平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




07/1/22(466号)
日本の財界の変質

  • 裏方財界の説明
    財界の変質について語るには昔の財界に言及する必要がある。経団連が財界のリーダ格的存在であり、この経団連の会長が財界の顔ということになる。以前は経団連の会長の在任期間は長かった。特に二代目会長の石坂泰三氏(東芝社長)は12年間と突出している。初代(石川一郎・日産化学社長)から三代目(植村甲午郎・経団連事務局)までが8年から12年、四代目(土光敏夫・東芝会長)と五代目(稲山嘉寛・新日本製鐵会長)が6年、六代目(斎藤英四郎・新日本製鐵会長)以降が4年といった具合に、段々と会長の在任期間が短くなっている。

    筆者などは、経団連の会長と言えば、二代目会長の石坂泰三氏というイメージが強い。石坂氏が経団連の会長であった時代は、日本が高度経済成長期であり、東京オリンピックが開催され、日本の経済的台頭が世界から注目されていた。経団連の会長は財界の顔であると同時に「経済大国日本」の顔でもあった。


    しかし経団連の会長はあくまでも財界の表側の顔であった。経団連、経済同友会、日経連、日商といった財界には、表にはあまり出ない裏方の実力者というものがいた。例えば財界四天王と呼ばれていた人々が財界人として有名である。

    四天王とは小林中氏(日本開発銀行元総裁・アラビア石油元社長)、水野成男氏(経済同友会元幹事・産経新聞、フジテレビ元社長)、永野重雄氏(日商元会頭・富士製鉄元社長)、櫻田武氏(日経連元会長、日清紡元社長)の4氏を指す。この他にも中山素平氏(経済同友会元代表幹事、日本興業銀行元頭取)や五島昇氏(日商元会頭、東急元社長)なども財界の裏方として活躍した。

    これらの財界人は経団連の会長には就任していないが、ある意味では財界を代表する人々であり、実力者達であった。たしかに昔から財界を代表する顔は石坂泰三氏などの経団連の会長であった。しかし具体的な財界の活動を仕切っていたのは、これらの実力者である裏方である。この裏方財界人は経団連などの経済団体の幹部人事にも深く関与していたと見られる。


    昔の財界は、大企業の経営者の親睦的な集いというより、もっと重要な政治的使命を帯びていた。戦後日本の共産化(赤化)の阻止である。当時はインテリと言えば左翼かがかった人々であり、主だったマスコミも共産主義・社会主義に好意的であった。労働組合も先鋭的であり、いつ日本が共産化(赤化)しても不思議ではない状況にあった。実際、都会や大都市の首長のほとんどは自民党系から革新系に変わった。財界が危機感を持つのも当然であった。

    強力な労働組合が革新政党を支持するのに対抗すべく、財界は自民党を支援(金銭面を含め)した。この自民党とのパイプ役が裏方財界人である。例えば財界四天王の一人である水野成男氏が中心になり、財界がバックアップして設立したのがフジテレビである。つまりフジテレビは、革新的な朝日新聞系や毎日新聞系のテレビ局に対抗して誕生したと言える。少なくとも裏方財界人は日本という国の行末というものに関心があった。今日の財界人のような減税、年金や規制緩和といったケチな要求にはほとんど興味がなかった。


  • 財界人の質の変化
    しかしこれらの裏方財界人は次々に引退したり故人となり、やがて裏方組の影響力が徐々になくなった。この時期がソ連の崩壊と一致することが面白い。また偶然にもちょうどこの頃に四代目土光会長が第二臨調の会長として、行革を推進し、国民的な人気を博した。この土光会長の登場が財界の変質を決定付けた。

    筆者は、ソ連崩壊に代表される世界的な共産イデオロギーの凋落が、回り回って日本の財界にも影響を与えたと考える。日本でも労働組合活動がソ連崩壊と軌を一にして下火となった。左翼・共産化(赤化)勢力も力を失うと同時に、対抗勢力であった裏方財界の存在意義もなくなったのである。反共の砦であった日経連が経団連に吸収され消滅したのも、この象徴的な出来事である。


    反共という財界にとって一番重要な行動目標がなくなることによって、財界人の主張も揺れるようになった。例えば共産国家である中国への対応も割れた。財界には、財界が池田勇人元首相をバックアップしていた関係で、宏池会と関係が深かい人が多い。この宏池会が親中になった(大平外相が日中国交回復の当事者)関係で財界人にも親中派が多くなった。もっとも財界の親中派が日中国交回復を推進したという面もある。

    また先週号で述べたように自民党との関係が癒着(政界と財界の癒着)と世間やマスコミに非難されたため、経団連は自民党への政治献金の斡旋を取り止めた。これにはロッキード事件とリクルート事件が大きな契機になった。しかしこれによって財界と自民党の関係がなくなったという意味ではない。以前より関係が薄くなったという程度である。例えば財界は有望な自民党の若手国会議員を厳選し、定期的な交流会をずっと続けている。もちろん安倍総理もその交流会出身の一人であった。


    財界の変質には、ソ連崩壊といった外部要因だけでなく、財界人の質の変化も影響している。昔の財界人は、オーナ経営者の流れの人とか、オーナ経営者でなくとも自分達が中心になって会社を大きくした人々であった。しかし最近の財界人のほとんどは、既に大きくなった一流会社に入社し、出世競争を勝ち抜いてきた人々である。

    今日の財界人はほとんどがサラリーマン出身である。ある意味では、財界人は「サラリーマンの成れのはて」ということになる。たしかに出世競争に勝ち抜くには、本人の素質に加え、実力や努力が必要である。しかしこれらに加え、さらに重要なことは「時流」に乗るということである。グローバル化と言えばいち早く海外に目を向け、リストラが必要と言われれば、リストラを主張するといった具合である。

    土光臨調が行革で人気を博したら、財界人はこぞって行革や小さな政府を主張するようになった。マスコミと財界人の論調が変わらなくなった。昔の裏方財界人が、左翼マスコミの攻撃の的になる場合が多かったのとは好対照である。ちょうど日本のマスコミの論調が左翼から新自由主義に変わるタイミングで、財界も構造改革派に衣替えをしたのである。



来週は、今日の財界人の自信というものについて述べたい。



07/1/15(第465号)「日本の財界」
07/1/8(第464号)「面白みがない景気予想」
06/12/11(第463号)「筆者の主張のサマリー」
06/12/4(第462号)「高速増殖炉にまつわる誤解」
06/11/27(第461号)「高速増殖炉の話」
06/11/20(第460号)「日本の核融合研究」
06/11/13(第459号)「将来のエネルギーの本筋」
06/11/6(第458号)「LNG(液化天然ガス)の話」
06/10/30(第457号)「筆者の国防・防衛論」
06/10/23(第456号)「日本の核武装論」
06/10/16(第455号)「北朝鮮の核実験」
06/10/9(第454号)「安倍政権の生産性」
06/10/2(第453号)「安倍政権の発足にあたり」
06/9/25(第452号)「ポスト小泉の経済論議」
06/9/18(第451号)「ポスト小泉の経済と対米外交」
06/9/11(第450号)「ポスト小泉の対アジア外交」
06/9/4(第449号)「ポスト小泉について」
06/8/7(第448号)「郵政改革と宗教戦争」
06/7/31(第447号)「郵政改革論議の混乱」
06/7/24(第446号)「宗教・哲学と経済学」
06/7/17(第445号)「宗教と哲学への入門」
06/7/10(第444号)「劣勢のケインズ」
06/7/3(第443号)「トービン税について」
06/6/26(第442号)「自由放任(レッセ-フェール)の経済」
06/6/19(第441号)「筆者の税制改正案」
06/6/12(第440号)「筆者のニート対策」
06/6/5(第439号)「美しくない話」
06/5/29(第438号)「第三セクター鉄道の危機」
06/5/22(第437号)「テレビ番組の制作現場」
06/5/15(第436号)「日銀の実態・・憶測」
06/5/8(第435号)「日銀は魔法の杖か」
06/4/24(第434号)「もう一つ勇気を」
06/4/17(第433号)「格差とマスコミ」
06/4/10(第432号)「官僚の力と限界」
06/4/3(第431号)「日経新聞のダブルスタンダード」
06/3/27(第430号)「金融政策の失敗の歴史」
06/3/20(第429号)「量的緩和解除の波紋」
06/3/13(第428号)「コンビニ弁当の話」
06/3/6(第427号)「GDPギャップのインチキ推計法」
06/2/27(第426号)「潜在GDPとGDPギャップ」
06/2/20(第425号)「労働力と経済成長」
06/2/13(第424号)「大衆社会における経済論議」
06/2/6(第423号)「皇室典範改正法案に一言」
06/1/30(第422号)「ホリエモンと政治家」
06/1/23(第421号)「改革の旗手の危機」
06/1/16(第420号)「今年の景気予想」
06/1/9(第419号)「思考停止の日本」
05/12/19(第418号)「日本人の変質」
05/12/12(第417号)「日本的経営の行く末」
05/12/5(第416号)「アメリカ人」
05/11/28(第415号)「遠ざかる豊かな社会」
05/11/21(第414号)「移民問題と市場経済」
05/11/14(第413号)「ブリエアの解放者たち」
05/11/7(第412号)「第三次小泉内閣の感想」
05/10/31(第411号)「現実経済の乗数値」
05/10/24(第410号)「公共投資に伴う誘発投資」
05/10/17(第409号)「誘発投資の拡張版」
05/10/10(第408号)「経済理論上の乗数」
05/10/3(第407号)「政治家達の沈黙」
05/9/26(第406号)「大谷氏への公開質問状」
05/9/19(第405号)「デマの検証」
05/9/13(第404号)「選挙結果の雑感」
05/8/29(第403号)「今回の総選挙を読む」
05/8/22(第402号)「今回の総選挙の沿革」
05/8/8(第401号)「中国経済の本当の脅威」
05/8/1(第400号)「中国の為替戦略」
05/7/25(第399号)「経済のグローバリズムの行末」
05/7/18(第398号)「経済のグローバリズムの本質」
05/7/11(第397号)「郵政法案と小泉政権の行方」
05/7/4(第396号)「経済のグローバリズムと競争の公正」
05/6/27(第395号)「日本語の研究」
05/6/20(第394号)「公的年金とセイニアーリッジ」
05/6/13(第393号)「日本国民全員がばん万歳の政策」
05/6/6(第392号)「公的年金とマクロ経済」
05/5/30(第391号)「マクロ経済政策で解決するもの」
05/5/23(第390号)「ヴァーチャルなもの(その2)」
05/5/16(第389号)「ヴァーチャルなもの(その1)」
05/5/9(第388号)「中国進出の主導者」
05/4/25(第387号)「鎖国主義への誘惑(その2)」
05/4/18(第386号)「鎖国主義への誘惑(その1)」
05/4/11(第385号)「ノストラダムスの大予言」
05/4/4(第384号)「法律と現実社会との間」
05/3/28(第383号)「株式に関する非常識」
05/3/21(第382号)「人とグローバリズム」
05/3/14(第381号)「資本とグローバリズム」
05/3/7(第380号)「貿易とグローバリズム」
05/2/28(第379号)「マスコミの暴走」
05/2/21(第378号)「マスコミが流す誤った概念」
05/2/14(第377号)「日本のマスコミの権力指向」
05/2/7(第376号)「日本のマスコミの体質」
05/1/31(第375号)「財政当局の変心」
05/1/24(第374号)「経済成長の条件(その2)」
05/1/17(第373号)「経済成長の条件(その1)」
05/1/10(第372号)「中国経済の実態」
04/12/13(第371号)「第一回財政研交流会」
04/12/6(第370号)「虚構の終焉(フィクション・エコノミクス)その3」
04/11/29(第369号)「虚構の終焉(フィクション・エコノミクス)その2」
04/11/22(第368号)「構造改革派の常套手段」
04/11/15(第367号)「虚構の終焉(フィクション・エコノミクス)その1」
04/11/8(第366号)「第二次南北戦争」
04/11/1(第365号)「妄言・虚言の正体」
04/10/25(第364号)「クライン博士を招いてのシンポジウム」
04/10/18(第363号)「日本経済のデフレ体質の分析(その3)」
04/10/11(第362号)「日本経済のデフレ体質の分析(その2)」
04/10/4(第361号)「日本経済のデフレ体質の分析(その1)」
04/9/27(第360号)「豊かな社会ーー競争と共生」
04/9/20(第359号)「レーガンの規制緩和の実態」
04/9/13(第358号)「今こそ大胆な政策転換を」
04/9/6(第357号)「虚言・妄言が跋扈する世の中」」
04/8/30(第356号)「日本の「韓国化」」
04/8/2(第355号)「日本の分割統治」
04/7/26(第354号)「自民党大敗北の要因分析」
04/7/19(第353号)「参院選で見たもの」
04/7/12(第352号)「日本のエネルギー自立政策」
04/7/5(第351号)「危うい石油の確保」
04/6/28(第350号)「テロと中東石油」
04/6/21(第349号)「対談の論点(再)」
04/6/14(第348号)「対談の論点」
04/6/7(第347号)「富の分配と公正」
04/5/31(第346号)「小泉首相訪朝の成果」
04/5/24(第345号)「日本に必要な財政赤字政策」
04/5/17(第344号)「土地売買の盲点」
04/5/10(第343号)「日本経済の体質と財政政策」
04/4/26(第342号)「凍り付くマネーサプライ」
04/4/19(第341号)「デフレ体質の日本経済」
04/4/12(第340号)「火星の土地」
04/4/5(第339号)「円高は構造的」
04/3/29(第338号)「規制緩和に飛びつく人々」
04/3/22(第337号)「矛盾の出発点」
04/3/15(第336号)「日経の貧乏神」
04/3/8(第335号)「実感なき経済成長」
04/3/1(第334号)「為替介入ではなく財政支出を」
04/2/23(第333号)「為替介入への道」
04/2/16(第332号)「為替介入資金の働き(その2)」
04/2/9(第331号)「為替介入資金の働き(その1)」
04/2/2(第330号)「為替介入政策の限界」
04/1/26(第329号)「今日の政治課題」
04/1/19(第328号)「今年の政局の課題」
04/1/12(第327号)「今年の日本の景気」
03/12/15(第326号)「日本の公的年金」
03/12/8(第325号)「足利銀行の破綻処理」
03/12/1(第324号)「日本経済を支えているもの」
03/11/24(第323号)「総選挙結果から見えるもの」
03/11/17(第322号)「総選挙結果の分析」
03/11/10(第321号)「総選挙の結果他」
03/11/3(第320号)「総選挙の予測」
03/10/27(第319号)「動態的会計による企業価値算定」
03/10/20(第318号)「道路公団、財務諸表の怪」
03/10/13(第317号)「藤井総裁解任劇」
03/10/6(第316号)「総裁選と総選挙」
03/9/29(第315号)「総裁選の総括」
03/9/22(第314号)「ドキュメンタリー総裁選」
03/9/15(第313号)「レポート総裁選・・その2」
03/9/8(第312号)「レポート総裁選」
03/9/1(第311号)「混迷の終始符」
03/8/25(第310号)「急がば回れ・・再び」
03/8/18(第309号)「自民党の総裁選に向けて」
03/8/4(第308号)「日本の実稼働率」
03/7/28(第307号)「設備投資の実態」
03/7/21(第306号)「企業経営と創造的破壊」
03/7/14(第305号)「頭が破壊されている人々」
03/7/7(第304号)「頭が混乱している構造改革派」
03/6/30(第303号)「経済の循環(その2)」
03/6/23(第302号)「経済の循環(その1)」
03/6/16(第301号)「経済政策の混乱」
03/6/9(第300号)「りそな銀行の件」
03/6/2(第299号)「規制緩和と日本経済」
03/5/26(第298号)「経済学と経営学」
03/5/19(第297号)「政府紙幣発行の認知度」
03/5/12(第296号)「滝田洋一氏への反論」
03/5/5(第295号)「政府紙幣発行政策の誤解」
03/4/21(第294号)「逆噴射の財政政策」
03/4/14(第293号)「危機管理下の経済政策」
03/4/7(第292号)「国債の管理政策」
03/3/31(第291号)「経済再生政策提言フォーラム」
03/3/24(第290号)「日本の有名経済学者達」
03/3/17(第289号)「波乱の株式市場」
03/3/10(第288号)「政府貨幣の理解」
03/3/3(第287号)「軽視される高橋是清の偉業」
03/2/24(第286号)「日本の清貧の思想」
03/2/17(第285号)「日本のデフレの原点」
03/2/10(第284号)「小泉首相の「もっと重要なこと」」
03/2/3(第283号)「スローパニック経済」
03/1/27(第282号)「所得を生むマネーサプライ」
03/1/20(第281号)「マネーサプライ政策の限界」
03/1/13(第280号)「データに基づく経済論」
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