経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




14/2/10(784号)
理論と現実の狭間・・金利編

  • 金利の実体経済への影響

    先週は「理論と現実の狭間」ということで、マクロの需給(商品市場)、金融、為替を取上げた。今週は金利を取上げるが、本来、金利は金融の一部という考えもある。筆者が、特に金利を別にして取上げるのは次の展開を見据えたからである。


    正直に申して、金利と現実の経済の関係は捉えどころが難しい。特に日本では歴史的な低金利が続いているのに、設備投資が盛り上がらない。もっとも低金利に加え、政府は設備投資を刺激するため税の優遇措置などを採っているがこれも効果が薄い。また消費者もこれだけ低金利なのに、貯蓄を取崩してまでも消費を行おうとはしない。

    役立たずの経済学者は「設備投資が増えないのは規制が厳しいからとか日本の法人税が高いから」といい加減なことを言っている。また消費が増えないのは、消費者が将来に不安を持っているからといった説はましな方である。中には供給側が消費者の嗜好を正しく把握していないといったトンデモない説を唱える者までいる。

    日本の供給サイドは、コンビニに見られるように消費者の動向を日々研究する努力を怠らない。例えば同じスーパーでも米国ではわずか数種類のトマトケチャップしか並んでいないのに対し、日本では数十種類ものトマトケチャップを売っている。つまり日本の供給サイドには特に問題がないと考えるのが普通である。それも当たり前の話で、日本にはとてつもなく大きい過剰設備(政府系エコノミストや日経新聞はこれを過小評価)があるため供給サイドに問題が生じる余地は小さい。


    このように今日の日本においては、金利が経済に及す影響はないとは言わないが極めて小さいと筆者は見る。これに対して、金利が下がれば住宅購入が増えるという反論がある。これは金利が住宅販売会社のセールストークに使われているからであろう(「そのうち金利が上がるから今のうちがお得」といったトーク・・たまにしか使えない)。この種のトークは、消費税増税にも使われている(「増税前に買った方がお得」はセールスの常套句)。

    伝統的な経済学では、設備投資と金利の関係は、投資による予想収益率と金利水準の比較ということになる。金利というコストを払ってもそれ以上に収益率が大きければ、その投資は実行されると理論上はなっている。しかし投資には常にリスクが伴っている。


    投資にリスクが伴う以上、投資主体はペイアウト期間を設定し、投資案件を絞る。たしかに金利というコストが下がれば、より長いペイアウト期間の投資も実行される可能性がある。しかし日本は長く低金利が続いていても、設備投資が逆に減少してきた。これは需要不足による予想収益率の低下と将来の不確実性によるリスクが大きいからと筆者は考える。

    例えば為替の変動が大きなリスクになっていることを考えれば良い。実際、日本円は75円ぐらいから105円程度まで極めて短い間に下落した。わずか一年間で数十パーセントも変化したのである。逆に為替は、今後数十パーセントも上がる可能性がある。このようにリスクが大きい時代に、金利が多少下がったところで投資主体が投資の基準となるペイアウト期間を長くする(例えば5年のペイアウト期間を7年に伸ばす)とは考えられない。


    また日本の長期貸出し金利は1%程度であり、これが下がるといってもせいぜい0.2%程度の話であろう。これが7%の国で2%下がるというのなら投資にも多少影響は考えられるが、今日の日本では投資と金利水準の関係はほとんどないと言って良い。また実生活においても、金利水準が影響する場面はほとんどないと筆者は考える。

    消費者金融を利用する者は、貸し出し金利が高いから借りるのを止めようとは思わないであろう。一般の人々も、預金金利が上がるから預金を増やそうとか、逆に金利が下がったから預金するのは止めようとは考えない(金利によって金融商品を選ぶことはあるかもしれないが)。結局、金利の動きに大きな影響を受けるのは債券のディーラーぐらいのものであろう。


  • 実質という概念

    歴史的にも、ここ数十年間、日本経済に及す金融政策や金利の影響は限定的であった。昔は公定歩合操作というものがあり、公定歩合を上げ下げして経済を調節しようとした。しかし公定歩合によって経済を直接動かしていたのではなく、政府はこれに続いて積極財政や、反対に緊縮財政を実施し経済をコントロールしようとした。つまり公定歩合の操作は、後に続く財政政策の前触れであり、アナウンスメント効果を狙ったものであった。

    90年当時のバブル潰しにも金利はほとんど無力であった。日銀は地価の高騰を抑えようと高金利政策を採った。しかしどれだけ金利が上がっても効果はなかった。それは当たり前の話であり、地価が年に何倍にもなるのに金利が5%から8%や10%に上がっても影響するはずがない。


    バブル潰しにある程度効果があったのは、貸出の総量規制や土地融資の直接規制であった。地価の高騰が一旦止むと、反対に地価は下落を始めた。そして逆に地価の暴落や経済の冷込みを防ぐため金融緩和が採られた(この金融緩和が遅過ぎたという意見があるが、筆者はもう少し早くても結果にほとんど違いはなかったと見ている)。

    バブル崩壊後、このように金利を下げる金融政策が採られたが効果は薄かった。どれだけ金利が低下しても、当初、人々は不動産購入に躊躇していた。しかしさらに住宅価格が下がり、低金利になり、政府も税の優遇を行うなど住宅購入を煽った(財政支出をケチりたいため、政府は民間の住宅購入を促した)。ところが住宅価格はその後もさらに下がり、この時(バブル崩壊後)住宅を購入した人々(主に団塊の世代)は、その後大きなローンの返済に苦しむことになった。

    このように筆者みたいに、現実の経済と金融の関係をずっと見てきた者にとって、日本において実体経済に及す金利や金融の影響は小さかったと判断せざるを得ない。またその傾向は近年ますます強まっている。さらに日本より金利に感応的と思われた欧米経済も、金融政策や金利に対して反応が鈍くなっている。もし米国経済が以前のようにある程度金利に感応的であったなら、今日までのFRBの量的緩和政策は不要だったはずである。


    しかしこのような実体経済の動きを無視して、金融政策や金利に異常な関心を持っている人々がいる。彼等は金融政策だけで現実の経済を動かせると思い込んでいる。これらの人々には共通の特徴がある。一つは現実の経済を見ないことである(中には現実の経済を見ないことを自慢している者もいる)。

    もう一つは、金利を経済のパラメータとして異常に重視し過ぎることである。彼等の多くは「経済に不均衡を生じてもパラメータ(商品市場の価格、労働市場の賃金、そして金融(貨幣)市場の金利)が自由に動いて調整される。したがって政府は経済に介入すべきではない。むしろ「政府の経済への関与を少なくする、つまり規制緩和が必要」と思い込んでいる。しかしパラメータが簡単には動かないことや(例えばマネーサプライ操作は事実上機能しない)、さらにたとえ金利と言ったパラメータが動いても実体経済への影響は限定的という現実を認めることを拒否している。


    このように金利や金融緩和に異常な関心を持っている者は、根底で古典派経済学の「神の見えざる手」にすがっていると筆者は見ている。要するに政府による需要創出政策を否定したいがため、彼等は金融政策の有効性を異常に唱えているに過ぎないとも考えられる。筆者は、日本のリフレ派がこれに近いと認識している。

    たしかに同じ自由経済信奉者(筆者も自分である程度の価格の調整機能を認める自由経済信奉者と思っているが)であっても、米国の茶会派のように金融政策までも否定しないのがリフレ派の特徴と筆者は考える。筆者は、今日の異次元の金融緩和やインフレ(筆者の表現では物価上昇)を容認するリフレ派の認識には一部賛同するが、これだけで経済が全てうまく行くとは思わない。


    リフレ派は金融緩和の成果や効果を喧伝するために主に二つ事を言っている。一つは円の下落であり、これにはソロスチャートを持出す。しかし筆者に言わせれば、投機筋が以前の円買いから円売りにスタンスを変えただけであり、それにソロスチャートが使われたに過ぎない。それが証拠に次に日銀のさらなる金融緩和が予想されるが、仮に金融緩和が実施されても円安はそれほど進まないと筆者は考える(むしろ実際に金融緩和が実施されれば材料出尽しと円高に向かうリスクさえある)。筆者は為替の変動要因には他にも色々とあると思っている。

    もう一つのリフレ派が持出す旗は「実質」という概念である。今のところ金利が実体経済に影響を与えていないが、これは物価が下落しているからと言っている。つまり物価が下落していることが原因で、実質金利が高止まりしているためと彼等は主張している(名目金利はゼロを下回らない)。したがって金利を機能させるためには、物価を上昇させる必要があるという考えである。たしかに金融政策だけで日本の物価が簡単に上がるかどうかを別にして、この倒錯した考えに対する反論は難しい(もちろん認めないが)。



来週は今週の続きである。それにしてもリフレ派の人々の言っていることは無駄に複雑で難しい。簡単に財政政策を行っている過程で、もし金利が上昇すれば金融緩和政策を行えと言えば良いのにと筆者は思っている。



14/2/3(第783号)「経済理論と現実の狭間」
14/1/27(第782号)「なつかしい経済理論の復活」
14/1/20(第781号)「窮地に立つリフレ派」
14/1/13(第780号)「新春のトピックス」
13/12/23(第779号)「周辺国の異常行動」
13/12/16(第778号)「ピカピカのバランスシート」
13/12/9(第777号)「中谷巌氏の変心」
13/12/2(第776号)「何処に行った経済成長戦略」
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13/11/18(第774号)「ここ一ヶ月の出来事」
13/10/14(第773号)「虚言・妄言の判断基準」
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13/9/2(第767号)「消費税増税は雲行きが怪しくなった?」
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