経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




12/8/6(719号)
御用学者の話

  • 軽減税率導入による混乱
    前半は消費税増税の話の続きである。先週号で軽減税率について触れ、欧州の付加価値税の標準税率は高いが、食料品などの必需品には軽減税率が適用され、税率はゼロないし低率であることを説明した。欧州ではかなり広い消費物資が軽減税率(低率あるいはゼロ)の対象になっている。

    したがって日本が消費税の税率を10%まで上げた場合、日本の税率が欧州の付加価値税の加重平均税率を上回る可能性が出てきた(例えば英国の付加価値税の過重平均は10%を下回っていると思われる)。ところが日本の増税論者は、それでも日本の消費税は、欧州よりずっと低いといった間違った情報を流している。また何も考えようとしない日本のマスコミもこれに同調している。


    消費税が10%まで上げられるなら、当然、日本でも軽減税率の導入が現実のものになろう。ただ欧州の軽減税率は各国で仕組みが異なり複雑である。欧州では英国のように食料品の税率がゼロという国がある(英国では他に書籍や医薬品などが非課税)。また食料品でも贅沢品に標準課税の税率を適用している国がある。またフランスのようにトリュフとフォアグラは軽減税率であるが、キャビアは標準課税になっている国がある。トリュフとフォアグラは国産であるが、キャビアは輸入品だからという理由である。


    まず日本で軽減税率を導入するとなると、大混乱が起ることは必至である。食料品だけに軽減税率を適用するという方法が一番混乱が少ないと思われる。しかし贅沢な高級食料品まで軽減税率で良いのかという声が当然出そうである。それにしても衆議院での消費税増税の審議で軽減税率がほとんど問題にならなかったなんて、日本の政治家は一体どうなっているのか。

    スーパーやコンビニのような食料品だけでなく、色々な物を売っている所は商品毎にコンピューターによる管理が必要になる。たしかに大手のスーパーやコンビニは対応できであろうが、同様に色んな物を扱っているガソリンスタンド、土産物点、村の雑貨店などは面倒でしょうがないであろう。


    軽減税率の導入ということになれば、おそらく食料品だけに止まらず、その他の生活必需品も対象になると思われる。そうなると業界やメーカーを上げての大混乱が始まる。「うちの業界の製品、うちの商品こそは生活必需品だ」と各々が主張し始め、収拾がつかなくなる。

    まさに中曽根政権時代に起った「売上税」構想に対する大騒ぎの再現である。政府はこの売上税の混乱に懲りて、消費税は非課税品目を極力抑え(土地取引や印紙税などに限定)、かつ一律で3%という低率でスタートした。ちなみに消費税のスタート時に贅沢品に掛っていた高額の物品税を廃止している。


    日本の消費税は極めて低率ということで、色々な矛盾や葛藤を抑え込んで来たはずである。具体的には食料品などの生活必需品に対して軽減税率を設けないといったことなどである。ところが今日の増税論者は、そのような事を全て忘れているのか、あるいは無視して増税を強引に推進している。しかし8%や10%はもはや低率とは言えない。

    増税論者は増税によって財政再建を実現させるつもりである。ところが自民党が次の衆議院選挙の公約に法人税の20%台への引下げを盛込もうとしているくらいであり、他に有力な「税」がない。このような状況では、増税と言えばどうしても消費税増税ということになる。


    先週述べたように増税論者(増税マニアと言った方が適切)の間では「財政持続のために日本は30〜35%の消費税が必要」ということが常識になっている。しかも彼等には軽減税率のことが念頭にない。もしこれ以上の消費税増税ということになれば、現実問題として軽減税率の導入は避けて通れない。しかし軽減税率を導入するなら、先週号で指摘したように必要な標準消費税率は50%を超えることになる(経済悪化による税収減あった場合はさらにそれ以上)。

    50%を超える消費税率なんて考えられない。つまり増税による財政再建は百パーセント有り得ない話ということである。ましてや増税によって経済が悪化し、他の税収が落込めば何をやっているのかと言うことになる。

    一方、歳出の方も減ることはない。まず確実に社会保障費が増え、また公共投資も増えることがあっても減ることは考えにくい(災害に備えた公共事業を増やすということが各党のコンセンサスになりつつある)。「財政持続」ということがどれだけ重要なのか意見の別れるところである。しかしどうしてもこれを実現するというのなら、もはや筆者達が主張するセーニアリッジ政策(政府紙幣の発行や国債の日銀買入)しか考えられないのである。


  • 両生類の学者
    時の政府や権力に迎合するような言論を展開する学者を「御用学者」と呼ぶ。昔の学者は「御用学者」と呼ばれることを恥と感じ、避けたいところであった。ところが今日は「御用学者」の希望者が殺到している。このような現象が起っている理由は不明である。筆者はその一つの理由として日本人が長生きになったからではないかと思っている(説明は長くなるので省略する)。

    先週号まで取上げてきた吉川洋東大教授も典型的な「御用学者」である。本人もそのことを自覚していると思われる。2年前、教授が尾辻元厚労相に面罵された話は有名である。経済財政諮問会議で、あまりにも財務省寄りの発言を続けていたことが原因であった。しかしその程度の事にはめげず「御用学者」人生を歩んでいるのがこの学者である。


    今回の増税論議では、吉川教授を始めとして、多くの東大の経済学者が増税を推進する言論を展開している。これを東大などの旧帝大が元々官僚を養成することを目的に設立され、学者も政府寄りの者が多いからという解釈がある。しかしちょっと前までは東大の経済学部はマルクス経済学が全盛であった(マルクス経済学を経済学として教えていたのは日本くらいなものである)。むしろ彼等に東大を追われ大阪大学に移った近代経済学者がいたほどである(これによって大阪大学は近代経済学が盛んになった・・ただしケインズ経済学というより新古典派経済学)。

    つまり昔の東大の経済学部は「御用学者」どころか反体制派の学者の牙城であった。様子が変わったのはむしろ最近の話である。おそらくマル系の経済学者が定年で次々と退官して行ったことが影響しているのであろう。それにしても今回の増税論議で東大の学者の発言が目立つのは事実である。


    ただ筆者が奇妙に思うのは、増税推進の立場での発言で目立つのが財政学者ではなく理論経済系の学者ということである。これが今回の増税論議の特徴である。おそらく財政学者が前面に立つと、御用学者ということがいかにも見え透いているからと筆者は理解している。

    しかしこと財政に関しては理論経済系の学者では危ういところがある。本誌が取上げてきた吉川教授の文章も穴だらけであり、突っ込みどころが満載であった。特に逆進性の話や軽減税率を考慮しないといった初歩的な問題点が目立っていた。もし財政学者が同様の文章を書けば、もっと抜け目のないものになっていたかもしれない。それにしてもこの程度の文章をまともに相手にしている日経新聞や日本の経済専門誌のレベルがもう一つの問題と言える。


    日本の有名で有力な経済学者が、こぞって増税推進の立場で論陣を張っていたのが今回の増税論議の特徴であった。ただ筆者は、これらの学者の全員が消費税増税が正しい道と本気で信じているとは思っていない。何人かは行き掛り上で増税に賛同しているのであろう。

    その意味で注目している経済学者が二人いる。一人は伊藤元重東大教授である。教授は今回の消費税増税について推進する立場で発言している。しかしこの学者は過去に02/12/9(第277号)「ルーカスの子供達」で取上げたように、デフレ克服のための「ヘリコプターマネー」を容認する意見を表明している。

    もう一人は加藤寛氏(元慶大教授、千葉大学長)である。氏は政府税調の会長を経験したほどで消費税増税の最右翼と思われている。しかし加藤氏は丹波春喜元大阪学院教授とも仲がよく、丹波教授の著作に推薦文(政府貨幣は目からウロコの斬新なアイディア)を書いているほどである。また02/9/16(第266号)「10月号「諸君」の対談」で取上げた文春のオピニオン雑誌「諸君」(現在、休刊か廃刊になっている)の「政府貨幣」についての対談は、加藤寛氏の尽力で実現した。

    伊藤教授と加藤氏は、表面上は消費税増税を推進しているが、本心は分らない。ただ両氏がセーニアリッジ政策に造詣があることはたしかである。また両氏が今日の消費税の増税による財政再建路線なんていずれ行き詰まることを承知していると筆者は見ている。両氏にとっては状況がどちらに転んでも良いのである。筆者は両氏を「両生類」と呼んでいるが、賢いやり方である。


    筆者は「御用学者」の全てを否定しているわけではない。学者が時の権力や有力政治家に近付くことが全て悪いということは決してない。むしろ学者が象牙の塔に籠って現実離れした空論を続けていることの方がおかしいと考える。

    ケインズも米国のルーズベルト大統領の経済顧問を務めている。もっともケインズの場合は、本国の英国や欧州では認められず米国に渡ったのである(現在でもドイツなどはケインズ政策を毛嫌いしているところがある)。問題は、時の権力に影響を及ぼすことができるのか、あるいは単に利用されるだけなのかであろう。



2週間、夏休みにて休刊させていただく。次回は8月27日号を予定。



12/7/30(第718号)「増税マニア達は現実離れ」
12/7/23(第717号)「吉川洋東大教授の文章」
12/7/16(第716号)「消費税増税が待ち遠しい?」
12/7/9(第715号)「消費税は「鬼門」」
12/7/2(第714号)「増税騒動の感想」
12/6/25(第713号)「今日の諸情勢の変化」
12/6/18(第712号)「世界中「展望がない」」
12/6/11(第711号)「schole(スコレー、暇)の話」
12/6/4(第710号)「ギリシャ化の話」
12/5/21(第709号)「単式簿記の世界」
12/5/14(第708号)「文春と朝日の関係」
12/4/30(第707号)「続・増税論議と文芸春秋」
12/4/23(第706号)「増税論議と文芸春秋」
12/4/16(第705号)「増税論議と政界」
12/4/9(第704号)「増税派の人々」
12/4/2(第703号)「松下政経塾政治家と増税」
12/3/26(第702号)「英国の永久債発行」
12/3/19(第701号)「過去の号の修正」
12/3/12(第700号)「本誌700号に寄せて」
12/3/5(第699号)「投資顧問AIJの事件」
12/2/27(第698号)「橋下維新政党へのコメント」
12/2/20(第697号)「地方自治体と通貨」
12/2/13(第696号)「デフレ経済下での増税」
12/1/30(第695号)「無税国家への道」
12/1/23(第694号)「世界的な金利低下」
12/1/16(第693号)「過剰貯蓄による災い」
12/1/9(第692号)「バーチャルな話」
11/12/19(第691号)「シミュレーションモデルの話」
11/12/12(第690号)「財政破綻のすすめ」
11/12/5(第689号)「「騒ぎ屋」の時代」
11/11/28(第688号)「技術進歩の恩恵」
11/11/21(第687号)「避けられる根本問題」
11/11/14(第686号)「物事の本質」
11/11/7(第685号)「組織の異端児的存在」
11/10/31(第684号)「組織の研究」
11/10/24(第683号)「気乗りしないTPPの話」
11/10/17(第682号)「解決策はユーロ離脱か」
11/10/10(第681号)「ポール・クルーグマン教授の変心」
11/10/3(第680号)「現実論者VS観念論者」
11/9/26(第679号)「世界的な「日本化」」
11/9/12(第678号)「欧州発のリーマンショック」
11/9/5(第677号)「野田政権の成立」
11/8/29(第676号)「円相場の今後の動き」
11/8/22(第675号)「欧米経済の変調」
11/8/15(第674号)「脱・反原発派の人々」
11/8/8(第673号)「食品安全委員会の問題」
11/8/1(第672号)「タウンミーティングの報告」
11/7/25(第671号)「意味の解らない暫定基準値」
11/7/18(第670号)「政府が明らかにすべきこと」
11/7/11(第669号)「放射線防護の専門家」
11/7/4(第668号)「ダイオキシンとプルトニウム」
11/6/27(第667号)「付加価値を生まない発電」
11/6/20(第666号)「付加価値と発電」
11/6/13(第665号)「ポスト原発はやはり原発」
11/6/6(第664号)「菅政権に対する不信任案騒動」
11/5/30(第663号)「ニューニューサンシャイン計画」
11/5/23(第662号)「原発と電力会社の経営」
11/5/16(第661号)「原発推進派と反・脱原発派」
11/5/2(第660号)「菅政権の迷走」
11/4/25(第659号)「放射線は身体に良い?」
11/4/18(第658号)「山を越えたか?」
11/4/11(第657号)「原子力の専門家」
11/4/4(第656号)「本当に重大な事は何か」
11/3/28(第655号)「電力不足で表沙汰になった事実」
11/3/21(第654号)「東日本巨大地震」
11/3/7(第653号)「日本が貿易立国という誤解」
11/2/28(第652号)「日本は本当に貿易立国?」
11/2/21(第651号)「関税以外の貿易障壁」
11/2/14(第650号)「TPPに関する推理」
11/2/7(第649号)「菅首相の消費税増税」
11/1/31(第648号)「モラルハザードの話」
11/1/24(第647号)「問題は分配ではない」
11/1/17(第646号)「永久債の日銀引受け」
11/1/10(第645号)「日本の経済成長シナリオ」
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