経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




13/3/4(746号)
TPPの実態

  • 日露関係の変化
    先週、先々週で中国の実情を取上げ、尖閣を巡り中国からの挑発によって、軍事的衝突が有り得ると述べた。それにしても中国軍(海軍)によるレーダー照射事件が、思った以上に国際的な非難を浴びている。また人民解放軍の深く関わった勢力が、各国の軍事関連機関や企業にハッカー行為を行っていると報じられている。さらに米国政府関係者やジャーナリストに対する中国の突出したロビー活動(接待プラスアルファー)が報道されている(尖閣問題に米国が関わらないよう働きかけていた)。これは筆者が昔から予想していた通りのことである。それにしても中国の米政府関係者に対するロビー活動は、戦前から有名でありながら、いまだに米国人は手玉に取られているのである。

    これら中国の異常さを示す行為が次々と世界に明らかになり、さすがの中国もしばらくは大人しくなる可能性がある。しかし中国は分かりにくい国である(まさに「群盲象をなでる」状態の国)。必ずしも予想される行動を取らない。例えば天皇の訪中を要請しておきながら(間抜けな日本の親中派の政治家や官僚を操作して天皇訪中を実現させた)、裏では反日教育を開始していた(このような国は世界中探しても他には絶対にない)。このように相手を油断させ、裏をかくのが中国という国の常套手段である。


    日本としては、日中の軍事的衝突が有りうることを前提に備えることが重要である。最も基本的なことは、日本の防衛力の整備であり、防衛力を発揮するための法整備である。たしかに米国は、尖閣が日米安保条約の適用範囲であることを明言している。

    しかし事が起った時、米軍が本当に動いてくれるといった保証はない。米軍が動かない場合には、日本が単独で中国軍を追っ払うことになる。また仮に米軍が動くとしても、日本の自衛隊も一緒に動く必要がある。自衛隊がじっとしていて、米軍だけが軍事行動を起すという事はないと覚悟すべきである。


    一番上等な手段は、人民解放軍に突発的な軍事行動を採らせないことである。このことは誰もが分っている。しかしこれは日本単独で出来るものではない。他の国との緊密な軍事同盟というものが、中国の抑止には必要である。もちろん日米の軍事同盟関係というものが最も重要である。

    ところがちょっと前までは、日本が完全な独立を実現するために、日米の軍事同盟関係を薄めてもかまわないという意見が流行った。中には日本は、米国や中国と等距離に位置すべきと主張する者まで現れた。しかし尖閣を巡って中国の無法な行動が次々と起ると、さすがにこのような人々も沈黙するようになった。


    中国軍の暴発を抑止するためには、米国だけでなく他の国との関係も緊密にすることが有効である。他の国として頭に浮かぶのはまずロシアである。昨年は、中国の尖閣を巡った挑発行為、韓国大統領の竹島上陸、そしてメドジェーエフ首相の北方領土訪問が有り、まさに日本は周辺国から袋叩き状態であった。しかし昨年ロシアの大統領がプーチンに変わり状況は変わってきた。

    明らかにプーチン大統領は、日露関係を改善しようとしている。背景には、まずこれまで高値を維持してきた石油やガスの今後の価格推移が不透明になっていることである。原因は米国におけるシェールガスの開発である。目先でも、シェールガスの供給増により、余剰になった米国の石炭が欧州に輸出され(一部が中国にも輸出されたため中国の石炭価格が下がり、これが中国の大気汚染悪化の一つの原因なったのではと本誌でも取上げた)、欧州でのロシア産ガスの需要が減っているという話がある。


    ロシアとしてはガスの安定した需要家が必要であり、これに関して一番期待が持てるのが日本ということになる。もちろん日本の産業技術導入によるロシア経済の立直しも視野にある。したがってロシアとしても、日本との関係改善が急務ということになる。このために北方領土問題を解決し、日露平和条約を結ぶという気運が盛上がっていると筆者は見ている。

    筆者は、森元首相の先日のプーチン大統領との会談の様子を見ても、北方領土問題の解決は意外と早いのではないかと思っている。ゴールデンウィークの頃には安倍総理が訪露し、何らかの方向(場合によっては結論)が出る可能性があると思っている。筆者が大胆に予想するのなら「三島返還の実現」である。


  • FTA(自由貿易協定)とEPA(経済連携協定)
    中国の軍事的暴発を抑止するには、日米、日露との関係強化だけに止まる必要はない。他にも日本の友好国は沢山あり、特にTPPの対象国にはそのような国が多い。現在のところTPPの対象は、環大平洋地域ということになっている。また協定の内容が交易など経済に絞られている印象がある。

    しかし11/2/14(第650号)「TPPに関する推理」で述べたように、2年前から筆者はTPPが経済同盟に止まらず、将来、軍事同盟に発展する可能性があることを指摘してきた。もし筆者の推理通り軍事的色彩が強まれば、協定の内容も変わるし対象国も広がると思っている。いわゆる拡大TPPということになる。

    当初、TPPはEUを意識してスタートしたと見られる。そのEUは経済同盟と見なされているが、むしろ元々は軍事同盟を意識したものであった。具体的にEUは、二度の世界大戦で悪役を演じたドイツをいかに封じ込めるかが大きな課題であった。このように安全保障的要素が全く無い経済同盟なんてまず有り得ないということである(これに関連し欲に目が眩んだ経済人が「政治と経済とは別」と叫んでいるのを、筆者は「戯言」と思っている)。

    EUと同様にTPPには、経済協定という面と、今のところ表立ってはいないが安全保障的要素があると筆者は見ている。しかし後者の安全保障面については後日取上げることにし、今週はこれ以上踏込まない。先にTPPの経済面の方を取上げることにする。元々TPPは、シンガポール、ブネネイ、チリ、ニュージランドといった経済的には小国である4カ国の協定であり、ここに米国が乗込んできたものである。


    ところで自由貿易協定にはFTA(自由貿易協定)とEPA(経済連携協定)がある。後者EPAは、前者FTAに何らかの要素をプラスアルファーしたものである。例えば二国間の関税を撤廃するのみならず、人の交流や投資の自由化などを付加えたものである。

    しかし二国間の自由貿易協定となればFTAに止まることはなく、他の条件や要素が付け加えられるのが普通である。つまりFTAと言われているものも、実質的には全てEPA(経済連携協定)である。例えば日本もインドネシアとFTAを結んだ際には、看護士の受入れを決めている。つまり名前はFTAであっても、これも実態はEPAである。TPPはこのEPAを多国間で取り決めようというものである。


    しかし当初、日本はFTA(実態はEPA)に大きく出遅れた。日本は、世界貿易機関(WTO)を重視するあまり、二国間の自由貿易協定に躊躇していた。むしろFTAをWTOの抜け駆けと見なし、このような動きがWTOの機能を阻害するものと認識していた。しかし2001年のドーハラウンド開始以降、WTOの動きは事実上止まってしまった。

    やはり交易において、世界中一斉にしかも一律で条件を決めるということが無理になって来ているのである。これ以降、二国間でより柔軟な交易関係が構築できるFTAに流れは完全に変わった。例えば韓国などは、EUや米国と既にFTAを結んでいる。これらによって日本は、少なからず不利益を被っている。


    しかし最近においては、日本もかなり巻き返している。既に13カ国の国、及び地域(ASEAN)とFTAを結んだ。さらにオーストラリア、モンゴル、カナダとは交渉中である。ただ中国や韓国とも交渉中ということになっているが、実際には中国とは中断している(筆者は中国とは無理と考える。韓国も歴史認識とか言っている状態では困難と考える)。

    TPPに関して「TPPによって日本の農業は壊滅する」と言った大袈裟な事を言っている人々がいる。しかしTPP参加国と予定国のほとんどは、既に日本とFTAを結んでいるか、あるいは交渉中の国である。つまりTPPと言っても、実質的には日本と米国との間のFTA交渉である。強いて挙げれば、これにオーストラリアとニュージランドとの農産物に関わる交渉が加わる程度と筆者は認識している。以前はメキシコとの間で豚肉が問題になると思っていたが、これも既にメキシコとはFTAを締結済みである。

    また米国との間でも日本に輸入する牛肉については先月から月齢30ヵ月以下に緩和されていて、現在、さしたる大きな懸案はない。日米間でもし問題があるとするなら、農業ではなく、保険や投資家・国家訴訟制度(ISD)といった分野と筆者は見ている。実際、JA全中はTPPに猛反対(交渉を有利に進めるためにも反対派は必要だが、JA全中の反対は芝居がかっている)を唱えていて、これは農産物が問題という事になっているが、本当のところはJA共済が心配なのではないかと言った穿った見方があるほどである。



来週はTPPの話をもう少し続ける。



13/2/25(第745号)「有り得る軍事的衝突」
13/2/18(第744号)「群盲象をなでる」
13/2/11(第743号)「まず印紙税の廃止」
13/2/4(第742号)「「構造改革」と「規制緩和」の本当の姿」
13/1/28(第741号)「意志を持った「やじろべい」」
13/1/21(第740号)「金融政策に対する提言」
13/1/14(第739号)「年頭にあたり」
12/12/31(第738号)「中央銀行の働きの変化」
12/12/24(第737号)「日銀とFRBの違い」
12/12/17(第736号)「師走の総選挙の感想」
12/12/10(第735号)「建設国債引受け発言の波紋」
12/12/3(第734号)「先進国だからデフレ」
12/11/26(第733号)「総選挙の行方」
12/11/19(第732号)「残る経済成長路線」
12/11/12(第731号)「先進国における経済成長」
12/11/5(第730号)「投資と経済成長」
12/10/29(第729号)「プラスアルファーの議論」
12/10/22(第728号)「アラン・ブラインダー教授の文章」
12/10/15(第727号)「バランスを欠いた報道」
12/10/8(第726号)「中国からの撤退も視野に」
12/10/1(第725号)「中国の反日暴動に対する感想」
12/9/24(第724号)「本誌の中国問題ダイジェスト」
12/9/17(第723号)「技術流出と日本の伝承文化」
12/9/10(第722号)「技術流出の現状」
12/9/3(第721号)「知的所有権の話」
12/8/27(第720号)「最近の出来事」
12/8/6(第719号)「御用学者の話」
12/7/30(第718号)「増税マニア達は現実離れ」
12/7/23(第717号)「吉川洋東大教授の文章」
12/7/16(第716号)「消費税増税が待ち遠しい?」
12/7/9(第715号)「消費税は「鬼門」」
12/7/2(第714号)「増税騒動の感想」
12/6/25(第713号)「今日の諸情勢の変化」
12/6/18(第712号)「世界中「展望がない」」
12/6/11(第711号)「schole(スコレー、暇)の話」
12/6/4(第710号)「ギリシャ化の話」
12/5/21(第709号)「単式簿記の世界」
12/5/14(第708号)「文春と朝日の関係」
12/4/30(第707号)「続・増税論議と文芸春秋」
12/4/23(第706号)「増税論議と文芸春秋」
12/4/16(第705号)「増税論議と政界」
12/4/9(第704号)「増税派の人々」
12/4/2(第703号)「松下政経塾政治家と増税」
12/3/26(第702号)「英国の永久債発行」
12/3/19(第701号)「過去の号の修正」
12/3/12(第700号)「本誌700号に寄せて」
12/3/5(第699号)「投資顧問AIJの事件」
12/2/27(第698号)「橋下維新政党へのコメント」
12/2/20(第697号)「地方自治体と通貨」
12/2/13(第696号)「デフレ経済下での増税」
12/1/30(第695号)「無税国家への道」
12/1/23(第694号)「世界的な金利低下」
12/1/16(第693号)「過剰貯蓄による災い」
12/1/9(第692号)「バーチャルな話」
11/12/19(第691号)「シミュレーションモデルの話」
11/12/12(第690号)「財政破綻のすすめ」
11/12/5(第689号)「「騒ぎ屋」の時代」
11/11/28(第688号)「技術進歩の恩恵」
11/11/21(第687号)「避けられる根本問題」
11/11/14(第686号)「物事の本質」
11/11/7(第685号)「組織の異端児的存在」
11/10/31(第684号)「組織の研究」
11/10/24(第683号)「気乗りしないTPPの話」
11/10/17(第682号)「解決策はユーロ離脱か」
11/10/10(第681号)「ポール・クルーグマン教授の変心」
11/10/3(第680号)「現実論者VS観念論者」
11/9/26(第679号)「世界的な「日本化」」
11/9/12(第678号)「欧州発のリーマンショック」
11/9/5(第677号)「野田政権の成立」
11/8/29(第676号)「円相場の今後の動き」
11/8/22(第675号)「欧米経済の変調」
11/8/15(第674号)「脱・反原発派の人々」
11/8/8(第673号)「食品安全委員会の問題」
11/8/1(第672号)「タウンミーティングの報告」
11/7/25(第671号)「意味の解らない暫定基準値」
11/7/18(第670号)「政府が明らかにすべきこと」
11/7/11(第669号)「放射線防護の専門家」
11/7/4(第668号)「ダイオキシンとプルトニウム」
11/6/27(第667号)「付加価値を生まない発電」
11/6/20(第666号)「付加価値と発電」
11/6/13(第665号)「ポスト原発はやはり原発」
11/6/6(第664号)「菅政権に対する不信任案騒動」
11/5/30(第663号)「ニューニューサンシャイン計画」
11/5/23(第662号)「原発と電力会社の経営」
11/5/16(第661号)「原発推進派と反・脱原発派」
11/5/2(第660号)「菅政権の迷走」
11/4/25(第659号)「放射線は身体に良い?」
11/4/18(第658号)「山を越えたか?」
11/4/11(第657号)「原子力の専門家」
11/4/4(第656号)「本当に重大な事は何か」
11/3/28(第655号)「電力不足で表沙汰になった事実」
11/3/21(第654号)「東日本巨大地震」
11/3/7(第653号)「日本が貿易立国という誤解」
11/2/28(第652号)「日本は本当に貿易立国?」
11/2/21(第651号)「関税以外の貿易障壁」
11/2/14(第650号)「TPPに関する推理」
11/2/7(第649号)「菅首相の消費税増税」
11/1/31(第648号)「モラルハザードの話」
11/1/24(第647号)「問題は分配ではない」
11/1/17(第646号)「永久債の日銀引受け」
11/1/10(第645号)「日本の経済成長シナリオ」
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