平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




07/2/19(470号)
今日の円安を考える

  • 主な円安の要因
    円の為替レートが安く推移している。日本の経常収支が大きな黒字を続けているのに、一向に円高にならない。3年前、35兆円もの常軌を逸した政府・日銀の為替介入による円高阻止という場面があった。しかしそれ以降、政府はほとんど為替介入を行っていない。それにもかかわらず、為替が円高にならないのである。今週はその原因を探ることから始めたい。

    まず対米ドルで120円という水準はちょつと円安と言える。しかし対ユーロで157円、158円というのはかなりの円安水準である。つまり米ドルは決して高くはなっていない。むしろ円だけが、あらゆる通貨に対して安くなっていると言うのが適当である。そして実質実効レートが、22年前のプラザ合意当時の円安水準とほぼ同じというのだから驚きである。


    日本は貿易・サービス収支が黒字であり、旅行収支が赤字である。また日本人が外国に持つ資産からの収益(配当や利息など)と、外国人が日本に持つ資産からの収益(配当や利息など)との差額である所得収支は黒字である。昔は旅行収支の赤字額と所得収支の黒字額がほぼ見合い、貿易・サービス収支の黒字額がほぼそのまま経常収支の黒字額という状況が続いた。しかし近年、日本人の海外に持つ資産が増え続けた結果、所得収支の黒字額が旅行収支の赤字額を大きく上回る状態が続いている(旅行収支の赤字額は頭打ち状態)。したがってこれは仮に貿易・サービス収支がトントンになっても、経常収支が常に黒字になることを意味する。

    経常収支が黒字で、その黒字幅が大きくなっているのに円高にならないのは、日本からの資本(資金)の流出が大きくなっているからである。つまり資本収支の赤字額がそれだけ大きくなっていることを意味する。しかし資本(資金)の流出が続くことは、またそれから収益が生まれるのだから、さらに所得収支の黒字額が将来増えることを意味する。


    つまり円安の要因は、資本収支の赤字額が大きくなっていることである。どんどん日本から資本(資金)が逃げているのである。しかし他の収支と違い、資本収支については分かりにくい部分が多い。政府や日銀もどこまでつかんでいるのか不明である。

    一般に今日円安の要因として話題になるのが、キャリー取引と家計の外貨建て金融資産の取得である。キャリー取引とは金利の低い通貨で資金を調達し、金利の高い国で運用することによって金利の差額分を稼ぐ取引である。例えば低金利の円を借り、これを欧米で運用するといった具合である。日本の短期金利が0.5%とすれば、これをFF金利が5.25%の米国や主要政策金利が3.5%の欧州で運用すれば単純にその差額が儲かることになる。もちろん今日の円安によって、キャリー取引を行っている者は、さらに為替差益を得ていることになる。


    家計の外貨建てでの資金運用が増えている。単なる外貨預金だけでなく、外国の債券や株式の購入も増加している。ユーロ高も家計のユーロ建て金融資産の増加が影響している面がある。新興国への株式投資も増えている。一頃は中国株への投資がブームであったが、最近ではインドなど他の新興国にも投資対象が広がっている。個人が直接外国の株式へ投資するのは難しいが、投資信託を通じ間接的に外国株式を購入しているのである。

    最近ではキャリー取引が年間で4〜5兆円増えている。また家計の外貨建て金融資産は50兆円程度に達したと見られている。これら二つだけでも大きな円安要因となっている。

    さらに輸出企業の財務戦略も円安要因の一つとなっている。企業が輸出代金の一部を外貨のまま保有し、円転しなくなったのである。また輸出代金に対して、為替予約のカバー率を落としているところが増えている可能性が高い。これらキャリー取引、外貨建て資産の購入、輸出企業の財務戦略が主な円安要因と考えられる。さらにこれらは円安によるメリット(為替差益)を享受している。もちろん円安が続くことを見越してこのような取引を行っているという面もある。そしてこれらの行為がさらなる円安を招いていることも確かである。


  • 円安は構造的
    前段で日本からの資本(資金)流出が円安の要因と説明した。また当面円安が続くという期待が、さらにこの資本(資金)流出を助長している。そこで次には、この資本(資金)流出の要因を考える必要がある。

    日本から資本(資金)流出が続く原因を低金利とする意見が強い。したがって金利が高くなれば円高に転換するという話になる。しかし日本のような超低金利の状況で多少金利を上げてても、金利水準が極めて低いことに変わりはない。

    つまり日本の低金利が円安要因になっているとしても、それは多分に心理的と言える。筆者は、外国株での運用が増えていることに着目し、金利以外の要因を探る必要がある考える。筆者は経済成長力の差が今日の資本(資金)流出の大きな要因と考える。とにかく日本の経済成長率が低すぎるのである。なおかつその状態がずっと続いている。


    政府は、これまでの経済政策が正しかったから、日本経済が持ち直したとさかに宣伝している。しかし実態は全く違うことをこの資本(資金)流出が示している。とにかく日本の経済成長率は、内戦などの特殊事情を抱える国を除けば、世界で最低であり、しかもそれが何年も続いているのである。明らかに経済政策の失敗である。

    日本の低経済成長の説明として、バブル崩壊、高齢化・小子化などがあげられるが、どれも説得力に欠ける。また構造改革派は、日本経済の競争力が低下したからであり、構造改革によって潜在経済成長率を大きくすべきと主張している。これは虚言・妄言の類であり、あまりにもばかばかしいのでコメントも止しておく。


    とにかく日本では総需要が不足しているのである。需要が大きく不足しているのに経済が成長するはずがない。金利は短期が0.5%、長期が1.7%と超低金利である。しかし金利がこれだけ低くても誰も金を借りて投資をしようとは思わないのである。日本の金融機関から金を借りるのは外資のファンドであり(例外的にバブルっぽくなっている不動産業界だけは資金需要がある)、キャリー取引でこれを海外への投資に使っている。

    これだけ需要が細っていては、新規に事業を起こそうという人はいない。日本の開業率は落ちるところまで落ちている。しかし誰も信じないが、政府は景気が回復したと言い張っている(それにしては政府は日銀の利上げは執拗に牽制している)。このような状態は政府の経済無策が今後も続くことを意味する。このような日本から資本(資金)が逃げて行くのは当然と考えるべきである。ある意味では、今日の円安は構造的とも言えるのである。



来週は今後の為替の動向を占ってみようと思う。



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04/3/22(第337号)「矛盾の出発点」
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04/3/8(第335号)「実感なき経済成長」
04/3/1(第334号)「為替介入ではなく財政支出を」
04/2/23(第333号)「為替介入への道」
04/2/16(第332号)「為替介入資金の働き(その2)」
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03/10/27(第319号)「動態的会計による企業価値算定」
03/10/20(第318号)「道路公団、財務諸表の怪」
03/10/13(第317号)「藤井総裁解任劇」
03/10/6(第316号)「総裁選と総選挙」
03/9/29(第315号)「総裁選の総括」
03/9/22(第314号)「ドキュメンタリー総裁選」
03/9/15(第313号)「レポート総裁選・・その2」
03/9/8(第312号)「レポート総裁選」
03/9/1(第311号)「混迷の終始符」
03/8/25(第310号)「急がば回れ・・再び」
03/8/18(第309号)「自民党の総裁選に向けて」
03/8/4(第308号)「日本の実稼働率」
03/7/28(第307号)「設備投資の実態」
03/7/21(第306号)「企業経営と創造的破壊」
03/7/14(第305号)「頭が破壊されている人々」
03/7/7(第304号)「頭が混乱している構造改革派」
03/6/30(第303号)「経済の循環(その2)」
03/6/23(第302号)「経済の循環(その1)」
03/6/16(第301号)「経済政策の混乱」
03/6/9(第300号)「りそな銀行の件」
03/6/2(第299号)「規制緩和と日本経済」
03/5/26(第298号)「経済学と経営学」
03/5/19(第297号)「政府紙幣発行の認知度」
03/5/12(第296号)「滝田洋一氏への反論」
03/5/5(第295号)「政府紙幣発行政策の誤解」
03/4/21(第294号)「逆噴射の財政政策」
03/4/14(第293号)「危機管理下の経済政策」
03/4/7(第292号)「国債の管理政策」
03/3/31(第291号)「経済再生政策提言フォーラム」
03/3/24(第290号)「日本の有名経済学者達」
03/3/17(第289号)「波乱の株式市場」
03/3/10(第288号)「政府貨幣の理解」
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03/1/20(第281号)「マネーサプライ政策の限界」
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