経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




14/2/3(783号)
経済理論と現実の狭間

  • とんでもない前提条件の経済理論

    今週と来週は、経済理論と現実経済との狭間について述べる。特定の経済理論やそれに基づいた政策が、いつもどの国にも等しく有効で効果があるとは言えない。そもそも経済理論と言っても、仮説に過ぎないものまで正しい経済理論と思い込まれているケースが目立つ。特に現実離れをした前提条件を基に組み立てられた経済理論(筆者はこのような浮き世離れした理論をクズ理論と呼んでいる)を真に受け、現実の経済を語ることは間違いの元である。

    ところがこのようなクズのような経済理論であっても「厳密に組み立てられている」とか「ノーベル経済学賞の立派な受賞者の経済理論」と世の中では幅をきかしている(シカゴ学派の学説などが典型)。しかしこれが経済論議と経済政策の混乱の元となっている。例えばルーカスの経済理論は生産要素(労働・生産設備)は常にフル稼動状態というとんでもない前提で組立てられている。少なくとも現代の日本には全く適合しない前提条件を基にした経済理論である。


    ところが現実の経済に興味のない倒錯した学者やエコノミストは、現実の経済の認識の方を好きなように変えている。例えば現実に失業者がいてもそれは全てミスマッチと見なし、また設備の遊休があってもそれらは全て陳腐化したものと割切っている。日経新聞にはこのような記事がよく掲載されている。

    つまり需要不足による失業や設備の遊休の存在を認めない(またはインチキ生産関数を使ってデフレギャップ(GDPギャップ)を異常なほど過小に算出している)。したがって彼等、つまり構造改革派の唱える失業対策は、需要創出政策ではなくいつも教育訓練ばかりである。また彼等の使っているシミュレーションモデル(いわゆる新古典派モデル)においては、少しでも需要が増えればたちまち物価が上昇し、実質GDPは全く伸びないことになっている。

    筆者は、このような経済理論が少しでも有効だったのは生産力が乏しかった数百年も前のことと考える。少なくとも今日の日本を含む先進国には適応しない。たしかに今日であっても、この経済理論が多少なりとも有効な国々があるかもしれない。しかしそれは理論の前提条件(国内の生産力が乏しいという)に近い発展途上国や新興国に限られると筆者は思っている(アルゼンチンなどはこれに近いのではないかと筆者は日頃から見ている)。しかし日本の経済状態はこれらの国々と対極にあるのだから、このようなクズ経済理論が有効なはずがない。


    ところで米国の経済は先進国の中で事情が多少異なる。発展途上国や新興国からの多数の移民を抱えているため、新興国的な色彩が強いのである。このような人々は消費に飢餓感を持っていて、消費を通じ米国の経済成長率を高めている。したがって米国はいつも日本や欧州より経済成長率が高い。これを「米国は自由で規制緩和が進んでいるから」といった間抜けたことを構造改革は言っている。

    たしかにこのように移民(出生率も大きい)の存在は国の経済にも何がしかの影響がある。つまり米国は、日本なんかより多少なりともこのクズ経済理論が通用する面がある。

    ところで構造改革派は、経済成長を労働力の制約で見る。このため生産年齢人口の問題をよく持出し、この生産年齢人口が減る日本では経済成長のための労働力として大量の移民を受入れる必要があると説く。

    しかし13/4/8(第751号)「久しぶりの「朝まで生テレビ」」で述べたように、生産年齢人口は消費年齢人口にほぼ重なることを彼等は何故か無視する。若い世代ほど消費(住宅購入を含め)が旺盛である(30才〜40才台が消費のピーク)。つまり少子高齢化の問題は、生産力減退の問題ではなく、消費(住宅購入を含め)という需要が減ることが問題なのである。

    どの国にも人々がやりたがらない仕事がある。貧しい移民はそのような職に就き所得を得る。所得を得れば消費が起き、そのうちその国に定住するとなれば次に耐久消費財を買う。米国ではこのような人々がとうとう住宅を買い始めバブルが発生し、最終的にはサブプライムローンの破綻まで行った。

    クズ経済理論を信奉する日本の構造改革派の経済学者やエコノミストは、現実の日本経済の事を知らないか、意識的に無視する。また彼等は間違っても信奉する経済理論をクズだということを認めない。それどころか現実の経済の方を、クズ経済理論が機能するかもしれない形に持って行こうする。まさにこれこそ構造改革である。最近、策に窮した構造改革派が移民受入れを一斉に唱え始めたことに注目する。


  • 金融緩和政策一辺倒の限界

    筆者は、移民を受入れてまで日本が経済成長する必要は全くないと考える。ましてや日本の経済成長しない理由が需要不足なら他に解決方法はいくらでもある。ところが最近ではそれどころかこれに反する政策が採られている。消費税増税、公的年金の減額や支給開始年齢の引上げなどである。

    これによって若い世代は、将来の年金を心配し、個人年金に加入する人々が増えている。これは今の消費を抑え、不安な将来に備えようという動きである。これでは内需が萎むのも当然である。内需を縮小させ、一方で移民を受入れと言っているのだから驚く。


    リフレ派は、日本の金融の現状を見ずに金融緩和政策の一辺倒である。現実を見ない(見たくないのであろう)ところは構造改革派と似ている。もっとも構造改革派であると同時にリフレ派という者もいるのであろう。日本おいては金融緩和政策がどれだけ有効か筆者も疑問に思っている。もちろん金融緩和政策をやるなとは言わないが、これを単独に行っても効果は知れていると筆者は主張してきた。

    今の日本経済が資金に飢餓状態なら金融緩和が有効ということは筆者も分かる。しかし金融機関は、資金需要がないので日本国債を買っている。この国債を日銀が買い、金融機関はその売却代金でまた国債を買うという循環である。

    日本がずっと金余り状態であることは、08/12/1(第550号)「デフレ発生のメカニズム」他で何回も述べてきたところである。このような日本の現状で金融緩和政策が一番効果があると言っている人々はおかしいのである。ここまで彼等は、金融緩和で円安になったと成果を強調している。これにソロスチャートを持出す者もいる。しかしソロスチャートが実証された理論とは信じがたいし、これだけで為替の動きの全てを説明することは所詮無理である。


    為替の変動要因はもっと複雑である(特に最近は株価を動かすために為替を動かしている投機筋がいる)。筆者は、一応本誌で為替の中長期トレンドは経常収支で決まり、均衡値は購買力平価と述べてきた。日々の為替の動きは、これらだけでなく金利や国際状勢の動きに大きな影響を受けると考える。ただ長い目で見れば経常収支と購買力平価が最も重要と筆者は見ている。

    ここ数年、円は購買力平価から掛け離れて高かった。これは日本の経常収支が大きな黒字を続けていたことと、欧州などの金融危機などによって円が過剰に買われていた(いわゆる質への逃避)からである。また消費税増税による財政健全化の動きも、安全資産として円の地位を過剰に高めていた。しかしここ数年は発電燃料などの輸入が増え、経常収支の黒字額は縮小していた(貿易・サービス収支は赤字)。つまりいつ円安に向かっても不思議がない状況にあったと筆者は述べてきた。


    筆者は、一昨年までの円高は多分に投機筋の動きが大きかったと見ている。ところが円高を牽制する安倍政権発足によって、円を買い過ぎていた投機筋が反対売買を行ったため、円安に転換したと思っている。転換後の動きは、経済実体への効果は別としてメッセージとしての日銀の異次元の金融緩和が効いたことは筆者も認める。

    つまりソロスチャートが理論的に現実の為替の動きをどれだけ正しく説明しているか疑問である。しかしソロスチャートを信じている市場関係者がいる限り為替がソロスチャートに沿って変動する可能性はあった(一種の外挿という現象)。したがって為替市場が投機市場になっている以上、このような動きになることは不思議ではない。まさにケインズの美人投票(自分が美人と思う人ではなく、多数の人々が美人と思う人に投票)と同じメカニズムである。


    もう少し日銀の金融緩和宣言が為替市場に効くかもしれないが、これまでのようには行かないと見ている。筆者は、一応の均衡値の購買力平価は110円くらいと見ていて、もう少し円安になっても良いと考えてきた。しかし最近スノー米財務長官の円安への牽制発言が有り、105円を超える円安はなかなか難しくなったと筆者は見ている。

    また筆者は購買力平価の捉え方も多少修正する必要があると思っている。購買力平価は消費財の価格で算出している。しかし日本には不動産投資目的の資金も流入している。東京などの不動産物件の価格が、各国の主要都市に比べ割安になっている。つまり不動産取引きを加味した場合の購買力平価は多少円高になっても不思議はないということになる。



今週は「理論と現実の狭間」ということで、マクロの需給、金融、為替を取上げた。来週は金利について述べる。



14/1/27(第782号)「なつかしい経済理論の復活」
14/1/20(第781号)「窮地に立つリフレ派」
14/1/13(第780号)「新春のトピックス」
13/12/23(第779号)「周辺国の異常行動」
13/12/16(第778号)「ピカピカのバランスシート」
13/12/9(第777号)「中谷巌氏の変心」
13/12/2(第776号)「何処に行った経済成長戦略」
13/11/25(第775号)「アベノミクスの行方」
13/11/18(第774号)「ここ一ヶ月の出来事」
13/10/14(第773号)「虚言・妄言の判断基準」
13/10/7(第772号)「消費税増税、次の焦点」
13/9/30(第771号)「消費税にまつわる諸問題」
13/9/23(第770号)「「声なき声」が届くか」
13/9/16(第769号)「利払い額のGDP比率の推移」
13/9/9(第768号)「利払い額で見る財政の健全性」
13/9/2(第767号)「消費税増税は雲行きが怪しくなった?」
13/8/26(第766号)「財政が危機という怪しい話」
13/8/10(第765号)「消費税増税は絶対に避ける道」
13/8/5(第764号)「消費税増税を促す包囲網」
13/7/26(第763号)「参議院選の結果を考える」
13/7/15(第762号)「アベノミクスの評価他2件」
13/7/8(第761号)「デフレに興味のない大新聞」
13/7/1(第760号)「日経新聞の論説の特徴」
13/6/24(第759号)「アベノミクスを牽制する人々」
13/6/17(第758号)「長期金利上昇で騒いでいる人々」
13/6/10(第757号)「雲行きが怪しいデフレ脱却」
13/6/3(第756号)「財政再建論者のサークル」
13/5/27(第755号)「財政の2010年問題」
13/4/29(第754号)「国民一律の年金」
13/4/22(第753号)「日銀のリスク資産購入」
13/4/15(第752号)「異次元の金融政策」
13/4/8(第751号)「久しぶりの「朝まで生テレビ」」
13/4/1(第750号)「不穏な中国と日本の安全保障」
13/3/25(第749号)「TPPの基本は友好」
13/3/18(第748号)「日本の雪崩的輸出の歴史」
13/3/11(第747号)「TPP交渉と日本警戒論」
13/3/4(第746号)「TPPの実態」
13/2/25(第745号)「有り得る軍事的衝突」
13/2/18(第744号)「群盲象をなでる」
13/2/11(第743号)「まず印紙税の廃止」
13/2/4(第742号)「「構造改革」と「規制緩和」の本当の姿」
13/1/28(第741号)「意志を持った「やじろべい」」
13/1/21(第740号)「金融政策に対する提言」
13/1/14(第739号)「年頭にあたり」
12/12/31(第738号)「中央銀行の働きの変化」
12/12/24(第737号)「日銀とFRBの違い」
12/12/17(第736号)「師走の総選挙の感想」
12/12/10(第735号)「建設国債引受け発言の波紋」
12/12/3(第734号)「先進国だからデフレ」
12/11/26(第733号)「総選挙の行方」
12/11/19(第732号)「残る経済成長路線」
12/11/12(第731号)「先進国における経済成長」
12/11/5(第730号)「投資と経済成長」
12/10/29(第729号)「プラスアルファーの議論」
12/10/22(第728号)「アラン・ブラインダー教授の文章」
12/10/15(第727号)「バランスを欠いた報道」
12/10/8(第726号)「中国からの撤退も視野に」
12/10/1(第725号)「中国の反日暴動に対する感想」
12/9/24(第724号)「本誌の中国問題ダイジェスト」
12/9/17(第723号)「技術流出と日本の伝承文化」
12/9/10(第722号)「技術流出の現状」
12/9/3(第721号)「知的所有権の話」
12/8/27(第720号)「最近の出来事」
12/8/6(第719号)「御用学者の話」
12/7/30(第718号)「増税マニア達は現実離れ」
12/7/23(第717号)「吉川洋東大教授の文章」
12/7/16(第716号)「消費税増税が待ち遠しい?」
12/7/9(第715号)「消費税は「鬼門」」
12/7/2(第714号)「増税騒動の感想」
12/6/25(第713号)「今日の諸情勢の変化」
12/6/18(第712号)「世界中「展望がない」」
12/6/11(第711号)「schole(スコレー、暇)の話」
12/6/4(第710号)「ギリシャ化の話」
12/5/21(第709号)「単式簿記の世界」
12/5/14(第708号)「文春と朝日の関係」
12/4/30(第707号)「続・増税論議と文芸春秋」
12/4/23(第706号)「増税論議と文芸春秋」
12/4/16(第705号)「増税論議と政界」
12/4/9(第704号)「増税派の人々」
12/4/2(第703号)「松下政経塾政治家と増税」
12/3/26(第702号)「英国の永久債発行」
12/3/19(第701号)「過去の号の修正」
12/3/12(第700号)「本誌700号に寄せて」
12/3/5(第699号)「投資顧問AIJの事件」
12/2/27(第698号)「橋下維新政党へのコメント」
12/2/20(第697号)「地方自治体と通貨」
12/2/13(第696号)「デフレ経済下での増税」
12/1/30(第695号)「無税国家への道」
12/1/23(第694号)「世界的な金利低下」
12/1/16(第693号)「過剰貯蓄による災い」
12/1/9(第692号)「バーチャルな話」


11年のバックナンバー

10年のバックナンバー

09年のバックナンバー

08年のバックナンバー

07年のバックナンバー

06年のバックナンバー

05年のバックナンバー

04年のバックナンバー

03年のバックナンバー

02年のバックナンバー

01年のバックナンバー

00年のバックナンバー

99年のバックナンバー

98年のバックナンバー

97年のバックナンバー