経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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12/6/4(710号)
ギリシャ化の話

  • 増税を論議している場合ではない
    今日、日本のマスコミは「消費税増税」に人々の関心を向けようと必死である。しかし一般の人々は「増税」とか「財政再建」と言ってもそれほど関心を持っているわけではない。ワイドショーが取上げるのは「女性タレントと占師」や「演歌歌手の事務所問題」であり、最近では「芸人の親の生活保護費受給問題」である。

    人々は消費税増税が、一部の政治家や官僚の功名心や意地といった「つまらない」もので押し進められていることを見透かしている。いくら首相が気骨のある政治家を気取って「不退転の決意」と言っても、一向に内閣支持率は上がらない。また増税騒動が政局絡みであり権力闘争ということも人々は知っている。

    増税法案が通るかどうかは野党自民党の動きにかかっている。今日の自民党の執行部は財政再建派と構造改革派の残党で構成されている。民主、自民の二大政党がこれで、第三党を目指す「みんなの党」がガチガチの構造改革派では日本国民に救いはない。


    今日の日本では、つまらない増税論議の前になすべき事が山積している。もちろん第一には経済の不調からの脱却である。世界の中で名目GDPが減り続けているのは日本くらいなものである(日本以外では北朝鮮ぐらいであろう)。この極めて低い経済の活動レベルを基準に、「景気が良くなった」とか「悪くなった」と言っているのだからあきれる。

    政府が公表する日本のデフレギップは、過去数年の経済活動の平均値と現在の活動レベルの「差」を示している。つまりこの政府公表のデフレギャップは、物理的な生産力の天井と現在の活動レベルの「差」を示すものではなく、経済的には何の意味もない数字である。また実際の経済成長率と過去数年の平均経済成長率との「差」を「潜在成長率」と呼んでいる(したがって政府公表の潜在成長率は2%とか3%といった現実離れしたものになっている)。06/2/27(第426号)「潜在GDPとGDPギャップ」06/3/6(第427号)「GDPギャップのインチキ推計法」などで説明したように、本当の「潜在成長率」は公表されているものよりずっと大きい。

    実際の物理的な生産力の天井はずっと上にあり、日本は膨大なデフレギャップを抱えている。これを反映し実際の雇用状況は極めて悪く、各業界は大きな設備の遊休を抱えている。これでは多少の景気対策ぐらいでは、雇用状況が好転したり設備投資が増えることはない。


    ギリシャを始め南欧諸国の財政・経済問題は解決不能の段階に入ってきた(筆者は、この問題の解決はこれらの国のユーロ離脱しかないと思っているが)。またEUの問題の影響が世界的に広がってきた。まずユーロ安であり、とうとう1ユーロは95円まできた(筆者は前に70円台も有りうると言っておいた)。相対的に強い米ドルに対しても、77円、78円と再び円高傾向が強まった。

    世界中の株価は下がっている。ただでさえ6月はファンドの半年決算であり売られやすい。日本の株価もかなり下落しているが、為替が円高になっているのでその分損失が小さくなり売られやすくなっている。また原油価格もバーレル当たり83ドルまで下落している。


    このように再び世界経済が凋落する気配を見せている。ところが日本の国会は、経済の動向なんてまるで関心がなく、何の役にもたたない消費税増税(一回の為替介入で吹っ飛ぶ程度の増税)が最大テーマなのだからあきれる。日本の政治家は間抜けな暇人(ひまじん)の集まりである。

    政府は、景気対策の一環として消費を喚起するために自動車などにエコ減税を実施している(実態は自動車が売れてもその分他のものが売れなくなる)。ところが一方で消費税を上げようとしているのである。消費税増税は全体の「消費」に対する制裁であり消費を抑えさせる行為である。このように政府も自分達がやっている事が分らなくなっている。


  • ギリシャのギリシャ化
    ギリシャの政界は混乱している。選挙の結果、過半数を占める勢力が出来ず再選挙となった。ギリシャ国民は「緊縮財政」はいやだけど「ユーロ離脱」も避けたいと思っている。しかしこれは実現が困難な願望である。

    EUの首脳(経済オンチの集まり)もギリシャに対してビジョンを持っているわけではない。ただギリシヤの「ユーロ離脱」だけはなんとか阻止したいと考えている。ギリシャに対して緊縮財政を求めて行くが、ギリギリのところで妥協するといったこれまでと同じパターンになろう。


    それにしてもギリシャというのは面白い国である。最近まで筆者なども、古代ギリシャの話を除けば、ギリシャについてはほとんど知識がなかった。就業者の4人に1人が公務員というのは驚く。産業と言えばオリーブの生産とその加工や海運業などである。以前は繊維産業がある程度盛んであったが、今日アジア勢に押され不調という。ただ外国からの観光客はかなり多いようである。

    一人当たりのGDPは3万ドル(これは数年前の数字であり、今日のユーロ安や経済の混乱でかなり減っていると思われるが)というのだからまずまずであり、国民所得は高くないが決して貧乏な国とは言えない。さしたる産業がなく日用品のほとんどを輸入しているのに、ある程度の所得があるというのはギリシャが財政赤字を続けてきたからとも推察される。


    ギリシャ人は、働くことが嫌いというより、働くことにあまり価値を置いていないように見受けられる。公務員も数時間働くと仕事を止めてさっさと家に帰ってしまうという。日本人から見れば「怠け者」と思うかもしれないが、全体的にヨーロッパの人々は、ギリシャ人と同様、あくせく働かない。特に人が嫌うような3Kの仕事は移民にまかせている。勤勉と言われるドイツ人でさえも日曜日には店を開けない。

    ただそのような欧州にあっても、ギリシャ人の働きの悪さは際立っているようである。そのような点が支援を求められているドイツ人の反感をかっている。


    構造改革派は、ギリシャには構造改革が必要と説く。構造を改革して競争力を付けるというのである。頭で考えるとそうであるが、ギリシャ人がドイツ人のように勤勉に働くようになるとは思えない。当コラムで筆者が昔から言っているように、「構造」とは変わらないか、あるいは変わりにくいものを指す言葉である。それを簡単に変えられるような錯覚を人々に与えてきたのが構造改革派の論客達である。

    ただ多少なりともギリシャ人の行動パターンを変えることは可能と考える。そのためにはユーロからの離脱であり自国通貨のドラクマの復活ということになる。おそらくドラクマは暴落する思われるので輸入品はばか高くなると思われる。輸入品の価格がばか高くなれば、ギリシャ人は自分達で「物」を作ろうということになると思われる。ただ通貨の変更には混乱が伴うことを覚悟する必要がある。


    産業技術が進歩し、人手をあまり使うことなく、大量に耐久性のある製品が製造される今日である。また技術進歩は、製造現場だけでなくあらゆる分野に広がり、世界は全体的に人手をあまり必要としなくなっている。毎年10%の経済成長を続けている中国でさえ失業が深刻な問題になっている。

    また日・独・米の金利が0.8〜1.5%と世界的に金利が低下している。ところがこれだけ金利が低下しても先進国では設備投資が活発にならない。筆者はこの傾向は今後もずっと続くと見ている。この金利の動きから判断し大胆な発言をするなら、少なくとも先進国では収益を求める民間の設備投資はこれ以上必要ないということになる。たしかに新興国や発展途上国は、今しばらくは民間投資が必要とされる。しかしそのうち先進国と同様、これらの国々も過剰設備を抱えることになろう。


    考えて見ればこのような状況は決して悪いことではない。人手をかけず消費物資が生産され、設備投資もさほど必要としない時代がやって来たということである。それなら人々は労働時間をどんどん短くすれば良いと思われる。まさに今日のギリシャの姿はある意味で理想の社会の到達点なのである。ただギリシャの場合の問題は、経済的な裏付けがないままギリシャ化したことである。



来週はギリシャの話をもう少し続けたい。また為替や株式の市場が荒れ始めており、大きく市場が動くようならそれも取上げたい。



12/5/21(第709号)「単式簿記の世界」
12/5/14(第708号)「文春と朝日の関係」
12/4/30(第707号)「続・増税論議と文芸春秋」
12/4/23(第706号)「増税論議と文芸春秋」
12/4/16(第705号)「増税論議と政界」
12/4/9(第704号)「増税派の人々」
12/4/2(第703号)「松下政経塾政治家と増税」
12/3/26(第702号)「英国の永久債発行」
12/3/19(第701号)「過去の号の修正」
12/3/12(第700号)「本誌700号に寄せて」
12/3/5(第699号)「投資顧問AIJの事件」
12/2/27(第698号)「橋下維新政党へのコメント」
12/2/20(第697号)「地方自治体と通貨」
12/2/13(第696号)「デフレ経済下での増税」
12/1/30(第695号)「無税国家への道」
12/1/23(第694号)「世界的な金利低下」
12/1/16(第693号)「過剰貯蓄による災い」
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11/12/12(第690号)「財政破綻のすすめ」
11/12/5(第689号)「「騒ぎ屋」の時代」
11/11/28(第688号)「技術進歩の恩恵」
11/11/21(第687号)「避けられる根本問題」
11/11/14(第686号)「物事の本質」
11/11/7(第685号)「組織の異端児的存在」
11/10/31(第684号)「組織の研究」
11/10/24(第683号)「気乗りしないTPPの話」
11/10/17(第682号)「解決策はユーロ離脱か」
11/10/10(第681号)「ポール・クルーグマン教授の変心」
11/10/3(第680号)「現実論者VS観念論者」
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11/8/29(第676号)「円相場の今後の動き」
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