経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




12/12/24(737号)
日銀とFRBの違い

  • FRBは議会も根回し
    安倍政権発足で、日銀や日銀の金融政策が注目を集めている。自民党の一部やみんなの党は政府に日銀総裁の解任権を持たせるよう、日銀法の改正を主張している。デフレ経済が続く日本では、金融政策によってこれを克服しようという意見が強い。政治家達は、今日の日銀がデフレ克服に真剣に取組んでいないという印象を持っているのである。

    ただ金融政策だけでデフレ克服が可能なのか、疑問もある。安倍自民党総裁は、金融政策はあくまでも補助的と考えていて、本筋は財政政策と見受けられる(10兆円を超える補正予算に見られるように)。しかし財政政策を前面に出すと、自民党内にいる日本政府の累積債務を気にする者達の抵抗が考えられ、これらの人々にも配慮が必要になる。そのためどれだけ効果があるか疑わしいが、当分の間、日銀への圧力を強める形を取らざるを得ない。


    しかし筆者は、日銀にどれだけ圧力が加わっても、日銀が自ら大きく変身することはないと思っている。日銀のこのような現状に対して、米国のFRBの大胆な金融政策が注目を集めている。先日のFOMCでは、バーナンキ議長が「失業率が6.5%になるまでゼロ金利政策を継続させる」と宣言している。

    米国FRBは失業率にまで関与し、それに責任を持っているのである。同じ中央銀行でも日銀と大きく異なる点である。日銀は、欧州の中央銀行と同様、失業率まで責任を持たされていない。ただFRBが失業率に責任を持たされたのは1977年以降という話である。もっともその前からFRBは経済政策全般に深く関わって来た。1951年のアコード締結までの米国国債の青空天井の買入れなんかはその典型である。


    米国でも、財政政策に比べ金融政策が弱いことはほぼ常識になっている。01/10/22(第227号)「9月11日の以前と以降」で述べたように、同時多発テロ以降の米国の景気後退に対して、グリーンスパン前FRB議長は、危機感を持って議会関係者に財政出動をするよう働きかけていた。おそらくバーナンキ議長も、金融政策より財政政策の方が有効と思っていると思われる。

    しかし小さな政府を指向する共和党が下院で多数を占めていて、オバマ大統領は自由に財政政策を行えない状況にある。失業率を低下させることは、米政府とFRBの共通の目標である。財政政策が議会の都合で縛られている以上、弱いと認識されているが金融政策に負担を掛ける他がないのである。


    米国では、経済政策と言えば金融政策と言われた時代が続いた。しかし近年、経済政策の中で財政政策の重みが増している。おそらく米国も、日本と同様、経済がデフレ傾向に傾いているからであろう(デフレは戦前の世界大恐慌以来)。

    ただし米国の方が日本より金融政策が有効性を持っていると思われる。それは米国経済の方が金利に感応的と見られるからである。米国民は、ほとんどの人々がクレジットカードを持ち、住宅だけでなく大半の消費を借金で賄っている。大学の授業料なんかもローンである。したがってローン社会である米国では経済全体が金利に敏感であり、金融政策が日本より効果的と言える。


    対して日本では、景気後退時には金融緩和に加え、公共投資に代表される財政政策が重視されてきた。これについては金融政策を中心とした米国の方がスマートであると、多くの日本の経済学者やエコノミストが批難をしてきた。この傾向は今日でも続いていて、彼等はいまだに公共投資に抵抗を示している。民主党の「コンクリートから人へ」というキャッチフレーズもこのような雰囲気に影響され生まれたものであろう。

    たしかに日本の景気対策としての公共投資については、昔の米国のエコノミストも違和感を持っていた。これにはいくつかの理由が考えられる。まず米国では、公共投資は州が行うもので連邦政府はほとんど関与しない。連邦政府が主導した公共投資は大恐慌の後のニューディール政策ぐらいなものである。

    また米国は広すぎるので、公共投資の効果が国全体に広まらないのである。つまり公共投資による景気対策という発想が米国では元々薄かったのである。したがって米国の景気対策と言えば、もっぱら金融政策や、財政政策ならば減税ということになる。ただ最近では米国のエコノミストも日本での公共投資の有効性を理解するようになっている。いまだに公共投資に反対している日本の間抜けなエコノミストや政治家は、みごとに梯子を外されているのである。しかも彼等はそれに気付いていない。


  • 日銀の実力は疑問
    日銀にFRBのように失業率や国民経済にも責任を持たせるべきという意見がある。しかし筆者はそれはとても無理と考える。今の日銀にそんな実力はないと思っている。だいたい日銀は経済対策としての財政政策にさえ反対している。それによって国債の新規発行が増え物価が上昇することを警戒しているからである。つまり日銀マンにとって唯一大事な事は日銀券の価値を守ることである。したがって日銀は一人円高を喜んでいると言われても仕方がない。

    日銀は、日本がデフレ経済で国民が窮地に陥っていることを認めないための理論武装を行っている。06/2/27(第426号)「潜在GDPとGDPギャップ」06/3/6(第427号)「GDPギャップのインチキ推計法」で述べたように、イチキ生産関数を用いて過小にデフレギャプ(デフレギャプをわずか数パーセントと)を推計している。これも財政出動を牽制することが狙いである。

    対してバーナンキFRB議長の発言は明解である。「今日の米国の失業の原因は需要不足であり、決してミスマッチではない」と言っている。前段で述べたように場合によっては議会関係者に財政出動を根回しするFRBとこのような日銀では雲泥の差がある。


    どうしてこんな事になるのか不思議である。しかし筆者は、これは日銀だけでなく日本の官庁エコノミスト全体の問題と捉えている(またほとんどのメディアや経済誌にも言える)。もっと言えば、日本の経済学界全体がおかしいのである。

    08/10/6(第544号)「マンキュー教授の分類」で述べたように、米国にもシカゴ学派のように頭のおかしい学者群がいる。しかしこれらの人々は政府の中に入って仕事をすることはない。米政府に関与するエコノミスト多いが、全てがケインジアンである。米国では新古典派の中でも供給サイドを重視する考えの政治家は、共和党のティーパーティぐらいであり限られている。ところが日本の政治家や官僚には、供給サイドを重視する者、つまり構造改革派が実に多い。

    これも20年ほど前にシカゴ学派の経済学者が連続してノーベル経済学賞を取ったことが影響しているのかもしれない。しかしシカゴ学派の経済学者は、象牙の塔に隠り現実の経済にはコメントを行わないのが普通である。例外はフリードマンぐらいであるが、彼がケインズの弟子であったことを考えると納得が行く。

    当然、FRBに関係するエコノミストも全てケインジアンであり現実的である。一方、日銀や官庁にはシカゴ大学(筆者は上九一色村の道場と呼んでいる)に留学した者が多い。とんでもない勘違いで留学先を選んだものである。これも日本で有名なサミュエルソンやソローが、シカゴ学派の新古典派と同じと誤解されていることと関係しているのだろう。サミュエルソンやソローは立派なケインジアンであり、むしろシカゴ学派は彼等の論敵である。このように今日の日銀の人材の実力を考えると、とても日銀に今以上の仕事を託すことは難しいと考える。


    ところで日銀が設立されたのは明治15年(1882年)に対してFRBが創られたのは1913年である。つまり日銀の方が古い。ただしFRB以前にも米国にはいくつかの中央銀行があり発券業務を行っていた。ただし当時の中央銀行は、政府から独立した完全な民間企業であった。

    ちなみにこれらの銀行の株式のほとんどはロスチャイルド家(後にロックフェラー家も加わる)が握っていた。もっとも今日の米国連銀の大株主もロスチャイルド系とロックフェラー系の銀行である(連銀は100%民間資本であり、米政府は株式を持っていない)。驚くことに日銀の株主にもロッフェラーやロスチャイルドの名があるという噂が根強くある(日銀の株式(出資証券)の55%は日本政府が所有しているが、残りの株主は明らかにされていないようで真相は分らない)。しかしロスチャイルドやロックフェラーは、株主として配当を受けているだけで米国の金融政策に直接口は出してはいないようである。

    政府の一部として金融政策を担う目的でFRB(理事や議長は大統領が任命し、議会が承認する)や日銀は設立された。これは発券業務だけを行うことを目的に自然発生的に生まれた欧州の中央銀行と違う点である。このせいか欧州の中央銀行が経済政策としての金融政策に躊躇してきた歴史がある。しかし今回の欧州の経済危機に遭遇し、これを反省し、欧州中央銀行(ECB)もやや金融政策に積極的になって来たところである。安倍自民党総裁が日銀を戦略的に使おうと発言したところ(当り前の話)、「発展途上国のような発想」と民主党の金融担当相が批難し、経団連などからも同様の声が一斉に上がっていた。しかし彼等は単に世界の中央銀行に関する知識が欠けているだけである。


    ついでながら米国は英国から独立後も利息を払って英国の紙幣を使っていた(後にロスチャイルド家やロッフェラー家などが関係する民間銀行が発券業務を開始)。これも米国国民には発券業務をどこかが独占することに長い間抵抗のあったからである。ただ米政府に通貨の発行権を取戻そうとした大統領が過去に三人いた。16代リンカーン、20代ガーフィールド、そして35代ケネディである。実際、リンカーンはグリーンバックという政府紙幣を発行している。

    しかし今日、日米とも政府の影響下にある中央銀行が設立され通貨を独占的に発行(ただし日本の場合コインは財務省)しているので、政府紙幣を発行するという必要性が小さくなっているのも事実である。ちなみに政府紙幣にこだわったこの3人の大統領の全てが暗殺された話は有名である。筆者も政府紙幣と声高に主張するのではなく、国債(永久債)の日銀買入程度に抑えておこう。



今週号を今年の最後と思っていたが(二週休むつもりでいたが休刊は一週)、来週も今週の話の続きをしたい。



12/12/17(第736号)「師走の総選挙の感想」
12/12/10(第735号)「建設国債引受け発言の波紋」
12/12/3(第734号)「先進国だからデフレ」
12/11/26(第733号)「総選挙の行方」
12/11/19(第732号)「残る経済成長路線」
12/11/12(第731号)「先進国における経済成長」
12/11/5(第730号)「投資と経済成長」
12/10/29(第729号)「プラスアルファーの議論」
12/10/22(第728号)「アラン・ブラインダー教授の文章」
12/10/15(第727号)「バランスを欠いた報道」
12/10/8(第726号)「中国からの撤退も視野に」
12/10/1(第725号)「中国の反日暴動に対する感想」
12/9/24(第724号)「本誌の中国問題ダイジェスト」
12/9/17(第723号)「技術流出と日本の伝承文化」
12/9/10(第722号)「技術流出の現状」
12/9/3(第721号)「知的所有権の話」
12/8/27(第720号)「最近の出来事」
12/8/6(第719号)「御用学者の話」
12/7/30(第718号)「増税マニア達は現実離れ」
12/7/23(第717号)「吉川洋東大教授の文章」
12/7/16(第716号)「消費税増税が待ち遠しい?」
12/7/9(第715号)「消費税は「鬼門」」
12/7/2(第714号)「増税騒動の感想」
12/6/25(第713号)「今日の諸情勢の変化」
12/6/18(第712号)「世界中「展望がない」」
12/6/11(第711号)「schole(スコレー、暇)の話」
12/6/4(第710号)「ギリシャ化の話」
12/5/21(第709号)「単式簿記の世界」
12/5/14(第708号)「文春と朝日の関係」
12/4/30(第707号)「続・増税論議と文芸春秋」
12/4/23(第706号)「増税論議と文芸春秋」
12/4/16(第705号)「増税論議と政界」
12/4/9(第704号)「増税派の人々」
12/4/2(第703号)「松下政経塾政治家と増税」
12/3/26(第702号)「英国の永久債発行」
12/3/19(第701号)「過去の号の修正」
12/3/12(第700号)「本誌700号に寄せて」
12/3/5(第699号)「投資顧問AIJの事件」
12/2/27(第698号)「橋下維新政党へのコメント」
12/2/20(第697号)「地方自治体と通貨」
12/2/13(第696号)「デフレ経済下での増税」
12/1/30(第695号)「無税国家への道」
12/1/23(第694号)「世界的な金利低下」
12/1/16(第693号)「過剰貯蓄による災い」
12/1/9(第692号)「バーチャルな話」
11/12/19(第691号)「シミュレーションモデルの話」
11/12/12(第690号)「財政破綻のすすめ」
11/12/5(第689号)「「騒ぎ屋」の時代」
11/11/28(第688号)「技術進歩の恩恵」
11/11/21(第687号)「避けられる根本問題」
11/11/14(第686号)「物事の本質」
11/11/7(第685号)「組織の異端児的存在」
11/10/31(第684号)「組織の研究」
11/10/24(第683号)「気乗りしないTPPの話」
11/10/17(第682号)「解決策はユーロ離脱か」
11/10/10(第681号)「ポール・クルーグマン教授の変心」
11/10/3(第680号)「現実論者VS観念論者」
11/9/26(第679号)「世界的な「日本化」」
11/9/12(第678号)「欧州発のリーマンショック」
11/9/5(第677号)「野田政権の成立」
11/8/29(第676号)「円相場の今後の動き」
11/8/22(第675号)「欧米経済の変調」
11/8/15(第674号)「脱・反原発派の人々」
11/8/8(第673号)「食品安全委員会の問題」
11/8/1(第672号)「タウンミーティングの報告」
11/7/25(第671号)「意味の解らない暫定基準値」
11/7/18(第670号)「政府が明らかにすべきこと」
11/7/11(第669号)「放射線防護の専門家」
11/7/4(第668号)「ダイオキシンとプルトニウム」
11/6/27(第667号)「付加価値を生まない発電」
11/6/20(第666号)「付加価値と発電」
11/6/13(第665号)「ポスト原発はやはり原発」
11/6/6(第664号)「菅政権に対する不信任案騒動」
11/5/30(第663号)「ニューニューサンシャイン計画」
11/5/23(第662号)「原発と電力会社の経営」
11/5/16(第661号)「原発推進派と反・脱原発派」
11/5/2(第660号)「菅政権の迷走」
11/4/25(第659号)「放射線は身体に良い?」
11/4/18(第658号)「山を越えたか?」
11/4/11(第657号)「原子力の専門家」
11/4/4(第656号)「本当に重大な事は何か」
11/3/28(第655号)「電力不足で表沙汰になった事実」
11/3/21(第654号)「東日本巨大地震」
11/3/7(第653号)「日本が貿易立国という誤解」
11/2/28(第652号)「日本は本当に貿易立国?」
11/2/21(第651号)「関税以外の貿易障壁」
11/2/14(第650号)「TPPに関する推理」
11/2/7(第649号)「菅首相の消費税増税」
11/1/31(第648号)「モラルハザードの話」
11/1/24(第647号)「問題は分配ではない」
11/1/17(第646号)「永久債の日銀引受け」
11/1/10(第645号)「日本の経済成長シナリオ」
10年のバックナンバー

09年のバックナンバー

08年のバックナンバー

07年のバックナンバー

06年のバックナンバー

05年のバックナンバー

04年のバックナンバー

03年のバックナンバー

02年のバックナンバー

01年のバックナンバー

00年のバックナンバー

99年のバックナンバー

98年のバックナンバー

97年のバックナンバー