経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




13/7/8(761号)
デフレに興味のない大新聞

  • 今どきフリードマンの恒常所得仮説?
    7月3日の日経新聞に、新聞協会が開いたシンポジウム(6月21日)の様子が掲載されていた。テーマは「ニュースや知識をどう支えるーネット時代にメディアの公共性を考える」である。しかし明らかにこれは、消費税増税の際、新聞などに軽減税率の適用を訴えることが狙いである。全てのパネリストから「民主主義のコスト」「公共的な情報を供給するためのコスト」などと新聞社を擁護する発言が続く。

    しかし出席者が認めるように、各新聞が今回の消費税増税を主導してきたことは明らかな事実である。これによって世論も大いに操作されてきたのである。毎日新聞の小川一氏は、新聞の至らない部分もあったが知る権利を支えるためにも税制上の優遇措置は取られるべきと結んでいる。


    またパネリストは「ジャーナリズムの公共性」とか「権力を監視し、批判するメディアが必要」と言っている。しかし筆者達が見る限り、今回の消費税増税推進運動において新聞は、明らかに反公共的であり、権力の監視どころか手先として働いていた。

    「苦戦する紙媒体」と、新聞を始めとしたメディアは経営的に厳しいと訴えている。消費税増税にとても耐えられないような弱気の発言をしている(プライドが高い彼等のことであるから本音がどこにあるのか不明)。それにしても日本の新聞などのメディアの動きは支離滅裂である。もっとも当局との間で軽減税率の適用が確約されているのなら、国民をみごとに騙したことになるが。


    このようにどうしようもないのが日本の新聞である。日経新聞にも、連日、虚言・妄言の類の論説が掲載されている。これらは一定の方向を向いている。近ごろの日経には異なった見方の意見はまず載らない。まるで日経新聞は読者を洗脳しようとしている宗教団体の広報紙のようになっている。

    論説のほとんどは「公共投資を始めとした財政支出は、経済的に効果がなくなっている」「規制緩和による構造改革しかない」である。つまりアベノミクスの二番目の矢である「機動的な財政政策」の否定と、三番目の矢である「成長戦略」の推進である。しかしのち程述べるが、「成長戦略」でデフレを克服することは絶対にできない。


    連日、日経に掲載される夥しい虚言・妄言の中から一つだけ紹介する。6月15日のコラム大機小機の「市場変動はデフレ脱却の証し」であり、執筆者は桃李(ペンネーム)氏である。このコラムはケインズ理論の否定から始まる。財政支出が消費支出の増加や景気回復に繋がらないとしている。つまりケインズの消費理論「消費はその年の所得に比例する」は誤りと断定している。

    桃李氏は、理由をケインズの消費理論を否定するフリードマンの恒常所得理論が確立しているからとしている。つまり「財政支出増は続かず将来の安定所得につながらないことを皆が知っているから、一時的に所得が増えても消費に回さない」と決め付けている。しかし筆者はフリードマンの恒常所得理論が正しいと立証されたと聞いたことがない。これは仮説の一つに過ぎない(消費に関する仮説は他にも数多くある)。

    桃李氏の説が正しければ、平均消費性向0.6(可処分所得の6割を消費)の人でも、追加的所得からは全く消費がなされないということになる(限界消費性向は0.0となり追加的所得は全て貯蓄)。ところが不思議なことに桃李氏は株高による消費増は認めているのである(株高の資産効果は恒常所得と見なしているのだろう)。また期待インフレ率さえ高まれば、デフレ脱却ができると主張している。しかしその期待インフレ率を高める手段が難しく問題なのである。


    たしかに土地売却などによる一時的所得からの消費は小さいかもしれない。しかし土地の売却代金からの消費がゼロとするのは暴論である。また桃李氏の説によれば、宝くじの当選金などは全く使われないということになる。もちろん財政による景気対策は全く無意味と言っているようなものである。

    デフレ脱却のために政府が国民に金を配るということが考えられる(非現実的と批難されようが、一つの分かりやすい想定として)。ちょうどマイナンバー制が実施されるのだから、金融機関の指定口座を登録してもらい、そこに50万円ずつ振込むことが考えられる。桃李氏の理論なら誰も振込まれた金に手を付けないということにる。しかしそのような事は絶対に有り得ない。そして桃李氏のコラムはやっぱり「規制緩和を進め、それを邪魔しないことこそ政府の役割」と締め括っている。


  • 一週間前の日経新聞
    日経新聞には桃李氏のコラムの他にも珍妙な経済理論が満載である。よく見かけるのが「公共投資はずっと行われてきたが経済効果はなくなった」である。しかし12/12/17(第736号)「師走の総選挙の感想」で触れたように、公共事業費は、ピーク時(95年)の45兆円から直近の21兆円まで減っている。実に24兆円の減少であり、乗数値を2.5とすればこれはピーク時から60兆円のGDP減少要因になる。

    さらに民間の設備投資と住宅投資が大幅に減少している。客観的に見て、今のGDP水準で下げ止まっているのは、ある程度社会保障費が増え年金積立金が取り崩されているからである。デフレが年々深刻になるのも無理はない。このように「公共投資の経済効果」うんぬんの話は本当にばかげている。


    最近びっくりしたのが「新規の設備投資で生産性が上がれば雇用も増える」である。設備投資による所得増加によって雇用が増えることは考えられる。しかし生産性が向上して雇用が増えるなんて、今日の日本では考えられないことである。むしろ雇用を減らすための設備投資が有り得るのである。

    たしかに最貧国や発展途上国においては、生産性を上げる新規の設備投資によって雇用が増えることは考えられる(競争力をつけて貿易上優位に立つ)。しかし生産力が余っている日本などでは、雇用を増やすような設備投資がどんどん行われることはない。総需要が増えない限り、仮に新規の設備投資によって雇用増があっても他で雇用が喪失されるのが今日の日本経済の姿である(イオンの新店舗ができれば、一方でシャッター商店街が増える)。


    どうして日経新聞を始め、日本の大新聞が安倍政権のデフレ脱却政策にこのようなデタラメの論評を行うのか不思議である。しかし先週号で述べたように、日経を始め大新聞がデフレに興味がないことを考えればこれも理解できる。デフレの弊害は、一部の人々からだんだんと広がる。また都市部ではなく地方が真っ先にデフレに脅かされる。

    価格競争を行わず、比較的高給取りが集まっている新聞社にとって、デフレはまだ深刻なものではない(むしろ物価が下がって喜んでいる者が多い)。したがって消費税増税の方が大切なのであろう。また大新聞は地方軽視というより、地方に読者はほとんどいないのである(むしろ読者が少ない地方から撤退を考えているのではと思われる)。


    選挙も近くなり、筆者にとって興味があるのは政治家の言動である。それにしても日経新聞の論説のような事を言っている政治家が沢山いる。自民党の一部、そして民主党、みんなの党、日本維新の会に目立つ(ただしみんなの党と日本維新の会は消費税増税には反対しているのでややこしい)。彼等は財政政策より成長戦略(規制緩和による構造改革)が重要と「たわけた事」を言っている。成長戦略でデフレから脱却できるはずがない(特に財政支出を伴わない成長戦略なら、総需要はほとんど増えない)。

    参議院選で重要なのは地方の一人区である。自民党は日経新聞のような事を言っていたため、この一人区で大敗し衆参のねじれが生じたのである。ちなみに一人区には日経新聞の読者はほとんどいない。ところがこれに懲りず、また一週間前の日経新聞のような事を言っている者が自民党に目立つようになった。


    ここまで日経新聞の悪口を言い続けてきた。しかしそのような日経新聞に、ケインズ政策を肯定しアベノミクスを評価するコラムが6月28日の同じ大機小機に掲載された。タイトルが「これまでは成功だ」で、執筆者は一直(ペンネーム)氏である。

    まず「ケインズ主義の考え方は、石油ショック以降、影響力を急速に失った」と指摘している。その後「小さな政府」論が主流になり「非ケインズ政策」、例えば欧州で緊縮財政が採られた。しかし経済が回復しないことが明確になってきたと一直氏は述べている。それもあってか先のサミットではケインズ主義の再評価に動きだしたと解説している。そして「デフレ不況からの脱出を掲げるアベノミクスはケインズ主義」と実に本質をついた発言をしている。また中国経済が失速し、新興国も勢いを失いつつある今日、期待できるのは米国と日本と結論付けている。

    このようなまともの文章が、虚言・妄言で溢れる日経新聞に掲載されるなんて筆者にとって大きな驚きである。これが単なる一服の清涼剤で終わってしまうのか、今後が注目される。デフレの弊害はジワリジワリと広がる。ひょっとすると日経新聞にもようやくデフレの悪影響が及んできているのかもしれない。



来週は、アヘノミクスの評価と参議院選を取上げる。



13/7/1(第760号)「日経新聞の論説の特徴」
13/6/24(第759号)「アベノミクスを牽制する人々」
13/6/17(第758号)「長期金利上昇で騒いでいる人々」
13/6/10(第757号)「雲行きが怪しいデフレ脱却」
13/6/3(第756号)「財政再建論者のサークル」
13/5/27(第755号)「財政の2010年問題」
13/4/29(第754号)「国民一律の年金」
13/4/22(第753号)「日銀のリスク資産購入」
13/4/15(第752号)「異次元の金融政策」
13/4/8(第751号)「久しぶりの「朝まで生テレビ」」
13/4/1(第750号)「不穏な中国と日本の安全保障」
13/3/25(第749号)「TPPの基本は友好」
13/3/18(第748号)「日本の雪崩的輸出の歴史」
13/3/11(第747号)「TPP交渉と日本警戒論」
13/3/4(第746号)「TPPの実態」
13/2/25(第745号)「有り得る軍事的衝突」
13/2/18(第744号)「群盲象をなでる」
13/2/11(第743号)「まず印紙税の廃止」
13/2/4(第742号)「「構造改革」と「規制緩和」の本当の姿」
13/1/28(第741号)「意志を持った「やじろべい」」
13/1/21(第740号)「金融政策に対する提言」
13/1/14(第739号)「年頭にあたり」
12/12/31(第738号)「中央銀行の働きの変化」
12/12/24(第737号)「日銀とFRBの違い」
12/12/17(第736号)「師走の総選挙の感想」
12/12/10(第735号)「建設国債引受け発言の波紋」
12/12/3(第734号)「先進国だからデフレ」
12/11/26(第733号)「総選挙の行方」
12/11/19(第732号)「残る経済成長路線」
12/11/12(第731号)「先進国における経済成長」
12/11/5(第730号)「投資と経済成長」
12/10/29(第729号)「プラスアルファーの議論」
12/10/22(第728号)「アラン・ブラインダー教授の文章」
12/10/15(第727号)「バランスを欠いた報道」
12/10/8(第726号)「中国からの撤退も視野に」
12/10/1(第725号)「中国の反日暴動に対する感想」
12/9/24(第724号)「本誌の中国問題ダイジェスト」
12/9/17(第723号)「技術流出と日本の伝承文化」
12/9/10(第722号)「技術流出の現状」
12/9/3(第721号)「知的所有権の話」
12/8/27(第720号)「最近の出来事」
12/8/6(第719号)「御用学者の話」
12/7/30(第718号)「増税マニア達は現実離れ」
12/7/23(第717号)「吉川洋東大教授の文章」
12/7/16(第716号)「消費税増税が待ち遠しい?」
12/7/9(第715号)「消費税は「鬼門」」
12/7/2(第714号)「増税騒動の感想」
12/6/25(第713号)「今日の諸情勢の変化」
12/6/18(第712号)「世界中「展望がない」」
12/6/11(第711号)「schole(スコレー、暇)の話」
12/6/4(第710号)「ギリシャ化の話」
12/5/21(第709号)「単式簿記の世界」
12/5/14(第708号)「文春と朝日の関係」
12/4/30(第707号)「続・増税論議と文芸春秋」
12/4/23(第706号)「増税論議と文芸春秋」
12/4/16(第705号)「増税論議と政界」
12/4/9(第704号)「増税派の人々」
12/4/2(第703号)「松下政経塾政治家と増税」
12/3/26(第702号)「英国の永久債発行」
12/3/19(第701号)「過去の号の修正」
12/3/12(第700号)「本誌700号に寄せて」
12/3/5(第699号)「投資顧問AIJの事件」
12/2/27(第698号)「橋下維新政党へのコメント」
12/2/20(第697号)「地方自治体と通貨」
12/2/13(第696号)「デフレ経済下での増税」
12/1/30(第695号)「無税国家への道」
12/1/23(第694号)「世界的な金利低下」
12/1/16(第693号)「過剰貯蓄による災い」
12/1/9(第692号)「バーチャルな話」
11/12/19(第691号)「シミュレーションモデルの話」
11/12/12(第690号)「財政破綻のすすめ」
11/12/5(第689号)「「騒ぎ屋」の時代」
11/11/28(第688号)「技術進歩の恩恵」
11/11/21(第687号)「避けられる根本問題」
11/11/14(第686号)「物事の本質」
11/11/7(第685号)「組織の異端児的存在」
11/10/31(第684号)「組織の研究」
11/10/24(第683号)「気乗りしないTPPの話」
11/10/17(第682号)「解決策はユーロ離脱か」
11/10/10(第681号)「ポール・クルーグマン教授の変心」
11/10/3(第680号)「現実論者VS観念論者」
11/9/26(第679号)「世界的な「日本化」」
11/9/12(第678号)「欧州発のリーマンショック」
11/9/5(第677号)「野田政権の成立」
11/8/29(第676号)「円相場の今後の動き」
11/8/22(第675号)「欧米経済の変調」
11/8/15(第674号)「脱・反原発派の人々」
11/8/8(第673号)「食品安全委員会の問題」
11/8/1(第672号)「タウンミーティングの報告」
11/7/25(第671号)「意味の解らない暫定基準値」
11/7/18(第670号)「政府が明らかにすべきこと」
11/7/11(第669号)「放射線防護の専門家」
11/7/4(第668号)「ダイオキシンとプルトニウム」
11/6/27(第667号)「付加価値を生まない発電」
11/6/20(第666号)「付加価値と発電」
11/6/13(第665号)「ポスト原発はやはり原発」
11/6/6(第664号)「菅政権に対する不信任案騒動」
11/5/30(第663号)「ニューニューサンシャイン計画」
11/5/23(第662号)「原発と電力会社の経営」
11/5/16(第661号)「原発推進派と反・脱原発派」
11/5/2(第660号)「菅政権の迷走」
11/4/25(第659号)「放射線は身体に良い?」
11/4/18(第658号)「山を越えたか?」
11/4/11(第657号)「原子力の専門家」
11/4/4(第656号)「本当に重大な事は何か」
11/3/28(第655号)「電力不足で表沙汰になった事実」
11/3/21(第654号)「東日本巨大地震」
11/3/7(第653号)「日本が貿易立国という誤解」
11/2/28(第652号)「日本は本当に貿易立国?」
11/2/21(第651号)「関税以外の貿易障壁」
11/2/14(第650号)「TPPに関する推理」
11/2/7(第649号)「菅首相の消費税増税」
11/1/31(第648号)「モラルハザードの話」
11/1/24(第647号)「問題は分配ではない」
11/1/17(第646号)「永久債の日銀引受け」
11/1/10(第645号)「日本の経済成長シナリオ」
10年のバックナンバー

09年のバックナンバー

08年のバックナンバー

07年のバックナンバー

06年のバックナンバー

05年のバックナンバー

04年のバックナンバー

03年のバックナンバー

02年のバックナンバー

01年のバックナンバー

00年のバックナンバー

99年のバックナンバー

98年のバックナンバー

97年のバックナンバー