平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




07/12/10(508号)
「金余り」と日本政府

  • 長短金利と商品相場
    米国のサブプライム問題が日本経済にも打撃を与えている。当初、サブプライムローン問題が直接日本の金融機関に及ぼす影響は小さいと思われていた。ところが不思議なことに、この問題で米国よりも日本の株価の方が大きく下落した。これも日本経済が外需に依存していることが一因と筆者は考える。

    サブプライム問題は「金余り」を背景としており、この「金余り」の責任の一端は日本にあると筆者は主張している。これを説明するため先週号で示した表を少し修正する。日本の外貨準備高(億ドル:年度)と為替レート(対米ドル円レート:年度平均)を新たに付け加える。

    米国での「金余り」現象(暦年ベース、CRB先物とNY原油は年平均)
    FF金利10年国債CRB先物NY原油外貨準備高為替レート
    96年5.25247.9422.032,194112.85
    97年5.50241.9020.612,236122.70
    98年4.754.65212.9214.402,225128.02
    99年5.506.43194.7819.303,055111.56
    00年6.505.10220.1530.253,615110.45
    01年1.755.02205.9725.954,015124.86
    02年1.253.81211.2226.154,952121.94
    03年1.004.25241.8830.898,286119.15
    04年2.254.22275.3341.478,377107.49
    05年4.254.38310.1256.708,520113.26
    06年5.254.70328.8566.259,090116.89
    07年6月5.255.02314.3267.539,136122.62
    07年9月4.754.59323.8979.639,456115.02
    直 近4.504.47354.2998.189,545111.21


    上記の表でまず注目されるのは、02年度から03年度にかけての異常な日本の外貨準備高の急増ぶりである。実際、為替介入は02年度末の03年1月に開始され、特に03年度の末にかけて常軌を逸した介入が行われている。このため日本の外貨準備高は、一年半くらいの間に4,000億ドル以上、つまり約50兆円も増えている。

    もう一つ注目されるのは、米国の金融政策が緩和から引締め、つまり政策金利(FF金利)を高くする方向に転換したのに、一向に長期金利(10年国債利回り)が上昇していないことである。とうとう06年からは長短金利の逆転現象が続いている。筆者は金融引締めと裏腹に04年の前半頃から米国では「金余り」現象が起っていたと推察している。


  • 過去の経済政策のしっぺ返し
    FF金利など米国の数字が暦年ベースなのに対して、日本の外貨準備高が年度ベースなのでちょっと分かりにくいが、ちょうど米国の金利政策が転換した頃に日本の政府・日銀は大量の為替介入を行った。日本政府は、為替介入で米ドルを買って、その米ドルで米国の10年国債を買っている。10年国債を売った人や金融機関は米ドルを手にすることになる。人々にはそれほど実感はなかったかもしれないが、まさに過剰流動性の発生である。

    この結果、短期金利(FF金利)が上昇しても、長期金利(10年国債利回り)が上昇しない現象が起った。次に短期間のうちに米国に流入した50兆円という金額が、大きいかったかどうかを考えたい。日本のマーシャルのK(マネーサプライ/名目GDP)は、M2で1.3、M3(M2に郵便貯金などを加えたもの)で約2.0と大きいのに対して、米国のマーシャルのKは0.5程度である。つまり米国のGDPを日本の2倍とみれば、この50兆円は日本の感覚では100兆円ということになる。この話をある程度割引いても、為替介入が米国の「金余り」の発端になったことは間違いないと筆者は考える。


    政府・日銀の大量為替介入は04年2月頃(年度ベースでは03年度の末)に終わっている。しかしその後も日本から米国に大量の資金が流れている。一つは日本の低金利(ゼロ金利政策)に嫌気がさした日本の資金の流入である。さらに機関投資家による円キヤリー取引(日本で低金利で資金を調達し、これを米ドルに転換し運用する)がこれに続いた。つまり政府・日銀の為替介入は終了したが、民間による為替介入が続いたようなものである。

    日本からの資金流入が増えた頃から、原油価格の高騰が目立つようになった。04年あたりからの原油価格は、OPECによるカルテルで達成されるレベルをはるかに越えている。これも「金余り」を背景にした投機マネーが石油市場に流入し始めたからと考えられる。また原油だけでなく他の一次産品の価格もほぼ同時期に値上がりを開始している。


    原油価格の高騰は、産油国に多額の米ドルを与えることになる。そしてこのオイルマネーも米国に還流して、米国の「金余り」を助長している。しかしこれも日本発の出来事と捉えて良いと筆者は思う。

    中国などアジアの貿易黒字国からの資金流入も米国の「金余り」を助長した。しかしこれはここ2年くらいの話である。言うならば米国の「金余り」現象のダメ押しとなったに過ぎない。


    日本政府や日銀は、サブプライム問題や一次産品の高騰について無罪を主張するだろう。しかし今週の話のように、全部とは言わないが(中国の人民元の為替操作による大きな貿易黒字なども問題)、筆者は日本の為替政策や金融政策が今日の事態を生む原因を作ったと考える。

    一次産品の高騰がこれから日本の国内の物価に影響を与えるのは必至である。既に日本の物価は上昇を始めている。日本の過去の経済政策のしっぺ返しである。政府は9月の消費者物価が対前年で0.1%の上昇と公表しているが、とてもそんなものではない。政府の物価統計に問題があるのである(これについてはそのうち取上げる)。いずれにしても日本政府の政策が国民を苦しめることになったと筆者は考える。50兆円もの為替介入を行うくらいなら、この50兆円を国内の投資や消費に回すべきであった。



来週号は、今年の最終号である。来週は今週の話の続きを少しと、今年全体を振返った話をしたい。



07/12/3(第507号)「「金余り」と商品相場」
07/11/26(第506号)「原油価格に見るバブル」
07/11/19(第505号)「金融当局の敗北」
07/11/12(第504号)「「金余り」の徒花」
07/11/5(第503号)「米国のサブプライム問題」
07/10/29(第502号)「日本再生会議の話」
07/10/22(第501号)「増税派と成長派」
07/10/15(第500号)「プライマリーバランスの話」
07/10/8(第499号)「不況下の物価上昇」
07/10/1(第498号)「新総理総裁の誕生」
07/9/24(第497号)「GDP統計の読み方」
07/9/17(第496号)「安倍首相の辞任劇」
07/9/10(第495号)「経済数字の実感との乖離」
07/9/3(第494号)「内閣改造に対する感想」
07/8/6(第493号)「自民党の自殺」
07/7/31(第492号)「07年参議院選挙の結果」
07/7/23(第491号)「参議員選の注目点」
07/7/16(第490号)「またもやデマ選挙か」
07/7/9(第489号)「参議院選挙の比例区」
07/7/2(第488号)「ポンカス政党」
07/6/25(第487号)「歴史の教訓」
07/6/18(第486号)「歴史教科書の上での抹殺」
07/6/11(第485号)「老舗に伝わる歴史」
07/6/4(第484号)「金・銀の産出量と経済」
07/5/28(第483号)「荻原重秀と新井白石」
07/5/21(第482号)「インフレと歴史教科書」
07/5/14(第481号)「インフレへの警戒感」
07/5/7(第480号)「日本の公務員」
07/4/23(第479号)「米国の構造改革派」
07/4/16(第478号)「構造改革派の正体」
07/4/9(第477号)「構造改革派とカルテル」
07/4/2(第476号)「構造改革派の生態」
07/3/26(第475号)「構造改革派の落日の始まり」
07/3/19(第474号)「超円高になる条件(その2)」
07/3/12(第473号)「超円高になる条件(その1)」
07/3/5(第472号)「今回の円高の分析」
07/2/26(第471号)「為替動向を占うポイント」
07/2/19(第470号)「今日の円安を考える」
07/2/12(第469号)「「女性は子供を産む機械」発言」」
07/2/5(第468号)「財界人と「合成の誤謬」」
07/1/29(第467号)「日本の財界人の自信」
07/1/22(第466号)「日本の財界の変質」
07/1/15(第465号)「日本の財界」
07/1/8(第464号)「面白みがない景気予想」
06/12/11(第463号)「筆者の主張のサマリー」
06/12/4(第462号)「高速増殖炉にまつわる誤解」
06/11/27(第461号)「高速増殖炉の話」
06/11/20(第460号)「日本の核融合研究」
06/11/13(第459号)「将来のエネルギーの本筋」
06/11/6(第458号)「LNG(液化天然ガス)の話」
06/10/30(第457号)「筆者の国防・防衛論」
06/10/23(第456号)「日本の核武装論」
06/10/16(第455号)「北朝鮮の核実験」
06/10/9(第454号)「安倍政権の生産性」
06/10/2(第453号)「安倍政権の発足にあたり」
06/9/25(第452号)「ポスト小泉の経済論議」
06/9/18(第451号)「ポスト小泉の経済と対米外交」
06/9/11(第450号)「ポスト小泉の対アジア外交」
06/9/4(第449号)「ポスト小泉について」
06/8/7(第448号)「郵政改革と宗教戦争」
06/7/31(第447号)「郵政改革論議の混乱」
06/7/24(第446号)「宗教・哲学と経済学」
06/7/17(第445号)「宗教と哲学への入門」
06/7/10(第444号)「劣勢のケインズ」
06/7/3(第443号)「トービン税について」
06/6/26(第442号)「自由放任(レッセ-フェール)の経済」
06/6/19(第441号)「筆者の税制改正案」
06/6/12(第440号)「筆者のニート対策」
06/6/5(第439号)「美しくない話」
06/5/29(第438号)「第三セクター鉄道の危機」
06/5/22(第437号)「テレビ番組の制作現場」
06/5/15(第436号)「日銀の実態・・憶測」
06/5/8(第435号)「日銀は魔法の杖か」
06/4/24(第434号)「もう一つ勇気を」
06/4/17(第433号)「格差とマスコミ」
06/4/10(第432号)「官僚の力と限界」
06/4/3(第431号)「日経新聞のダブルスタンダード」
06/3/27(第430号)「金融政策の失敗の歴史」
06/3/20(第429号)「量的緩和解除の波紋」
06/3/13(第428号)「コンビニ弁当の話」
06/3/6(第427号)「GDPギャップのインチキ推計法」
06/2/27(第426号)「潜在GDPとGDPギャップ」
06/2/20(第425号)「労働力と経済成長」
06/2/13(第424号)「大衆社会における経済論議」
06/2/6(第423号)「皇室典範改正法案に一言」
06/1/30(第422号)「ホリエモンと政治家」
06/1/23(第421号)「改革の旗手の危機」
06/1/16(第420号)「今年の景気予想」
06/1/9(第419号)「思考停止の日本」
05/12/19(第418号)「日本人の変質」
05/12/12(第417号)「日本的経営の行く末」
05/12/5(第416号)「アメリカ人」
05/11/28(第415号)「遠ざかる豊かな社会」
05/11/21(第414号)「移民問題と市場経済」
05/11/14(第413号)「ブリエアの解放者たち」
05/11/7(第412号)「第三次小泉内閣の感想」
05/10/31(第411号)「現実経済の乗数値」
05/10/24(第410号)「公共投資に伴う誘発投資」
05/10/17(第409号)「誘発投資の拡張版」
05/10/10(第408号)「経済理論上の乗数」
05/10/3(第407号)「政治家達の沈黙」
05/9/26(第406号)「大谷氏への公開質問状」
05/9/19(第405号)「デマの検証」
05/9/13(第404号)「選挙結果の雑感」
05/8/29(第403号)「今回の総選挙を読む」
05/8/22(第402号)「今回の総選挙の沿革」
05/8/8(第401号)「中国経済の本当の脅威」
05/8/1(第400号)「中国の為替戦略」
05/7/25(第399号)「経済のグローバリズムの行末」
05/7/18(第398号)「経済のグローバリズムの本質」
05/7/11(第397号)「郵政法案と小泉政権の行方」
05/7/4(第396号)「経済のグローバリズムと競争の公正」
05/6/27(第395号)「日本語の研究」
05/6/20(第394号)「公的年金とセイニアーリッジ」
05/6/13(第393号)「日本国民全員がばん万歳の政策」
05/6/6(第392号)「公的年金とマクロ経済」
05/5/30(第391号)「マクロ経済政策で解決するもの」
05/5/23(第390号)「ヴァーチャルなもの(その2)」
05/5/16(第389号)「ヴァーチャルなもの(その1)」
05/5/9(第388号)「中国進出の主導者」
05/4/25(第387号)「鎖国主義への誘惑(その2)」
05/4/18(第386号)「鎖国主義への誘惑(その1)」
05/4/11(第385号)「ノストラダムスの大予言」
05/4/4(第384号)「法律と現実社会との間」
05/3/28(第383号)「株式に関する非常識」
05/3/21(第382号)「人とグローバリズム」
05/3/14(第381号)「資本とグローバリズム」
05/3/7(第380号)「貿易とグローバリズム」
05/2/28(第379号)「マスコミの暴走」
05/2/21(第378号)「マスコミが流す誤った概念」
05/2/14(第377号)「日本のマスコミの権力指向」
05/2/7(第376号)「日本のマスコミの体質」
05/1/31(第375号)「財政当局の変心」
05/1/24(第374号)「経済成長の条件(その2)」
05/1/17(第373号)「経済成長の条件(その1)」
05/1/10(第372号)「中国経済の実態」
04/12/13(第371号)「第一回財政研交流会」
04/12/6(第370号)「虚構の終焉(フィクション・エコノミクス)その3」
04/11/29(第369号)「虚構の終焉(フィクション・エコノミクス)その2」
04/11/22(第368号)「構造改革派の常套手段」
04/11/15(第367号)「虚構の終焉(フィクション・エコノミクス)その1」
04/11/8(第366号)「第二次南北戦争」
04/11/1(第365号)「妄言・虚言の正体」
04/10/25(第364号)「クライン博士を招いてのシンポジウム」
04/10/18(第363号)「日本経済のデフレ体質の分析(その3)」
04/10/11(第362号)「日本経済のデフレ体質の分析(その2)」
04/10/4(第361号)「日本経済のデフレ体質の分析(その1)」
04/9/27(第360号)「豊かな社会ーー競争と共生」
04/9/20(第359号)「レーガンの規制緩和の実態」
04/9/13(第358号)「今こそ大胆な政策転換を」
04/9/6(第357号)「虚言・妄言が跋扈する世の中」」
04/8/30(第356号)「日本の「韓国化」」
04/8/2(第355号)「日本の分割統治」
04/7/26(第354号)「自民党大敗北の要因分析」
04/7/19(第353号)「参院選で見たもの」
04/7/12(第352号)「日本のエネルギー自立政策」
04/7/5(第351号)「危うい石油の確保」
04/6/28(第350号)「テロと中東石油」
04/6/21(第349号)「対談の論点(再)」
04/6/14(第348号)「対談の論点」
04/6/7(第347号)「富の分配と公正」
04/5/31(第346号)「小泉首相訪朝の成果」
04/5/24(第345号)「日本に必要な財政赤字政策」
04/5/17(第344号)「土地売買の盲点」
04/5/10(第343号)「日本経済の体質と財政政策」
04/4/26(第342号)「凍り付くマネーサプライ」
04/4/19(第341号)「デフレ体質の日本経済」
04/4/12(第340号)「火星の土地」
04/4/5(第339号)「円高は構造的」
04/3/29(第338号)「規制緩和に飛びつく人々」
04/3/22(第337号)「矛盾の出発点」
04/3/15(第336号)「日経の貧乏神」
04/3/8(第335号)「実感なき経済成長」
04/3/1(第334号)「為替介入ではなく財政支出を」
04/2/23(第333号)「為替介入への道」
04/2/16(第332号)「為替介入資金の働き(その2)」
04/2/9(第331号)「為替介入資金の働き(その1)」
04/2/2(第330号)「為替介入政策の限界」
04/1/26(第329号)「今日の政治課題」
04/1/19(第328号)「今年の政局の課題」
04/1/12(第327号)「今年の日本の景気」
03/12/15(第326号)「日本の公的年金」
03/12/8(第325号)「足利銀行の破綻処理」
03/12/1(第324号)「日本経済を支えているもの」
03/11/24(第323号)「総選挙結果から見えるもの」
03/11/17(第322号)「総選挙結果の分析」
03/11/10(第321号)「総選挙の結果他」
03/11/3(第320号)「総選挙の予測」
03/10/27(第319号)「動態的会計による企業価値算定」
03/10/20(第318号)「道路公団、財務諸表の怪」
03/10/13(第317号)「藤井総裁解任劇」
03/10/6(第316号)「総裁選と総選挙」
03/9/29(第315号)「総裁選の総括」
03/9/22(第314号)「ドキュメンタリー総裁選」
03/9/15(第313号)「レポート総裁選・・その2」
03/9/8(第312号)「レポート総裁選」
03/9/1(第311号)「混迷の終始符」
03/8/25(第310号)「急がば回れ・・再び」
03/8/18(第309号)「自民党の総裁選に向けて」
03/8/4(第308号)「日本の実稼働率」
03/7/28(第307号)「設備投資の実態」
03/7/21(第306号)「企業経営と創造的破壊」
03/7/14(第305号)「頭が破壊されている人々」
03/7/7(第304号)「頭が混乱している構造改革派」
03/6/30(第303号)「経済の循環(その2)」
03/6/23(第302号)「経済の循環(その1)」
03/6/16(第301号)「経済政策の混乱」
03/6/9(第300号)「りそな銀行の件」
03/6/2(第299号)「規制緩和と日本経済」
03/5/26(第298号)「経済学と経営学」
03/5/19(第297号)「政府紙幣発行の認知度」
03/5/12(第296号)「滝田洋一氏への反論」
03/5/5(第295号)「政府紙幣発行政策の誤解」
03/4/21(第294号)「逆噴射の財政政策」
03/4/14(第293号)「危機管理下の経済政策」
03/4/7(第292号)「国債の管理政策」
03/3/31(第291号)「経済再生政策提言フォーラム」
03/3/24(第290号)「日本の有名経済学者達」
03/3/17(第289号)「波乱の株式市場」
03/3/10(第288号)「政府貨幣の理解」
03/3/3(第287号)「軽視される高橋是清の偉業」
03/2/24(第286号)「日本の清貧の思想」
03/2/17(第285号)「日本のデフレの原点」
03/2/10(第284号)「小泉首相の「もっと重要なこと」」
03/2/3(第283号)「スローパニック経済」
03/1/27(第282号)「所得を生むマネーサプライ」
03/1/20(第281号)「マネーサプライ政策の限界」
03/1/13(第280号)「データに基づく経済論」
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