経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




13/9/30(771号)
消費税にまつわる諸問題

  • 本当のことに気付き始めている国民
    「5兆円程度の補正予算と引換えに、安倍総理が消費税増税を決断した」と盛んに報道されている。おそらく実際の事の成り行きもこれに沿ったものになると思われる。つまり来年4月から消費税の税率が8%に上げられるということである。

    世の中は消費税増税を前提に動き出している。例えば「増税前にどのような消費行動を採れば得をするか」といった特集が各種マスコミで組まれている。さすがに増税に積極的に賛同する声は小さいが、ほとんどの人々は「増税はしょうがない」と諦観している。これも日本の隅々まで「日本の財政は危機的」という間違った認識が広まっているからであろう(日本全体が洗脳されている)。


    消費税増税に反対する人々の声に迫力がない。せいぜい「現政権はデフレ脱却を目指しているのだから、増税時期を少し延すべきだ」といった程度である。中小・零細の消費税納税業者のように実質的に税負担が重くなると思われる人々も、今のところ静かである。どうも「利益を上げられず、また消費税の転嫁ができない業者は、経営(者)に問題がある」といった声に抗することができないのであろう。

    今回の増税論議で一番欠けているのは「本当に日本の財政に問題があるのか?消費税を上げる他に方法はないのか?」といった根本問題への問掛けである。もし日本の財政に重大な問題があるのなら、日本の国債を誰も買わないはずである。ところが日本国債は買われ続け、とうとう利回りは0.6%台まで低下している。これで「日本の財政は最悪」とか「消費税増税は必須」なんてとても言えないはずである。


    しかし一般の国民も、これまで言われて来た事が「何かおかしい」と気付き始めている。例えば5兆円の補正予算に際立った批難が出ない。消費税増税は「社会保障への備え」「財政再建の一助」とずっと喧伝されて来たはずだ。ところがまだ税収が上がる前に、額的には増税による増収分の大半を使うということに対して「話が違うではないか」という声が巷から起らないのである。

    もっとも補正予算は、今年度の税収の上ブレ分(予算以上の増収)と復興予算の余っている分、さらに国債費の余りを充てる。国債費の予算は利回りを1.8%で組んでいるが、今日の金利水準を見れば分かるように相当余ることは確実である。


    「5兆円程度の補正予算」は安倍政権側の勝利のように言われている。消費税増税の決断を先送りすることによって、財務当局からこの額を引出したという話である。これらは財務当局の隠し財産のようなものである。たしかにこれを安倍政権が吐き出させる図式になる。

    しかしこれもおかしな話である。税収が増えることや復興予算が余っていることは当初から分かっていた。さらに国債費が余ることも毎年のことである。何も消費税増税と引換えにするような事ではない。もし増税と引換えという事なら必要なだけの新規国債を発行し、補正予算をもっと大幅に増額する必要がある。だいたい国債の新規発行額に枠をはめていること自体がおかしいのである。


    財務当局にゴマを摺っている取巻き(財政学者、御用学者、御用エコノミスト、御用マスコミなど)は「日本財政は危機的」といった大嘘をずっと広めてきた。世の中の人々はこれに洗脳され、政府(地方自治体を含む)の無駄遣いに敏感になっていた。特に無駄の象徴として公共事業が上げられ「本四架橋を三本も架けたのは間違い」とか言われてきた。

    政治家も「公共事業は無駄の固まり」「政府の借金は、サラ金から金を借りているようなもの」とデタラメを言って選挙で当選してきた。例えば青島幸雄氏は「都市博を止める」と言って都知事に当選した。ブキャナンは「民主主義国家では、政治家が当選するために選挙民に大盤振る舞いを約束するので財政が悪化する」と言ったが(日本のブキャナン研究の第一人者は故加藤寛氏であり、彼の影響を受けた慶大OBには緊縮財政論者が多い・・橋本元首相、小泉元首相など)、日本では全く逆のことが起っていたのである。つまりケチな事を言う候補者の方が選挙に勝つケースがよくあったのである(典型は事業仕分けのレンホウ議員など)。

    しかし今回の2020年のオリンピック招致を歓迎していて、日本国民の間に立派な施設を造ることに反対する声は聞かれない(理由はともあれ、ブラジルではオリンピック開催は無駄遣いという声が出て反対運動が起っているのとは好対照)。また東北の復興に金を出すことに反対はない。このように「日本の財政は危機的」と洗脳されているはずの日本人も、少しずつ洗脳が解け始めているのかもしれない。


  • 消費税は優れた税制?
    今回の消費税増税を懐疑的に見ている人は多い。しかしマスコミに登場する者はほとんど全てが増税賛成者か増税やむなし派である。本当に有力な反対論は見掛けない。しかし一般の国民も敏感になっていて、このような事によって(賛成派しかマスコミに登場しない)、かえって増税に不信感を持ったのではないかと筆者は感じている。

    消費税増税は国論を二分しても良さそうなテーマである。ところが一方の反対論者の声がほとんど届かない。当局の圧力なのかマスコミの自主規制なのか、反対派を完全に押え込んだ形のまま事が進んでいる。


    安倍総理が消費税増税について記者会見を行うのが10日1日と言われている。つまり10月1日がXデーということである。筆者は、この日以降のマスコミの動向に注目している。反対派が押え込まれている現状に対する反動みたいなものが出てくることが考えられるのである。

    その中で日本の財政の状態についての正しい話が出てくることが期待される。日本の国債の利回り(長期金利)がこれだけ低いのに「日本の財政が危機的」なんて絶対に有り得ないことである。ところが日本では「白いものを黒だ」とずっと言われ続けてきたのである。完全に日本中が洗脳されてきた。


    日本の消費税の税収に占める割合は約3割であり、この割合は欧州各国とほとんど変わらない。欧州各国は付加価値税(日本の消費税)の税率がずっと高いということになっているのに、税収の割合で見ると日本と変わらないのである。つまり直接税中心の日本、間接税中心の欧州という話も怪しいことになる。

    また欧州の税率は高いが本当に正しく徴収されているのか疑問である。一方、日本の納税業者は生真面目に帳簿を付けていて、ほぼ正しく徴収がなされていると考えられる。だいたい帳簿が信頼できる日本では直接税、そして帳簿が怪しく(欧州の人々は計算に弱い)、またアンダーグランドの経済が大きい欧州では間接税が中心にならざるを得なかったと考えた方が良い。付加価値税なら外形的(来店者の数など外から見て分かる数字)に徴収額が見積もることができる。つまり直接税は遅れた税制であり、消費税や間接税こそが進歩的とこれまで言われて来た常識(御用学者が広めた常識であろう)は真っ赤な嘘である。

    特に英国で生活をした人は、日本の消費税を高く感じるという話である。英国では食料品などの生活必需品の税率はゼロであり、他のものには高い税率が課されている。つまり英国の付加価値税は、日本の昔の物品税に近いものと思われる。数年前、英国は税率を上げたがさしたる反対は出ていない。しかし付加価値税が物品税に近いものなら当たり前の話である。


    税率が高いはずの欧州での付加価値税の税収は思ったほど大きくないという印象を受ける(徴収現場が日本よりずっと緩いことが考えられる)。これには大きな徴収漏れや色々な減免措置があることが考えられる。一方、滞納額が大きくなっているように、日本の消費税は過酷な税となっている。日本のようにきちっと徴収がなさていれば、欧州でも付加価値税はもっと過酷な税ということになるとも考えられるのである(米国の売上税についての話は今週は省略)。

    筆者は、欧州の付加価値税の徴収現場に興味を持っている。しかしこれについての情報がほとんどない。ただ観念論者や御用学者がひたすら「欧州の付加価値税の税率は日本の消費税税率よりずっと高い」とだけ言っているだけである。本来、各国の税の徴収状況について調査・研究するのが財政学者の一つの役目であるが、財務当局へのゴマ摺り集団になっている彼等には、このようなことを行う真面目さがない。


    現行でも消費税の問題が次々と現れている。前述のごとく多大な滞納額もその一つである。だいたい赤字会社から徴税するということが無茶である。これでは赤字を覚悟して開業する者さえいなくなる。また消費税は正社員を減らし派遣社員を増やす動きを促進する。これは派遣社員への費用が仕入れ控除の対象になるからである。今回、税率が上がれば、この動きが加速することは目に見えている。

    このような消費税に係わる諸問題を理解している人々はいるが、その声はマスコミを通してはほとんど聞こえてこない(日本のマスコミはまた談合でもしているのであろう)。声を上げているのが日本共産党と日刊ゲンダイだけというのではあまりにも寂しい限りである。

    安倍総理が記者会見を行うXデーは10月1日である。内容は従前に言われている通りなのか、今のところ分からない。もし税率の上げ幅が3%以下であるとか、一年半後に予定されているさらなる2%の引上げの見直しの話が有れば上出来という他はない。まことに残念なことである。



来週は、安倍総理の決断を受けた話になる。



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13/8/26(第766号)「財政が危機という怪しい話」
13/8/10(第765号)「消費税増税は絶対に避ける道」
13/8/5(第764号)「消費税増税を促す包囲網」
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