経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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13/7/26(763号)
参議院選の結果を考える

  • 「流浪する有権者」の動向
    7月21日、参議院選の投開票が行われ、結果は事前のマスコミの予想通りであった。今回ほど予想と違わない結果となった選挙もめずらしい。自民党の圧勝と民主党の大敗であった。特に一人区において、自民党は29勝2敗とほぼ完勝であった。この結果、衆参のねじれが解消した。


    今回も筆者なりの選挙結果の分析を行ってみる。やはり各党の勢いを見るには、比例代表の政党別得票数を見るのが良いと考える。次のようにこれを今回(13年)、前回(10年)、前々回(07年)と並べてみると各党の盛衰が一目で分かる。

    なお増減率は今回(13年)と前回(10年)との比較であり、さらに新しい政党である維新とみんなは昨年の衆議院選の比例代表得票数を参考のために載せた。

    各党の比例区の獲得投票数(万票)と増減率(%)
    政党名今回(13年)前回(10年)前々回(07年)増減率衆議院選
    自民党1,8461,4071,65431.2ーー
    民主党7131,8452,326▲61.4ーー
    公 明757764776▲0.9ーー
    共 産51535644144.7ーー
    社 民126224264▲43.8ーー
    維 新636ーーーーーー1,226
    みんな476794ーー▲40.1525
    その他254455430▲44.2ーー
    合 計5,3235,8455,891▲8.9ーー


    この表から分かるように民主党の凋落ぶりが目立ち、善戦したのは自民党と共産党である。また社民党の長期低落には歯止めがかからず、この党はいずれ消滅すると思われる。さらに新党ではみんなの党の停滞が目立ち、日本維新の会が早くも賞味期限が来たような状態である。


    12/12/17(第736号)「師走の総選挙の感想」でのべたように、筆者は2,000〜2,500万人の「流浪する有権者」の動向がここ20年ほどの選挙結果を左右してきたと見ている。一般に浮動層とか支持政党無し層と呼ばれているこれらの人々の投票行動が、度々選挙結果を決してきたのである。

    「流浪する有権者」が大量に生まれた背景の一つに冷戦の終結がある。またそのタイミングで自民党の分裂による新党ブームが起った。日本新党や新生党などが生まれ、自民党が政権を失ったこともあった。


    「流浪する有権者」はムードに流れやすくマスコミの動向に敏感に反応する。郵政解散後の衆議院選では、小泉自民党に流れ自民党が大勝した。しかしその後は民主党に流れ、政権交代を実現させた。ところが民主党の現実の政治に幻滅した「流浪する有権者」は、急速に民主党離れを起こしたのである。極端に言えば今回の選挙で民主党に入ったのは、労働組合の組織票だけである(比例の当選者のほとんどは労組関係者)。

    民主党から離れた「流浪する有権者」の一部は、これまでみんなや維新といった新党に流れていたが、今回の結果を見る限りその流れも止まった印象である。おそらく政治そのものに興味をなくし、棄権に回った人が多かったと考えられる。「流浪する有権者」の特徴は、一旦支持を止めた政党には二度と戻らないことである。したがって自民党への批判票の受け皿として政党が生き残るには、新しいリーダの元での野党の再編成しかないであろう。


  • 消費税は鬼門
    参議院選の勝敗を決めるのは一人区の勝敗である。比例区の投票を見る限りでは、前回(10年)の選挙では民主党の獲得投票数は自民党を上回っていた。しかし当選者数全体では自民51に対して民主は44と惨敗した。これは一人区で自民21、民主8と自民党が勝ったからである。反対に前々回(07年・・安倍第一次内閣)で自民党が惨敗(自民37、民主60)した時には、自民党は一人区で大敗(自民党の6勝23敗)している。

    選挙の勝因や敗因には様々なことがある。具体的には失政やスキャンダルなどが考えられる。さらにそれらに加え前々回(07年)やその前(04年)の自民党の一人区での苦戦を、地方経済の低迷が大きな要因と筆者は指摘してきた。


    経済状態を反映する失業率の高低が、どのように選挙結果(一人区)に影響したかを考察したのが、07/7/2(第488号)「ポンカス政党」の「失業率(%)と選挙の勝敗結果」である。この表から分かように、明らかに失業率の高い選挙区(一人区)では自民党がほとんど負けている。これは04年の小泉政権下で行われた参議院選を分析したものである。人気があると言われた小泉自民党がかろうじて勝った選挙である。

    しかしこの教訓が安倍政権(第一次)の参議院選では全く生かされなかった。多少マクロ経済指標で良くなっていたことが有り、また平均株価も1万8千円を超えるなど一見日本経済が回復した印象があった。しかし実態は、120円を超える円安と世界的なバブル経済で輸出企業の業績が良かっただけである。一方、日本の地方の経済は、地方交付金や公共投資のカットといった小泉時代の改革の影響で依然低迷していた。さらに生産拠点の海外移転が続いていて、これが地方経済に打撃を加えていた。

    ところが安倍政権は「景気回復を実感に」という奇妙なキャッチフレーズを掲げて参議院選に臨んだ。取り方によっては、景気が悪いのは気のせいと言わんばかりであった。たしかに安倍総理の周りのスタッフにはろくな者がいなかった。結果は、一人区で6勝23敗の大敗北を喫した。有権者は、自民党がこれならば未知の民主党に賭けてみようとしたのである。


    選挙結果を大きく左右する要素に関して、筆者は、上記のように経済、特に地方の経済が重要と考える。しかしさらにこれに並んで消費税への対応が決定的と思っている。消費税導入後の89年の参議院選、98年の消費税増税後の参議院選で自民党は大敗している。特に89年はバブル景気の時の選挙であった。

    このように消費税は政治にとって鬼門である。少しでもセンスのある政治家であれば決して近付かないのがこの消費税である。問題の多かった小泉首相でさえ「私の在任中は決して消費税は上げない」と表向きには巧みに消費税を避けていた(しかし後ほど触れるが目立たないところで消費税法改正を行っていて、これが次の第一次安倍政権にとんだ打撃を与えたというのが筆者の持論)。


    民主党が没落したのもこの消費税と筆者は認識している。ところが財政当局を意識してか、何故か日本のマスコミはこのことに触れようとしない。たしかに民主党が未熟で失政も多かったが、このように急速に党勢が衰えた一番の原因は消費税増税を強引に押し進めたことにある。

    まず菅首相が前回(10年)の参議院選の直前、突然、消費税増税を言い出し選挙に負けた。これがなかったら民主党は勝っていたはずである。ところがこれに懲りず次の野田首相は消費税増税法案を通してしまった。これによって衆議院選と今回の参議院選で壊滅的な大敗北を喫したのである。双方とも首相就任前は財務大臣であり、財務官僚に洗脳されたのであろう。


    たしかに小泉政権は、消費税の税率の引上げは行わなかった。しかし03年に消費税法の改正を行っている。免税事業者の課税対象売上高を3,000万円から1,000万円に引下げている。これによって免税事業者は368万から231万と大幅に減っている。また簡易課税制度適用の上限を2億円から5千万円に引下げている。これによって適用事業者は106万から50万に激減している。

    筆者は、07年の安倍政権の参議院選のボロ負けにこれが微妙に影響していると見ている(どういう訳かマスコミはこのような見方をしないが)。たしかに消費税法の改正は03年であり、この03年が課税売上高の基準年になる。しかし課税対象年は2年後の05年であり、実際の納税は06年から始まった。つまり07年の第一次安倍政権の参議院選にこれがモロに影響したことが考えられるのである。日頃から自民党は、中小零細企業の味方のような言動をおこなってきたが、その中小零細企業を叩き潰したのが小泉政権の消費税法改正であった。


    消費税は、一般に考えられているより過酷な税である。法人税と違い、利益がなくとも納税義務がある。デフレ経済が続く中での消費税の転嫁が難しいだけでなく、人件費は仕入れ控除の対象にならない。実際、諸税の中で延滞率と延滞額がダントツに大きいのがこの消費税である。

    また03年に改正された分の消費税の納付が遅れて06年から始まったことは盲点であった。新たに納税することになっている事業者の方も安易に考えていたのであろうか(消費税は、消費者への負担となるだけでなく、納税事業者にとっても過酷な税)、05年の郵政選挙で自民党は大勝している。ところがマスコミも政治家も、いまだに消費税は消費者が全てを負担するものといった間違った認識を持っている。

    参議院選の大勝で油断しているのか、自民党の税調や麻生財務大臣は、消費税増税の決定を急いでいる。しかしこれは、低所得者対策を実施し、補正予算を組めば良いという話ではない(補正予算は消費税増税とは関係なく必要)。彼等は、消費税がまさに鬼門だという認識に欠けていて、政治家としてセンスがなさ過ぎる(芝居をしているのなら別だか)。おそらく日銀の異次元の金融緩和の意味も理解していないのであろう。ただこの動きに菅官房長官は「あくまでも判断は10月」とクギを刺している。実に見識のある発言である。



参議院選の結果の感想を簡単に書こうと思っていたが、思いのほか本格的になりアップが遅れた。したがって29日は休刊で、次回号は8月5日を予定している。テーマとして今年前半の出来事をまとめたい。



13/7/15(第762号)「アベノミクスの評価他2件」
13/7/8(第761号)「デフレに興味のない大新聞」
13/7/1(第760号)「日経新聞の論説の特徴」
13/6/24(第759号)「アベノミクスを牽制する人々」
13/6/17(第758号)「長期金利上昇で騒いでいる人々」
13/6/10(第757号)「雲行きが怪しいデフレ脱却」
13/6/3(第756号)「財政再建論者のサークル」
13/5/27(第755号)「財政の2010年問題」
13/4/29(第754号)「国民一律の年金」
13/4/22(第753号)「日銀のリスク資産購入」
13/4/15(第752号)「異次元の金融政策」
13/4/8(第751号)「久しぶりの「朝まで生テレビ」」
13/4/1(第750号)「不穏な中国と日本の安全保障」
13/3/25(第749号)「TPPの基本は友好」
13/3/18(第748号)「日本の雪崩的輸出の歴史」
13/3/11(第747号)「TPP交渉と日本警戒論」
13/3/4(第746号)「TPPの実態」
13/2/25(第745号)「有り得る軍事的衝突」
13/2/18(第744号)「群盲象をなでる」
13/2/11(第743号)「まず印紙税の廃止」
13/2/4(第742号)「「構造改革」と「規制緩和」の本当の姿」
13/1/28(第741号)「意志を持った「やじろべい」」
13/1/21(第740号)「金融政策に対する提言」
13/1/14(第739号)「年頭にあたり」
12/12/31(第738号)「中央銀行の働きの変化」
12/12/24(第737号)「日銀とFRBの違い」
12/12/17(第736号)「師走の総選挙の感想」
12/12/10(第735号)「建設国債引受け発言の波紋」
12/12/3(第734号)「先進国だからデフレ」
12/11/26(第733号)「総選挙の行方」
12/11/19(第732号)「残る経済成長路線」
12/11/12(第731号)「先進国における経済成長」
12/11/5(第730号)「投資と経済成長」
12/10/29(第729号)「プラスアルファーの議論」
12/10/22(第728号)「アラン・ブラインダー教授の文章」
12/10/15(第727号)「バランスを欠いた報道」
12/10/8(第726号)「中国からの撤退も視野に」
12/10/1(第725号)「中国の反日暴動に対する感想」
12/9/24(第724号)「本誌の中国問題ダイジェスト」
12/9/17(第723号)「技術流出と日本の伝承文化」
12/9/10(第722号)「技術流出の現状」
12/9/3(第721号)「知的所有権の話」
12/8/27(第720号)「最近の出来事」
12/8/6(第719号)「御用学者の話」
12/7/30(第718号)「増税マニア達は現実離れ」
12/7/23(第717号)「吉川洋東大教授の文章」
12/7/16(第716号)「消費税増税が待ち遠しい?」
12/7/9(第715号)「消費税は「鬼門」」
12/7/2(第714号)「増税騒動の感想」
12/6/25(第713号)「今日の諸情勢の変化」
12/6/18(第712号)「世界中「展望がない」」
12/6/11(第711号)「schole(スコレー、暇)の話」
12/6/4(第710号)「ギリシャ化の話」
12/5/21(第709号)「単式簿記の世界」
12/5/14(第708号)「文春と朝日の関係」
12/4/30(第707号)「続・増税論議と文芸春秋」
12/4/23(第706号)「増税論議と文芸春秋」
12/4/16(第705号)「増税論議と政界」
12/4/9(第704号)「増税派の人々」
12/4/2(第703号)「松下政経塾政治家と増税」
12/3/26(第702号)「英国の永久債発行」
12/3/19(第701号)「過去の号の修正」
12/3/12(第700号)「本誌700号に寄せて」
12/3/5(第699号)「投資顧問AIJの事件」
12/2/27(第698号)「橋下維新政党へのコメント」
12/2/20(第697号)「地方自治体と通貨」
12/2/13(第696号)「デフレ経済下での増税」
12/1/30(第695号)「無税国家への道」
12/1/23(第694号)「世界的な金利低下」
12/1/16(第693号)「過剰貯蓄による災い」
12/1/9(第692号)「バーチャルな話」
11/12/19(第691号)「シミュレーションモデルの話」
11/12/12(第690号)「財政破綻のすすめ」
11/12/5(第689号)「「騒ぎ屋」の時代」
11/11/28(第688号)「技術進歩の恩恵」
11/11/21(第687号)「避けられる根本問題」
11/11/14(第686号)「物事の本質」
11/11/7(第685号)「組織の異端児的存在」
11/10/31(第684号)「組織の研究」
11/10/24(第683号)「気乗りしないTPPの話」
11/10/17(第682号)「解決策はユーロ離脱か」
11/10/10(第681号)「ポール・クルーグマン教授の変心」
11/10/3(第680号)「現実論者VS観念論者」
11/9/26(第679号)「世界的な「日本化」」
11/9/12(第678号)「欧州発のリーマンショック」
11/9/5(第677号)「野田政権の成立」
11/8/29(第676号)「円相場の今後の動き」
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11/8/15(第674号)「脱・反原発派の人々」
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11/6/6(第664号)「菅政権に対する不信任案騒動」
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11/5/16(第661号)「原発推進派と反・脱原発派」
11/5/2(第660号)「菅政権の迷走」
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