経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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12/4/9(704号)
増税派の人々

  • 財政再建に寄与しない増税
    今週は「消費税増税」というものを少し突き放し、これを客観的に眺めることから始める。増税の原案は、まず平成14年4月に8%に引上げ15年10月さらに10%にするというものである。現在の消費税が13兆円であるから、計算上は8%に引上げることによって7.8兆円の増税となる。

    それに対して国の借金は1,000兆円と言われている(もっとも本誌の純債務の計算ではもっと小さくなるが)。しかも増税が仮に経済に全く悪影響を与えることがなく、そっくり増収になったとしても、7.8兆円なんて本当に小さい金額である。つまり1,000兆円に比べると7.8兆円はまさに「ゴミ」のようなものである。とても消費税増税は、彼等の言うところ財政再建にほとんど寄与しない。

    また7.8兆円と言えば、昨年政府がたった2〜3日の為替介入で使った金額に相当する。介入当事者は「為替介入によって得た外貨は米国債などの資産になっている」強弁するが、為替介入の資金を国の借金で賄っていることに違いはない(1,000兆円には過去の為替介入資金が相当含まれている)。ところが今「日本の財政の累積債務を考えると、責任ある政治家は増税に賛成するはず」という空疎なセリフが広がっている。まるで増税によって財政が健全化するかのような「妄想」を広めているのである。


    野田政権は、このつまらない増税法案を通すため四苦八苦している。一つが経済成長の付帯条件である。増税を実施するには「名目3%、実質2%」が必要な条件としている。本当に、切実に増税が日本にとって必要ならこのような条件なんて付けない。経済に全く自信がないのである。

    またワイドショーのコメテータをなだめるのが目的なのか、増税法案を通すため国会議員の歳費を減らすことを考えている(筆者はこれに絶対反対)。さらに公務員の給与を減額したり国家公務員の採用を大幅に減らす方針であり、これらも増税と無関係ではない。特に後者は今日のような新卒者の就職難の時にやることではない。財政再建論者は、口々に「借金を後世に残すことは問題」と言っているが、その後世の人々の就職口を狭めているのである。いかに増税論者達がいい加減な事を口先で言っているのか、これは如実に示している。


    大騒ぎをしている増税法案であるが、法案が成立しても実際には実施されない可能性がある。過去にも成立したのに凍結された法案がある。橋本政権が強硬に成立させた「財政改革法」である。これは98/8/31(第79号)「政治と経済の混乱を考える」他で取上げたように、法律によって国の財政を均衡させるといったとんでもないものであった。

    財政の均衡法は、米国の州によって制定されているところがあるが、国の段階で均衡法を制定している国はない(国の財政はマクロ経済におけるスタビライザー機能が求められており、常に財政を均衡させなければならないという考えは危険)。結果的に橋本首相が失脚して、このとんでもない法律は凍結された。この法案は「経済のど素人」であった梶山静六官房長官が強引に成立させたものである(実働部隊は梶山氏の子分であった与謝野副官房長官)。筆者から見れば今回の増税法案は、この「財政改革法」と似ている。


    経済に悪影響が考えられ、また財政再建にも足しにならないのが今回の増税案である。ところが増税派は「人々は増税によって将来の日本の財政を安心し消費を増やすため景気はむしろ良くなる」という妄言を吐いている。そのような変わり者が日本に何人いると言うのだろうか。


  • 功名心と意地からの増税
    増税論議が行われている自体が経済に悪影響を与える。増税を考えているのに財政支出を増やすわけには行かないというのが常識になっている。当然、様々な歳出はカットする方向に向かう。前段で取上げた「国会議員の歳費の削減」や「国家公務員採用の大幅削減」などもその一環である。

    これは「財政改革法」を通した時の橋本政権下の状況と非常に似ている。この時には消費税増税に加え財政を緊縮にした。この結果、経済は急降下し、金融機関の不良債権問題が深刻化した。実際に今回の増税が実施されるかどうかを別にして、同様に増税論議が続く限り財政出動がさらに困難になり日本経済はジリ貧が続くことになる。


    復興需要によって東北の一部の景気が良い。需要があれば経済は拡大するのであって、これは予想されたことである。当然、このことはケインズ政策の有効性を証明している。

    少なくとも復興に財政を投入することに反対する者はいない。しかし今の日本では大震災のような危機的状況でも起らなければ、増税論議を吹き飛ばして財政を出動する可能性はないという話である。つまり日本中で東日本大震災のような大災害が起るとか、他国から軍事的侵略を受けるといったような非常事態でも起らない限り、大きな財政出動はなされないということである。


    増税を推進しているような人々は、日本の経済がずっとデフレ状態であることに危機感を持っていない。新卒者にろくな就職口がなく、毎年3万人以上の自殺者(かなりの部分は経済的理由と筆者は見る)が出る日本の状況を「普通」と思っている。

    それどころか「増税によって景気が良くなる(将来を安心して人々は金を使う)」と平気で嘘をつく。驚くことにそれを示すシミュレーションモデルまで用意しているという。もちろん生産要素(資本・労働)の稼働率が100%とか、増税によって金利が低下し投資が増えるといったとんでもない前提条件を組込んだインチキモデルと推察される。


    増税派にはまず「財政規律の重視」する人々がいる。個人や家計の経済の倫理観で国家財政が均衡することが必要と説く(彼等を仮に倫理派と呼ぶことにする)。ところがこの考え方に一般の人々の中にも賛同する者が多い。ただし倫理派の主張するように財政規律を回復するには35%程度の消費税増税が必要である。しかもそのような大増税が経済に全く影響を与えないということが、この場合必要になってくる。筆者から見れば、総じて倫理派の人々は現実の経済に疎い。

    また今回の増税では、この倫理派の者達とは別に「功名心」でこれを実現しようとしている人々(特に政治家)がいる。筆者から見れば、野田首相がその典型である。増税が非常に困難な政策と理解しているからこそ、これに挑戦しようと言うのである。難しい政策だから偏差値が高く価値があり、実現すれば歴史に名が残るとでも思っているのである。筆者は野田首相を支える官僚も同類(功名心と意地で増税を推進している)と見ている。だいたい財務官僚(一部の変人を除き)も日本の財政が危機なんて誰も思っていない(日本の国債は安心ですと海外に日本国債をセールスしているくらい)。

    前段から説明しているように、仮に今回の増税が実現しても財政再建にほとんど影響がない(むしろ財政が悪化する可能性がある)。財政に疎いと思われている野田首相が、首相就任早々、かつ唐突に増税を言い始めた時から、筆者はこれは「功名心」からと感じていた。

    動機が「功名心」であるから、増税法案を成立させること自体が目的である。「財政改革法」のように実際には増税が実施されなかったり、あるいは増税が実施されそれが経済に悪影響を与えても彼等には知ったことではない。ところが野田首相のこの態度を「責任ある政治家の姿勢」と賞賛している政治評論家がいるのだから驚く。筆者は功名心と意地で増税をされたのではたまったものではないと考える。



来週は「増税派」「構造改革派」「積極財政派」の整理を行う。



12/4/2(第703号)「松下政経塾政治家と増税」
12/3/26(第702号)「英国の永久債発行」
12/3/19(第701号)「過去の号の修正」
12/3/12(第700号)「本誌700号に寄せて」
12/3/5(第699号)「投資顧問AIJの事件」
12/2/27(第698号)「橋下維新政党へのコメント」
12/2/20(第697号)「地方自治体と通貨」
12/2/13(第696号)「デフレ経済下での増税」
12/1/30(第695号)「無税国家への道」
12/1/23(第694号)「世界的な金利低下」
12/1/16(第693号)「過剰貯蓄による災い」
12/1/9(第692号)「バーチャルな話」
11/12/19(第691号)「シミュレーションモデルの話」
11/12/12(第690号)「財政破綻のすすめ」
11/12/5(第689号)「「騒ぎ屋」の時代」
11/11/28(第688号)「技術進歩の恩恵」
11/11/21(第687号)「避けられる根本問題」
11/11/14(第686号)「物事の本質」
11/11/7(第685号)「組織の異端児的存在」
11/10/31(第684号)「組織の研究」
11/10/24(第683号)「気乗りしないTPPの話」
11/10/17(第682号)「解決策はユーロ離脱か」
11/10/10(第681号)「ポール・クルーグマン教授の変心」
11/10/3(第680号)「現実論者VS観念論者」
11/9/26(第679号)「世界的な「日本化」」
11/9/12(第678号)「欧州発のリーマンショック」
11/9/5(第677号)「野田政権の成立」
11/8/29(第676号)「円相場の今後の動き」
11/8/22(第675号)「欧米経済の変調」
11/8/15(第674号)「脱・反原発派の人々」
11/8/8(第673号)「食品安全委員会の問題」
11/8/1(第672号)「タウンミーティングの報告」
11/7/25(第671号)「意味の解らない暫定基準値」
11/7/18(第670号)「政府が明らかにすべきこと」
11/7/11(第669号)「放射線防護の専門家」
11/7/4(第668号)「ダイオキシンとプルトニウム」
11/6/27(第667号)「付加価値を生まない発電」
11/6/20(第666号)「付加価値と発電」
11/6/13(第665号)「ポスト原発はやはり原発」
11/6/6(第664号)「菅政権に対する不信任案騒動」
11/5/30(第663号)「ニューニューサンシャイン計画」
11/5/23(第662号)「原発と電力会社の経営」
11/5/16(第661号)「原発推進派と反・脱原発派」
11/5/2(第660号)「菅政権の迷走」
11/4/25(第659号)「放射線は身体に良い?」
11/4/18(第658号)「山を越えたか?」
11/4/11(第657号)「原子力の専門家」
11/4/4(第656号)「本当に重大な事は何か」
11/3/28(第655号)「電力不足で表沙汰になった事実」
11/3/21(第654号)「東日本巨大地震」
11/3/7(第653号)「日本が貿易立国という誤解」
11/2/28(第652号)「日本は本当に貿易立国?」
11/2/21(第651号)「関税以外の貿易障壁」
11/2/14(第650号)「TPPに関する推理」
11/2/7(第649号)「菅首相の消費税増税」
11/1/31(第648号)「モラルハザードの話」
11/1/24(第647号)「問題は分配ではない」
11/1/17(第646号)「永久債の日銀引受け」
11/1/10(第645号)「日本の経済成長シナリオ」
10/12/20(第644号)「難しい日本の経済成長」
10/12/13(第643号)「日本における新経済成長論」
10/12/6(第642号)「経済成長理論に対する批判」
10/11/29(第641号)「「ケインズはもう古い」?」
10/11/22(第640号)「不況下の反ケインズ政策」
10/11/15(第639号)「政治家に向かない職業」
10/11/8(第638号)「米政府に対するロビー活動」
10/11/1(第637号)「この日をつかめ(Seize the Day)」
10/10/25(第636号)「人民元安容認の経緯」
10/10/18(第635号)「本誌の中国経済の見方」
10/10/11(第634号)「「腹を括る」べき時」
10/10/4(第633号)「中国漁船の公務執行妨害」
10/9/20(第632号)「菅政権の行方」
10/9/13(第631号)「中央銀行の制度設計」
10/9/6(第630号)「日銀悪玉説」
10/8/30(第629号)「外為特会の31兆円の評価損」
10/8/23(第628号)「野田財務大臣を罷免せよ!」
10/8/9(第627号)「世界に広がるデフレ」
10/8/2(第626号)「米国もデフレ?」
10/7/26(第625号)「国債利払いの名目GDP比率」
10/7/19(第624号)「中国の日本国債購入」
10/7/12(第623号)「10年参議院選挙の結果」
10/7/5(第622号)「サミットの変質」
10/6/28(第621号)「各党のデフレ対策」
10/6/21(第620号)「菅首相の想定」
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10/5/31(第617号)「議論の前提条件」
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10/4/12(第611号)「ミクロで捉えた日本経済」
10/4/5(第610号)「何事もタイミング」
10/3/29(第609号)「政策提言の想定問答」
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10/3/8(第606号)「税収と名目GDPの関係」
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10/1/25(第600号)「日本の財政構造」
10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」
10/1/11(第598号)「10年今年の景気」
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