経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




13/2/25(745号)
有り得る軍事的衝突

  • 引くに引けない中国海軍
    先週号で取上げた文芸春秋10月号の小川和久氏(軍事アナリスト)、浅野亮氏(同志社大学教授)、富坂聡氏の三氏による対談(タイトル「暴走する人民解放軍」)からもう一つ情報を紹介する。ここで人民解放軍全体が拝金主義に陥っており、海軍もその例外ではないという指摘がなされている。中国の経済発展に伴い、国有企業の幹部が金銭的に潤っている。それに対して人民解放軍の軍人には取り残されているという感覚がある。

    特に陸軍に比べ力のない海軍にはその思いが強い。海軍はウライナから購入した建造途中の空母を改造したが(オモチャのような空母を作った)、その費用の一部は海軍の幹部に流れているという。また海軍は中国海洋石油が南シナ海で掘削プラットフォームを出した時(ペトナムやフィリピンが猛反発し一触即発状態になった)、4隻の軍艦でこれを守った。当然、その時に海軍は報酬(用心棒代だけでなく、これ以上の何らかのプラスアルファーが考えられる)を得ているという話である。


    尖閣に関して中国、特に中国海軍がどうしてこれほどしつこいのか(とにかく常軌を逸している)、筆者はずっと疑問であった。まさに日中関係を壊しても尖閣は取りに行くという勢いである。しかしこれも中国海軍が自分の利益追求に走っているとしたなら理解ができる。尖閣周辺で本当に経済的にペイする原油生産が実現可能なのかを別にして(筆者は疑問に思っている。根拠は有望と言われていた日韓大陸棚の試掘でも経済的にペイする結果が出ていないこと・・中国はシェールガスの方が有望)、中国海軍はとにかく尖閣に執着しているのである。たしかに中国が目立って尖閣の領有権を主張し始めたのは、原油価格が上昇し始めてからである(1バーレルが10ドルを切っていた時代は静かなものであった)。

    そして注目点は、中国政府が、この海軍の暴走を止められないくらい弱体化しているということである(むしろ習近平総書記は海軍に甘いことを言って自分の地位を守ろうとしていると筆者は見ている)。今、中国政府は尖閣問題の落とし所を探っていると思われる。海軍の顔を立てながら、日本との関係が決定的に悪くならないような解決が一つの狙いである。

    それが「日中による尖閣の共同管理」ということであろう。これによって尖閣周辺での海洋資源の開発を可能にし、利得を中国海軍にもたらそうという話である。もしこの推理が正しいとすれば、筆者にとって「たったこれだけの事で中国が日中関係を悪化させて来たのか」とばかばかしく思う他はない。しかし「南シナ海でうまく行ったのだから、尖閣でも」ということは十分有り得る。

    世界には、軍が経済に何らかの関わりを持つ軍産複合体の国がある。しかし中国の人民解放軍のように、あからさまな経済活動を行っているケースはめずらしい。他では北朝鮮くらいなものであろう。ただ軍が独自の経済活動を行っているということになれば、それだけ中国の人民解放軍は独立性が高く、政府のコントロールが効きにくいということになる。しかも習近平総書記体制に代わり政府の弱体化が目立つ。したがって軍が暴走し、これを政府が追認するといった事態が起る危険性が十分考えられる。


    政府の弱体化以外にも、中国海軍の暴発を誘発する要因がいくつか考えられる。一つは中国の一般国民からの「煽り」といったものである。90年代から愛国教育という名の反日教育が行われてきていて、多くの中国国民はこと日本に対しては敏感になっている。誰も存在さえ知らず全く関心のなかった尖閣諸島であるにもかかわらず、今日、中国国民は「中国の尖閣を日本が盗み取った」と思い込んでいる。中国海軍の尖閣に関する挑発が経済的な利得を目的に始まったものであっても、国民の感情まで火がついた以上、海軍も引くに引けない状態になっている。

    また今日のように映像が簡単に届く時代では、海上での軍事的衝突の様子を国民が容易に目にすることになる。地味な陸軍の動きと違い、海上での衝突は派手さが有り国民の感情を余計に刺激する。反捕鯨団体のSS(シー・シェパード)が、反捕鯨主義のスポンサーを満足させ金を出させるために、海上での派手な抗議活動の映像を彼等に送っていることを考えれば良い。特に情報が国家によって管理されている中国なら、自分達にとって都合の良い映像だけを国民に流すことが可能であり、これによって国民を洗脳することができる。これらの事を考えると、日本も尖閣を巡って日中間で軍事的な衝突が有り得ることを覚悟しておく必要があると筆者は思っている。


  • 時代錯誤の「覇権主義」
    前段で述べたように、小さいかもしれないが偶発的な軍事的衝突が起り得る(レーダー照射を軍事的行動という見方も有り、そう考えれば既に起っているとも言える)。筆者は、このような事態が起ることを完全には否定はできないと考える。日本が出来るのはその可能性をなるべく低めることだけと思っている。したがって次に考えることは、その方法を探ることであるがこれは来週である。


    話を進める前に中国という国をもう少し考えてみる。中国の経済発展の目的は、まず国民の生活を豊かにすることであった。しかしそれ以上に重要な狙いは、軍備の拡張であった。ちょうど日本の明治維新政府の「富国強兵」とちょっと似ている。しかし当時の日本の「富国強兵」が欧米列強の植民地政策に対抗するものであったのに対して、中国の軍備拡張はどう見ても「覇権主義」的と言える。

    ただ「覇権主義」と言っても、中国は世界の盟主になりたいのではなく、せいぜいアジア、現実的には東アジアの盟主を目指していると見られる。その実現に対して最も目障りなのが日本の存在である。一番は中国であり、日本は二番目以下に甘んじるべきと思い込んでいるのであろう。中国のデモ隊が「小日本」と叫んでいるのもこの感覚の延長と筆者は見ている。事業仕分けでレンホウ参議院議員が「日本はどうしても一番でなくてはいけないのですか。二番ではいけないのですか」と発言した時、筆者は「なるほど」と思ったものである。


    戦前の列強による植民地獲得競争や戦後の冷戦時代が終わり、先進国は目立った軍備の拡張を行っていない。日本はずっと防衛費を削減し続け、今日、米国も軍事費の削減がテーマになっている。ところが比較的大きな国の中で他国から侵略される可能性が全くない中国だけが、毎年軍事費を大幅に増大させている。また今の時代にまだ「覇権」を握ろうというのだから、中国は本当に異様な国である。

    また中国の場合、この時代錯誤の「覇権主義」と人民解放軍の経済的利得が結びついているのでさらにややこしくなっている。特に中国海軍は海洋権益と言っている。おそらく海洋権益とは、魚を除けば石油などの海洋資源を指すと思われる。


    しかし石油開発は「千みつ」と言われている。これは千の井戸を掘って当るのは三つくらいという意味であり、石油開発がまさに博打のようなものという例えである。つまり中国が執着している場所から本当に石油が出るのか不明である。筆者は、石油メジャーがあまり関心を示していないところを見るとたぶん出ないのではないかと思っている(たとえ出ても大したことがない)。

    海底の鉱物資源の方も望み薄である。昔、日本でもマンガン団塊というものが脚光を浴びた。日本は実際に鉱区を獲得し、調査後(1975年頃から調査)、商業生産を試みた。しかし採算が合わないということで今は中断しているはずである。


    最近では大きなレアアースの鉱床が見つかったと話題になった。しかしレアアースの価格が暴落している中、これも採算がとれるのか不明である。また簡単にレアアースが採掘できるのなら、最早「レア」ではなくなり、さらに価格は低下するはずである。

    さらにレアアースの精錬にはトリウムという放射性物質(原発の原料にもなる)が副産物として出る。したがって今の日本の雰囲気を考えると、国内での精錬はかなりハードルが高い(中国にでも精錬を頼むのか)。このように夢を見ているように「海洋権益だ」「海底資源だ」と人々(中国海軍だけでなく日本人も)は叫んでいるが、現実の話として経済的にペイするのか全く分らない。

    むしろ海洋開発は、今日ではリスクが大きくなっている。例えばBPは、メキシコ湾の石油生産設備から大量の原油を流出させ、膨大な損害賠償を課せられた。賠償金でBPは潰れそうになったほどであった。中国の海洋開発にも同様のリスクが伴う。開発の過程で海を汚した場合、まさか中国は責任を取らないとは言わないであろうが。筆者は、最近、200海里の経済水域は、自国が開発をするというより無法で無秩序な国に開発をさせないことが目的になったと思っている。



来週は、中国との偶発的な軍事的衝突を回避する方策を考えたい。以前から述べているようにTPPもその一つと筆者は捉えている。

オバマ大統領との会談で、安倍総理は事実上のTPP交渉参加を表明した。筆者は非常に結構なことと思っている。もっと中途半端であいまいな話になることも考えられたが、かなりストレートな話し合いがなされたようである。またロシアとの領土問題も進展が有りそうである。このように筆者が本誌で述べたい事柄の方が速く進むので、追付くのが大変になった。



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