平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




07/3/5(472号)
今回の円高の分析

  • 「えらいこと」が起る可能性
    本誌で為替動向を二週取上げたが、ちょうど思い掛けなく為替が円高に動いた。筆者の見通しは、ジリジリと進む円安か、あるいは当分考えられないが反対に大きな円高である。何事もなかったらこれまでの延長線での極めて緩慢な円安の進行と考えていた。一方、円高になるとしたならこれまでの矛盾の蓄積(経常収支の黒字をずっと続けている国の通貨が安くなるという矛盾の蓄積)が大きいだけに、超円高ということになる。

    しかしもし後者、つまり超円高が実際に起れば「えらいこと」である。日本政府は内需の不振を放置したまま、外需に頼る経済政策を続けてきた。したがって超円高は、外需依存の企業や外貨建金融資産を増やしてきた富裕層にとって大きな打撃になる。そこでこの「えらいこと」が起る可能性を今週と来週で検討してみる。


    120円前後で推移してきた円が117円台になっている。きっかけは中国株の下落に始まる世界同時株安である。もっとも世界的な株安の原因は中国株価急落だけではない。米国の経済成長率の下方修正が同じ日に公表されたり、原油が値上げに転じている。さらにイラン情勢の緊迫と日銀の利上げを指摘する声もある。しかし筆者はこれら二点については疑問に思う。中国は日銀の利上げのせいにしているが、中国全人大での株譲渡益に対する課税強化法案の成立懸念が直接的な原因と見られている。

    さらにNY株式市場で指数取引が停止されたため(売買が急増したことが原因でシステムが対応できなかったから)、原物株の投売りを誘い、株価急落に拍車をかけたという話も出ている。しかし中国など新興国の株価がかなり高くなっていたことが、今回の世界同時株安の背景にあったことは否めない。ところで今回の株価の下落が、為替相場の円高要因になっていることに筆者は注目している。


    次に今日の情勢変化を踏まえて、今後の為替の動向を予測してみる。本誌は先々週号で今日の円安の原因を日本からの資本(資金)流出と指摘した。経常収支の黒字額以上に資本(資金)流出が常に起っているのである。さらに為替予約の減少など輸出企業の財務戦略の変化がこれに加わり、今日まで円安が続いた。これらの円安要因がどうように変化するかを予測することが、今後の為替動向を見通す上で重要である。

    比較的予測が簡単なのが輸出企業の財務戦略である。これまでずっと円安が継続しており、輸出企業は為替予約を小さくしたり控えていた。さらに円安を見越し、外貨建の輸出代金の円転を止めていた企業もある。しかし目先、これ以上の円安がないとしたなら、企業は財務戦略を変えてくると思われる。

    特に3月は輸出企業が来期の予算を作成する時期である。大きく円相場が動けば輸出の採算に大きな影響が出る。この為替変動リスクを避けるため、輸出企業は為替予約を付ける割合を大きくすると考えられる。そして輸出代金に為替予約を付けること自体が円高要因になる。また為替変動リスクを回避するため、手持ちの外貨の円転を急げば、これも円高の要因になる。つまりこれ以上の円安がないという認識が広まることが、円高に作用するのである。


  • 株価と為替
    資本(資金)流出で注目されるのは、機関投資家や個人の外貨建金融資産の購入(資本(資金)流出には金融資産購入以外に外国への直接投資があるがここでは割愛する)と外資系ファンドのキャリー取引である。まず前者は主に外債、特に米国国債の購入である。しかし最近では個人の投信を通じた新興国の株式の購入も増えている。

    円安にある程度歯止めがかかったという認識が広まれば、外貨建金融資産の購入ペースは落ちるものと考える。特に外国株式については、株価下落に加え為替変動といった二重のリスクを抱えることになる。さすがにしばらくは新興国株式の投資は下火になると思われる。さらに保有している新興国株式の売却も考えられる。

    しかし04/4/5(第339号)「円高は構造的」で述べたように、日本人の円に対する「自虐的な為替観」というものがある限り、外債購入の方は大幅に減るという事態はないと思われる。円の動きが落着けば、再び外債の購入が増えるものと考える。この点が株式と違う点である。


    キャリー取引の主体は欧米の外資系ファンドであり、これにについてはもう一つ分からない所がある。世界的な株価の下落が始まり、たしかに一部のファンドは株式を売却し、手仕舞をしている。手仕舞に伴い、ファンドはキャリー取引によって低金利で調達した資金を日本の金融機関に返済している。これを「キャリー取引の巻き戻し」と呼び、返済のため円を調達することになる。つまり「キャリー取引の巻き戻し」は円高要因になる。

    株価の下落によって、資金が株式市場から米国の債券市場に逃げている。これによって米国の長期金利は低下し、日米の金利差は縮小しており、たしかにキャリー取引の誘因は小さくなっている。金利差の縮小を日銀の利上げと指摘する声もあるが、日本の長期金利は日銀の利上げ後もほとんど変動していない(短期金利は若干上昇したが、むしろ長期金利は低下気味)。つまりもしキャリー取引の縮小があったとしても、その原因は日銀の利上げではなく、米国の長期金利の低下であり、その要因は世界的な株価下落と考えるべきである。


    今回の円高の原因を探ってみると、中国などの新興国の株価下落ということになる。このように為替相場が株価動向、特に中国などの新興国の株価動向に影響を受けている。これまで無かった事態である。それだけ中国を始め、新興国の経済の存在が大きくなっているということになる。

    このように株価の動向が為替相場にも影響しているのだから、今後の為替相場を占う場合、株式市場も考慮する必要があるということになる。また株価の下落を「調整」「大きな調整」「暴落」「大暴落」と四段階に分けると、今回の世界の株価の下落はやや大きい調整といった程度であろう。日本の株価も平均的な下落をしている。このやや大きい調整が暴落や大暴落のきっかけになるかどうかが注目点である。しかし筆者は今回の株価の調整は近く終息すると見ている。

    今回の円相場や日本の株式市場の変動は、日中の経済が貿易だけでなく株式投資やキャリー取引といった金融の面でも繋がっていることを示している。これも世界的な金融取引が大きくなって、余剰資金が世界中を駆け巡っているからである。難しい時代になったのである。



来週は今回の円高がはたして本物なのか考えたい。今回の株価下落が超円高、つまり「えらいこと」に繋がるかどうかということである。



07/2/26(第471号)「為替動向を占うポイント」
07/2/19(第470号)「今日の円安を考える」
07/2/12(第469号)「「女性は子供を産む機械」発言」」
07/2/5(第468号)「財界人と「合成の誤謬」」
07/1/29(第467号)「日本の財界人の自信」
07/1/22(第466号)「日本の財界の変質」
07/1/15(第465号)「日本の財界」
07/1/8(第464号)「面白みがない景気予想」
06/12/11(第463号)「筆者の主張のサマリー」
06/12/4(第462号)「高速増殖炉にまつわる誤解」
06/11/27(第461号)「高速増殖炉の話」
06/11/20(第460号)「日本の核融合研究」
06/11/13(第459号)「将来のエネルギーの本筋」
06/11/6(第458号)「LNG(液化天然ガス)の話」
06/10/30(第457号)「筆者の国防・防衛論」
06/10/23(第456号)「日本の核武装論」
06/10/16(第455号)「北朝鮮の核実験」
06/10/9(第454号)「安倍政権の生産性」
06/10/2(第453号)「安倍政権の発足にあたり」
06/9/25(第452号)「ポスト小泉の経済論議」
06/9/18(第451号)「ポスト小泉の経済と対米外交」
06/9/11(第450号)「ポスト小泉の対アジア外交」
06/9/4(第449号)「ポスト小泉について」
06/8/7(第448号)「郵政改革と宗教戦争」
06/7/31(第447号)「郵政改革論議の混乱」
06/7/24(第446号)「宗教・哲学と経済学」
06/7/17(第445号)「宗教と哲学への入門」
06/7/10(第444号)「劣勢のケインズ」
06/7/3(第443号)「トービン税について」
06/6/26(第442号)「自由放任(レッセ-フェール)の経済」
06/6/19(第441号)「筆者の税制改正案」
06/6/12(第440号)「筆者のニート対策」
06/6/5(第439号)「美しくない話」
06/5/29(第438号)「第三セクター鉄道の危機」
06/5/22(第437号)「テレビ番組の制作現場」
06/5/15(第436号)「日銀の実態・・憶測」
06/5/8(第435号)「日銀は魔法の杖か」
06/4/24(第434号)「もう一つ勇気を」
06/4/17(第433号)「格差とマスコミ」
06/4/10(第432号)「官僚の力と限界」
06/4/3(第431号)「日経新聞のダブルスタンダード」
06/3/27(第430号)「金融政策の失敗の歴史」
06/3/20(第429号)「量的緩和解除の波紋」
06/3/13(第428号)「コンビニ弁当の話」
06/3/6(第427号)「GDPギャップのインチキ推計法」
06/2/27(第426号)「潜在GDPとGDPギャップ」
06/2/20(第425号)「労働力と経済成長」
06/2/13(第424号)「大衆社会における経済論議」
06/2/6(第423号)「皇室典範改正法案に一言」
06/1/30(第422号)「ホリエモンと政治家」
06/1/23(第421号)「改革の旗手の危機」
06/1/16(第420号)「今年の景気予想」
06/1/9(第419号)「思考停止の日本」
05/12/19(第418号)「日本人の変質」
05/12/12(第417号)「日本的経営の行く末」
05/12/5(第416号)「アメリカ人」
05/11/28(第415号)「遠ざかる豊かな社会」
05/11/21(第414号)「移民問題と市場経済」
05/11/14(第413号)「ブリエアの解放者たち」
05/11/7(第412号)「第三次小泉内閣の感想」
05/10/31(第411号)「現実経済の乗数値」
05/10/24(第410号)「公共投資に伴う誘発投資」
05/10/17(第409号)「誘発投資の拡張版」
05/10/10(第408号)「経済理論上の乗数」
05/10/3(第407号)「政治家達の沈黙」
05/9/26(第406号)「大谷氏への公開質問状」
05/9/19(第405号)「デマの検証」
05/9/13(第404号)「選挙結果の雑感」
05/8/29(第403号)「今回の総選挙を読む」
05/8/22(第402号)「今回の総選挙の沿革」
05/8/8(第401号)「中国経済の本当の脅威」
05/8/1(第400号)「中国の為替戦略」
05/7/25(第399号)「経済のグローバリズムの行末」
05/7/18(第398号)「経済のグローバリズムの本質」
05/7/11(第397号)「郵政法案と小泉政権の行方」
05/7/4(第396号)「経済のグローバリズムと競争の公正」
05/6/27(第395号)「日本語の研究」
05/6/20(第394号)「公的年金とセイニアーリッジ」
05/6/13(第393号)「日本国民全員がばん万歳の政策」
05/6/6(第392号)「公的年金とマクロ経済」
05/5/30(第391号)「マクロ経済政策で解決するもの」
05/5/23(第390号)「ヴァーチャルなもの(その2)」
05/5/16(第389号)「ヴァーチャルなもの(その1)」
05/5/9(第388号)「中国進出の主導者」
05/4/25(第387号)「鎖国主義への誘惑(その2)」
05/4/18(第386号)「鎖国主義への誘惑(その1)」
05/4/11(第385号)「ノストラダムスの大予言」
05/4/4(第384号)「法律と現実社会との間」
05/3/28(第383号)「株式に関する非常識」
05/3/21(第382号)「人とグローバリズム」
05/3/14(第381号)「資本とグローバリズム」
05/3/7(第380号)「貿易とグローバリズム」
05/2/28(第379号)「マスコミの暴走」
05/2/21(第378号)「マスコミが流す誤った概念」
05/2/14(第377号)「日本のマスコミの権力指向」
05/2/7(第376号)「日本のマスコミの体質」
05/1/31(第375号)「財政当局の変心」
05/1/24(第374号)「経済成長の条件(その2)」
05/1/17(第373号)「経済成長の条件(その1)」
05/1/10(第372号)「中国経済の実態」
04/12/13(第371号)「第一回財政研交流会」
04/12/6(第370号)「虚構の終焉(フィクション・エコノミクス)その3」
04/11/29(第369号)「虚構の終焉(フィクション・エコノミクス)その2」
04/11/22(第368号)「構造改革派の常套手段」
04/11/15(第367号)「虚構の終焉(フィクション・エコノミクス)その1」
04/11/8(第366号)「第二次南北戦争」
04/11/1(第365号)「妄言・虚言の正体」
04/10/25(第364号)「クライン博士を招いてのシンポジウム」
04/10/18(第363号)「日本経済のデフレ体質の分析(その3)」
04/10/11(第362号)「日本経済のデフレ体質の分析(その2)」
04/10/4(第361号)「日本経済のデフレ体質の分析(その1)」
04/9/27(第360号)「豊かな社会ーー競争と共生」
04/9/20(第359号)「レーガンの規制緩和の実態」
04/9/13(第358号)「今こそ大胆な政策転換を」
04/9/6(第357号)「虚言・妄言が跋扈する世の中」」
04/8/30(第356号)「日本の「韓国化」」
04/8/2(第355号)「日本の分割統治」
04/7/26(第354号)「自民党大敗北の要因分析」
04/7/19(第353号)「参院選で見たもの」
04/7/12(第352号)「日本のエネルギー自立政策」
04/7/5(第351号)「危うい石油の確保」
04/6/28(第350号)「テロと中東石油」
04/6/21(第349号)「対談の論点(再)」
04/6/14(第348号)「対談の論点」
04/6/7(第347号)「富の分配と公正」
04/5/31(第346号)「小泉首相訪朝の成果」
04/5/24(第345号)「日本に必要な財政赤字政策」
04/5/17(第344号)「土地売買の盲点」
04/5/10(第343号)「日本経済の体質と財政政策」
04/4/26(第342号)「凍り付くマネーサプライ」
04/4/19(第341号)「デフレ体質の日本経済」
04/4/12(第340号)「火星の土地」
04/4/5(第339号)「円高は構造的」
04/3/29(第338号)「規制緩和に飛びつく人々」
04/3/22(第337号)「矛盾の出発点」
04/3/15(第336号)「日経の貧乏神」
04/3/8(第335号)「実感なき経済成長」
04/3/1(第334号)「為替介入ではなく財政支出を」
04/2/23(第333号)「為替介入への道」
04/2/16(第332号)「為替介入資金の働き(その2)」
04/2/9(第331号)「為替介入資金の働き(その1)」
04/2/2(第330号)「為替介入政策の限界」
04/1/26(第329号)「今日の政治課題」
04/1/19(第328号)「今年の政局の課題」
04/1/12(第327号)「今年の日本の景気」
03/12/15(第326号)「日本の公的年金」
03/12/8(第325号)「足利銀行の破綻処理」
03/12/1(第324号)「日本経済を支えているもの」
03/11/24(第323号)「総選挙結果から見えるもの」
03/11/17(第322号)「総選挙結果の分析」
03/11/10(第321号)「総選挙の結果他」
03/11/3(第320号)「総選挙の予測」
03/10/27(第319号)「動態的会計による企業価値算定」
03/10/20(第318号)「道路公団、財務諸表の怪」
03/10/13(第317号)「藤井総裁解任劇」
03/10/6(第316号)「総裁選と総選挙」
03/9/29(第315号)「総裁選の総括」
03/9/22(第314号)「ドキュメンタリー総裁選」
03/9/15(第313号)「レポート総裁選・・その2」
03/9/8(第312号)「レポート総裁選」
03/9/1(第311号)「混迷の終始符」
03/8/25(第310号)「急がば回れ・・再び」
03/8/18(第309号)「自民党の総裁選に向けて」
03/8/4(第308号)「日本の実稼働率」
03/7/28(第307号)「設備投資の実態」
03/7/21(第306号)「企業経営と創造的破壊」
03/7/14(第305号)「頭が破壊されている人々」
03/7/7(第304号)「頭が混乱している構造改革派」
03/6/30(第303号)「経済の循環(その2)」
03/6/23(第302号)「経済の循環(その1)」
03/6/16(第301号)「経済政策の混乱」
03/6/9(第300号)「りそな銀行の件」
03/6/2(第299号)「規制緩和と日本経済」
03/5/26(第298号)「経済学と経営学」
03/5/19(第297号)「政府紙幣発行の認知度」
03/5/12(第296号)「滝田洋一氏への反論」
03/5/5(第295号)「政府紙幣発行政策の誤解」
03/4/21(第294号)「逆噴射の財政政策」
03/4/14(第293号)「危機管理下の経済政策」
03/4/7(第292号)「国債の管理政策」
03/3/31(第291号)「経済再生政策提言フォーラム」
03/3/24(第290号)「日本の有名経済学者達」
03/3/17(第289号)「波乱の株式市場」
03/3/10(第288号)「政府貨幣の理解」
03/3/3(第287号)「軽視される高橋是清の偉業」
03/2/24(第286号)「日本の清貧の思想」
03/2/17(第285号)「日本のデフレの原点」
03/2/10(第284号)「小泉首相の「もっと重要なこと」」
03/2/3(第283号)「スローパニック経済」
03/1/27(第282号)「所得を生むマネーサプライ」
03/1/20(第281号)「マネーサプライ政策の限界」
03/1/13(第280号)「データに基づく経済論」
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