経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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12/10/1(725号)
中国の反日暴動に対する感想

  • 民主活動家のシナリオ
    中国での暴動に転じた反日デモの様子はテレビで繰返し放送された。今回の出来事の原因を中国の専門家が解説しいる。何となくピンと来ないところもあるが我々は大体それで納得している。専門家は原因を「中国の政権内の派閥争い」「愛国教育という名の反日教育」「政府(地方を含め)役人の腐敗」「中国国内での所得格差」「高学歴者の失業率の高さ」などとしている。

    デモに参加しているような若者は、90年代以降の反日教育を受けており、こと日本に関する問題が起ると反日的な行動に走る。反日教育の内容は事実と違うが(韓国で行われている反日教育も同様)、中国はこの教育を止める気はない。ところがこれまで日本政府はこのような教育に一言も抗議をしたことがない。このような状況で「日中友好」と言っているのだからあきれる。

    そのうち中国は、反日教育を受けた者(反日チルドレン)で占められることになる。したがって筆者は日中関係がますます悪くなると予想する。まだ今の方がましな状態と言えよう。ちなみに今日の若者と違って50才くらいの中国人は「南京事件」でさえ学校で教わっていなかったという話である。


    今回のデモは官製と言われている。たしかに各地のデモ隊の様子はパターン化されている。デモ隊の先頭に横断幕と大きな国旗を持った者が進み、その後に中国国旗の小旗を振る若者が続く。

    筆者が気付いたのはその小旗が真新しいことである。デモに参加している若者が自分達の家から持ってきたものとは思えない。おそらくデモの主催者が用意したのであろう。つまりデモ隊のスポンサーになっている主催者が存在すると思われる。実際、100元(1,200円)の日当でデモに参加した若者の話が出ている。この話もあながち嘘ではないと筆者は思う。問題はこのスポンサーになっている主催者と中国政府との関係である。おそらく反日教育に染まった若者を、中国政府の息の掛った主催者が焚き付けているという図式になろう。


    筆者は、中国の指導者層に日本の正しい情報が伝わっていないと思われる。このような事は独裁政権において有りがちである。政府組織自体が、自分達に都合の良い情報しか流れない態勢になってしまっているのである。

    しかし中国のような独裁体制では、政策を間違っても今のところ政権が倒れることはない。また反日教育に見られるように民意自体を操作することができる。ネットの発達があり、民意が自由に飛び交っているかのような錯覚がある。しかしこのネット自体が中国政府の管理下にある。


    中国政府の上層部にとって都合が良い情報の例えは「日本で騒いでいるのは右翼や保守派などの一部だけであり、これらの人々は一般の日本国民から浮いた存在」といったものである。具体的に右翼や保守派とは過去に尖閣に灯台を作った人々や石原都知事などを指す。しかしここ10年くらいの間に日本の様相は一変している。日本の普通の人々が、段々と中国に不信感を持ち中国を嫌うようになっている。このような情報が中国の上層部に正しく伝わっているのか疑問である。

    日本人が最初におやっと思ったのは、98年の江沢民国家主席の宮中晩餐会での「日本は戦前の軍事的侵略について反省が足りない」発言である。その次が03年の西安での日本人留学生の寸劇事件あたりであろう。この頃には、それまでの日中友好ムードというものが消え、日本人は中国に強い違和感を持つようになっている。

    そして05年の反日暴動で日本人の対中感情は一段と悪化した。決定的だったのは、2年前、10年の尖閣での中国漁船体当たり事件における中国の一連の対応である。その中で最悪だったのは、関係のないフジタの4名の社員を拘束し、船長を釈放するよう日本政府に揺さぶりを掛けたことである。先月9月の中国各地のデモや暴動はこれらの延長戦上にある。


    今回の中国の暴動のきっかけを、筆者は8月の香港の民主活動家の尖閣上陸と見ている。これによって日本政府を刺激し尖閣購入を急がせた。しかし民主活動家の真の狙いは尖閣ではなく、最終的には中国共産政権の転覆である(もっとも中国人は信用できないところがあり、活動家も狙いを変えている可能性がある)。尖閣上陸によって日中間に揉め事を起させることが、政権弱体化に効果的と考えたのであろう。

    これまで民主活動家の尖閣への出港を止めていた中国政府が、不思議なことに今回は黙認した形をとった。おそらく日本政府による尖閣購入なんてないと踏んだのであろう。今日の日中間の混乱を見ていると、香港の民主活動家のシナリオ通りに事が進んでいる。民主活動家は今後も尖閣上陸を目指すと言っている。次の出港に中国政府がどのような態度で臨むのかが注目される。


  • 女性有権者の意識の変化
    70年代、日本国民は日中友好を歓迎した。マスコミもそのような雰囲気を煽った。日中友好を進めた田中角栄総理は支持を集め(自民党の総裁選で親中派と見られた田中氏が親台派と見なされた福田赳夫氏に勝った)、その後も日本政府や政治家は日中友好に努めた。つまり過去には親中派と見られることが選挙でも有利に働いた。ところが日本国民の対中観は年々悪化している。

    前段で述べたように、日本人の中国に対する感情を最悪にしたのは10年の中国漁船体当たり事件である。この頃から日本の世論はガラッと変わった。さすがに勘の鈍い政治家や日本政府も中国への対応を考えるようになった。


    欧米のメディアの中には、このような最近の傾向を「日本人の右傾化」と伝えるものがある。しかし筆者は「これはちょっと違うのではないか」と思っている。そこで筆者の考えを国民を男性と女性に分けることによって説明してみる。

    一般に女性の方が平和を望み、男性の方が好戦的と見なされる。そのような事もあってか日本でも過去においては「自衛隊を容認する者」や「憲法改正に賛成する者」の比率は、男性で高く女性では低かった。ところが「10年の中国漁船体当たり事件」の頃から雰囲気が随分変わったと筆者は思っている。

    この事件の中国の対応に対して、男性以上に怒ったのは女性と筆者は感じる。一般に尖閣や竹島の問題を領土問題と捉える。しかし女性は「領土」というより「敷地」と認識しているのでないかと筆者は思っている。つまり自分達の家の「敷地」が他人によって侵されそうになっていると感じるのである。また自分達の「敷地」さえ守れない政府や政治家に苛立ちを覚える。このような日本の雰囲気の変化を簡単に「右傾化」と決めつけるのは正確ではないと筆者は捉える。

    ちなみに民主党政権が弱腰になって船長を釈放した時、民主党の支持率が下がった。この時、女性の民主党支持者が急減した可能性がある。筆者のこのような見方が本当に正しいのか、客観的なデータをほしいところである。大マスコミには是非とも、時系列で男女別の国民の意識の変化を調査してもらいたいところである。


    女性有権者の意識の変化によって、政治家も中国や韓国の行動に対して甘いことを言っていたのでは選挙に落ちると筆者は考える。次の国政選挙でのポイントはデフレ問題と消費税増税と言われてきたが(原発、地方分権、TPPなどは元からテーマにならない)、筆者はこれらに並んで領土問題や防衛問題が大きなテーマになると感じている。ひょっとすると、今、憲法改正を前面に打出せば票を大きく集める可能性も出てきたと筆者は考える。

    ところが日本維新の会の橋下代表が「竹島の共同管理」なんて突然言出した。選挙協力を行っている公明党を意識した発言と捉えることができるが、筆者に言わせればこれは大失言である。10/11/15(第639号)「政治家に向かない職業」で述べたように、所詮、弁護士は政治家に最も向かない職業なのだろうか。


    今日の出来事を正しく評価するには時が過ぎ、その後で振返って見ることが必要である。しかし対日関係において、ここのところ中国はミスの連続と筆者には感じられる。「10年の中国漁船体当たり事件」は偶発的要素があったが、今回の反日暴動は、発端が民主活動家の尖閣上陸と筆者は考える。中国政府のこれに対する甘い観測と対応(活動家の出港の黙認)が問題を引き起した。もっとも石原都知事や国が尖閣購入に動いた背景に「10年の中国漁船体当たり事件」がある。


    中国は、ニューヨークタイムズやワシントンポストに意見広告を載せている(例のごとく日本が尖閣を盗み取ったという話)。これに対して日本政府は新聞社に抗議している(他ではロサンゼルスタイムズの社説に抗議している)。しかし新聞社にどれだけ抗議しても意味がない。面倒で品がないと思っても日本はこれに反論する意見広告を出すべきである(その程度の金は使えば良い)。

    他民族が集まって出来た米国のような国では日本と見方が違う。どれだけ自分達が正しくても自らアッピールしなければ、無視されるか相手の言い分を認めたと見なされる。「あうんの呼吸」とか「黙っていても正義は最後に勝つ」と言っていても、米国では通用しない。



来週は今後の日中関係の将来を大胆に予想する。



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