経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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12/3/5(699号)
投資顧問AIJの事件

  • やはり金融業は斜陽産業?
    先週号の話を続ける前に、投資顧問のAIJの問題を取上げる。この問題が発覚した当初、筆者は「これは大変な事になる」と予感した。先週も取上げるようと思ったが、情報不足でもあり思いとどまった。

    AIJの問題発覚後、金融庁も慌てて他の投資顧問の緊急調査を始めた。筆者は同様の問題が広がっていると見ている。市場には今のところ特に大きな影響は出ていないが、問題の広がり方によっては当然市場にも衝撃があろう。


    AIJは厚生年金基金の資金を受託し運用していた。受託していた2,000億円のうち残っているのは50億円ということである。消えた金額は運用の損失と経費ということになる。報道によれば、AIJは毎年損失を出していたが、特にリーマンショックの影響での損失が大きかったようである。

    AIJはこの損失を隠し、逆に高収益を装い資金を集めていた。この誤魔化しの高収益が信じられていて、厚生年金基金の委託者の間でもAIJは一番人気のある投資顧問であった。今回、AIJの粉飾は明らかになったが、他にも同じようなことをやっている投資顧問がいくつもあると思って良い。


    AIJ問題の発覚の前、配当型投信の「タコ配」が問題になっていた。配当型投信は定期的に配当を行うということをセールスポイントにして、顧客から資金を集めている。しかし今日の株式市場の低迷によって、収益どころか損失を出している投信が多数ある。

    ところがこのような赤字の投信が定期的に配当を出しているのである。当然、配当は元本を削ってなされている。このため顧客は投信を解約した時、元本が驚くほど目減りしていることに驚くことになる。ただこのような投信の実態は、解約でもしない限り顧客は気付かないのが普通である。この「タコ配」投信の問題は、AIJの問題と共通する部分が大きい。


    10/11/1(第637号)「この日をつかめ(Seize the Day)」で筆者は「金融業は斜陽産業」と指摘した。根拠は世界的な金余りによって「資金」というものに希少性がなくなったことである。この余剰な「資金」は、バブル経済を経ることによって大きくなった。

    資金に希少性がなくなったため、世界的に金利が低下していると筆者は見ている。金利低下によって普通の運用ではもちろん高い収益は期待できない。金融業者はこの苦しい状況の中で収益を上げる運用を行っている。


    したがってこれまでのような高報酬を得るためには、金融を扱う者はよりハイリスク・ハイリターンの運用に傾くことになる。しかしそのような市場は厳しいものである。所詮、この種の資金の運用場所はゼロサムの世界であり鉄火場である。勝つ者と負ける者に別れる。

    このような市場で勝つための方策として、情報の非対称性を使った投資が行われたりする。しかしこれは一歩間違えればインサイダー取引になる。また運用者が市場を操作することもある。例えば勝手に企業の格付を変え、これによって株価が変動することによって利益を上げる証券会社がある。


    AIJはこの厳しい世界での負け組であった。ただ勝ち組を装うことによって資金を集めていた。しかし資金を委託する側にも問題がある。長期金利がずっと1%、また短期金利がほとんどゼロ%なのに、何故その何倍もの収益を毎年上げられるのか疑問に思わなかったのである。

    AIJが示していたような高利回りを実現するには、運用者がジャンボ宝くじで毎年一等を取るくらい幸運の持ち主か、後ほど取上げるような犯罪めいた運用(インサイダー取引や株価操作など)が必要になってくる。ところがこのような事はいまだに世間では理解されていない。運用先を選べば高利回りが可能という幻想を持っている人々が多いのである。


  • マスコミの事件の矮小化
    一頃昔、金融業がもて囃されていた。またたいした付加価値を生まない金融業界であったが、金融機関の従業員の高収入は当り前であった(今もその名残りがある)。また金融業こそ日本の次の有望産業と言われたものである。「サッチャー英国首相のシティーの金融グローバルセンター構想を真似して東京を世界の金融の中心しろ」という声が巷で溢れていた。

    公的年金も、株式などのハイリターンの運用の割合を大きくすることが求められた時代があった。また小泉・竹中構造改革時代には「預金から株式」への誘導政策が明確に採られた。今日AIJが問題になっているが、根っ子は昔からあったのである。

    ところがサブプライムローン問題の発生とリーマンショックの後、株価が大幅に下落し今度はハイリスク・ハイリターンの運用に批難が集まった。同じ公的年金でも、厚生年金は株式などのハイリスクの運用を行っていたが、公務員共済はこのような運用を行っていなかった。


    収益を得るための実際の市場では、単にハイリスク・ハイリターンではなく、堂々と経済犯罪が行われているケースがある。例えば倒産直前のマンション業者の架空増資を引受けたフランス系の証券会社があった。これは明らかに犯罪であった。ところが不思議なことにいまだにこの証券会社は日本での営業活動が許されている。

    それどころかこの証券会社のエコノミストが日本経済にコメントし、それが日経新聞に頻繁に掲載されている。この種のエコノミストは、揃って構造改革派であり、決まって日本の財政支出と財政赤字を問題にする。「日本は一体どうなっているのだ」と思われる。


    AIJの問題は主に二つの問題を提起している。05/6/6(第392号)「公的年金とマクロ経済」などで取上げたように、一つは年金積立など将来に備えた貯蓄が、一方で今日のマクロ経済上の有効需要を減らすことである。そしてこの将来に備えた貯蓄額が設備投資など必要な実物投資額をはるかに越えてくると問題を発生させる。まず有効需要が減るのだから資金は余剰になる(余剰資金は国債を発行し吸い上げ、公共投資などに使えば良いのに財政が悪化すると言って必ず反対する者が出てる)。

    この余剰資金が株式市場や商品市場(サブプライムローン問題では住宅債券市場)に流入しバブルが生成される。ただバブル期には、資産価格が上昇し資産効果が発生しているのでこの有効需要の不足に誰も気付かない。このようにバブル発生は中央銀行の金融緩和だけでなく、このような将来に備えた貯蓄も原因となる。


    もう一つの問題は日本の年金制度そのものである。日本の年金制度が「ねずみ講」的な仕組になっていて、経済成長(今回の厚生年金基金の場合は加入者の給料が増えること)と就業者数(厚生年金基金加入者)が増えない限り、年金給付額がどんどん減ることになる。このことが年金運用者にプレッシャーとなり、AIJのような危険なハイリスク運用業者に資金を委託するはめになった。

    また現行の日本の公的年金制度は極めて不公平なものになっている。「現役時代沢山の年金保険料を払ったのだから、高額の年金給付を受けるのは当然」と主張する人もいるが、払い込み額の何倍もの給付を受けるとなると話は別であろう。また年代による給付額に大きな差があることも大きな問題である。


    このように今回のAIJの事件は様々な問題を世間に明らかにしてくれた。しかしマスコミはこの事件を矮小化しようとしている。例えばAIJに資金運用を取次いだ厚生年金基金団体に社会保険庁のOBが天下っているといった具合である。

    これまでも年金問題を、マスコミは国会議員の国民年金保険料の未納問題にすりかえて大騒ぎしたことがあった。しかし未納問題は年金問題の本質と何の関係もない。今回も同じような事になると筆者は見ている。



来週号が700号になることにはたと気付いた。来週はこれに関連した事項を取上げる。



12/2/27(第698号)「橋下維新政党へのコメント」
12/2/20(第697号)「地方自治体と通貨」
12/2/13(第696号)「デフレ経済下での増税」
12/1/30(第695号)「無税国家への道」
12/1/23(第694号)「世界的な金利低下」
12/1/16(第693号)「過剰貯蓄による災い」
12/1/9(第692号)「バーチャルな話」
11/12/19(第691号)「シミュレーションモデルの話」
11/12/12(第690号)「財政破綻のすすめ」
11/12/5(第689号)「「騒ぎ屋」の時代」
11/11/28(第688号)「技術進歩の恩恵」
11/11/21(第687号)「避けられる根本問題」
11/11/14(第686号)「物事の本質」
11/11/7(第685号)「組織の異端児的存在」
11/10/31(第684号)「組織の研究」
11/10/24(第683号)「気乗りしないTPPの話」
11/10/17(第682号)「解決策はユーロ離脱か」
11/10/10(第681号)「ポール・クルーグマン教授の変心」
11/10/3(第680号)「現実論者VS観念論者」
11/9/26(第679号)「世界的な「日本化」」
11/9/12(第678号)「欧州発のリーマンショック」
11/9/5(第677号)「野田政権の成立」
11/8/29(第676号)「円相場の今後の動き」
11/8/22(第675号)「欧米経済の変調」
11/8/15(第674号)「脱・反原発派の人々」
11/8/8(第673号)「食品安全委員会の問題」
11/8/1(第672号)「タウンミーティングの報告」
11/7/25(第671号)「意味の解らない暫定基準値」
11/7/18(第670号)「政府が明らかにすべきこと」
11/7/11(第669号)「放射線防護の専門家」
11/7/4(第668号)「ダイオキシンとプルトニウム」
11/6/27(第667号)「付加価値を生まない発電」
11/6/20(第666号)「付加価値と発電」
11/6/13(第665号)「ポスト原発はやはり原発」
11/6/6(第664号)「菅政権に対する不信任案騒動」
11/5/30(第663号)「ニューニューサンシャイン計画」
11/5/23(第662号)「原発と電力会社の経営」
11/5/16(第661号)「原発推進派と反・脱原発派」
11/5/2(第660号)「菅政権の迷走」
11/4/25(第659号)「放射線は身体に良い?」
11/4/18(第658号)「山を越えたか?」
11/4/11(第657号)「原子力の専門家」
11/4/4(第656号)「本当に重大な事は何か」
11/3/28(第655号)「電力不足で表沙汰になった事実」
11/3/21(第654号)「東日本巨大地震」
11/3/7(第653号)「日本が貿易立国という誤解」
11/2/28(第652号)「日本は本当に貿易立国?」
11/2/21(第651号)「関税以外の貿易障壁」
11/2/14(第650号)「TPPに関する推理」
11/2/7(第649号)「菅首相の消費税増税」
11/1/31(第648号)「モラルハザードの話」
11/1/24(第647号)「問題は分配ではない」
11/1/17(第646号)「永久債の日銀引受け」
11/1/10(第645号)「日本の経済成長シナリオ」
10/12/20(第644号)「難しい日本の経済成長」
10/12/13(第643号)「日本における新経済成長論」
10/12/6(第642号)「経済成長理論に対する批判」
10/11/29(第641号)「「ケインズはもう古い」?」
10/11/22(第640号)「不況下の反ケインズ政策」
10/11/15(第639号)「政治家に向かない職業」
10/11/8(第638号)「米政府に対するロビー活動」
10/11/1(第637号)「この日をつかめ(Seize the Day)」
10/10/25(第636号)「人民元安容認の経緯」
10/10/18(第635号)「本誌の中国経済の見方」
10/10/11(第634号)「「腹を括る」べき時」
10/10/4(第633号)「中国漁船の公務執行妨害」
10/9/20(第632号)「菅政権の行方」
10/9/13(第631号)「中央銀行の制度設計」
10/9/6(第630号)「日銀悪玉説」
10/8/30(第629号)「外為特会の31兆円の評価損」
10/8/23(第628号)「野田財務大臣を罷免せよ!」
10/8/9(第627号)「世界に広がるデフレ」
10/8/2(第626号)「米国もデフレ?」
10/7/26(第625号)「国債利払いの名目GDP比率」
10/7/19(第624号)「中国の日本国債購入」
10/7/12(第623号)「10年参議院選挙の結果」
10/7/5(第622号)「サミットの変質」
10/6/28(第621号)「各党のデフレ対策」
10/6/21(第620号)「菅首相の想定」
10/6/14(第619号)「EU市場混乱の本質」
10/6/7(第618号)「EU経済の混乱とIMF」
10/5/31(第617号)「議論の前提条件」
10/5/24(第616号)「現実離れの構造改革派」
10/5/17(第615号)「これも一歩前進か」
10/5/10(第614号)「一歩前進か」
10/4/26(第613号)「ガラパゴス症候群」
10/4/19(第612号)「マクロによる検証」
10/4/12(第611号)「ミクロで捉えた日本経済」
10/4/5(第610号)「何事もタイミング」
10/3/29(第609号)「政策提言の想定問答」
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10/1/25(第600号)「日本の財政構造」
10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」
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