経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




13/9/23(770号)
「声なき声」が届くか

  • Xデーは10月1日か
    マスコミ報道や閣僚の発言から、消費税増税は当初の方針通り来年4月から実施されることが確実視される。政府は、消費税増税に伴い景気の落込みに対する色々な対策(主に財政措置)を検討していると連日報道されている。まるで増税が決定し、増税を主導する財務当局に対する、安倍政権の条件闘争になったような印象を受ける。これではどちらが日本の主権を担っているのか分からない状態である。

    ところが「何故、消費税率を上げなければならないのか」といった根本の問題は、ほとんど議論されない(一頃社会保障の財源にという話があったが、いつの間にか消えている)。財政学者や御用学者の言い分である「日本の財政状況は最悪」「このままでは金利が高騰し財政は破綻する」といった一方的な発言ばかりがまかり通っている。しかし本誌は先々週号と先週号で「これらは真っ赤な嘘」と説明した。


    今日、安倍総理は既に消費税増税を決断したという話が当たり前になっている。ところが筆者にはちょつと引っ掛かるところがある。半年前は、増税の判断は「9月上旬の4〜6月のGDPの改定値を見て」という話になっていた。ところがしばらく経つと「10月1日の日銀短観を見て」に変わった。そしてこの10月1日こそがXデー、つまり安倍総理の消費税増税の宣言デーということが半ば常識になっている。

    ところが菅官房長官は「10月の上旬に総理は決断されるだろう」と発言している。10月1日と10月上旬では微妙な違いがある。もし10月1日でないとすれば何かがあるとも受取られるのである。

    このように「総理の決断日」にまつわり微妙に異なる情報が入り乱れている。これもいくつかの発信元の思惑が交錯しているからであろう。しかし安倍政権の一番のテーマは、あくまでもデフレ克服である。本来ならこれを阻害する大型増税などの諸政策は避けるものである。


    消費税を増税を推進したい勢力は、嘘ばかりを並べている。上記の「日本の財政破綻説」もその一つである。また日本経済の現状認識も意図的に甘くしている。例えば4〜6月GDPの改定値は年率3.8%と出て、年率2.6%の速報値より随分良くなったとマスコミは喧伝し、これで消費税増税は決まったという風評を流している。

    しかし改定値のGDP デフレータは、マイナス0.3%からマイナス0.5%に悪化している。速報値段階では名目GDP成長率が実質GDP成長率を上回っていたが、これによって改定値では逆転している。また法人統計が出て、改定値の設備投資が上方修正されるのはいつものことである。今回も予定通り設備投資の上方修正が出たが、公共投資を除き他の数値は改定値では逆に悪化している。


    橋本政権時代、96年の日本のGDP成長率は先進国の中で一番高かった。これは95年の超円高による国内経済の急速な落込みに対して、政府が大きな経済対策を打ったからである(97年の消費税増税の話もあり駆け込み需要も加わった)。そして96年の成長率が高かったことが、橋本政権に97年の消費税増税を実施させた一つの理由になっている。

    しかし96年の日本の経済成長率が高かったといっても大したことがなく(名目GDP2.6%、実質GDP3.5%)、単に他の先進国の経済が不調だったからである。ちなみに94年、95年には公共投資を抑えたため、国内は需要不足となり輸出が激増し、95年の超円高と円高不況を招いた。したがって前述のように、消費税増税の前年である96年に経済対策として公共投資を増やしたのである。つまり今回もこれと全く同じパターンが踏襲されそうなのである。


    日経新聞を始めとしたマスコミの情報操作が激しい。例えば8月26日の日経新聞に「消費増税7割超が容認」というタイトルの記事が一面に掲載された。このタイトルには筆者なども驚いた。しかし中味を読むと「予定通り引上げる」17%、「引上げるべきではない」24%であり、55%は「引上げるべきだが、時期や引上げ幅は柔軟に」である。ところが最後の「引上げるべきだが、時期や引上げ幅は柔軟に」の55%までを日経は消費税容認派に含めているのである。しかし今日、人々の一番の関心事は、予定通り来年4月に8%まで上げるべきか否かである。最後の選択肢に丸をつけた人々は、予定通りの増税に賛成したとはとても言えない。しかし記事の内容をよく読まなければ、来年4月の8%への増税に7割以上の人々が賛成しているような印象を受ける。明らかに、日経新聞に読者を増税賛成派に持って行こうという意図があることが透けて見える。


  • オオカミ新聞
    前段のような日経新聞の奇妙な世論調査の分析だけでなく、日本の財政が破綻の危機に瀕しているという話は毎日大量に流されている。これらは人々の思考を操作するものであり、一種の洗脳行為である。しかし本当に日本の財政が最悪なら、日本の国債なんて誰も買わないはずである。ところが日本の国債は買われ続け、先週には長期金利がとうとう0.6%台まで低下している。

    また日本の長期金利の低下が指摘されると、財政学者や御用学者は必ず、将来、金利の急上昇が起ると言い張る。いつも誰も分からないこの「将来」を持ち出し、これで人々を誤魔化すのである。彼等が言う金利高騰の原因の一つはワンパターンである。小子高齢化で貯蓄が減り、国内に国債を買う資金がなくなるというものである。これによって国債が暴落し金利が高騰すると言う。


    しかし小子高齢化はここ数十年も続いてきた現象である。ところが先週号で示したように、日本の長期金利はここ数十年下がりっぱなしである。彼等は、このことへの言及を避けながら、財政が破綻した場合の国民生活の窮状ばかりを解説する。

    この他に、日本が財政再建に失敗したら、外国人が保有している日本国債を投売りすると彼等は言い続けている。だから消費税税率を上げないと大変なことになると脅す。しかし日本国債の外国人保有比率は依然8%程度と極めて小さい。万が一にも投売りがあれば、日銀がそっくり買えば良いのである。

    日本の財政の破綻説をリードしてきたのが日経新聞である。「破綻する」「破綻する」と何十年も日経新聞は言い続けてきた。しかし一向にその気配はない(むしろ金利の推移を見れば話は全く逆)。巷では日経新聞のことを「オオカミ新聞」と言うらしい。


    消費税は、赤字決算でも納付義務があり、納税業者にとって過酷な税である。しかしこれについての話はほとんど出ない。消費税の滞納額が極めて大きいこともあまり知られていない。13/8/5(第764号)「消費税増税を促す包囲網」で述べたように、特に2003年の免税事業者の課税対象売上高の引下げと簡易課税制度適用の上限の大幅な引下げによって、免税事業者と簡易課税制度適用業者が大幅に縮小されたことによって窮地に立った業者が激増した。日経新聞の9月20日朝刊に「法人減税 個人にも恩恵」というタイトルの論説(小竹洋之編集委員)が掲載されている。

    この論説自体は何回読んでも意味不明のものである。ただその中で法人税を納付している黒字法人は28%に過ぎないが、資本金1億円超でみれば黒字法人は54%になると指摘している。それならば資本金1億円未満の法人の大部分は赤字ということになる。ましてや法人化していない小手の零細企業はほとんど赤字であろう(中には誤魔化して赤字決算を装っている業者もある程度有り得るが、生真面目な経営者が多く大半は厳しい経営状況であろう)。この状態で消費税増税を行えば相当酷く悲劇的な事が起りそうである。筆者は、最近、消費税というものが思っていた以上の悪税と見ている。


    消費税増税分は売り値に転嫁すれば良いと簡単に言う人が多い。しかしこのデフレ経済下においては、100%の転嫁は無理である。法律を作って転嫁を保証すると言っても、経済の世界には競争がある。買う方は「消費税増税分は全額払うがその前に元値を下げてくれ」ということになる。日本は統制経済ではないので、全ての消費税の転嫁過程を監視するなんて絶対できないことである。

    一方、大手の輸出企業は納入業者達を競争させ、納入価格を引下げることが可能である。また輸出品に係わる仮払い消費税は還付される。消費税を納入業者に全額払ったものと見なして計算される。つまり業者の納入価格を抑えた(買い叩いた)輸出企業ほど利益が残るという形になる(納入業者の言いなりに消費税の転嫁を認めた気前の良い輸出業者はこれによる利益はない)。


    消費税については、世間には強い不満がある。しかしほとんど報道されないことや、代弁する政治勢力もないため、このことがクローズアップされてこなかった。これまでの消費税に反対する政治勢力は、「日本の財政に問題はない」なんて言わず、「財政赤字は無駄な歳出が原因」とか「捜せば埋蔵金がある」といった的外れなことを言うだけで全く頼りにならない。

    消費税増税分の大部分を財務当局はプライマリーバランスの達成に使おうとしている(この程度の増税では全く足りないが)。ところが長期金利は下がるばかりである。つまりプライマリーバランスの達成なんて何の意味もないと、市場は声を上げているのである。


    日本国民は、一見、財務当局が主導し日経新聞のようなオオカミ新聞が喧伝する「日本の財政状態は最悪」「増税はやむを得ない」という話に相当洗脳されているかのように見られる。良識ある者は増税に賛同するのが当然といった風潮が作られている。

    しかし消費税は消費者と納税業者が痛みを分かち合う税金であり、口には出さないが頭のどこかで「これはおかしい」と大半の人々は気付いていると思われる。だから増税を推し進めた民主党を選挙民は見限ったのである。つまり「声なき声」は増税を拒否していると筆者は見ている。しかし論議が増税推進派に完全に占領されているため、今日、「声なき声」は出る幕を失っている。ちなみに「声なき声」は安倍総理の祖父岸元総理が安保闘争の時に発した言葉である。



来週は、今週の続きで「声なき声」についてさらに話をしたい。



13/9/16(第769号)「利払い額のGDP比率の推移」
13/9/9(第768号)「利払い額で見る財政の健全性」
13/9/2(第767号)「消費税増税は雲行きが怪しくなった?」
13/8/26(第766号)「財政が危機という怪しい話」
13/8/10(第765号)「消費税増税は絶対に避ける道」
13/8/5(第764号)「消費税増税を促す包囲網」
13/7/26(第763号)「参議院選の結果を考える」
13/7/15(第762号)「アベノミクスの評価他2件」
13/7/8(第761号)「デフレに興味のない大新聞」
13/7/1(第760号)「日経新聞の論説の特徴」
13/6/24(第759号)「アベノミクスを牽制する人々」
13/6/17(第758号)「長期金利上昇で騒いでいる人々」
13/6/10(第757号)「雲行きが怪しいデフレ脱却」
13/6/3(第756号)「財政再建論者のサークル」
13/5/27(第755号)「財政の2010年問題」
13/4/29(第754号)「国民一律の年金」
13/4/22(第753号)「日銀のリスク資産購入」
13/4/15(第752号)「異次元の金融政策」
13/4/8(第751号)「久しぶりの「朝まで生テレビ」」
13/4/1(第750号)「不穏な中国と日本の安全保障」
13/3/25(第749号)「TPPの基本は友好」
13/3/18(第748号)「日本の雪崩的輸出の歴史」
13/3/11(第747号)「TPP交渉と日本警戒論」
13/3/4(第746号)「TPPの実態」
13/2/25(第745号)「有り得る軍事的衝突」
13/2/18(第744号)「群盲象をなでる」
13/2/11(第743号)「まず印紙税の廃止」
13/2/4(第742号)「「構造改革」と「規制緩和」の本当の姿」
13/1/28(第741号)「意志を持った「やじろべい」」
13/1/21(第740号)「金融政策に対する提言」
13/1/14(第739号)「年頭にあたり」
12/12/31(第738号)「中央銀行の働きの変化」
12/12/24(第737号)「日銀とFRBの違い」
12/12/17(第736号)「師走の総選挙の感想」
12/12/10(第735号)「建設国債引受け発言の波紋」
12/12/3(第734号)「先進国だからデフレ」
12/11/26(第733号)「総選挙の行方」
12/11/19(第732号)「残る経済成長路線」
12/11/12(第731号)「先進国における経済成長」
12/11/5(第730号)「投資と経済成長」
12/10/29(第729号)「プラスアルファーの議論」
12/10/22(第728号)「アラン・ブラインダー教授の文章」
12/10/15(第727号)「バランスを欠いた報道」
12/10/8(第726号)「中国からの撤退も視野に」
12/10/1(第725号)「中国の反日暴動に対する感想」
12/9/24(第724号)「本誌の中国問題ダイジェスト」
12/9/17(第723号)「技術流出と日本の伝承文化」
12/9/10(第722号)「技術流出の現状」
12/9/3(第721号)「知的所有権の話」
12/8/27(第720号)「最近の出来事」
12/8/6(第719号)「御用学者の話」
12/7/30(第718号)「増税マニア達は現実離れ」
12/7/23(第717号)「吉川洋東大教授の文章」
12/7/16(第716号)「消費税増税が待ち遠しい?」
12/7/9(第715号)「消費税は「鬼門」」
12/7/2(第714号)「増税騒動の感想」
12/6/25(第713号)「今日の諸情勢の変化」
12/6/18(第712号)「世界中「展望がない」」
12/6/11(第711号)「schole(スコレー、暇)の話」
12/6/4(第710号)「ギリシャ化の話」
12/5/21(第709号)「単式簿記の世界」
12/5/14(第708号)「文春と朝日の関係」
12/4/30(第707号)「続・増税論議と文芸春秋」
12/4/23(第706号)「増税論議と文芸春秋」
12/4/16(第705号)「増税論議と政界」
12/4/9(第704号)「増税派の人々」
12/4/2(第703号)「松下政経塾政治家と増税」
12/3/26(第702号)「英国の永久債発行」
12/3/19(第701号)「過去の号の修正」
12/3/12(第700号)「本誌700号に寄せて」
12/3/5(第699号)「投資顧問AIJの事件」
12/2/27(第698号)「橋下維新政党へのコメント」
12/2/20(第697号)「地方自治体と通貨」
12/2/13(第696号)「デフレ経済下での増税」
12/1/30(第695号)「無税国家への道」
12/1/23(第694号)「世界的な金利低下」
12/1/16(第693号)「過剰貯蓄による災い」
12/1/9(第692号)「バーチャルな話」


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