅コロガシの話

    何度も繰返すが中国は分かりにくい国である。このような国の行く末を予想するには、色々な徴候を見つけ、これらからあらゆる可能性を推理するしかない。前段で取上げた中国の不動産価格の動きもその一つである。


    中国に関して他にもいくつかの不思議な徴候が見られる。一つが「銅」の国際価格の推移である。中国は世界の銅消費の4割を占める銅の輸入大国であり、この中国の動きが国際価格に大きな影響を与えている。中国の銅の輸入量は減り続けていたが、昨年の5月から、今度は逆に毎月増え続けている。65万トンあったLME(ロンドン金属取引所)の在庫は、直近では30万トンまで激減している。

    ところが奇妙なことにLMEの銅の先物価格は、昨年の5月以降もほとんど変わっていない。これはファンドなどの大口投資家が売っているからである。市場には中国の輸入増大を実需ではないという見方があり、これが銅価格安定の要因の一つになっている。


    銅が異常に中国に買われるという不思議なことが起っているのである。たしかに中国の銅加工品の生産が13年後半に伸びたことは事実であるが、それ以上に輸入の伸びが大きい。

    中国の企業の中は、LC(ドル建て支払い確約書)で銅の現物を輸入しそれを直に転売して人民元に替え、その資金を運用しているところがあるという話である。LCには数カ月の支払い猶予期間が設けられているため、企業は得られた人民元でその間高利の運用が可能である。LCにも金利(ユーザンス金利)が付くが、人民元での運用の方がより高い金利が得られるため、このような取引モデルが成立っている。


    筆者が注目するのは、輸入された大量の銅の行方と人民元での運用先である。まず本当に銅が銅製品の生産に全て使われているのかということである。もし使われなていないとしたなら、どこかに在庫されているか海外に転売されていることになる。

    銅の輸入企業が転売して得られた人民元の運用先の方は、例えば高利の理財商品などが考えられる。たしかにこの理財商品などの償還に問題がなければ、この取引モデルは有効である。しかし一旦、これらの償還が滞ればLCの決済はできないことになり、国際金融にも波紋が及ぶ事態になる。

    今年の1月に中国の銅の輸入量が急増している(53.6万トンと過去最高)。おそらくこれは実需ではないと筆者は考える。ひょっとすると資金繰りのため、銅輸入が急増したとも推理されるのである。つまり例のごとく、銅の輸入とその転売によって当座の資金を得て、それを期限が迫っているLCの決済に使っている可能性も考えられる。


    資金繰りのための仕入れ増という行為は、日本でも過去に見られたことである。資金繰りに窮した業者達が架空の取引を装い、互いに手形を切ることがある。これは融通手形と呼ばれ、夫々が受取った手形を取引銀行に持ち込み割引を受け当座の資金繰りに充てる。架空の取引には「石油」や「魚」が使われ、石油コロガシとか魚コロガシと呼ばれた。

    これと似たことが中国の銅輸入で行われているのではないかと(もしやっていたなら銅コロガシということになる)、筆者は疑っている。しかしこちらは国際取引であり、LC開設企業といった信用のあるところなので、もしここで問題が発生するとしたなら一大事である。

    とにかく中国の銅輸入が増加傾向にあるにもかかわらず、ファンドが売りに回っているのだから何かあると考えた方が良い。仮に筆者の推理が少しでも正解で、仮に中国の銅輸入企業に問題があるとしたなら、他のLC開設企業にも問題は及ぶ可能性がある。場合によっては、中国企業の輸入は全て現金取引といった話が冗談ではなくなるのである。ただ中国政府がどこまで事の重大性を認識しているのか不明である(もっとも問題がないのなら認識する必要はないが)。それにしても1月の銅輸入の急増は解せない。2月以降も中国の銅の輸入については要注意である。

    ちなみに銅だけでなく、中国の鉄鉱石などの他の一次産品の輸入も増えている。そのため海運市況も高く推移している。一方では、中国の製品輸出の不振や鋼材の在庫が増えているという話がある。この中国経済にまつわるこれらの奇妙な話の顛末と結論は、そのうちに明るみになるであろう。



来週も中国の不明朗な資金の流れを取り上げる。



14/3/3(第787号)「中国経済に変調(その2)」
14/2/24(第786号)「中国経済に変調」
14/2/17(第785号)「経済戦略会議から15年」
14/2/10(第784号)「理論と現実の狭間・・金利編」
14/2/3(第783号)「経済理論と現実の狭間」
14/1/27(第782号)「なつかしい経済理論の復活」
14/1/20(第781号)「窮地に立つリフレ派」
14/1/13(第780号)「新春のトピックス」
13/12/23(第779号)「周辺国の異常行動」
13/12/16(第778号)「ピカピカのバランスシート」
13/12/9(第777号)「中谷巌氏の変心」
13/12/2(第776号)「何処に行った経済成長戦略」
13/11/25(第775号)「アベノミクスの行方」
13/11/18(第774号)「ここ一ヶ月の出来事」
13/10/14(第773号)「虚言・妄言の判断基準」
13/10/7(第772号)「消費税増税、次の焦点」
13/9/30(第771号)「消費税にまつわる諸問題」
13/9/23(第770号)「「声なき声」が届くか」
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13/9/2(第767号)「消費税増税は雲行きが怪しくなった?」
13/8/26(第766号)「財政が危機という怪しい話」
13/8/10(第765号)「消費税増税は絶対に避ける道」
13/8/5(第764号)「消費税増税を促す包囲網」
13/7/26(第763号)「参議院選の結果を考える」
13/7/15(第762号)「アベノミクスの評価他2件」
13/7/8(第761号)「デフレに興味のない大新聞」
13/7/1(第760号)「日経新聞の論説の特徴」
13/6/24(第759号)「アベノミクスを牽制する人々」
13/6/17(第758号)「長期金利上昇で騒いでいる人々」
13/6/10(第757号)「雲行きが怪しいデフレ脱却」
13/6/3(第756号)「財政再建論者のサークル」
13/5/27(第755号)「財政の2010年問題」
13/4/29(第754号)「国民一律の年金」
13/4/22(第753号)「日銀のリスク資産購入」
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