平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




07/9/17(496号)
安倍首相の辞任劇

  • 官僚ペースの政策
    安倍首相の突然の辞任には驚いた。しかしこれもやむを得ない結果と思われる。今週は予定を変更してこれを取り上げる。ここのところ安倍首相に対するバッシングが続いていたが、時間が経てばこれが行き過ぎであったことが分ろう。筆者は、安倍政権が短命に終わった一番の原因を、やはり総理・総裁になるのが早すぎたことにあったと思う。

    日本の首相になるにはあまりにも準備不足であった。最大の不幸は支えるスタッフが未熟で貧弱なまま、政権をスタートさせなければなかったことである。ただでさえ郵政改革騒動で有力政治家が党を追出され、自民党は人材が枯渇した状態にある。したがってこの状況では誰が首相になっていてもまともな政治はできなかったと考える。


    今の自民党の政治家は「福田氏」が優位と見るや、たちまち「福田氏」支持に走るような者ばかりである。そこには「政治信条」とか「政治家の理念」と言ったものが全く見られない。もっともそのような政治家だけが自民党に残ったのである。

    このような軟弱な政治家ばかりだから、彼等はとても官僚組織に対抗できない。したがって政策は全て官僚のシナリオ通りである。政策では官僚に対抗できないから、人気取りのため公務員改革という名の「公務員たたき」をやって強がって見せているだけである。


    今日、ずっと官僚ペースの政策決定が続いている。意外に思われるかもしれないが、小泉政権以降、特にこれが酷くなった。思い付くままにそれらを挙げてみると「定率減税の廃止」「消費税免税限度額の引下げ」「医療費負担の増加」「年金保険料の値上げと年金給付額の減額」「三位一体の改革と言いながら、結果的には国の財政負担の減額を狙った財政改革」「裁判員制度」など切りがない。これらは国民が望んだものではなく、全て官僚がやりたかった政策ばかりである。

    安倍首相辞任の引き金はやはり参議院選挙の大敗である。マスコミは大敗の原因を「社会保険庁問題への対処」「閣僚の政治資金問題」「閣僚の問題発言」のせいにしている。たしかにマスコミがこれらを連日取上げるせいもあってか、マスコミが作っている安倍内閣の支持率は下がり続けた。


    マスコミは内閣支持率の低下を参議院選の最大の敗因としている。しかしこれは政治をなんとか支配下に置きたいマスコミの言い分に過ぎない。マスコミは内閣支持率に影響力を持っていることを誇示し、なんとか政治に力を及ぼそうとしているのだ。しかし内閣支持率がほぼゼロだった森政権下でも、自民党は衆議院選挙で善戦したことがある。内閣支持率の国勢選挙に及ぼす影響を過大評価すべきではない。

    もしマスコミが連日取上げていた問題で参議院選挙に負けたのなら、マスコミの影響が大きい都会でもっと大きく負けても、地方ではこれほど不様な負け方をしていないはずだ。ところが大惨敗を喫したのはマスコミの影響を受けにくい地方である。やはり小泉政権以来の官僚ペースの政策が否定されたことが、参議院選挙の敗因と考えるべきである。

    自民党の政治家もこのことにようやく気が付き始めて、マスコミ受けする麻生氏ではなく福田氏を首相にしようとしている。しかし重要な参議院選挙は終わったのだから、文字どおり「時は既に遅し」である。しかも福田自民党では官僚組織に対抗できるはずがない。


  • 「負」の遺産の清算
    安倍首相のことにもう少し触れる。ここからは筆者の勝手な憶測である。安倍晋三氏は自分のキャリアを積んで首相に登り詰めたのではない。本人の努力を無視するわけではないが、父の安倍晋太郎元外相や祖父の岸信介元首相から大きな政治的遺産を相続したことが、若くして宰相の座に就くことができた大きな要因になっている。これについては誰も異論を唱えないと思われる。

    もう一つの遺産は小泉前首相からのものである。安倍氏は小泉氏から後継指名を受けた。これも自民党の総裁選で有利に働いた。しかし後継指名だけでなく、小泉政権の元で、官房長官や自民党の幹事長に抜擢された。大臣になったことがない安倍氏が、いきなり官房長官や幹事長に指名されることは異例の大抜擢である。そして官房長官や幹事長を経験することによって、次期の総理総裁の有力候補なれたのである。

    当選回数がわずか5回の安倍氏が首相になれたのも、このような莫大な政治的な遺産を相続したからである。これまで自民党の総裁になるには、党の三役や重要閣僚を経験することが必須であった。また当選回数も最低10回くらいは必要であった。しかもこれらの条件を満たしても、ようやく総理総裁の候補になれるに過ぎなかった。


    しかし安倍晋三氏にとって、遺産を継いで首相になったことが全て良かったとは言えない。遺産には「正」の遺産だけでなく「負」の遺産もある。しかし遺産を相続する者は「正」の遺産だけを継ぐというわけには行かない。同時に「負」の遺産も相続しなければならないのである。

    安倍政権の一年の間には、晋三氏が父親である安倍晋太郎氏から引継がなければならなかった「負」の遺産みたいなものの「陰」が所々で見られた。政権に勢いがある間は目立たないが、守勢に回るとジワジワと沸き出してくるのである。「負」の遺産を清算する前に首相に登り詰めたような気がする。やはり首相になるのが早すぎたと思われるのである。しかしこれには父晋太郎氏が総理になる直前に亡くなった無念さからくる「あせり」みたいなものを感じる。


    小泉前首相から引継いだ「負」の遺産にも大きく足を引張られた。まず人材が払拭した自民党を継いで政権を作らなければならなかったことが挙げられる。また小泉氏から押込まれたような人事を行わなければならなかった。マスコミはこれをあまり取上げないが、このような閣僚がよく問題を引き起したのである。松岡農水相が自殺した時に一番先に現場に駆付けたのは、小泉前首相の秘書の飯島氏であった。

    小泉氏から後継指名を受ける条件が「小泉改革」を継承することであった。何を勘違いしているのか、マスコミはいまだに小泉氏が人気があると喧伝している。しかし地方では人気があるどころか小泉氏はにくまれているのである。地方では「小泉」「竹中」と呼び捨てられているのが普通である。したがって安倍首相が「小泉改革」「改革を続行する」と発言する度に、地方の保守票が逃げて行ったのである。


    安倍政権は短命に終わり、今後安倍晋三氏が政治家としてどのような活動をして行くのか不明である。たしかに今回の辞任劇は本人にとってダメージとなっている。細川元首相のように政界から引退することはないと思われるが、しばらくは表舞台に立つことはないであろう。

    しかし物は考えようである。今回の辞任で「負」の遺産を清算することができたと考えられるのである。したがって今後はもっと自由に政治活動ができる。むしろ政治家としての真価を問われるのは、今後の政治活動に掛かっていると思われる。



来週は、何事もなかったら輸入のデフレータの影響を取上げたい。



07/9/10(第495号)「経済数字の実感との乖離」
07/9/3(第494号)「内閣改造に対する感想」
07/8/6(第493号)「自民党の自殺」
07/7/31(第492号)「07年参議院選挙の結果」
07/7/23(第491号)「参議員選の注目点」
07/7/16(第490号)「またもやデマ選挙か」
07/7/9(第489号)「参議院選挙の比例区」
07/7/2(第488号)「ポンカス政党」
07/6/25(第487号)「歴史の教訓」
07/6/18(第486号)「歴史教科書の上での抹殺」
07/6/11(第485号)「老舗に伝わる歴史」
07/6/4(第484号)「金・銀の産出量と経済」
07/5/28(第483号)「荻原重秀と新井白石」
07/5/21(第482号)「インフレと歴史教科書」
07/5/14(第481号)「インフレへの警戒感」
07/5/7(第480号)「日本の公務員」
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07/3/26(第475号)「構造改革派の落日の始まり」
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07/3/5(第472号)「今回の円高の分析」
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07/2/5(第468号)「財界人と「合成の誤謬」」
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07/1/22(第466号)「日本の財界の変質」
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07/1/8(第464号)「面白みがない景気予想」
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06/12/4(第462号)「高速増殖炉にまつわる誤解」
06/11/27(第461号)「高速増殖炉の話」
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06/11/13(第459号)「将来のエネルギーの本筋」
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06/10/23(第456号)「日本の核武装論」
06/10/16(第455号)「北朝鮮の核実験」
06/10/9(第454号)「安倍政権の生産性」
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06/7/24(第446号)「宗教・哲学と経済学」
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06/2/13(第424号)「大衆社会における経済論議」
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05/12/12(第417号)「日本的経営の行く末」
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05/11/28(第415号)「遠ざかる豊かな社会」
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04/12/13(第371号)「第一回財政研交流会」
04/12/6(第370号)「虚構の終焉(フィクション・エコノミクス)その3」
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04/11/22(第368号)「構造改革派の常套手段」
04/11/15(第367号)「虚構の終焉(フィクション・エコノミクス)その1」
04/11/8(第366号)「第二次南北戦争」
04/11/1(第365号)「妄言・虚言の正体」
04/10/25(第364号)「クライン博士を招いてのシンポジウム」
04/10/18(第363号)「日本経済のデフレ体質の分析(その3)」
04/10/11(第362号)「日本経済のデフレ体質の分析(その2)」
04/10/4(第361号)「日本経済のデフレ体質の分析(その1)」
04/9/27(第360号)「豊かな社会ーー競争と共生」
04/9/20(第359号)「レーガンの規制緩和の実態」
04/9/13(第358号)「今こそ大胆な政策転換を」
04/9/6(第357号)「虚言・妄言が跋扈する世の中」」
04/8/30(第356号)「日本の「韓国化」」
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04/7/19(第353号)「参院選で見たもの」
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04/6/14(第348号)「対談の論点」
04/6/7(第347号)「富の分配と公正」
04/5/31(第346号)「小泉首相訪朝の成果」
04/5/24(第345号)「日本に必要な財政赤字政策」
04/5/17(第344号)「土地売買の盲点」
04/5/10(第343号)「日本経済の体質と財政政策」
04/4/26(第342号)「凍り付くマネーサプライ」
04/4/19(第341号)「デフレ体質の日本経済」
04/4/12(第340号)「火星の土地」
04/4/5(第339号)「円高は構造的」
04/3/29(第338号)「規制緩和に飛びつく人々」
04/3/22(第337号)「矛盾の出発点」
04/3/15(第336号)「日経の貧乏神」
04/3/8(第335号)「実感なき経済成長」
04/3/1(第334号)「為替介入ではなく財政支出を」
04/2/23(第333号)「為替介入への道」
04/2/16(第332号)「為替介入資金の働き(その2)」
04/2/9(第331号)「為替介入資金の働き(その1)」
04/2/2(第330号)「為替介入政策の限界」
04/1/26(第329号)「今日の政治課題」
04/1/19(第328号)「今年の政局の課題」
04/1/12(第327号)「今年の日本の景気」
03/12/15(第326号)「日本の公的年金」
03/12/8(第325号)「足利銀行の破綻処理」
03/12/1(第324号)「日本経済を支えているもの」
03/11/24(第323号)「総選挙結果から見えるもの」
03/11/17(第322号)「総選挙結果の分析」
03/11/10(第321号)「総選挙の結果他」
03/11/3(第320号)「総選挙の予測」
03/10/27(第319号)「動態的会計による企業価値算定」
03/10/20(第318号)「道路公団、財務諸表の怪」
03/10/13(第317号)「藤井総裁解任劇」
03/10/6(第316号)「総裁選と総選挙」
03/9/29(第315号)「総裁選の総括」
03/9/22(第314号)「ドキュメンタリー総裁選」
03/9/15(第313号)「レポート総裁選・・その2」
03/9/8(第312号)「レポート総裁選」
03/9/1(第311号)「混迷の終始符」
03/8/25(第310号)「急がば回れ・・再び」
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03/6/30(第303号)「経済の循環(その2)」
03/6/23(第302号)「経済の循環(その1)」
03/6/16(第301号)「経済政策の混乱」
03/6/9(第300号)「りそな銀行の件」
03/6/2(第299号)「規制緩和と日本経済」
03/5/26(第298号)「経済学と経営学」
03/5/19(第297号)「政府紙幣発行の認知度」
03/5/12(第296号)「滝田洋一氏への反論」
03/5/5(第295号)「政府紙幣発行政策の誤解」
03/4/21(第294号)「逆噴射の財政政策」
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