経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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13/3/25(749号)
TPPの基本は友好

  • TPP参加国の拡大
    TPP参加交渉について、メディアでは色々な解説がなされている。中にはこれこそが日本経済の成長戦略の決定打という話まである。しかし筆者は、2年前の11/2/14(第650号)「TPPに関する推理」で、これが中国を牽制する枠組みに成り得ることを指摘した。端的に言えば、TPPは対中国の安全保障の枠組みと筆者は理解している。

    近年、東アジアでの最大の撹乱要因は中国の軍拡であり、あからさまになって来た中国の覇権主義的行動である。習近平国家主席も「中華民族の偉大な復興」といった時代錯誤の宣言をしているほどである。不幸にして東アジアに位置する日本は、現実となってきた中国の脅威といったものに対処する必要が出てきた。またこのような不安感を、日本だけでなく中国の周辺国全体が共通して持っている。


    ところが日本のメディアではTPP参加について経済面からしか語られていない。筆者はこれを不思議に思っている。しかし日頃から安全保障なくして、経済を語っても全く意味がないと筆者は思っている。たしかに現在進行中のTPP交渉は入り口であり、経済に特化された議論が先行している。

    しかし筆者は、この枠組みがいずれ加盟国による安全保障体制の構築へと進むと見ている。もしそうではなくTPPが単なる経済や交易の取り決めに限定された集まりなら、米国や日本が参加する意味合いは非常に薄くなる。だいたいTPPが経済面に限定されるのなら、多国間で面倒な話し合いを行うより、日米の二国間でFTA交渉を行った方が手っ取り早いのである。

    またFTAやEPAといったものには安全保障条項が入っているのが普通である。日本がこれから交渉に入るEUとのEPAにも安全保障条項がある。つまりTPPも安全保障を背景にした新しい経済的な枠組みと筆者は理解している。


    もちろん今回のTPPで安全保障面をリードするのは米国ということになる。米国は、TPPに参加するようタイとフィリピンに声を掛けているようである。このように今後、TPPには新たな参加候補の国が次々と出てくるものと思われる。したがって新たに参加する国のことを考え、米国としては、TPPの参加条件をあまり厳しくしたくないのではと筆者は推理する。世間にはこのような事を理解していない「経済バカ」が多過ぎるようだ。筆者のこのような推理が正しいのかどうかは、そのうちはっきりして来る。

    前掲の11/2/14(第650号)「TPPに関する推理」で、TPPの将来の参加国に関して「中国との関係が深い台湾とインドネシア」に注目していると述べた。その台湾がどうもTPPに参加したがっているという話である。ただ台湾は、既に米国とFTAを結んでいる(ただし狂牛病騒動で米国からの牛肉の輸入を禁止したため、現在、FTAの執行は停止中)。

    これまで中国との経済関係を深めて来た台湾が、一転、中国の動きを牽制するかもしれないTPPに参加を希望しているというのだ。しかも中国との関係を重視する国民党が政権与党の台湾が、中国離れを加速させる可能性が出てきたというのだから注目される。たしかに中国の事を一番理解し、中国の危険性を熟知しているからこそ、台湾がTPPに強い関心を寄せ始めたとも解釈できる。また国連から脱退した台湾にとって、国際的枠組みによる安全保障の確保がそれだけ切実と言える。ただ台湾の中国離れを中国が黙って眺めているとは考えられない。仮に台湾のTPP参加が具体的になったら、一悶着が有りそうである。


    TPPを友好国同士による安全保障の枠組みと捉える筆者は、具体的なTPP参加交渉の中味にはあまり関心がない。例えばTPP参加によるGDPの増減の試算なんてどうでも良いと思っているほどである。とにかくTPPの枠組みを作り、これをスタートさせることが一番重要である。もし日本が譲歩し交渉がうまく行くのなら譲歩すれば良いとさえ思っている。


  • 世界経済のプロック化
    TPPだけではなく、EUとのEPAについても言えることは、この種の協定の根底には当事国同士の「友好」というものが基本に有ることが必要であり、なおかつ有るのが普通である。たとえ協定によって交易が活発になるとしても、友好国である相手国の産業を叩き潰してもかまわないという発想は絶対に放棄すべきである。

    例えばTPPによって参加国の特定の産業が壊滅的になるような事は避けるべきであり、逆に日本もされたくない。つまりいくら自由貿易と言えど自ずと限度がある。どのTPP参加予定国も国内に問題点や弱点を抱えている。日本を含めた交渉参加国はそのことを認識して妥協できる協定を作成すべきである。

    筆者は、交渉の成行きを楽観的に見ている。TPP参加予定国は友好国なのだから、互いになんとか満足できる協定が出来るものと筆者は見ている。もしTPPのスタート後、仮に問題が発生するようならその時点で協定を部分的に見直せば良い。


    反対に基本に友好というものがない国同士では、FTAやEPAの協定を結ぶことは不可能である。今日、日・中・韓の間でFTAの話が出ている。しかし公然と反日教育が行われているような国々と日本がFTAを結ぶことは無理であろう。この話も日本がTPPへの参加を表面化してから、中国が急に言出したことである。頭の中が「お花畑」になっている元首相などは「東アジア共同市場」とか言っているが、そのようなものは実現するはずがない。

    本誌の読者の方なら分っている通り、これから世界経済がプロック化に向かうというのが筆者の持論である。TPPもその一つと考える。またEUはその先駆けであったと理解している。ただEUに関してはユーロという統一通貨の採用は失敗であった(財政を統一しないまま通貨を共通化することは有り得ない)。また移民政策も問題になっている(移民受入れに緩い国を通じて移民がEU各国にどんどん流入し問題になっている)。これらのEUの問題点や失敗を踏まえTPPを構築することになると筆者は考える。


    ところが日本でTPPを推進している人々には、この「友好」というものが交渉の根本にあるという概念が欠落している。彼等は、TPP参加によって日本が昔(バブル期前の財政再建運動の時や小泉政権の緊縮財政時代)のように雪崩的な輸出ができるようになり、これによって日本はデフレから脱却できると主張している。つまりTPPが重要な成長戦略と言っているのである。

    彼等の頭には、自由貿易こそが互いの国の経済成長を促すといったご都合主義の経済理論がある。この根拠が学校で習った幼稚なリカードの「比較優位の原理」であるのだから情けない。またTPPを推進している経済人は、大体が事業の成功者であり狂信的な自由貿易主義者ばかりである。

    しかし筆者のようにTPPを安全保障の枠組みと捉えている者は、これらの人々と考えが大きく違う。日本は、大胆に財政支出を行い、内需を大きく伸ばしむしろTPP参加国からの輸入を増やすべきと思っている。このような心構えでなければ、TPP交渉はうまく行かないと筆者は考えている。


    ただし交渉相手が友好国ばかりなのだから、日本の農業なども全て大丈夫とまでは言わない。日本も農業のような弱い分野の事情を説明すべきであり、他の国から理解と譲歩を得る必要がある。細かく見れば、現在FTAを結んでいない国、例えばオーストラリア(オーストラリアとは交渉途中)なんかとは交渉が難しくなると思われる。

    例えばオーストラリアとは、将来、「和牛」の輸入が問題になる可能性がある。どういう事情があったのか「和牛」がオーストラリアに持込まれているのである。これまでオーストラリア人は、日本の和牛のような油ぽい肉を好まないと言われてきた。しかし食べてみるとやはり「和牛」は旨いということに気付いたようで、「和牛」が増産されているという話である。もし「和牛」がもっと大増産され、日本にも輸出するということになれば、これは日本の和牛生産者にとっても脅威になる。これに対しては今から対策を講じておく必要があると筆者は思っている。



来週は、TPPと日本の安全保障の関係を取上げる。これで今回のTPPシリーズの最後にしたい。筆者は、既に日本と中国の間で「冷戦」が始まっていると言って良いのではと思っている。



13/3/18(第748号)「日本の雪崩的輸出の歴史」
13/3/11(第747号)「TPP交渉と日本警戒論」
13/3/4(第746号)「TPPの実態」
13/2/25(第745号)「有り得る軍事的衝突」
13/2/18(第744号)「群盲象をなでる」
13/2/11(第743号)「まず印紙税の廃止」
13/2/4(第742号)「「構造改革」と「規制緩和」の本当の姿」
13/1/28(第741号)「意志を持った「やじろべい」」
13/1/21(第740号)「金融政策に対する提言」
13/1/14(第739号)「年頭にあたり」
12/12/31(第738号)「中央銀行の働きの変化」
12/12/24(第737号)「日銀とFRBの違い」
12/12/17(第736号)「師走の総選挙の感想」
12/12/10(第735号)「建設国債引受け発言の波紋」
12/12/3(第734号)「先進国だからデフレ」
12/11/26(第733号)「総選挙の行方」
12/11/19(第732号)「残る経済成長路線」
12/11/12(第731号)「先進国における経済成長」
12/11/5(第730号)「投資と経済成長」
12/10/29(第729号)「プラスアルファーの議論」
12/10/22(第728号)「アラン・ブラインダー教授の文章」
12/10/15(第727号)「バランスを欠いた報道」
12/10/8(第726号)「中国からの撤退も視野に」
12/10/1(第725号)「中国の反日暴動に対する感想」
12/9/24(第724号)「本誌の中国問題ダイジェスト」
12/9/17(第723号)「技術流出と日本の伝承文化」
12/9/10(第722号)「技術流出の現状」
12/9/3(第721号)「知的所有権の話」
12/8/27(第720号)「最近の出来事」
12/8/6(第719号)「御用学者の話」
12/7/30(第718号)「増税マニア達は現実離れ」
12/7/23(第717号)「吉川洋東大教授の文章」
12/7/16(第716号)「消費税増税が待ち遠しい?」
12/7/9(第715号)「消費税は「鬼門」」
12/7/2(第714号)「増税騒動の感想」
12/6/25(第713号)「今日の諸情勢の変化」
12/6/18(第712号)「世界中「展望がない」」
12/6/11(第711号)「schole(スコレー、暇)の話」
12/6/4(第710号)「ギリシャ化の話」
12/5/21(第709号)「単式簿記の世界」
12/5/14(第708号)「文春と朝日の関係」
12/4/30(第707号)「続・増税論議と文芸春秋」
12/4/23(第706号)「増税論議と文芸春秋」
12/4/16(第705号)「増税論議と政界」
12/4/9(第704号)「増税派の人々」
12/4/2(第703号)「松下政経塾政治家と増税」
12/3/26(第702号)「英国の永久債発行」
12/3/19(第701号)「過去の号の修正」
12/3/12(第700号)「本誌700号に寄せて」
12/3/5(第699号)「投資顧問AIJの事件」
12/2/27(第698号)「橋下維新政党へのコメント」
12/2/20(第697号)「地方自治体と通貨」
12/2/13(第696号)「デフレ経済下での増税」
12/1/30(第695号)「無税国家への道」
12/1/23(第694号)「世界的な金利低下」
12/1/16(第693号)「過剰貯蓄による災い」
12/1/9(第692号)「バーチャルな話」
11/12/19(第691号)「シミュレーションモデルの話」
11/12/12(第690号)「財政破綻のすすめ」
11/12/5(第689号)「「騒ぎ屋」の時代」
11/11/28(第688号)「技術進歩の恩恵」
11/11/21(第687号)「避けられる根本問題」
11/11/14(第686号)「物事の本質」
11/11/7(第685号)「組織の異端児的存在」
11/10/31(第684号)「組織の研究」
11/10/24(第683号)「気乗りしないTPPの話」
11/10/17(第682号)「解決策はユーロ離脱か」
11/10/10(第681号)「ポール・クルーグマン教授の変心」
11/10/3(第680号)「現実論者VS観念論者」
11/9/26(第679号)「世界的な「日本化」」
11/9/12(第678号)「欧州発のリーマンショック」
11/9/5(第677号)「野田政権の成立」
11/8/29(第676号)「円相場の今後の動き」
11/8/22(第675号)「欧米経済の変調」
11/8/15(第674号)「脱・反原発派の人々」
11/8/8(第673号)「食品安全委員会の問題」
11/8/1(第672号)「タウンミーティングの報告」
11/7/25(第671号)「意味の解らない暫定基準値」
11/7/18(第670号)「政府が明らかにすべきこと」
11/7/11(第669号)「放射線防護の専門家」
11/7/4(第668号)「ダイオキシンとプルトニウム」
11/6/27(第667号)「付加価値を生まない発電」
11/6/20(第666号)「付加価値と発電」
11/6/13(第665号)「ポスト原発はやはり原発」
11/6/6(第664号)「菅政権に対する不信任案騒動」
11/5/30(第663号)「ニューニューサンシャイン計画」
11/5/23(第662号)「原発と電力会社の経営」
11/5/16(第661号)「原発推進派と反・脱原発派」
11/5/2(第660号)「菅政権の迷走」
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11/3/21(第654号)「東日本巨大地震」
11/3/7(第653号)「日本が貿易立国という誤解」
11/2/28(第652号)「日本は本当に貿易立国?」
11/2/21(第651号)「関税以外の貿易障壁」
11/2/14(第650号)「TPPに関する推理」
11/2/7(第649号)「菅首相の消費税増税」
11/1/31(第648号)「モラルハザードの話」
11/1/24(第647号)「問題は分配ではない」
11/1/17(第646号)「永久債の日銀引受け」
11/1/10(第645号)「日本の経済成長シナリオ」
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