経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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13/8/5(764号)
消費税増税を促す包囲網

  • 怪しい池上彰氏
    参議院選挙が終わり、次の注目は消費税増税である。デフレ克服を最大のテーマに掲げる安倍政権にとって、先週号で述べたように消費税は鬼門である。ここで消費税税率を引上げたのでは、今までなにをやってきたのかさっぱり分からないことになる。ところがデフレ脱却を目指すアベノミクスに対して、消費税増税を促す包囲網が敷かれつつある。

    今年前半の最大のイベントは、4月4日の黒田日銀による異次元の金融緩和政策であった。日銀は日本の長期国債を徹底的に買上げる政策を決めた。ところがこれに危機感を持った一大勢力がめちゃくちゃな事を言い始めたのである。この勢力とは、教条的な財政再建派である。気付いている者は少ないが、後ほど説明するが日銀が国債を徹底的に買上げるとなれば、財政再建のための消費税増税や歳出削減は不要になる。これでは財政再建論者の言って来たことが「嘘」になってしまう。


    たしかに4月4日の異次元の金融緩和政策決定を受け、翌日5日の市場で長期金利が乱高下した。またその後もしばらく長期金利は落ち着かない動きが続いた。しかしその長期金利も7月下旬以降は、0.8%を若干下回る水準で安定してきた。

    ところが13/6/17(第758号)「長期金利上昇で騒いでいる人々」で述べたように、財政再建派は、当初の長期金利の乱高下とその後の1%までの上昇を捉え、大騒ぎを起こしていた。ついには13/6/24(第759号)「アベノミクスを牽制する人々」で取上げたように、「増税だけでは不十分で、歳出削減が必要」とアホな主張をする(御用)学者が現れる始末であった。

    これに対して日銀は、国債の買上げタイミングを工夫するなど対策を講じた。その結果、長期金利は落着いた動きとなった。一旦、金利の動きが落着くと、これまで大騒ぎをしていた人々は潮が引くように、静かになった。いつもの事であるが、彼等は実に卑怯な人々である。


    ところが7月28日(日)夜9時からの池上彰氏「学べるニュースSP」(テレビ朝日系)で「最近の金利の上昇とアベノミクスの関係」が再び取上げられていた。筆者も「今頃、何事か」と驚いた。池上氏の解説では、最近の長期金利が安倍政権の発足時の0.79%程度(テレビなので正確には記録できなかった・・インターネットで調べたが見つけられなかった)から上昇しているということであった。そして池上氏はこれをアベノミクスの結果と決めつけていた。

    しかもテレビの中では、上昇したという長期金利は0.8%をわずかに上回った程度であった。これで長期金利が上昇したと池上氏が解説したのだから筆者は驚いたのである。それどころか筆者は、毎日、長期金利の動向をチェックしており、最近、長期金利が0.8%を超えていないと思っていたので、念のためちょっと調べてみた。やはり7月19日の0.8%台を最後に、その後2週間は概ね0.7%台で推移していたのである(ただし24日の終わり値だけがちょうど0.800%、8月2日の終わり値が株価急上昇に伴って0.815%)。

    つまり池上氏の言っている長期金利の数値は真っ赤な「嘘」である。ここ2週間は、長期金利は安倍政権の発足時と同じか、それより低い水準(何日間かは0.770%程度で推移)で推移してきた。むしろ今後、経済が良くなるといった観測によって、長期金利が多少上昇することは健全なことである。


    この番組の構想が練られたのが2週間以上前ということが考えられるが、生放送でいい加減な長期金利の数値を出し、解説を行うなんて考えられないことである。池上氏はさらに長期金利の上昇が、住宅ローン金利に繋がるといった人々に不安を与えるような解説を加えていた。

    金融緩和と長期金利の関係には13/6/17(第758号)「長期金利上昇で騒いでいる人々」で説明したが、多少複雑な点がある。しかし金融緩和を続けている限り、長期金利が上昇し続けることは絶対にないと筆者は考える。むしろ金融緩和を止めるといった観測によって、米長期金利のように上昇することは有り得る。これが常識である。

    筆者は、池上彰氏の事には関心がなく、氏の出演する番組をほとんど観たことがない(同番組はたまたま観た)。しかし筆者は、この番組を観て池上氏を怪しく感じるようになった。何か思惑で動く可能性のある要注意人物ということである。


  • 財政再建論者は「カマトト」
    財政再建論者が言っている赤字財政の経済への弊害は、物価上昇と金利の高騰である。彼等は、日本の赤字財政の継続、つまり巨額の累積債務こそがこれらの問題を引き起すとこれまで指摘してきた。したがって日本は財政健全化のため歳出の削減と消費税などの増税が必要と主張し、一歩も引下がらない。

    ところが累積債務が増え続けているのに、日本の物価は上昇するどころか、低下が続いてきた。むしろ継続的な物価下落の方が問題といった共通認識が出来ている。それどころか2%の物価上昇が政策目標として設定されたほどである。したがって財政再建論者にとっての最後の頼りであり、砦こそが金利の上昇である。ところが日銀の異次元の金融緩和政策によって、金利が高騰するといった場面は考えられなくなったのである。


    異次元の金融緩和政策とは、日銀が政府が発行した国債をどんどん買うことを意味する。だいたい日銀が国債を買い続けるのに、国債の価格が暴落する(つまり金利が高騰する)はずがない。窮地に陥った財政再建論者の中には、とうとう日銀の国債買入れが財政ファイナンス(どうも彼等の造語らしい)と見なされると、日本国債は投げ売りされるといった苦しい説明を行う者まで現れた。

    しかし財政ファイナンスと言われるものは、これまでも日本で行われてきた。「何を今さら」という思いである。彼等は世間で言うところのまさに「カマトト」である。日銀は、日銀券の発行残高(70兆円程度)を限度として長期国債を買入れてきた。

    日本政府は、日銀に国債の金利を払う。しかし日銀は受取った金利の一部を積立て(積立金はまさに政府の埋蔵金)、残りを納付金として政府(国庫)に入金し、政府は収益としてこれを計上する。つまりこれまでも日銀の内規(日銀券の発行残高)の範囲で財政ファイナンスとやらをやってきた。黒田日銀の異次元の金融緩和とは、日銀が内規として定めていたこの限度をとっぱらうことである。


    これまでの筆者の主張は「政府紙幣の発行」「永久債の発行とその日銀買入れ」「日本国債の徹底的な買上げ」である。いずれも財政負担の発生しない財源の確保方法である。黒田日銀のやろうとしていることは、最後の「日本国債の徹底的な買上げ」である。

    日本の財政の累積債務問題は、05/5/23(第390号)「ヴァーチャルなもの(その2)」12/1/9(第692号)「バーチャルな話」で述べたように、全くバーチャルなものである。財政問題で国債の買い手が付かず、金利が高騰している南欧諸国とは事情が全く異なる。それでも日本の大きな政府の累積債務が心配というのなら、日銀が発行されている国債を全て買上げこれを消却すれば良いのである(日本政府は無借金になる)。


    ところが「財政赤字を放っておくと金利が高くなり、将来、財政負担が大きくなる」といった財政再建派の嘘話に引っ掛かる者が続出している。考えの浅いインテリやマスコミ人、そして経済に根拠なく自信を持っている政治家に多い。増税を実施し、歳出の削減を行いたい財政当局にとってはまさに「カモ」である。

    たしかに金利と財政の関係は多少複雑であり、分かりにくいところがある。そこに付け込まれる隙間が生まれる。その意味でも、今回の消費税の増税は注目される。


    財政再建の試みとして、これまで消費税の導入やその増税が実施された。しかし先週号で述べたように、その度に政権が動揺したり潰れた。安倍第一次内閣の参議院選挙での大敗は、免税事業者の課税対象売上高の引下げと簡易課税制度適用の上限の大幅な引下げが大きく影響したと筆者は見ている。

    この規模の事業者には、世間の人々と頻繁な接触がある業種の者が多い。例えば街の零細な商店や一杯飲屋を経営している人々である。これらの人々から消費税への不満が、口コミで世間に広がったことが考えられる。もちろんこれが時の政権への批難に繋がっている。


    法人事業者の大半が赤字の今日、新たな消費税の納税義務者といった人々が、納税に苦しんでいることは容易に分かる。物価が下落している今日、消費税の転嫁は難しいだけでなく、転嫁できない場合にも納税が必要(見なしで課税)であり事業者には逃げ場がない。むしろ純粋な消費者の方が、安い店を捜すとか、NBを買うのを止めPB(プライベートブランド)を買うといった防衛手段がある。

    事業者は、生活費を削ったり借金をして消費税をやっと納付しているのが現実である。納税できない場合には、サラ金並みの高金利の延滞税が加算される。その過酷な消費税の税率を倍にしようとして民主党は壊滅的な大敗北を喫したのである。


    今回、自民党政権が消費税の増税を実施すれば、今度は自民党が窮地に陥る番である。特に納税が始まる2年後、3年後が危ない。筆者は、安倍総理ができるだけ長く政権を維持し、数々の懸案を片付けてもらいたいと思っている。消費税増税のようなつまらないことで躓いてもらいたくはない。



来週は、今週の話をもっと簡単にまとめたい。夏休みの関係で通常より少し早めのアップを予定している。



13/7/26(第763号)「参議院選の結果を考える」
13/7/15(第762号)「アベノミクスの評価他2件」
13/7/8(第761号)「デフレに興味のない大新聞」
13/7/1(第760号)「日経新聞の論説の特徴」
13/6/24(第759号)「アベノミクスを牽制する人々」
13/6/17(第758号)「長期金利上昇で騒いでいる人々」
13/6/10(第757号)「雲行きが怪しいデフレ脱却」
13/6/3(第756号)「財政再建論者のサークル」
13/5/27(第755号)「財政の2010年問題」
13/4/29(第754号)「国民一律の年金」
13/4/22(第753号)「日銀のリスク資産購入」
13/4/15(第752号)「異次元の金融政策」
13/4/8(第751号)「久しぶりの「朝まで生テレビ」」
13/4/1(第750号)「不穏な中国と日本の安全保障」
13/3/25(第749号)「TPPの基本は友好」
13/3/18(第748号)「日本の雪崩的輸出の歴史」
13/3/11(第747号)「TPP交渉と日本警戒論」
13/3/4(第746号)「TPPの実態」
13/2/25(第745号)「有り得る軍事的衝突」
13/2/18(第744号)「群盲象をなでる」
13/2/11(第743号)「まず印紙税の廃止」
13/2/4(第742号)「「構造改革」と「規制緩和」の本当の姿」
13/1/28(第741号)「意志を持った「やじろべい」」
13/1/21(第740号)「金融政策に対する提言」
13/1/14(第739号)「年頭にあたり」
12/12/31(第738号)「中央銀行の働きの変化」
12/12/24(第737号)「日銀とFRBの違い」
12/12/17(第736号)「師走の総選挙の感想」
12/12/10(第735号)「建設国債引受け発言の波紋」
12/12/3(第734号)「先進国だからデフレ」
12/11/26(第733号)「総選挙の行方」
12/11/19(第732号)「残る経済成長路線」
12/11/12(第731号)「先進国における経済成長」
12/11/5(第730号)「投資と経済成長」
12/10/29(第729号)「プラスアルファーの議論」
12/10/22(第728号)「アラン・ブラインダー教授の文章」
12/10/15(第727号)「バランスを欠いた報道」
12/10/8(第726号)「中国からの撤退も視野に」
12/10/1(第725号)「中国の反日暴動に対する感想」
12/9/24(第724号)「本誌の中国問題ダイジェスト」
12/9/17(第723号)「技術流出と日本の伝承文化」
12/9/10(第722号)「技術流出の現状」
12/9/3(第721号)「知的所有権の話」
12/8/27(第720号)「最近の出来事」
12/8/6(第719号)「御用学者の話」
12/7/30(第718号)「増税マニア達は現実離れ」
12/7/23(第717号)「吉川洋東大教授の文章」
12/7/16(第716号)「消費税増税が待ち遠しい?」
12/7/9(第715号)「消費税は「鬼門」」
12/7/2(第714号)「増税騒動の感想」
12/6/25(第713号)「今日の諸情勢の変化」
12/6/18(第712号)「世界中「展望がない」」
12/6/11(第711号)「schole(スコレー、暇)の話」
12/6/4(第710号)「ギリシャ化の話」
12/5/21(第709号)「単式簿記の世界」
12/5/14(第708号)「文春と朝日の関係」
12/4/30(第707号)「続・増税論議と文芸春秋」
12/4/23(第706号)「増税論議と文芸春秋」
12/4/16(第705号)「増税論議と政界」
12/4/9(第704号)「増税派の人々」
12/4/2(第703号)「松下政経塾政治家と増税」
12/3/26(第702号)「英国の永久債発行」
12/3/19(第701号)「過去の号の修正」
12/3/12(第700号)「本誌700号に寄せて」
12/3/5(第699号)「投資顧問AIJの事件」
12/2/27(第698号)「橋下維新政党へのコメント」
12/2/20(第697号)「地方自治体と通貨」
12/2/13(第696号)「デフレ経済下での増税」
12/1/30(第695号)「無税国家への道」
12/1/23(第694号)「世界的な金利低下」
12/1/16(第693号)「過剰貯蓄による災い」
12/1/9(第692号)「バーチャルな話」
11/12/19(第691号)「シミュレーションモデルの話」
11/12/12(第690号)「財政破綻のすすめ」
11/12/5(第689号)「「騒ぎ屋」の時代」
11/11/28(第688号)「技術進歩の恩恵」
11/11/21(第687号)「避けられる根本問題」
11/11/14(第686号)「物事の本質」
11/11/7(第685号)「組織の異端児的存在」
11/10/31(第684号)「組織の研究」
11/10/24(第683号)「気乗りしないTPPの話」
11/10/17(第682号)「解決策はユーロ離脱か」
11/10/10(第681号)「ポール・クルーグマン教授の変心」
11/10/3(第680号)「現実論者VS観念論者」
11/9/26(第679号)「世界的な「日本化」」
11/9/12(第678号)「欧州発のリーマンショック」
11/9/5(第677号)「野田政権の成立」
11/8/29(第676号)「円相場の今後の動き」
11/8/22(第675号)「欧米経済の変調」
11/8/15(第674号)「脱・反原発派の人々」
11/8/8(第673号)「食品安全委員会の問題」
11/8/1(第672号)「タウンミーティングの報告」
11/7/25(第671号)「意味の解らない暫定基準値」
11/7/18(第670号)「政府が明らかにすべきこと」
11/7/11(第669号)「放射線防護の専門家」
11/7/4(第668号)「ダイオキシンとプルトニウム」
11/6/27(第667号)「付加価値を生まない発電」
11/6/20(第666号)「付加価値と発電」
11/6/13(第665号)「ポスト原発はやはり原発」
11/6/6(第664号)「菅政権に対する不信任案騒動」
11/5/30(第663号)「ニューニューサンシャイン計画」
11/5/23(第662号)「原発と電力会社の経営」
11/5/16(第661号)「原発推進派と反・脱原発派」
11/5/2(第660号)「菅政権の迷走」
11/4/25(第659号)「放射線は身体に良い?」
11/4/18(第658号)「山を越えたか?」
11/4/11(第657号)「原子力の専門家」
11/4/4(第656号)「本当に重大な事は何か」
11/3/28(第655号)「電力不足で表沙汰になった事実」
11/3/21(第654号)「東日本巨大地震」
11/3/7(第653号)「日本が貿易立国という誤解」
11/2/28(第652号)「日本は本当に貿易立国?」
11/2/21(第651号)「関税以外の貿易障壁」
11/2/14(第650号)「TPPに関する推理」
11/2/7(第649号)「菅首相の消費税増税」
11/1/31(第648号)「モラルハザードの話」
11/1/24(第647号)「問題は分配ではない」
11/1/17(第646号)「永久債の日銀引受け」
11/1/10(第645号)「日本の経済成長シナリオ」
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