平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




07/3/12(473号)
超円高になる条件(その1)

  • 円高は政府の意思で実現
    今週は、超円高、つまり先週号で述べた「えらいこと」が起る可能性を探る。日本は経常収支が黒字であるが、日本からの資本(資金)流出が大きいため、逆に円安が続いている。特に金融の自由化によって80年頃から、外貨建金融資産の取得が盛んになり、主に高金利の米国国債購入に資本(資金)が流れるようになった。ちょうど土光臨調による行財政改革が始まり(消費税導入を目論んだ大平政権の財政再建路線が発端)、内需拡大路線が行き詰まった頃である。

    昔の日本(70年代の中頃まで)は、反対に外貨不足が深刻で旅行者の外貨持出しでさえ厳しく制限されていたのだから、状況は様変わりしたのである。これはオイルショック後に日本の輸出が急激に伸びたためである。オイルショックによる急激な物価上昇を抑え込むため、緊縮財政が採られ、企業は活路を輸出に求めるしかなくなったのである。橋本行財政改革政権の時にも同様なことが起った。そして今日の状況がこれらの時と極めて似ている。


    外債(米国国債)投資は、円安が続く限り高利回りが取れる。しかし外債投資が円安の原因になっている。そしてこの円安によって輸出が伸び、経常収支の黒字幅がむしろ大きくなる。つまり資本(資金)流出が大きいと、為替変動による貿易収支の均衡機能が働かなくなる。したがってどれだけ経常収支の黒字が大きくなっても円高にならないのである。

    しかし経常収支黒字国の通貨が安いまま推移することは、矛盾を蓄積することになる。この矛盾の蓄積を修正するため、どこかで円高への調整が起ることになる。ところが資本取引が活発になると、市場のメカニズムに任していては、この調整がいつまでも起らない。この調整を半ば人為的に行ったのが、85年のプラザ合意後と橋本政権下でのドル売・円買介入である。それも相当規模の介入を行って、為替の動きを反転させた。


    このように過去二回の円高転換では、政府、特に日米両政府の意思というものが重要であった。ところで中国株ショックが発端で、日本株の下落と円高が最近起った。注目点はこのまま円高が続くのかということである。もし円高が定着するのなら、初めての政府の介入がないままの円高転換というケースになる(円がフロート化した時の円高を別にして)。

    筆者は、政府の意思がないまま円高転換は難しいと考えている。しかし前回までと違い、キャリー取引といった外資系ファンドの為替取引が大きくなっている。したがって場合によっては、外資系ファンドの動きいかんによっては、為替相場の流れが変わることもあるのかと注目している。


    さらに中国経済(中国政府を含め)の動きが、円相場にも影響を与えるようになっていることを筆者は指摘しておきたい。またインドなどの新興国の経済が大きくなっており、世界経済に及す影響も大きくなっている。特にインドも中国と同様、通貨を米ドルにリンクさせている。中国の人民元が問題にされているが、同じことがインドのルピーにも言えるのである。

    これまでの大きな円高への調整は、日米欧(特に日米)の協調で行われた。しかし米ドルとの間で円だけを円高に調整した場合、円と新興国の通貨との矛盾がさらに大きくなる。つまり為替調整は多国間の問題になっているのである。


  • キャリー取引という危険因子
    前段で述べたように、筆者は為替の大幅な円高への調整には政府の意思というものが必要と考えている。しかしここ5,6年の間に為替市場を巡る環境が変化した。外資ファンドのキャリー取引と中国経済の台頭である。超円高が現実となるには、これらの動向についても考える必要があると感じる。

    まず今週はキャリー取引を取上げる。日本が超低金利を維持していた間に、米国は利上げを続け、この結果日米の金利差は拡大した(もっとも金利差が拡大したのは短期金利であり長期金利の金利差はそれほど大きくなっていないが)。キャリー取引はこの日米の金利差の拡大に応じて増えてきた。


    つまり金利差が縮小すれば、キャリー取引の増加率が小さくなるかあるいは減少する可能性がある。まず日本の金利については、先月小幅な利上げが行われた。しかしこれに対してはかなりの抵抗があった。したがって今後、小幅の利上げがあるかもしれないが、利上げに対する反対を考えると大幅な金利上昇は考えられない。

    一方、米国の金利はほぼ天井まで上がっている。今後考えられるのは利下げである。今日、米国の景気の現状について強気と弱気がある。見方が別れているのである。したがって景気指標に多少弱い数字が出ても、直には大幅利下げということはない。仮に利下げがあっても秋以降という観測に筆者は賛成である。したがって日米の金利差は、当分の間、今のままで推移するという予想である。ただし方向としては金利差は小さくなる。


    キャリー取引の主体は利にさとい外資系ファンドである。日米の金利差が縮まないとすれば、当分今日のキャリー取引が続けられると見られる。ただ確実な円高が見えてきたなら、事情は一変すると考える。外資系ファンドは、手の平を返すようにキャリー取引の解消(キャリー取引の巻き戻し)に向かうものと考えられる。

    キャリー取引大規模な巻き戻しが起れば、これが超円高の一因となろう。もしキャリー取引の巻き戻しだけで円高が実現するなら、これまでのような政府・日銀の為替介入に頼らなくとも円高転換が達成されるということになる。しかしキャリー取引の解消が大規模に起るということは、外資系ファンドが運用している株や債券がたたき売られることを意味する。当然、これが世界の株式や債券の暴落を生み、日本は世界から非難を受ける可能性がある。

    さらに次にはこれが日本の株式市場などを直撃する。日本経済はキャリー取引というとんだ危険因子を抱え込んでしまったのである。キャリー取引というものがどんどん増えて行くのを、何の対策も行わず漫然と眺めてきた小泉政権のツケは大きい(もっとも小泉政権はこれに伴う円安で維持されたようなものである)。


    しかしこれによって日本政府が行う将来の経済政策が制限されることになったのである。ここまでの話をまとめれば「円高になるという予想」が定着すれば、まず外資系ファンドがキャリー取引を一斉に巻き戻し、最終的に超円高が実現するというストーリである。筆者は利にさとい外資系ファンドが一番最初に動くと見る(今日の株式市場でも外資系ファンドが相場をリードすることが当り前になっている)。外資系ファンドはキャリー取引の解消に止まらず、円買い投機まで行うであろう。それを見て企業や個人も円買いに走るという具合である。

    結論はこの「円高になるという予想」が生まれる条件が何かということになる。筆者はこれが来週取上げる中国人民元の動向と見ている。超円高、つまり「えらいこと」が起る条件を人民元高と筆者は考える。



来週は円相場に大きく関わるようになった中国人民元の動向を取上げる。



07/3/5(第472号)「今回の円高の分析」
07/2/26(第471号)「為替動向を占うポイント」
07/2/19(第470号)「今日の円安を考える」
07/2/12(第469号)「「女性は子供を産む機械」発言」」
07/2/5(第468号)「財界人と「合成の誤謬」」
07/1/29(第467号)「日本の財界人の自信」
07/1/22(第466号)「日本の財界の変質」
07/1/15(第465号)「日本の財界」
07/1/8(第464号)「面白みがない景気予想」
06/12/11(第463号)「筆者の主張のサマリー」
06/12/4(第462号)「高速増殖炉にまつわる誤解」
06/11/27(第461号)「高速増殖炉の話」
06/11/20(第460号)「日本の核融合研究」
06/11/13(第459号)「将来のエネルギーの本筋」
06/11/6(第458号)「LNG(液化天然ガス)の話」
06/10/30(第457号)「筆者の国防・防衛論」
06/10/23(第456号)「日本の核武装論」
06/10/16(第455号)「北朝鮮の核実験」
06/10/9(第454号)「安倍政権の生産性」
06/10/2(第453号)「安倍政権の発足にあたり」
06/9/25(第452号)「ポスト小泉の経済論議」
06/9/18(第451号)「ポスト小泉の経済と対米外交」
06/9/11(第450号)「ポスト小泉の対アジア外交」
06/9/4(第449号)「ポスト小泉について」
06/8/7(第448号)「郵政改革と宗教戦争」
06/7/31(第447号)「郵政改革論議の混乱」
06/7/24(第446号)「宗教・哲学と経済学」
06/7/17(第445号)「宗教と哲学への入門」
06/7/10(第444号)「劣勢のケインズ」
06/7/3(第443号)「トービン税について」
06/6/26(第442号)「自由放任(レッセ-フェール)の経済」
06/6/19(第441号)「筆者の税制改正案」
06/6/12(第440号)「筆者のニート対策」
06/6/5(第439号)「美しくない話」
06/5/29(第438号)「第三セクター鉄道の危機」
06/5/22(第437号)「テレビ番組の制作現場」
06/5/15(第436号)「日銀の実態・・憶測」
06/5/8(第435号)「日銀は魔法の杖か」
06/4/24(第434号)「もう一つ勇気を」
06/4/17(第433号)「格差とマスコミ」
06/4/10(第432号)「官僚の力と限界」
06/4/3(第431号)「日経新聞のダブルスタンダード」
06/3/27(第430号)「金融政策の失敗の歴史」
06/3/20(第429号)「量的緩和解除の波紋」
06/3/13(第428号)「コンビニ弁当の話」
06/3/6(第427号)「GDPギャップのインチキ推計法」
06/2/27(第426号)「潜在GDPとGDPギャップ」
06/2/20(第425号)「労働力と経済成長」
06/2/13(第424号)「大衆社会における経済論議」
06/2/6(第423号)「皇室典範改正法案に一言」
06/1/30(第422号)「ホリエモンと政治家」
06/1/23(第421号)「改革の旗手の危機」
06/1/16(第420号)「今年の景気予想」
06/1/9(第419号)「思考停止の日本」
05/12/19(第418号)「日本人の変質」
05/12/12(第417号)「日本的経営の行く末」
05/12/5(第416号)「アメリカ人」
05/11/28(第415号)「遠ざかる豊かな社会」
05/11/21(第414号)「移民問題と市場経済」
05/11/14(第413号)「ブリエアの解放者たち」
05/11/7(第412号)「第三次小泉内閣の感想」
05/10/31(第411号)「現実経済の乗数値」
05/10/24(第410号)「公共投資に伴う誘発投資」
05/10/17(第409号)「誘発投資の拡張版」
05/10/10(第408号)「経済理論上の乗数」
05/10/3(第407号)「政治家達の沈黙」
05/9/26(第406号)「大谷氏への公開質問状」
05/9/19(第405号)「デマの検証」
05/9/13(第404号)「選挙結果の雑感」
05/8/29(第403号)「今回の総選挙を読む」
05/8/22(第402号)「今回の総選挙の沿革」
05/8/8(第401号)「中国経済の本当の脅威」
05/8/1(第400号)「中国の為替戦略」
05/7/25(第399号)「経済のグローバリズムの行末」
05/7/18(第398号)「経済のグローバリズムの本質」
05/7/11(第397号)「郵政法案と小泉政権の行方」
05/7/4(第396号)「経済のグローバリズムと競争の公正」
05/6/27(第395号)「日本語の研究」
05/6/20(第394号)「公的年金とセイニアーリッジ」
05/6/13(第393号)「日本国民全員がばん万歳の政策」
05/6/6(第392号)「公的年金とマクロ経済」
05/5/30(第391号)「マクロ経済政策で解決するもの」
05/5/23(第390号)「ヴァーチャルなもの(その2)」
05/5/16(第389号)「ヴァーチャルなもの(その1)」
05/5/9(第388号)「中国進出の主導者」
05/4/25(第387号)「鎖国主義への誘惑(その2)」
05/4/18(第386号)「鎖国主義への誘惑(その1)」
05/4/11(第385号)「ノストラダムスの大予言」
05/4/4(第384号)「法律と現実社会との間」
05/3/28(第383号)「株式に関する非常識」
05/3/21(第382号)「人とグローバリズム」
05/3/14(第381号)「資本とグローバリズム」
05/3/7(第380号)「貿易とグローバリズム」
05/2/28(第379号)「マスコミの暴走」
05/2/21(第378号)「マスコミが流す誤った概念」
05/2/14(第377号)「日本のマスコミの権力指向」
05/2/7(第376号)「日本のマスコミの体質」
05/1/31(第375号)「財政当局の変心」
05/1/24(第374号)「経済成長の条件(その2)」
05/1/17(第373号)「経済成長の条件(その1)」
05/1/10(第372号)「中国経済の実態」
04/12/13(第371号)「第一回財政研交流会」
04/12/6(第370号)「虚構の終焉(フィクション・エコノミクス)その3」
04/11/29(第369号)「虚構の終焉(フィクション・エコノミクス)その2」
04/11/22(第368号)「構造改革派の常套手段」
04/11/15(第367号)「虚構の終焉(フィクション・エコノミクス)その1」
04/11/8(第366号)「第二次南北戦争」
04/11/1(第365号)「妄言・虚言の正体」
04/10/25(第364号)「クライン博士を招いてのシンポジウム」
04/10/18(第363号)「日本経済のデフレ体質の分析(その3)」
04/10/11(第362号)「日本経済のデフレ体質の分析(その2)」
04/10/4(第361号)「日本経済のデフレ体質の分析(その1)」
04/9/27(第360号)「豊かな社会ーー競争と共生」
04/9/20(第359号)「レーガンの規制緩和の実態」
04/9/13(第358号)「今こそ大胆な政策転換を」
04/9/6(第357号)「虚言・妄言が跋扈する世の中」」
04/8/30(第356号)「日本の「韓国化」」
04/8/2(第355号)「日本の分割統治」
04/7/26(第354号)「自民党大敗北の要因分析」
04/7/19(第353号)「参院選で見たもの」
04/7/12(第352号)「日本のエネルギー自立政策」
04/7/5(第351号)「危うい石油の確保」
04/6/28(第350号)「テロと中東石油」
04/6/21(第349号)「対談の論点(再)」
04/6/14(第348号)「対談の論点」
04/6/7(第347号)「富の分配と公正」
04/5/31(第346号)「小泉首相訪朝の成果」
04/5/24(第345号)「日本に必要な財政赤字政策」
04/5/17(第344号)「土地売買の盲点」
04/5/10(第343号)「日本経済の体質と財政政策」
04/4/26(第342号)「凍り付くマネーサプライ」
04/4/19(第341号)「デフレ体質の日本経済」
04/4/12(第340号)「火星の土地」
04/4/5(第339号)「円高は構造的」
04/3/29(第338号)「規制緩和に飛びつく人々」
04/3/22(第337号)「矛盾の出発点」
04/3/15(第336号)「日経の貧乏神」
04/3/8(第335号)「実感なき経済成長」
04/3/1(第334号)「為替介入ではなく財政支出を」
04/2/23(第333号)「為替介入への道」
04/2/16(第332号)「為替介入資金の働き(その2)」
04/2/9(第331号)「為替介入資金の働き(その1)」
04/2/2(第330号)「為替介入政策の限界」
04/1/26(第329号)「今日の政治課題」
04/1/19(第328号)「今年の政局の課題」
04/1/12(第327号)「今年の日本の景気」
03/12/15(第326号)「日本の公的年金」
03/12/8(第325号)「足利銀行の破綻処理」
03/12/1(第324号)「日本経済を支えているもの」
03/11/24(第323号)「総選挙結果から見えるもの」
03/11/17(第322号)「総選挙結果の分析」
03/11/10(第321号)「総選挙の結果他」
03/11/3(第320号)「総選挙の予測」
03/10/27(第319号)「動態的会計による企業価値算定」
03/10/20(第318号)「道路公団、財務諸表の怪」
03/10/13(第317号)「藤井総裁解任劇」
03/10/6(第316号)「総裁選と総選挙」
03/9/29(第315号)「総裁選の総括」
03/9/22(第314号)「ドキュメンタリー総裁選」
03/9/15(第313号)「レポート総裁選・・その2」
03/9/8(第312号)「レポート総裁選」
03/9/1(第311号)「混迷の終始符」
03/8/25(第310号)「急がば回れ・・再び」
03/8/18(第309号)「自民党の総裁選に向けて」
03/8/4(第308号)「日本の実稼働率」
03/7/28(第307号)「設備投資の実態」
03/7/21(第306号)「企業経営と創造的破壊」
03/7/14(第305号)「頭が破壊されている人々」
03/7/7(第304号)「頭が混乱している構造改革派」
03/6/30(第303号)「経済の循環(その2)」
03/6/23(第302号)「経済の循環(その1)」
03/6/16(第301号)「経済政策の混乱」
03/6/9(第300号)「りそな銀行の件」
03/6/2(第299号)「規制緩和と日本経済」
03/5/26(第298号)「経済学と経営学」
03/5/19(第297号)「政府紙幣発行の認知度」
03/5/12(第296号)「滝田洋一氏への反論」
03/5/5(第295号)「政府紙幣発行政策の誤解」
03/4/21(第294号)「逆噴射の財政政策」
03/4/14(第293号)「危機管理下の経済政策」
03/4/7(第292号)「国債の管理政策」
03/3/31(第291号)「経済再生政策提言フォーラム」
03/3/24(第290号)「日本の有名経済学者達」
03/3/17(第289号)「波乱の株式市場」
03/3/10(第288号)「政府貨幣の理解」
03/3/3(第287号)「軽視される高橋是清の偉業」
03/2/24(第286号)「日本の清貧の思想」
03/2/17(第285号)「日本のデフレの原点」
03/2/10(第284号)「小泉首相の「もっと重要なこと」」
03/2/3(第283号)「スローパニック経済」
03/1/27(第282号)「所得を生むマネーサプライ」
03/1/20(第281号)「マネーサプライ政策の限界」
03/1/13(第280号)「データに基づく経済論」
02年のバックナンバー

01年のバックナンバー

00年のバックナンバー

99年のバックナンバー

98年のバックナンバー

97年のバックナンバー

日頃忙しいビジネスマンへのオンラインマガジン