経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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12/2/27(698号)
橋下維新政党へのコメント

  • 「退屈」な日々
    今日の様々な情勢がとても流動的である。しかも人々の関心を持つ事柄が多様化し拡散している。このため最近テーマの設定が少々難しくなっている。今週は経済と政治について筆者の雑駁な感想を綴ることにする。


    日本経済は依然低迷しているが、政府は財政赤字を少しずつ増やしているので、最悪の事態に到らない。日本だけでなく米国は大統領選挙があるので、経済状況が急回復することはないが、財政政策と金融緩和でなんとか底割れを回避しようとしている。しかし政治情勢は日米とも議会がねじれていて大きな政策を実施するのが困難である。陳腐な表現ではあるが、世の中に閉塞感というものが漂っている。

    株価と商品市場は、金余りの金融情勢を反映し、堅調に推移している。ただ欧州経済は悪化しており、また先進国への輸出と海外からの資金流入で好調な経済成長を続けていた新興国も、輸出の停滞と資金の流出が起って冴えない。このように人々(特に日本国民)にとって、刺激がなく退屈な日々が続いている。


    筆者は、日本人のこの「退屈」という言葉こそ、今日のキーワードになっていると考える。経済や人々の生活が「昨日より今日、さらに今日より明日」と成長し良くなることが当り前であった時代は随分前のことである。日本ではこのどうしようもない「退屈」な日々がずっと続いている。

    本誌で何度も取上げたが、日本経済がおかしくなったのは財政再建運動が起ってからである。最初のつまづきは大平・鈴木内閣時代であった。その後も橋本政権の行財政改革時代に、財政再建派と構造改革派が手を結び日本経済は奈落の底に落ちた。ちょうどその頃から本誌の連載が始まり、当時の状況はよく覚えている。ところが今日また増税によって財政を再建させようというのだから、「退屈」な日々は半永久的に続くことになる。


    為替が少し円安に振れている。原発停止による燃料の輸入増や欧州経済の低迷による輸出減などによって、日本の貿易収支が赤字に転落したことが一つの原因とされている。しかし減少しているものの日本の経常収支は依然黒字であり、また円安が続けば輸出は伸びることになり、単純に円安が一方的に進むとは思わない。筆者は購買力平価と見られる1ドル100円程度が適当と思っているが、そこまで円安が到達するか疑問である。

    筆者は、今回の円安の背景には、野田政権の増税による財政再建路線が頓挫する観測が出ていることがあると思っている。ところがこのような見方は世間でほとんどなされていない。しかし何回も本誌で指摘してきたように、これまでの円の高止まりは、野田政権の増税構想が影響していると筆者は考えてきた。


    しかし野田内閣の支持率が急落している。このような情勢では、とても増税路線を推進できるわけがないと市場が判断したと見て良い。もっとも実力(日本経済の現状で)以上の円高が是正されることは好ましい。

    筆者は、へたな為替介入を行うより、民主党政権の増税路線を止めた方が円高阻止にとって効果があると考えてきた。この事が現実になったと筆者は捉えている。


    それにしてもこれだけ退屈な日々が続くと、人々は何らかの刺激を求めることになる。何者かを悪者に仕立て、突然ヒーローが現れて彼等を成敗する姿に人々は喝采を送る。悪者に仕立てられたのは、小泉時代なら郵政改革反対派であり、今日では東京電力などである。一方、ヒーローは、事業仕分けのレンホウ議員であったり、大阪の府や市の職員などを弾劾する橋下大阪市長である。


  • 船中八策
    劇場型政治(陳腐な表現であるが)で一世風靡したのが小泉純一郎首相であった。郵政を改革したくらいで日本の経済や社会がどうなるものではない事は、冷静に考えれば誰でも分る事である。しかし当時、小泉首相のこの言葉をマスコミが煽り、少なからずこれに酔った者が出てきた。

    筆者は、小泉首相の言葉に本当に影響を受け自民党に投票した有権者の数は言われているほど多くはないと踏んでいる。しかし今日の小選挙区制のもとでは、実態以上の獲得議席数の差を生じるのである。たしかにこのような劇場型政治は有効であった。ただこの小泉首相の政治スタイルを真似る者が次々と現れている。橋下市長もその一人と考える。


    橋下市長の改革話が大阪にとどまるのなら本誌で取上げることはない。ただ橋下維新政党が全国的な広がりを見せている。維新政党の政策は、「船中八策」といわれるものに集約されている。憲法九条の改正への国民投票の実施、参議院の廃止、首相公選制、年金の掛捨て、TPP参加などである。

    これらについて一つ一つコメントする気はないが、全体的には「保守」と「構造改革」を合体させたようなものと筆者には感じられる。ただ維新政党が明らかに大阪の地域政党を越え、全国的な展開を目指していることが分る。


    「構造改革」の話はずっと本誌でも取上げてきたのでここでは割愛する。もう一つの「保守」は今日ではやや流行になっている。昔は「保守」が逆にマイナスイメージであった。例えば元号を使うのさえ、「保守反動」と批難する教師が現場には多くいた。彼等は安保闘争を経験し、中国共産党やソ連に親近感を持ち反米であった。彼等は、護憲を唱え自衛隊に反対し憲法九条の改正に猛反対していた。また当時、かれらは革新派とも呼ばれていた。

    ところがソ連が崩壊し東欧諸国の共産党政権が次々と倒れると、人々の社会主義・共産主義への憧れが幻滅に変わった。また、今日、日本領土に野心を持つ国々に日本が取り囲まれていることが明らかになっている。ところがこの大きな時代の流れに取り残された人々がいまだにいるのである。彼等は今でも国旗掲揚や国歌斉唱に大きく抵抗している。

    この勘が鈍く、間抜けな革新派を攻撃することは容易い。橋下維新政党の特徴は、このような簡単に攻撃できる勢力をターゲットにしていることである。大阪市や大阪府の職員組合もその一つであろう。


    橋下維新政党が全国的にどれだけ勢力を伸ばすのか注目されている。たしかに今日のような「退屈」な日々が続くと、密かに人々は刺激的な事柄が起ることを期待する。先の選挙では民主党にこの種の期待が集まり政権交代が実現した。

    ところがその民主党がボロボロであったことが今日はっきりしてきた。人々が次に橋下維新政党に夢を託すのも無理はないと思われる。実際、「次の次の総理大臣は橋下氏」と予想するメディアも登場している。


    今は勢いがあるからこの新政党は注目されているが、人々は飽きやすいものである。飽きられないよう次々と刺激的な政策や言動を続けなければならない。総選挙まで1年以上もあるという事がつらいところであろう。筆者は、橋下維新政党も最終的には今日の民主党と同じ運命を辿ると感じている。

    筆者が注目しているのは橋下維新政党と公明党の関係である。今回の大阪市長選では橋下維新政党は公明党の支持を取付けたようである。しかし橋下維新政党の「保守」という政治理念と公明党の理念が合い入れるとは思われない。ただたしかに政治の世界には「何でも有り」という無節操な面がある。



来週は今週の続きである。

サーバの容量不足によって、最近のバックナンバーがアップできない状態が続いている。そのうち解消する予定なのでそれまで待ってもらいたい。



12/2/20(第697号)「地方自治体と通貨」
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12/1/16(第693号)「過剰貯蓄による災い」
12/1/9(第692号)「バーチャルな話」
11/12/19(第691号)「シミュレーションモデルの話」
11/12/12(第690号)「財政破綻のすすめ」
11/12/5(第689号)「「騒ぎ屋」の時代」
11/11/28(第688号)「技術進歩の恩恵」
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11/11/14(第686号)「物事の本質」
11/11/7(第685号)「組織の異端児的存在」
11/10/31(第684号)「組織の研究」
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11/10/3(第680号)「現実論者VS観念論者」
11/9/26(第679号)「世界的な「日本化」」
11/9/12(第678号)「欧州発のリーマンショック」
11/9/5(第677号)「野田政権の成立」
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11/6/27(第667号)「付加価値を生まない発電」
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11/6/13(第665号)「ポスト原発はやはり原発」
11/6/6(第664号)「菅政権に対する不信任案騒動」
11/5/30(第663号)「ニューニューサンシャイン計画」
11/5/23(第662号)「原発と電力会社の経営」
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