平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




07/5/7(480号)
日本の公務員

  • 立場の相違
    考えて見れば当り前のことであるが、人々の立場によって経済、あるいは経済対策に対する意見や考えに大きな違いがある。収入が一定で変化のない人々は、物価上昇を極端に嫌う。一方、商売をやっている人や何かの事業を行おうとする人は、多少物価が上昇しても経済が拡大することを歓迎する。これから就職しようとしている人々は景気が良い方が好ましいが、まもなく定年退職する人々は景気はどうでも良く、むしろ退職金が目減りしないよう物価が上昇しない経済を望むであろう。

    また一口に資産家と言っても、資産は主に金融資産と土地に別れる。さらに同じ金融資産でも株式や預金、公債(国債など)など様々である。資産を預金や公債で持つ人は経済が成長しなくとも物価上昇がない方が都合が良い。一方、土地持ちや株式で資産を運用している人はやはり経済が成長する方が良い。

    このように国民と言っても一様ではない。立場によって好ましい経済状況は異なる。同じ日本国民と言えど立場によって微妙に利害が対立するようになったのである。ところがこのような利害の対立があることを明らかにしないまま、現実の経済が語られてきた。これが経済論議の混乱の元になっている。


    ざっとこれまでの日本経済の軌跡を振返ってみよう。終戦後の日本はほとんどの国民が貧乏であり、良い働き口も少なかった。この時代は、経済の成長路線が大多数の国民から支持を受けていたと思われる。このような時代がけっこう長く続いた。

    しかし国民の所得水準が高くなり、ある程度の資産を保有するようになって、国民の間に徐々に経済に対する考えに違いが出てきた。さすがにバブル崩壊後に経済が急激に落込んだ時は、積極財政による景気の浮揚が叫ばれた。しかし外需依存で経済がある程度持直すと、「次は財政再建」と橋本行革政権が支持された。

    ところが橋本政権の緊縮財政は、金融不安の表面化で頓挫する。次の小渕政権は一転して景気の回復と金融の再生を目指した。しかし経済が少し良くなると、再び構造改革派と財政再建派が勢力の巻き返しを行い、最後には小泉構造改革政権の誕生となった。


    小泉政権下ではこの構造改革派の天下であった。構造改革で経済が成長し、財政も再建されるという彼等のデマがまかり通っていた。しかし経済のグローバル化も影響し、今日、国民の間の所得格差が問題になってきた。今度は構造改革がやり玉に上げられるという具合である。

    バブル崩壊後、日本経済はほとんど成長していない(名目GDP)。しかしこの15年余りの間に正反対の経済政策が何回も繰返されてきた。まさにこれは経済論議と経済政策の混乱がずっと続いて来た結果と筆者は見る。このため有効な経済政策が継続されれず、ただ時間だけが過ぎ去ったのである。


    この間に日本経済の地位が下がっただけでなく、多くの不幸な人々を生んだ。経済政策がこれだけ混乱したのは、冒頭にお話したように個々の国民の置かれている立場の相違が大きくなっていることが影響していると筆者は考える。

    気紛れなマスコミがどの層の実情や意見を取上げるかによって、人々の関心も変わり、強いては政治家の行動も変わるのである。政治が変われば経済政策が変わってくる。ところが個々の日本人を見れば、立場が大きく異なってしまっているのに、いまだに「日本は最も成功した社会主義国」とか「日本の所得格差は極めて小さい」とボケたことを言っている人々が沢山いるのである。


  • 「豪華官舎」と「天下り」
    前段の話がちょっと抽象的過ぎたため、何のことか分からないと言う人がいるかもしれない。ここからはもっと具体的に説明を進めたい。「収入が一定で変化のない人々は、物価上昇を極端に嫌う」の代表は公務員である。

    もっと正確に言えば、公務員の生涯所得はほぼ決まっている。したがってこのような立場の人々にとっては物価上昇がない経済が好ましい。まさに今日の日本経済である。公務員の場合、勤続年数によって俸給が上がる。このような人々にとっては、経済成長や好景気はそれほど必要ではない。むしろ低成長の方が相対的に公務員の所得は有利になる。


    実際、日本の高度成長期に民間の給料はどんどん上がったが、公務員の給料は長い間据え置かれた。今日の人々は信じられないかもしれないが、ずっと公務員は安月給の代表であった。また公務員の俸給体系は元々後払い的性格が強い。毎月の俸給が低いが、退職金や恩給(公務員共済)が手厚い。これには職務上の不正を牽制する意味合いがある。間違いを犯さず定年(定年勧奨)まで勤め上げることが、公務員にとって最も重要なことである。このような方策が功を奏したのか、日本の公務員の不正行為の発生率は各国に比べかなり低い。

    そしてこの安月給を補填する意味合いで官舎の充実が図られた。もっとも官舎の整備は、転勤が多い公務員にとって必要なことでもあった。さらに転勤が多いのも公務員の不正防止がその一つの理由になっている。一ケ所に長く勤めれば、どうしても色々なしがらみが生まれるからである。


    今日、テレビで公務員官舎が豪華過ぎるといった安っぽいキャンペーンがなされている。しかしこのような背景があることを全く説明しない。ただ官舎が一等地にあるといった薄っぺらな内容で視聴者の関心を引こうとしているのである。

    たしかに近頃公務員の給料水準は高くなったように見える。しかしこれはバブル崩壊後、民間の給与水準が高くならないどころか下がったからである。これによって公務員の給与が相対的に優位になった。バブル経済崩壊後、高度成長期と正反対の事が起っているのである。


    今日、豪華官舎だけでなく公務員の天下りが問題になっている。いわゆる「公務員たたき」キャンペーンの一環である。たしかに公務員、特に官僚の天下りは評判が良くない。しかしこのキャンペーンは政権の浮揚に使われている面がある。06/2/12(第469号)「「女性は子供を産む機械」発言」」で本誌は「苦戦を伝えられている参議院選の前には、自民党は次なる「公務員たたき」作戦を打出すものと筆者は見ている」と述べたが、まさにこのことである。作戦がうまく行ったのか内閣支持率も上昇している。

    しかし筆者は「豪華官舎」なんて些末な問題と見ている。また公務員の退職者に対する再就職の斡旋つまり「天下り」についても、こんなことは民間の大企業ならどこでもやっていることと理解している。ただ民間の場合は、割増の退職金を払った希望退職者には再就職先を斡旋しないケースが多いようである。

    筆者は、日本の公務員や官僚に問題がないと言っているのではない。しかし問題は決して「豪華官舎」や「天下り」ではない。だいたい「豪華官舎」や「天下り」が解決しても、国民にとって何も変わらないのである。筆者は、公務員や官僚の本質的な問題はもっと別のところにあると考える。



来週は今週の続きである。もちろん今週述べたことも関連してくる。



07/4/23(第479号)「米国の構造改革派」
07/4/16(第478号)「構造改革派の正体」
07/4/9(第477号)「構造改革派とカルテル」
07/4/2(第476号)「構造改革派の生態」
07/3/26(第475号)「構造改革派の落日の始まり」
07/3/19(第474号)「超円高になる条件(その2)」
07/3/12(第473号)「超円高になる条件(その1)」
07/3/5(第472号)「今回の円高の分析」
07/2/26(第471号)「為替動向を占うポイント」
07/2/19(第470号)「今日の円安を考える」
07/2/12(第469号)「「女性は子供を産む機械」発言」」
07/2/5(第468号)「財界人と「合成の誤謬」」
07/1/29(第467号)「日本の財界人の自信」
07/1/22(第466号)「日本の財界の変質」
07/1/15(第465号)「日本の財界」
07/1/8(第464号)「面白みがない景気予想」
06/12/11(第463号)「筆者の主張のサマリー」
06/12/4(第462号)「高速増殖炉にまつわる誤解」
06/11/27(第461号)「高速増殖炉の話」
06/11/20(第460号)「日本の核融合研究」
06/11/13(第459号)「将来のエネルギーの本筋」
06/11/6(第458号)「LNG(液化天然ガス)の話」
06/10/30(第457号)「筆者の国防・防衛論」
06/10/23(第456号)「日本の核武装論」
06/10/16(第455号)「北朝鮮の核実験」
06/10/9(第454号)「安倍政権の生産性」
06/10/2(第453号)「安倍政権の発足にあたり」
06/9/25(第452号)「ポスト小泉の経済論議」
06/9/18(第451号)「ポスト小泉の経済と対米外交」
06/9/11(第450号)「ポスト小泉の対アジア外交」
06/9/4(第449号)「ポスト小泉について」
06/8/7(第448号)「郵政改革と宗教戦争」
06/7/31(第447号)「郵政改革論議の混乱」
06/7/24(第446号)「宗教・哲学と経済学」
06/7/17(第445号)「宗教と哲学への入門」
06/7/10(第444号)「劣勢のケインズ」
06/7/3(第443号)「トービン税について」
06/6/26(第442号)「自由放任(レッセ-フェール)の経済」
06/6/19(第441号)「筆者の税制改正案」
06/6/12(第440号)「筆者のニート対策」
06/6/5(第439号)「美しくない話」
06/5/29(第438号)「第三セクター鉄道の危機」
06/5/22(第437号)「テレビ番組の制作現場」
06/5/15(第436号)「日銀の実態・・憶測」
06/5/8(第435号)「日銀は魔法の杖か」
06/4/24(第434号)「もう一つ勇気を」
06/4/17(第433号)「格差とマスコミ」
06/4/10(第432号)「官僚の力と限界」
06/4/3(第431号)「日経新聞のダブルスタンダード」
06/3/27(第430号)「金融政策の失敗の歴史」
06/3/20(第429号)「量的緩和解除の波紋」
06/3/13(第428号)「コンビニ弁当の話」
06/3/6(第427号)「GDPギャップのインチキ推計法」
06/2/27(第426号)「潜在GDPとGDPギャップ」
06/2/20(第425号)「労働力と経済成長」
06/2/13(第424号)「大衆社会における経済論議」
06/2/6(第423号)「皇室典範改正法案に一言」
06/1/30(第422号)「ホリエモンと政治家」
06/1/23(第421号)「改革の旗手の危機」
06/1/16(第420号)「今年の景気予想」
06/1/9(第419号)「思考停止の日本」
05/12/19(第418号)「日本人の変質」
05/12/12(第417号)「日本的経営の行く末」
05/12/5(第416号)「アメリカ人」
05/11/28(第415号)「遠ざかる豊かな社会」
05/11/21(第414号)「移民問題と市場経済」
05/11/14(第413号)「ブリエアの解放者たち」
05/11/7(第412号)「第三次小泉内閣の感想」
05/10/31(第411号)「現実経済の乗数値」
05/10/24(第410号)「公共投資に伴う誘発投資」
05/10/17(第409号)「誘発投資の拡張版」
05/10/10(第408号)「経済理論上の乗数」
05/10/3(第407号)「政治家達の沈黙」
05/9/26(第406号)「大谷氏への公開質問状」
05/9/19(第405号)「デマの検証」
05/9/13(第404号)「選挙結果の雑感」
05/8/29(第403号)「今回の総選挙を読む」
05/8/22(第402号)「今回の総選挙の沿革」
05/8/8(第401号)「中国経済の本当の脅威」
05/8/1(第400号)「中国の為替戦略」
05/7/25(第399号)「経済のグローバリズムの行末」
05/7/18(第398号)「経済のグローバリズムの本質」
05/7/11(第397号)「郵政法案と小泉政権の行方」
05/7/4(第396号)「経済のグローバリズムと競争の公正」
05/6/27(第395号)「日本語の研究」
05/6/20(第394号)「公的年金とセイニアーリッジ」
05/6/13(第393号)「日本国民全員がばん万歳の政策」
05/6/6(第392号)「公的年金とマクロ経済」
05/5/30(第391号)「マクロ経済政策で解決するもの」
05/5/23(第390号)「ヴァーチャルなもの(その2)」
05/5/16(第389号)「ヴァーチャルなもの(その1)」
05/5/9(第388号)「中国進出の主導者」
05/4/25(第387号)「鎖国主義への誘惑(その2)」
05/4/18(第386号)「鎖国主義への誘惑(その1)」
05/4/11(第385号)「ノストラダムスの大予言」
05/4/4(第384号)「法律と現実社会との間」
05/3/28(第383号)「株式に関する非常識」
05/3/21(第382号)「人とグローバリズム」
05/3/14(第381号)「資本とグローバリズム」
05/3/7(第380号)「貿易とグローバリズム」
05/2/28(第379号)「マスコミの暴走」
05/2/21(第378号)「マスコミが流す誤った概念」
05/2/14(第377号)「日本のマスコミの権力指向」
05/2/7(第376号)「日本のマスコミの体質」
05/1/31(第375号)「財政当局の変心」
05/1/24(第374号)「経済成長の条件(その2)」
05/1/17(第373号)「経済成長の条件(その1)」
05/1/10(第372号)「中国経済の実態」
04/12/13(第371号)「第一回財政研交流会」
04/12/6(第370号)「虚構の終焉(フィクション・エコノミクス)その3」
04/11/29(第369号)「虚構の終焉(フィクション・エコノミクス)その2」
04/11/22(第368号)「構造改革派の常套手段」
04/11/15(第367号)「虚構の終焉(フィクション・エコノミクス)その1」
04/11/8(第366号)「第二次南北戦争」
04/11/1(第365号)「妄言・虚言の正体」
04/10/25(第364号)「クライン博士を招いてのシンポジウム」
04/10/18(第363号)「日本経済のデフレ体質の分析(その3)」
04/10/11(第362号)「日本経済のデフレ体質の分析(その2)」
04/10/4(第361号)「日本経済のデフレ体質の分析(その1)」
04/9/27(第360号)「豊かな社会ーー競争と共生」
04/9/20(第359号)「レーガンの規制緩和の実態」
04/9/13(第358号)「今こそ大胆な政策転換を」
04/9/6(第357号)「虚言・妄言が跋扈する世の中」」
04/8/30(第356号)「日本の「韓国化」」
04/8/2(第355号)「日本の分割統治」
04/7/26(第354号)「自民党大敗北の要因分析」
04/7/19(第353号)「参院選で見たもの」
04/7/12(第352号)「日本のエネルギー自立政策」
04/7/5(第351号)「危うい石油の確保」
04/6/28(第350号)「テロと中東石油」
04/6/21(第349号)「対談の論点(再)」
04/6/14(第348号)「対談の論点」
04/6/7(第347号)「富の分配と公正」
04/5/31(第346号)「小泉首相訪朝の成果」
04/5/24(第345号)「日本に必要な財政赤字政策」
04/5/17(第344号)「土地売買の盲点」
04/5/10(第343号)「日本経済の体質と財政政策」
04/4/26(第342号)「凍り付くマネーサプライ」
04/4/19(第341号)「デフレ体質の日本経済」
04/4/12(第340号)「火星の土地」
04/4/5(第339号)「円高は構造的」
04/3/29(第338号)「規制緩和に飛びつく人々」
04/3/22(第337号)「矛盾の出発点」
04/3/15(第336号)「日経の貧乏神」
04/3/8(第335号)「実感なき経済成長」
04/3/1(第334号)「為替介入ではなく財政支出を」
04/2/23(第333号)「為替介入への道」
04/2/16(第332号)「為替介入資金の働き(その2)」
04/2/9(第331号)「為替介入資金の働き(その1)」
04/2/2(第330号)「為替介入政策の限界」
04/1/26(第329号)「今日の政治課題」
04/1/19(第328号)「今年の政局の課題」
04/1/12(第327号)「今年の日本の景気」
03/12/15(第326号)「日本の公的年金」
03/12/8(第325号)「足利銀行の破綻処理」
03/12/1(第324号)「日本経済を支えているもの」
03/11/24(第323号)「総選挙結果から見えるもの」
03/11/17(第322号)「総選挙結果の分析」
03/11/10(第321号)「総選挙の結果他」
03/11/3(第320号)「総選挙の予測」
03/10/27(第319号)「動態的会計による企業価値算定」
03/10/20(第318号)「道路公団、財務諸表の怪」
03/10/13(第317号)「藤井総裁解任劇」
03/10/6(第316号)「総裁選と総選挙」
03/9/29(第315号)「総裁選の総括」
03/9/22(第314号)「ドキュメンタリー総裁選」
03/9/15(第313号)「レポート総裁選・・その2」
03/9/8(第312号)「レポート総裁選」
03/9/1(第311号)「混迷の終始符」
03/8/25(第310号)「急がば回れ・・再び」
03/8/18(第309号)「自民党の総裁選に向けて」
03/8/4(第308号)「日本の実稼働率」
03/7/28(第307号)「設備投資の実態」
03/7/21(第306号)「企業経営と創造的破壊」
03/7/14(第305号)「頭が破壊されている人々」
03/7/7(第304号)「頭が混乱している構造改革派」
03/6/30(第303号)「経済の循環(その2)」
03/6/23(第302号)「経済の循環(その1)」
03/6/16(第301号)「経済政策の混乱」
03/6/9(第300号)「りそな銀行の件」
03/6/2(第299号)「規制緩和と日本経済」
03/5/26(第298号)「経済学と経営学」
03/5/19(第297号)「政府紙幣発行の認知度」
03/5/12(第296号)「滝田洋一氏への反論」
03/5/5(第295号)「政府紙幣発行政策の誤解」
03/4/21(第294号)「逆噴射の財政政策」
03/4/14(第293号)「危機管理下の経済政策」
03/4/7(第292号)「国債の管理政策」
03/3/31(第291号)「経済再生政策提言フォーラム」
03/3/24(第290号)「日本の有名経済学者達」
03/3/17(第289号)「波乱の株式市場」
03/3/10(第288号)「政府貨幣の理解」
03/3/3(第287号)「軽視される高橋是清の偉業」
03/2/24(第286号)「日本の清貧の思想」
03/2/17(第285号)「日本のデフレの原点」
03/2/10(第284号)「小泉首相の「もっと重要なこと」」
03/2/3(第283号)「スローパニック経済」
03/1/27(第282号)「所得を生むマネーサプライ」
03/1/20(第281号)「マネーサプライ政策の限界」
03/1/13(第280号)「データに基づく経済論」
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