経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




12/5/14(708号)
文春と朝日の関係

  • 朝日新聞が引用
    今週は最近の出来事をいくつか取上げる。前々号、前号で、とんでもない特集として取上げたのは、文芸春秋5月号の藤吉雅春とグループ「1984」の「シミュレーション 国家破綻 新・日本の自殺」であった。ところでこの連休中、筆者は雑誌などをまとめて読んだ。月刊文芸春秋は1月号から5月号までの5册をまとめ読みした。これで文芸春秋5月号に掲載されたこの奇妙な特集が組まれた背景が解ったような気がする。

    3月号にグループ「1984」(後で説明するが匿名のエコノミストや官僚など)が37年前の1975年2月号に執筆した論文「日本の自殺」が再掲されていた。筆者が文芸春秋を読み始めた頃の特集で、筆者もこの内容を覚えている。ローマ帝国が滅んだのは、外敵によるのではなく「パンとサーカス」を求める大衆に政治が迎合したことが最大の原因と結論付けている論文である。どうやら今年の1月10日の朝刊で朝日新聞の若宮啓文主筆が、論説「明日の社会に責任をもとう」の中で文春のこの昔の論文「日本の自殺」を引用したのである。これをきっかけにして今回の特集(藤吉雅春とグループ「1984」の「シミュレーション 国家破綻 新・日本の自殺」)が組まれたと思われる。


    文芸春秋は「新聞エンマ帖」などで朝日新聞に対して日頃辛口の論評を行っている。たしかに冷戦時代を通じ、文春と朝日の論調は明らかに対立していた。ところがその朝日が昔の文春の論文を肯定的に引用したのである。

    ちなみに「1984」とは、ジョージ・オーエルの近未来小説「一九八四」をもじったものである。この保守派のグループの中心人物は香山健一氏(元学習院大学教授)だったという。もちろん今回のグループ「1984」のメンバーとは全く違うと見なして良い。


    1975年の論文「日本の自殺」の命題である「栄華を誇った文明が外敵の侵入の前に内部崩壊していて、これが滅亡の主な原因」という指摘は珍しいものではない。ただこのような論文が書かれた時代背景というものを考えてみる必要がある。当時は、ソ連崩壊の前であり社会主義・共産主義がまだ輝いていた。日本でも東京(美濃部)・大阪(黒田)・京都(蜷川)などの大きな都会の知事や市長は、革新系、つまり社会党や共産党の支持を受けた者達で占められていた。

    また前年の1974年には日本共産党が、社会党との連立政権を視野に「民主連合政府綱領」というものを作成している。日本は、議会を通して社会主義・共産主義革命が成就する一歩手前まで来ていたのである。当時の国会の勢力を考えると、議会を通した革命が決して非現実的な話ではなかった。これに危機感を持った保守派の論客が、前年に日本共産党の「民主連合政府綱領」を批難した論文を文芸春秋に書いている。そしてこのメンバーを中心に1975年の論文「日本の自殺」は書かれたという話である。

    東京などの革新系の首長は、日本社会の社会主義化・共産主義化を進めるというよりも、社会福祉への歳出を増やすことに一生懸命であった。まさに今日でいうところの「バラマキ」である。彼等の政策は日本の産業の強化や公共投資に重点を置いた当時の自民党政権への対抗と位置付けられる。


    奇妙なことは、明らかにずっと革新勢力に同情的であったはずの朝日新聞の若宮主筆が、論敵と言える文芸春秋のこの保守派の論文を今日になって引用したことである。時代も変わったものと見ることが出来るが、筆者は朝日新聞というものの「いい加減さ」を如実に示していると感じる。戦前は軍国主義を煽り、戦後は一転して左翼運動を煽動し、ソ連崩壊後は新保守主義を唱えて来たのが日本の大新聞である。戦前は軍部にゴマをすり、今日、財務当局の御機嫌を伺っているのである。

    朝日の変心の背景には、今日の消費税増税論議があることは明らかである。増税に賛同している朝日などの大新聞は、日本の巨額の公的債務は長年の「パンとサーカス」政策の「ツケ」と見なしている。つまり増税を通じ保守派の文春と朝日は握手したように一見みえる。


  • 「一体どうなっているのだ」という話
    フランスで左派のオランド氏が大統領に就任し、ギリシャでは与党が総選挙で負けた。いずれも緊縮財政政策に対する有権者の反発を背景に与党が敗北している。この結果、ユーロが売られ国債価格は下落し、各国の市場にも影響が出ている。

    10/7/5(第622号)「サミットの変質」で述べたように、ギリシャのソブリン危機をきっかけにEU各国が緊縮財政に走ったのが誤りと筆者は考える。バブル崩壊によって有効需要の大きな不足が発生しているのに、緊縮財政を敷けば雇用が失われることは分かっていた。ユーロ安でメリットを受けたのは、輸出力のあるドイツだけであった。


    そもそもユーロという共通通貨の発行が間違いの元であった。EUとして市場を統合したり各種の制度や基準を統一することは納得できるが、通貨まで共通化するのは無理筋の施策であった。共通通貨を導入するのなら各国の財政を統合する必要がある。各国が国債を勝手に発行することを認めていたのでは、今日のような混乱が起ることは十分予測できるところであった。

    欧州人は観念論を好む。EUという市場の統合の次は通貨の統合と安易に考えたのであろう。観念論者の集まりであり議論を行えばきりがない事を知っているので、適当な、例えば「財政赤字は3%まで」といった根拠が薄弱な条件でユーロ加盟を認めてきた。ギリシャはゴールドマンサックスの入れ知恵で財政状況を粉飾しユーロ加盟を果たした。しかしこれがバレて財政危機を招いたのである。


    観念論でEU統合を推進してきたからやる事が矛盾だらけである。本来、市場を統合するのなら経済を欧州だけでブロック化すると思われたのに、自由貿易の信奉者と言った観念論者が一方にいるため色々な地域と貿易の自由化を進めてきた。韓国とのFTAもその一つである。これでは市場を統合した意味がない。

    このように今日のEUは観念論者同士の妥協の産物であり、今後も様々な矛盾が吹き出すものと思われる。もし自国の経済、特に雇用を守ろうと思うのならユーロから離脱し、経済政策の自由度を上げる他はないと筆者は考える。特に南欧諸国は一刻も早くユーロから離脱した方が良い。フランスもそうである。


    今後も、EU各国では緊縮財政推進の与党が負け、路線の修正が行われることになると考えられる。前段の例えなら「パンとサーカス」政策の復活である。オランド大統領は「経済成長による財政の再建」(どこかで聞いたような話)を唱えている。

    たしかに緊縮財政路線の転換はましな方向である。しかしユーロに加盟したままでは、制約条件が多く財政政策と言っても新しいフランス政府も大した事はできない。また間接税中心の欧州では、多少経済が上向いても税収は伸びない(税収のGDPに対する弾性値は小さい)。したがって「経済成長による財政の再建」と言っているが、オランド政権も早晩行き詰まると筆者は見ている。まだまだEU、そして欧州の経済の混乱は続くと思われる。


    混乱と言えば、文春と朝日の関係も混乱している。月刊文芸春秋は、朝日の若宮主筆が昔の文春の論文を取上げてくれたことで舞い上がり、5月号で「シミュレーション 国家破綻 新・日本の自殺」という生煮えの特集を組んだ。

    ところが週刊文春は、最新号で、この朝日新聞の若宮主筆の醜聞を取上げ、この人物を大々的に叩いている。どうも週刊文春は、若宮氏が朝日新聞紙上で石原都知事の尖閣諸島購入構想にいちゃもんを付けていることに反発しているらしい。このように若宮主筆をめぐり文春は、月刊と週刊で全く異なった対応を見せ混乱している。筆者は「一体どうなっているのだ」という感想を持つ。ちなみに藤吉雅春とグループ「1984」の藤吉氏は、経済とは全く関係なく月刊文芸春秋2月号に「金正日の遺訓」という文章を書いている。



来週は、今週の話を元に「正しい経済学の普及」について述べたい。



12/4/30(第707号)「続・増税論議と文芸春秋」
12/4/23(第706号)「増税論議と文芸春秋」
12/4/16(第705号)「増税論議と政界」
12/4/9(第704号)「増税派の人々」
12/4/2(第703号)「松下政経塾政治家と増税」
12/3/26(第702号)「英国の永久債発行」
12/3/19(第701号)「過去の号の修正」
12/3/12(第700号)「本誌700号に寄せて」
12/3/5(第699号)「投資顧問AIJの事件」
12/2/27(第698号)「橋下維新政党へのコメント」
12/2/20(第697号)「地方自治体と通貨」
12/2/13(第696号)「デフレ経済下での増税」
12/1/30(第695号)「無税国家への道」
12/1/23(第694号)「世界的な金利低下」
12/1/16(第693号)「過剰貯蓄による災い」
12/1/9(第692号)「バーチャルな話」
11/12/19(第691号)「シミュレーションモデルの話」
11/12/12(第690号)「財政破綻のすすめ」
11/12/5(第689号)「「騒ぎ屋」の時代」
11/11/28(第688号)「技術進歩の恩恵」
11/11/21(第687号)「避けられる根本問題」
11/11/14(第686号)「物事の本質」
11/11/7(第685号)「組織の異端児的存在」
11/10/31(第684号)「組織の研究」
11/10/24(第683号)「気乗りしないTPPの話」
11/10/17(第682号)「解決策はユーロ離脱か」
11/10/10(第681号)「ポール・クルーグマン教授の変心」
11/10/3(第680号)「現実論者VS観念論者」
11/9/26(第679号)「世界的な「日本化」」
11/9/12(第678号)「欧州発のリーマンショック」
11/9/5(第677号)「野田政権の成立」
11/8/29(第676号)「円相場の今後の動き」
11/8/22(第675号)「欧米経済の変調」
11/8/15(第674号)「脱・反原発派の人々」
11/8/8(第673号)「食品安全委員会の問題」
11/8/1(第672号)「タウンミーティングの報告」
11/7/25(第671号)「意味の解らない暫定基準値」
11/7/18(第670号)「政府が明らかにすべきこと」
11/7/11(第669号)「放射線防護の専門家」
11/7/4(第668号)「ダイオキシンとプルトニウム」
11/6/27(第667号)「付加価値を生まない発電」
11/6/20(第666号)「付加価値と発電」
11/6/13(第665号)「ポスト原発はやはり原発」
11/6/6(第664号)「菅政権に対する不信任案騒動」
11/5/30(第663号)「ニューニューサンシャイン計画」
11/5/23(第662号)「原発と電力会社の経営」
11/5/16(第661号)「原発推進派と反・脱原発派」
11/5/2(第660号)「菅政権の迷走」
11/4/25(第659号)「放射線は身体に良い?」
11/4/18(第658号)「山を越えたか?」
11/4/11(第657号)「原子力の専門家」
11/4/4(第656号)「本当に重大な事は何か」
11/3/28(第655号)「電力不足で表沙汰になった事実」
11/3/21(第654号)「東日本巨大地震」
11/3/7(第653号)「日本が貿易立国という誤解」
11/2/28(第652号)「日本は本当に貿易立国?」
11/2/21(第651号)「関税以外の貿易障壁」
11/2/14(第650号)「TPPに関する推理」
11/2/7(第649号)「菅首相の消費税増税」
11/1/31(第648号)「モラルハザードの話」
11/1/24(第647号)「問題は分配ではない」
11/1/17(第646号)「永久債の日銀引受け」
11/1/10(第645号)「日本の経済成長シナリオ」
10/12/20(第644号)「難しい日本の経済成長」
10/12/13(第643号)「日本における新経済成長論」
10/12/6(第642号)「経済成長理論に対する批判」
10/11/29(第641号)「「ケインズはもう古い」?」
10/11/22(第640号)「不況下の反ケインズ政策」
10/11/15(第639号)「政治家に向かない職業」
10/11/8(第638号)「米政府に対するロビー活動」
10/11/1(第637号)「この日をつかめ(Seize the Day)」
10/10/25(第636号)「人民元安容認の経緯」
10/10/18(第635号)「本誌の中国経済の見方」
10/10/11(第634号)「「腹を括る」べき時」
10/10/4(第633号)「中国漁船の公務執行妨害」
10/9/20(第632号)「菅政権の行方」
10/9/13(第631号)「中央銀行の制度設計」
10/9/6(第630号)「日銀悪玉説」
10/8/30(第629号)「外為特会の31兆円の評価損」
10/8/23(第628号)「野田財務大臣を罷免せよ!」
10/8/9(第627号)「世界に広がるデフレ」
10/8/2(第626号)「米国もデフレ?」
10/7/26(第625号)「国債利払いの名目GDP比率」
10/7/19(第624号)「中国の日本国債購入」
10/7/12(第623号)「10年参議院選挙の結果」
10/7/5(第622号)「サミットの変質」
10/6/28(第621号)「各党のデフレ対策」
10/6/21(第620号)「菅首相の想定」
10/6/14(第619号)「EU市場混乱の本質」
10/6/7(第618号)「EU経済の混乱とIMF」
10/5/31(第617号)「議論の前提条件」
10/5/24(第616号)「現実離れの構造改革派」
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10/4/12(第611号)「ミクロで捉えた日本経済」
10/4/5(第610号)「何事もタイミング」
10/3/29(第609号)「政策提言の想定問答」
10/3/22(第608号)「政策提言(後半)」
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10/3/8(第606号)「税収と名目GDPの関係」
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10/1/25(第600号)「日本の財政構造」
10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」
10/1/11(第598号)「10年今年の景気」
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