経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




12/11/5(730号)
投資と経済成長

  • 「投資の二面性」の説明
    今週は今後の世界の経済成長と「投資の二面性」について話をする。この場合の投資とは単純に設備投資と考えてもらって良い。「投資の二面性」については、過去に00/10/2(第179号)「日本の需給ギャップ」10/12/20(第644号)「難しい日本の経済成長」11/1/10(第645号)「日本の経済成長シナリオ」などで取上げてきた。

    「投資の二面性」とは、投資(設備投資)が乗数効果によって所得を生むだけでなく、一方で生産力の増加を産み出すことを意味している。投資が盛んになれば、生産力が増すと同時に、投資による乗数効果によって所得が増え、さらにこの所得増加によって消費も増える。これは高度経済成長を経験した(あるいは現在も高度経済成長をしている)国々に見られる典型的な経済発展のパターンである。

    しかし投資が行われば一方で生産力が生まれるのだから、投資が続けられた場合この生産力が累積されいつかは生産力が余剰になる。一旦、生産力が余剰になれば投資の予想収益率が低下し、自ずと投資にブレーキが掛ることになる。投資が増えなくなれば、所得の増加もなくなり逆に経済成長率は小さくなる。つまり今世界の成長センターと見なされてきた新興国(BRICs)もいずれはこのパターンに陥り経済成長が止まるはずと筆者は考える。


    このことを敢て取上げるのは、先々週号、先週号で触れたアラン・ブラインダー教授の文章に触発されたからである。筆者は教授の「日・米・独の三カ国が財政を拡大せよ」という提言を弱過ぎると感じた(例えば米国の「財政の崖」を半年先送りするいった主張など)。提言に示された程度の経済政策くらいでは、三カ国のような経済が成熟した先進国においては経済成長なんてとても無理である。先週号で述べたように、先進国では投資が大きく増えるような状況は考えにくく、経済はせいぜい現状維持が精一杯である。

    世界の経済成長は、ここ10年くらいは中国やインドなどの新興国(BRICs)やその他の発展途上国、また欧州では中・東欧などの経済発展に依存してきた面が強い。ただ米国は他の先進国と違い、サブプライムローン問題が起るまで先進国の中で比較的高い経済成長を続けてきた。これはヒスパニックなどの移民(違法・合法を問わず)が米国に定着し、消費活動を活発にし、さらに住宅建設をも始めたからである。つまり当時の米国の経済成長は、ヒスパニックという内なる新興国を抱えていたからと筆者は指摘してきた。


    このように経済成長の必須条件は、投資とか消費といった旺盛な需要である。これまでの新興国の経済成長はそれを証明している。新興国(BRICs)や発展途上国では設備投資がなされ、これによって所得が増え、一方これによって生産力が増大する。さらに新興国や発展途上国は、インフラが不足しており、どの国の政府も公共投資を活発に行っている。そしてこれがまた国民の所得を増やし、さらに経済成長を高めている。

    今後の世界の経済成長も、新興国(BRICs)や発展途上国がリードする形が続くと筆者は見ている。たしかに先進国の経済規模はまだ大きく、影響力が全くなくなった訳ではない。しかしこと経済成長という点では先進国の働きは一段と小さくなっている。

    ただこれまで順調に成長してきた新興国(BRICs)の経済に、今日、変調が表れ始めていると筆者は見ている。一つの原因は、欧州経済の債務危機に伴う経済の低迷である。しかし筆者は欧州の景気の後退がなかったとしても、新興国(BRICs)の経済成長率はそろそろ低くなる時期に差し掛かったと見ている。

    今後も、当然、新興国(BRICs)は先進国より高い経済成長を示すであろうが、段々と成長率は低下すると考える。新興国(BRICs)よりむしろその他の発展途上国の方が今後は経済成長率が高くなると見ている。ただ今は欧州の金融危機が原因で一時的に資金が引上げられ、多少混乱している国もある。しかしこの情勢が落着けば、一段の経済成長が見込める発展途上国に投資資金が回帰するものと筆者は見ている。


  • 中国経済の高度成長に翳り
    前段の議論を新興国(BRICs)に当てはめるなら、誰もが一番関心を持つのは中国であろう。04/12/13(第371号)「第一回財政研交流会」で、三極経済研究所代表の齋藤進氏(齋藤さんは中国経済の専門家でもある)が「中国の経済成長があと20年くらい続くだろう」と話されたことを紹介した。当時、基本的に筆者もそれに賛同した(賛同した本当の理由はここではあえて述べない)。たしかに今日まで中国の高度経済成長は続いて来た。ただいくらなんでもあと20年と言うのは少し無理があろうと当時の筆者も考えていた。今日、ついにその中国経済の高度成長に翳りがはっきりと出てきたと見られる。


    そこで中国の経済を分析し、今後の経済の動向を占ってみる。まず中国の経済が異常でいびつであることを指摘したい(ただし中国の公表する経済数値があてにならないことを、いつも筆者は頭の片隅に置いている)。ともあれまずGDPに占める消費の割合が中国では4割を切っていることにまず驚く。日本はこれが6割で米国は7割程度である。中国人がどれだけ貯蓄が好むと言っても異常な数字である。

    しかし一番異常な経済数値は、投資のGDP比率である。なんとこれが40%を今日でも超えている。中国のこの比率が大き過ぎることは筆者も承知していて、何度も本誌で指摘してきたことである。たしかに中国の設備投資は、重複投資が目立ち、とても非効率的という話は昔からよく聞く。ところがこの数値が直近までほとんど下がっていない。さすがにこれにも筆者は驚いている。この数値は、従来、米国が12%、日本は15%程度であり、この両国ともこの数値が最近では低下している。日本の場合、バブル期にこの数値は20%を越えることがあった。しかしバブル崩壊後には、この過剰投資の反動で投資が急減している。


    今週のテーマである「投資の二面性」を考えると中国の過剰な設備投資は、たとえ非効率的であろうとも既に莫大な生産力を生んでいる。中国はこれまでは巨大な生産力で作った大量の生産物を世界に売り捌いてきた。しかしこの経済発展パターンも限界に来ている。実際、債務危機による欧州の不景気によって、中国の欧州への輸出は頭打ちになっている。また他の新興国や発展途上国も中国の経済成長のパターン(安い人件費と通貨安)を真似するようになってきて、これらの国々との競争が厳しくなっている。

    また既に中国では企業倒産の嵐が吹いているという話をよく聞く。特に民間の金融機関(闇金融と呼ばれることもあるらしい)が既に大量の不良債権を抱えているという話である(政府系の金融機関は不良債権を抱えた場合は政府が肩代わりする)。実際、これまでの常軌を逸したような中国の民間企業の巨額な設備投資のかなりの部分は、この民間金融機関の融資によって賄われてきた。したがって民間金融機関が経営危機ということになれば、筆者は金融面からも中国がこれまでのような非常に大きい投資を続けることは不可能と考える。


    中国の高度経済成長は、投資(設備投資)、輸出、政府支出で成立ってきた。このうち投資はこれまで述べてきたように伸びようがなく、むしろ減る可能性が出てきた。輸出も頭打ちであり、最近では純輸出がマイナスになる月もあるほどである。特に米国の大統領候補が共に中国の不公正な為替政策を強く批難しているため、人民元はここのところ、毎日、制限幅一杯高くなっている。つまり中国は、これまでのような輸出主導型の経済成長が無理になっている。

    残るのは政府支出(具体的には主に公共投資)だけである。ただ投資が急減することがあれば、どれだけ政府支出を増やす必要があるのかさえ皆目分らないほどである。ちなみに中国は消費性向が小さいため乗数値も小さい。机上の計算では、日本が2.5であるのに対して中国は1.6〜1.7程度である。このような事柄を考えると中国が再び高度経済成長路線に乗ることは極めて難しいと言える。



来週は、先進国における経済成長の可能性を取り上げる。



12/10/29(第729号)「プラスアルファーの議論」
12/10/22(第728号)「アラン・ブラインダー教授の文章」
12/10/15(第727号)「バランスを欠いた報道」
12/10/8(第726号)「中国からの撤退も視野に」
12/10/1(第725号)「中国の反日暴動に対する感想」
12/9/24(第724号)「本誌の中国問題ダイジェスト」
12/9/17(第723号)「技術流出と日本の伝承文化」
12/9/10(第722号)「技術流出の現状」
12/9/3(第721号)「知的所有権の話」
12/8/27(第720号)「最近の出来事」
12/8/6(第719号)「御用学者の話」
12/7/30(第718号)「増税マニア達は現実離れ」
12/7/23(第717号)「吉川洋東大教授の文章」
12/7/16(第716号)「消費税増税が待ち遠しい?」
12/7/9(第715号)「消費税は「鬼門」」
12/7/2(第714号)「増税騒動の感想」
12/6/25(第713号)「今日の諸情勢の変化」
12/6/18(第712号)「世界中「展望がない」」
12/6/11(第711号)「schole(スコレー、暇)の話」
12/6/4(第710号)「ギリシャ化の話」
12/5/21(第709号)「単式簿記の世界」
12/5/14(第708号)「文春と朝日の関係」
12/4/30(第707号)「続・増税論議と文芸春秋」
12/4/23(第706号)「増税論議と文芸春秋」
12/4/16(第705号)「増税論議と政界」
12/4/9(第704号)「増税派の人々」
12/4/2(第703号)「松下政経塾政治家と増税」
12/3/26(第702号)「英国の永久債発行」
12/3/19(第701号)「過去の号の修正」
12/3/12(第700号)「本誌700号に寄せて」
12/3/5(第699号)「投資顧問AIJの事件」
12/2/27(第698号)「橋下維新政党へのコメント」
12/2/20(第697号)「地方自治体と通貨」
12/2/13(第696号)「デフレ経済下での増税」
12/1/30(第695号)「無税国家への道」
12/1/23(第694号)「世界的な金利低下」
12/1/16(第693号)「過剰貯蓄による災い」
12/1/9(第692号)「バーチャルな話」
11/12/19(第691号)「シミュレーションモデルの話」
11/12/12(第690号)「財政破綻のすすめ」
11/12/5(第689号)「「騒ぎ屋」の時代」
11/11/28(第688号)「技術進歩の恩恵」
11/11/21(第687号)「避けられる根本問題」
11/11/14(第686号)「物事の本質」
11/11/7(第685号)「組織の異端児的存在」
11/10/31(第684号)「組織の研究」
11/10/24(第683号)「気乗りしないTPPの話」
11/10/17(第682号)「解決策はユーロ離脱か」
11/10/10(第681号)「ポール・クルーグマン教授の変心」
11/10/3(第680号)「現実論者VS観念論者」
11/9/26(第679号)「世界的な「日本化」」
11/9/12(第678号)「欧州発のリーマンショック」
11/9/5(第677号)「野田政権の成立」
11/8/29(第676号)「円相場の今後の動き」
11/8/22(第675号)「欧米経済の変調」
11/8/15(第674号)「脱・反原発派の人々」
11/8/8(第673号)「食品安全委員会の問題」
11/8/1(第672号)「タウンミーティングの報告」
11/7/25(第671号)「意味の解らない暫定基準値」
11/7/18(第670号)「政府が明らかにすべきこと」
11/7/11(第669号)「放射線防護の専門家」
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11/6/27(第667号)「付加価値を生まない発電」
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11/6/6(第664号)「菅政権に対する不信任案騒動」
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