経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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12/12/17(736号)
師走の総選挙の感想

  • 流浪する有権者
    今週は師走の総選挙について筆者の感想を述べることにする。選挙は表面的には自民党の圧勝で終わった。たしかにこのような結果を選挙直前になって各メディアが予想していた。しかし大半の人々にとっては半ば信じ難いことであった。民主党が激減することは、分かっていたがここまで自民党が勝つと思っていた人は少数派であったであろう。

    また大きく予想と違っていたのは、未来の大惨敗である。さらに維新の伸び悩みも予想外と受け止める向きがあろう。民主党がこれだけ負けたのであるのだから、第三極の維新や未来がもっと伸びても良かったと思われる。

    たしかに投票率がかなり落ち期日前投票も少なかった。前回の選挙で民主党に入れた人々が大量に棄権に回ったということが考えられる。しかしそれだけでは説明がつかないほどの民主党の大惨敗である。どうも前回民主党に入った票のある程度はやはり第三極、中でも維新に流れたようである。また未来は、実質的に元民主党の小沢グループであり、民主党が沈んだように沈没したのである。


    各党の勢いを見るには、比例代表の政党別得票数を見るのが適当と考える。ただ自民と公明の協力関係などが有り(小選挙区は自民、比例は公明といった選挙協力)、実数は必ずしもその政党の支持者の数を正確には表してはいない。しかしこの数字は政党の盛衰をかなり適確に示している。ただみんなの党の前回総選挙の得票数は日経新聞で拾えなかったので省略した。

    各党の比例区の獲得投票数(万票)と増減率(%)
     政 党 名  今  回  前  回  増 減 率 
    自民党1,6621,881▲11.6
    維 新1,226ーーーー
    民主党9632,511▲61.6
    公 明712805▲11.6
    みんな525ーーーー
    共 産369494▲25.3
    未 来342ーーーー
    社 民142237▲40.0
    合 計6,0187,037▲14.5

    大勝したはずの自民党であるが、総得票数は逆に減っている。ただ全体の投票数が14.5%も減少しているので、相対的に浮上したと見られる(比例区で自民党は2議席増)。悲惨なのは民主党であり61.6%も減っている。分裂した未来の獲得票数を加えても、52.0%の減少である。また共産(▲25.3%)、社民(▲40.0%)といった既存政党は窮地に立たされた。特に社民党は、今回の選挙でほぼ消滅したと言える。

    筆者が分析するに、2,000〜2,500万人の「流浪する有権者」がいて、その人々の多くが前回は民主党に投票し、今回は棄権が1,000万人、そして残りが維新とみんなの党に流れたようである。その結果(第三極の分裂によって)、自民党が小選挙区で漁夫の利を得ることになり、議席を大きく伸ばしたのである。


    「流浪する有権者」の多くは、前回の選挙で政権交代を期待し民主党に投票した。しかし政権の座についた民主党のあまりのふがいなさに、彼等は今回の選挙では棄権するか、あるいは維新やみんなの党に投票したと見られる。筆者は、維新やみんなの党も実際には政権を運営したことがないのだから、期待だけで「流浪する有権者」の受け皿になっていると思っている。つまりこれらの政党は明日の「民主党」と言える。

    筆者は、新自由クラブ以来、新党の盛衰をずっと見てきているが、新党の賞味期間は極めて短い。つまり新党にとって今回の選挙こそが正念場であったはずと思っている。しかしこれらの新党は政権に近付くことに失敗したと言える。今後、これらの新党は、分裂、再編を繰返す可能性が高く、特に未来は消滅に向かう気がする。新党の一部は自民党に近付き、残りは野党色を強めることになろう。ただ筆者は、今回の選挙結果を見る限り、これらの新党の動きにあまり興味は持てない。


  • 自民党の「ツキ」
    今回の選挙では、本筋の争点とは違うと思われるテーマが無理矢理掲げられた。典型例がTPPと原発である。しかしこれらに入れ込んだ政党(民主、未来、共産、社民)が軒並み大敗した。有権者が関心のあるのは、雇用や年金といった経済問題や、あえて付け加えるなら外交安全保障問題であろう。原発一本槍で進んだ「未来」に票が集まらなかったのも当たり前である。

    未来は、小沢グループ党であり、実質的なオーナは小沢一郎氏である。それにしても何故、有権者が関心を示さないようなテーマを掲げて、小沢氏等が選挙戦を戦ったのか理解できない。どうも小沢氏は政治家として既に限界まで来ているような気がする。


    民主党の凋落は深刻である。普通、大幅な議席数の増減があった場合、次の国政選挙においてその反動があるものである。今回の選挙を例にとれば、次の国政選挙である来年7月の参議院選挙では民主が議席を増やし自民が議席を減らすといった具合である。しかし次の参議院選挙でも、民主党は大きく議席を失うような気がする。

    まず有権者が3年余りの民主党の政権運営に絶望感を抱いている。つまりへたに民主党が政権の座に就いたことが災いしているのである。これだけ大きく得票を失うなんて、再起は本当に難しいと思われる。

    参議院選挙は、選挙区の衆議議員の後援会の協力を得て戦うといった面がある。ところが57議席まで激減しては、民主党の参議院選挙立候補者は頼る衆議院議員がほとんどいないということになる。つまりほとんどの民主党の立候補者は、孤独な選挙戦を強いられるのである。これらの事を考えると、民主党は長期の低落期に入ったと思われる。


    自民党は、選挙への準備が整っていたことに加え「ツキ」もあり、自・公で三分の二以上の議席を占めるほど大勝した。まず民主党内のゴタゴタが元で、野田首相が自爆解散を行った。また決して評判が芳しいとは言えなかった自民党の「200兆円の国土強靱化計画」は高速道路の天井が崩落事故が起り、人々から見直されている。高速道路の補修が国土強靱化計画に入っていたのか定かではないが、この事故が選挙戦で自民党に有利に働いたことはたしかであろう。

    公共事業費は、ピーク時(95年)の45兆円から直近の21兆円まで減っている。まさに激減である。特に民主党は「コンクリートから人へ」と公共投資を目の敵にしていた。筆者に言わせれば「コンクリートも人も」である。いまだに民主党の政治家は「公共投資の乗数効果は小さくなっている」と言った間抜けな事を言っている。

    単線的な乗数値は消費性向で決まるのだから、消費性向が一定なら乗数値が小さくなることはない。ただ公共事業が増えることによって、たしかに建設機材への民間投資が増えるといったことが考えられる。これは誘発投資でありこれにも乗数効果(超乗数)が生れる。

    しかし、今日、予算の工事単価は切り詰められており、誘発投資は起り難くなっている。例えば工事会社は自前で建設機械を購入するのではなく、レンタルで済まそうという風潮が強くなっている。つまり「公共事業の無駄を無くせ」という声が大きくなって低予算の工事ばかりを行えば、公共投資全体の乗数効果が小さくなるのは当り前の話である。民主党の薄っぺらな政治家が、現場の事を知りもしないのに唐突に「乗数効果」なんて言っているから選挙で大敗するのである。


    選挙期間中に北朝鮮がミサイル発射を行ったのも、自民党に有利に働いた。2年前の尖閣での中国漁船の体当たり事件以来、国民は民主党の外交安全保障政策に苛立ちを感じていた。おまけに中国のプロペラ機が尖閣の領空侵犯までやってのけた。これらの事が少なからず選挙に影響したと筆者は思っている。

    ただ復活した自民党であるが、まともな政治家だけが増えたわけではない。さっそく「国債の発行を大幅に減らしながらも、経済成長を実現させる。それには経済の構造改革が必要。」といった虚言・妄言を発している議員も復活している。このような政治家は、小泉時代に重用された若手に多い。つまり安倍首相が経済再生と言っても、自民党内部からの雑音に邪魔される可能性がある。



来週は、日銀とFRBの違いについて述べる。



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