平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




06/10/2(453号)
安倍政権の発足にあたり

  • 安倍政権は全方位
    安倍内閣が発足し、名実ともに新政権がスタートした。自民党の執行部や内閣の顔ぶれを見て、「予想通り」、いや「予想外」という二つの声がある。事前のマスコミ予想と一致する人事もあれば、はずれたものもある。「まあこんなところ」というのが平均的な意見であろう。たしかにあまり面白味がある顔ぶれではない。しかし考えてみれば郵政改革騒動で多くの有力な政治家が自民党を追出されたこともあり、これ以外のメンバーと言ってももう誰もいないのである。

    安倍政権誕生に論功があった者もいれば、安倍氏に日頃から親しかった政治家もいる。また親中派もいれば、中国に対して違和感を持つ者もいる。さらに構造改革派の残党もいれば、財政支出に積極的、ないし柔軟な考えの政治家もいる。全方位体制の政権という印象である。筆者に言わせればこの「全方位」という言葉が安倍政権の性格をよく表わしている。


    筆者が注目していることがある。経済財政諮問会議の行方である。経済財政諮問会議は首相直轄の諮問機関として森政権時代に設置されたものであったが、他の審議会と同様、当初はほとんど形式的なものであった。しかし小泉首相に替わって、この働きが変わった。

    昔の自民党というものは、組織的な政党というより、各種の政治勢力の連合体のようなものである。一つの政治課題について方針が決まるまで、自民党内部で延々と調整がなされる。簡単には物事が決まらないのである。また政治家毎に専門が決まっており、専門以外の事項については安易に意見を述べることができない。

    安倍晋三氏なら、外交、中でも拉致問題が一番の専門である。その他では社会保障や年金が氏の専門である。これらについては自由に意見を述べることができる。しかし他の分野、例えば経済問題について細かく意見を述べられないような空気というものが党内にある。仮に経済に対して一定の見識を持っていたとしても、意見を述べることが憚られるのである。


    例え首相でも、専門外の事項について直接指示を出すことができない。多くの場合、族議員と呼ばれるその分野の専門の政治家が、官僚などと調整し、政策の原案が出来上がる。これは色々な力の連合体である自民党という組織政党を維持するためにはやむを得ないプロセスであった。

    一国の宰相であるはずの総理大臣の権限でさえこのように限られていたのである。この自民党の現状に対して、自民党の内部からも疑問 が出ていた。そこで自民党の改革の一環として官邸機能の強化が図られた。経済財政諮問会議の設置もその一つである。


    小泉政権においては、経済財政諮問会議だけでなく、自民党の政治家の影響力を排する形で数々の諮問機関ができ、族議員などの反対陣営の中央突破が試みられた。道路公団の民営化もその一つであった。

    しかし官邸主導の政策推進がうまく行った訳ではない。半素人を集めた諮問機関に対して、政治家だけでなく国民も疑問を持つようになっている。筆者はこのプロセスを用いて強引に進めた郵政改革も大失敗の一つと考える。今日、多くの自民党議員は郵政改革騒動についてはもう何も語りたくない心境と想像する。そして皇室典範改正に関わる有識者会議の失敗が、官邸主導型政治の敗北を決定づけたと筆者は考える。


  • 経済財政諮問会議の行方
    小泉政権下では米国などのマネをして官邸主導の政治が進められたが、貧弱な官邸のスタッフでこれがこなせるはずがない。多くのケースでは首相の数名の周りの者が決めたり(靖国神社参拝など)、官僚に丸投げしたものが官邸の方針として打出された。当然、この結果自民党の内部は不満で溢れることになった。

    特に皇室典範改正の有識者会議は、委員の選定が不明朗であるだけでなく会議の進め方や意見の集約プロセスが杜撰であったことが明らかになっている。選挙で選ばれた政治家達の意見は無視され、どこの馬の骨か分からない民間人が次々と重大事項を決めて行くことに不満が出るのは当然である。多くの自民党の政治家は諮問機関政治を「もうコリゴリ」と思っているはずである。


    筆者は、安倍政権のポイントは経済財政諮問会議の進め方と見ている。小泉政権のような強引な進め方をすれば、自民党自体が持たないと考える。特に地方の自民党支持組織はさらにガタガタになるであろう。今回の新内閣では経済財政諮問会議を担当する経済財政担当大臣に大田弘子氏という超軽量級の人物を充てた。筆者はこれを安倍政権の経済財政諮問会議軽視のサインと見ている。

    しかしもし筆者の予想に反して、経済財政諮問会議が独走すれば興味ある結果になるであろう。大田弘子氏は、構造改革派、市場原理主義者、財政再建派の中でも急進派の人々の支持を受けている人物である。大田大臣が口を開く度に、自民党の得票が100票、1000票と減って行くのである。


    「全方位」政権である安倍政権は、「全方位」であること自体が弱点になる。中国に近づけば、保守派が不満を持つ。小泉改革もどきを進めれば、地方の支持が離れる。逆に地方重視を打出せば、改革狂信者達が逃げることになる。

    また人事はあまりにも「全方位」的である。したがってそのうち色んな意味でマスコミを賑やかす者も出るであろう。そこで最後にそのような事態を引き起す予想される人物を列記しておこう。自民党幹事長、国会対策委員長、農林水産大臣、防衛庁長官といったところであろう。また前述の大田大臣も違った意味で色々と話題になると思われる。この他に数名の政治家が思い当たるが、そのうちの一人はIT関連とだけ言っておこう。



来週は経済成長と生産性を取り上げる。これについては前にも何回か述べたことがあるが、安倍政権発足にちなみ改めて取り上げることにする。

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03/4/14(第293号)「危機管理下の経済政策」
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03/3/31(第291号)「経済再生政策提言フォーラム」
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03/3/17(第289号)「波乱の株式市場」
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03/3/3(第287号)「軽視される高橋是清の偉業」
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03/2/17(第285号)「日本のデフレの原点」
03/2/10(第284号)「小泉首相の「もっと重要なこと」」
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03/1/20(第281号)「マネーサプライ政策の限界」
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