平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




06/9/11(450号)
ポスト小泉の対アジア外交

  • 小泉首相は親中華圏政治家
    先週に引続き、ポスト小泉時代の世の中の動きについて述べる。しかし全ての分野を取上げる余裕はない。取上げるとしたなら、小泉首相退陣によって大きく方針が変わる可能性のある事柄が中心になる。

    例えば「皇室典範改正」問題である。おそらく小泉政権が昨年くらいの勢いがあったなら、皇室典範は改正されていたであろう。怪しいメンバーで構成されている諮問機関が皇室典範の改正を目論んでおり、これに小泉首相が乗った形になっていた。郵政改革時みたいな強権を発動していたならば、女系天皇を認めるような改正が簡単に実現していたはずである。たまたま「秋篠宮妃紀子様ご懐妊」の報があったから、かろうじて皇室典範の改正が阻止されてきたのである。ポスト小泉では皇室典範の改正の動きはほぼなくなると考えて良い。


    しかし一番世間で注目されているのは「対アジア外交」の行方である。小泉政権下で日本とアジア諸国との関係が悪くなったという話になっていて、これが大問題になっている。しかしアジアと言っても、中国、韓国、北朝鮮とその他のアジア諸国を明確に区別すべきである。筆者はその他のアジア諸国との関係が特に悪くなったとは考えない。表面的に悪くなったとしたなら中国、韓国、北朝鮮などの中華圏の国々との関係である。しかし日本と中華圏の国々とは歴史的に複雑で深い関係にあったことを考える必要がある。

    最初にマスコミや世間に大きな誤解があることを指摘しておきたい。小泉純一郎という人物がこれらの国を嫌っているということになっている。しかしむしろ筆者は、むしろ小泉首相が少なくとも当初親中国であり、親韓国であったと見ている。小泉政権発足後訪中した小泉首相は、盧溝橋を訪れ「日中戦争は日本の中国への侵略であった」と述べ、江沢民主席を大いに喜ばせたほどであった。

    小泉政権は韓国との間でも首脳の間の定期協議の頻度を当初上げていた。また北朝鮮には二度も訪問している。国交のない国に首相自らが二度も足を運ぶなんて史上稀な珍事である。小泉首相は明らかに北朝鮮との国交回復を画策していた。おそらく米国がこれにブレーキをかけたと筆者は想像している。もし米国がこれを放置しておれば、今頃は日朝の国交が正常化されていて、日本から巨額の賠償金が北朝鮮の独裁政権に提供されていたものと考える。


    このように小泉政権は明らかに親中華圏政権であった。このことが誤解されているのである。実際、小泉政権下でビザなし渡航が解禁され、これが推進された。また中国への民間企業の投資が激増している。極め付けは、二階俊博という自民党の中でも一番の親中国派の政治家を、中国の東シナ海ガス田開発が懸案となっている経済産業省の大臣に据えたことである。

    本来、自分は親中華圏の政治家であると思い込んでいる小泉首相は、「靖国神社参拝」に対して中国、韓国から強い非難を受けていることに戸惑っているのである。このことに関して小泉首相は「親中華圏政策を押し進めてきた小泉政権に対して、たった靖国神社参拝ぐらいで首脳会議を拒否する中国政府や韓国政府の方がおかしい」と何度も同じコメントをしている。おそらくこれが首相の本音であろう。


  • 富田メモの波紋
    中華圏の国々、特に中国との関係についてもう少し述べる。中国政府の対日政策の一つの大きなテーマは、日米関係に楔(くさび)を打つことである。米国との同盟に傾いている日本を中華圏に取込むことは、中国にとって長期的で重要なテーマである。特に対台湾政策のことを考えると、日米の同盟関係を揺さぶる必要がある。

    一方、日米の間では2プラス2(外交担当と国防担当の最高責任者)会議が行われ、台湾有事に対する両国の対応が話し合われている。このような動きを牽制するため、中国はあらゆる手段を講じる必要性を感じている。日本を揺さぶる格好のテーマが、歴史問題であり、首相の靖国神社参拝である。


    ついでに中国と靖国神社の関係について少し言及する。昔、中国は靖国神社に関心が全くなかった。「関心が全くなかった」というより靖国神社の存在そのものを知らなかった可能性が強い。したがって日本の首脳が靖国神社に参拝しても全く反応がなかった。急に参拝にクレームをつけ始めたのは中曽根首相の公式参拝からである。

    これは何も知らない中国政府を焚き付けた日本人がいたからと考える。その人々とは日本のマスコミ、特に一番怪しいのはA新聞である。昔から靖国神社は政教分離で問題になっていた。しかしA級戦犯が秘密裏に合祀されたことが明るみになるにつれ局面が変わった。それまで定期的に参拝されていた昭和天皇が参拝を取り止められたことを察知したマスコミが、中国を使って靖国神社問題を蒸し返したと考えられるのである。


    最近、富田メモというものが話題になっているが、以前からA級戦犯合祀が昭和天皇の靖国神社参拝取り止めの理由という話は出ていた。「昭和天皇独白録」(外交官・昭和天皇の通訳寺崎英成の遺品のメモが1990年に発見され、娘マリコが出版)でも昭和天皇は特に松岡洋右元外務大臣を嫌っていたことが記されている。「松岡はヒットラーに賄賂をもらったのでは」とまで発言されていたというのである。

    そんな松岡洋右氏がA級戦犯として祀られている靖国神社に、とても参拝するわけには行かないとお考えになったとしても不思議ではない。また松平宮司が強引に合祀を実施したことに昭和天皇が不快感を示しておられたことも富田メモは明らかにしている。富田メモをスクープとしてこの時期に公表した日経の意図は別にして、このメモが昭和天皇の靖国神社参拝取り止めの理由を裏付けた形になっている。ただ昭和天皇が一番不快感を持たれたのは、A級戦犯全体が合祀されたことなのか、あるいはその中に松岡洋右氏が含まれていたことなのか、はたまた内緒で松平宮司が合祀をしたことなのかもう一つ不明である。


    しかし靖国神社を巡る問題は純粋に国内問題である。中国は全く関係がないのである。そのことにようやく中国も気が付き始めたようである。8月15日前後は王駐日大使を本国に帰し、日中の摩擦がこれ以上大きくならないような配慮をしている。これに気付かないのが目が曇った日本の親中派の政治家と財界人である。

    筆者は日本が中華圏の国々に接近することに昔から反対している。政治的な交流も経済的な交易も必要最小限に抑えるべきと考える。これは大陸との長い歴史の中で得た知恵である。実際、日本はこれまで大陸や半島にコミットしてろくなことがなかったのである。中国に入れ込んだ結果、中国に揺さぶられている台湾の姿を見ているとこの考えが正しいと確信する。ポスト小泉の政治家は、このことを肝に銘じるべきと考える。



来週は対米外交を取上げる。

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03/5/5(第295号)「政府紙幣発行政策の誤解」
03/4/21(第294号)「逆噴射の財政政策」
03/4/14(第293号)「危機管理下の経済政策」
03/4/7(第292号)「国債の管理政策」
03/3/31(第291号)「経済再生政策提言フォーラム」
03/3/24(第290号)「日本の有名経済学者達」
03/3/17(第289号)「波乱の株式市場」
03/3/10(第288号)「政府貨幣の理解」
03/3/3(第287号)「軽視される高橋是清の偉業」
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