経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


来週はゴールデンウィークにつき休刊、次回号は5月14日を予定

12/4/30(707号)
続・増税論議と文芸春秋

  • 極めて「反日的」な部署
    先週号で取上げた文芸春秋5月号の藤吉雅春とグループ「1984」の「シミュレーション 国家破綻 新・日本の自殺」について、今週も特に問題と思われる事項について述べる。まずこの文章は、財政再建原理主義であり増税派の者達がいつも繰出す虚言・妄言の固まりみたいなものである。例えば「国債の格付引下げによって日本国債が暴落する」といっているが、このような脅しは目新しくなく昔から言われてきたことである。実際、過去に何回も日本国債は格下げされたことがある。しかしこれまで一時的な価格の下落といったものがあっても、暴落なんて事態は全くなかった。

    たしかに、昔、格下げ時にフィンランド(筆者の記憶によればフィンランドだったと思う)の公的資金の運用機関が、保有する日本の国債を全て売却し話題になったことがある。この運用機関には一定の格付以下の債券を保有しないといった内規があったため、機械的に日本国債を売っただけである。しかし保有していた日本国債は金額的にたいしたものではなく、影響もほぼなかった。むしろその後、日本国債の価格は上昇しており(金利が低下)、このフィンランドの運用機関は損をしたことになる。

    いずれにしても日本国債の外国人の保有はほとんどなく(全体の5%程度)、先週号で指摘したように国債の保有の大半は日本政府の息のかかった国内の金融機関である。もちろん日銀が国債を買うという選択肢もある。百歩譲って日本の金融機関が国債を売ったとしても、売却で得た資金の運用先がない。再び日本国債を買う他はないのである。

    だいたい格付機関の信頼性はサブプイムローン問題などで地に落ちている。筆者も格付機関の貧弱なスタッフで適切な格付を行えると思ったことがない。米国債も昨年夏に格下げされたが、価格は下がっていない。これでどうして「暴落」ということが起るのか、頭のおかしい人々の考えることは解らない。


    この他で筆者が気になったいくつかの点を取上げる。主要な登場人物である財務省理財局の浅田要子の所属しているのは海外の投資家に日本国債を売込む部署である。この部署は、日本の国債の保有者が片寄っているということが問題であると、世界の広い範囲で日本国債を消化させるといった目的で設置された。

    財務省は、国内向けには日本の財政は危機的状況と言っている。しかし浅田要子の所属するこのチームは「日本の国債は安心です」と海外の投資家にPRしている。これは財務省の「二枚舌」と国会でも問題になった(亀井亜紀子議員が国会の質問で暴露)。


    海外の投資家が日本国債を買えば、当然、それは円高要因となる。一方で円高阻止のための為替介入をやって借金を増やしておきながら、海外に日本国債をセールスして資金を集めるといった本当にばかげたことをやっているのである。つまり海外勢の日本国債の保有が増える度に、よほどの事がない限り二度と売れない米国債の保有額が増えるという図式になる。

    財務当局は外国人の日本国債の保有が増えれば、日本の国債価格が安定すると観念的に思っているが、話は全く逆であろう。例えば南欧の財政危機騒動も海外の投資家が国債を売るから起っているのである。また特に利害が対立する国の日本国債の保有が増えれば、違った意味で問題が起る。実際、米国は国債を大量保有している中国から「米国債を売るぞ」と常に脅されている(中国がはっきりと言わないまでも、米国内で中国の行動を危惧する声が起るような言動を行えばこれで十分脅しになる)。

    この問題の中国が日本の国債をかなり買っている。ところが10/8/23(第628号)「野田財務大臣を罷免せよ!」で指摘したように、当時の野田財務大臣が中国の日本国債の購入をむしろ歓迎している。この一件には本当に筆者もあきれた。

    筆者は、あらゆる角度から見てこの浅田要子の所属するところは、完全に日本の国益に反する極めて「反日的」な部署と捉えている。必要なら日銀が日本国債を買えば済む話である。何故、このような問題になっている部署をわざわざもってきたのか不思議である。藤吉雅春氏等に常識がないと言えばそれだけであるが。


  • 保守派の雑誌
    上記シミュレーションに「日銀の支援(国債の市場買入れの増額と新規国債の日銀引受け)」が「際限のない国債買入れ」と市場が受取り、国債の投売りが起るという場面がある。増税を目論む財政原理主義者がよく使ういい加減なセリフの一つである。どうして中央銀行が国債を買うのに国債が暴落するのか。話は全く逆であろう。

    EUでもECB(欧州中央銀行)の国債買入れが一つのテーマになっている。米国や英国、そして日本はずっと前から中央銀行が自国の国債を購入している。特に国債が売られている南欧は、各国の中央銀行でそれが出来ないことで問題になっている。筆者は、ギリシャだけでなくイタリアやスペインなどもユーロから一刻も早く離脱し、各国の中央銀行が国債買入れできる態勢を作るべきと考える。


    日本国債に関して虚言・妄言がマスコミを賑わせる時、いつも国債市場にいやな暗い陰を感じることがある。たしかに今回の増税騒動の決着は6月頃に見えて来るという観測がある。これに合わせたヘッジファンドの動きがあっても不思議ではない。

    前回、日本国債の暴落説が吹き出したのは民主党政権の成立前夜の09年の夏であった。民主党政権で財政赤字が増え、国債発行が増えると見なされていたからである。このような時には投資家のポジショントークと見間違うような発言が必ずマスコミにも登場する。本誌は09/8/10(第581号)「総選挙と国債増発」で、朝日テレビ系の報道ステーションに登場した朝日新聞の星氏の虚言・妄言めいた解説を取上げたことがある。


    ヘッジファンドは、この時以外にも日本国債の売り仕掛けを行っている可能性がある。ただ多くの場合、ヘッジファンドは日本国債の売買で損をしていると思われる。藤吉氏のシミュレーションの中でも、ヘッジファンドが日本国債でずっと損失を出している話が出ている。

    今日、莫大な金余りを背景に金融業界はゼロサムゲームの「どろどろ」の世界になっている。投資家や金融機関は「騙すか騙されるか」の情報戦をやりながら収益を上げる他はない。今回の増税騒動で彼等はリベンジを狙っているという話は有りうることである。このように「鉄火場」化した金融の世界に素人の文芸春秋が首を突っ込む事自体が問題である。目論みのある勢力に利用されるだけであろう。


    昔は左派系の雑誌が全盛であった。「朝日ジャーナル」を小脇に挟み闊歩するのが若者のファッションであった。そんな中で文芸春秋はずっと保守派を代表する地味な雑誌であった。左翼がカッコ良く、「保守反動」と言われたように保守系の雑誌は日陰者であった。

    ところがソ連が崩壊し、社会主義・共産主義なんてとんでもないということになった。日本では日本社会党が潰れ日本共産党の勢力が萎んだ。論壇も保守派全盛となり、保守系の雑誌が次々と創刊された。唯一の保守系の総合雑誌と見なされていた文芸春秋も、保守系全盛の時代、段々と目立たなくなった。保守派の雑誌同士の競争が激しくなり、また人々の文章離れがあり文芸春秋社のオピニオン雑誌「諸君」はとうとう廃刊になった。


    経済学の世界では昔(戦前から戦後にかけ)はマルクス経済学が全盛であったが、戦後はケインズ経済学が一時的にブームとなった。しかしベルリンの壁崩壊のずっと前からケインズ経済学を否定する形で新古典派(実態は古典派経済学)が台頭し今日に到っている。

    特にベルリンの壁崩壊後は、政府の経済への介入を認めるケインズ経済学は共産主義に近いと批難の的となった。少なくとも今日までのところ日本では、「小さな政府」を指向する新古典派の新保守主義が経済学の主流となっている。このような流れが文芸春秋だけでなく保守系雑誌や新聞の経済論調にも少なからず影響を与えている。

    しかし社会保障が今後の重要なテーマになる日本が「小さな政府」で乗り切れるわけがない。この現実に直面し、今日増税派という財政再建論者が勢いを増してきたのである。しかし両者とも18世紀、19世紀の経済(生産力と資本が乏しかった時代)を前提にしたような視野の狭い経済理論(小さな政府や財政の均衡)が基になっている。最悪のケースは両者が妥協した形の経済政策が実行されることである(ほどほどの増税と歳出カット)。



来週はゴールデンウィークにつき休刊。次回号は5月14日を予定しているが、テーマは未定である。



12/4/23(第706号)「増税論議と文芸春秋」
12/4/16(第705号)「増税論議と政界」
12/4/9(第704号)「増税派の人々」
12/4/2(第703号)「松下政経塾政治家と増税」
12/3/26(第702号)「英国の永久債発行」
12/3/19(第701号)「過去の号の修正」
12/3/12(第700号)「本誌700号に寄せて」
12/3/5(第699号)「投資顧問AIJの事件」
12/2/27(第698号)「橋下維新政党へのコメント」
12/2/20(第697号)「地方自治体と通貨」
12/2/13(第696号)「デフレ経済下での増税」
12/1/30(第695号)「無税国家への道」
12/1/23(第694号)「世界的な金利低下」
12/1/16(第693号)「過剰貯蓄による災い」
12/1/9(第692号)「バーチャルな話」
11/12/19(第691号)「シミュレーションモデルの話」
11/12/12(第690号)「財政破綻のすすめ」
11/12/5(第689号)「「騒ぎ屋」の時代」
11/11/28(第688号)「技術進歩の恩恵」
11/11/21(第687号)「避けられる根本問題」
11/11/14(第686号)「物事の本質」
11/11/7(第685号)「組織の異端児的存在」
11/10/31(第684号)「組織の研究」
11/10/24(第683号)「気乗りしないTPPの話」
11/10/17(第682号)「解決策はユーロ離脱か」
11/10/10(第681号)「ポール・クルーグマン教授の変心」
11/10/3(第680号)「現実論者VS観念論者」
11/9/26(第679号)「世界的な「日本化」」
11/9/12(第678号)「欧州発のリーマンショック」
11/9/5(第677号)「野田政権の成立」
11/8/29(第676号)「円相場の今後の動き」
11/8/22(第675号)「欧米経済の変調」
11/8/15(第674号)「脱・反原発派の人々」
11/8/8(第673号)「食品安全委員会の問題」
11/8/1(第672号)「タウンミーティングの報告」
11/7/25(第671号)「意味の解らない暫定基準値」
11/7/18(第670号)「政府が明らかにすべきこと」
11/7/11(第669号)「放射線防護の専門家」
11/7/4(第668号)「ダイオキシンとプルトニウム」
11/6/27(第667号)「付加価値を生まない発電」
11/6/20(第666号)「付加価値と発電」
11/6/13(第665号)「ポスト原発はやはり原発」
11/6/6(第664号)「菅政権に対する不信任案騒動」
11/5/30(第663号)「ニューニューサンシャイン計画」
11/5/23(第662号)「原発と電力会社の経営」
11/5/16(第661号)「原発推進派と反・脱原発派」
11/5/2(第660号)「菅政権の迷走」
11/4/25(第659号)「放射線は身体に良い?」
11/4/18(第658号)「山を越えたか?」
11/4/11(第657号)「原子力の専門家」
11/4/4(第656号)「本当に重大な事は何か」
11/3/28(第655号)「電力不足で表沙汰になった事実」
11/3/21(第654号)「東日本巨大地震」
11/3/7(第653号)「日本が貿易立国という誤解」
11/2/28(第652号)「日本は本当に貿易立国?」
11/2/21(第651号)「関税以外の貿易障壁」
11/2/14(第650号)「TPPに関する推理」
11/2/7(第649号)「菅首相の消費税増税」
11/1/31(第648号)「モラルハザードの話」
11/1/24(第647号)「問題は分配ではない」
11/1/17(第646号)「永久債の日銀引受け」
11/1/10(第645号)「日本の経済成長シナリオ」
10/12/20(第644号)「難しい日本の経済成長」
10/12/13(第643号)「日本における新経済成長論」
10/12/6(第642号)「経済成長理論に対する批判」
10/11/29(第641号)「「ケインズはもう古い」?」
10/11/22(第640号)「不況下の反ケインズ政策」
10/11/15(第639号)「政治家に向かない職業」
10/11/8(第638号)「米政府に対するロビー活動」
10/11/1(第637号)「この日をつかめ(Seize the Day)」
10/10/25(第636号)「人民元安容認の経緯」
10/10/18(第635号)「本誌の中国経済の見方」
10/10/11(第634号)「「腹を括る」べき時」
10/10/4(第633号)「中国漁船の公務執行妨害」
10/9/20(第632号)「菅政権の行方」
10/9/13(第631号)「中央銀行の制度設計」
10/9/6(第630号)「日銀悪玉説」
10/8/30(第629号)「外為特会の31兆円の評価損」
10/8/23(第628号)「野田財務大臣を罷免せよ!」
10/8/9(第627号)「世界に広がるデフレ」
10/8/2(第626号)「米国もデフレ?」
10/7/26(第625号)「国債利払いの名目GDP比率」
10/7/19(第624号)「中国の日本国債購入」
10/7/12(第623号)「10年参議院選挙の結果」
10/7/5(第622号)「サミットの変質」
10/6/28(第621号)「各党のデフレ対策」
10/6/21(第620号)「菅首相の想定」
10/6/14(第619号)「EU市場混乱の本質」
10/6/7(第618号)「EU経済の混乱とIMF」
10/5/31(第617号)「議論の前提条件」
10/5/24(第616号)「現実離れの構造改革派」
10/5/17(第615号)「これも一歩前進か」
10/5/10(第614号)「一歩前進か」
10/4/26(第613号)「ガラパゴス症候群」
10/4/19(第612号)「マクロによる検証」
10/4/12(第611号)「ミクロで捉えた日本経済」
10/4/5(第610号)「何事もタイミング」
10/3/29(第609号)「政策提言の想定問答」
10/3/22(第608号)「政策提言(後半)」
10/3/15(第607号)「政策提言(前半)」
10/3/8(第606号)「税収と名目GDPの関係」
10/3/1(第605号)「政治ができる事」
10/2/22(第604号)「積極財政への雑音」
10/2/15(第603号)「経済と金融の間の緊張関係」
10/2/8(第602号)「第二回目キャンペーン」
10/2/1(第601号)「第一回目キャンペーン」
10/1/25(第600号)「日本の財政構造」
10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」
10/1/11(第598号)「10年今年の景気」
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