平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




05/10/24(410号)
公共投資に伴う誘発投資

  • 交通インフラの整備
    「公共投資の景気押し上げ効果がなくなった」とか「地方への公共投資のバラ撒きは無駄」といった、根拠のない虚言・妄言が世間に溢れている。しかしこれらに対するちゃんとした反論がなされていないのも事実である。本誌が連続して乗数効果を取上げているのも、これに対する反論の試みの一つである。先週号で説明したように、ケインズの乗数理論では消費比率、消費性向というものが安定的ならば、乗数値は同じである。したがって「公共投資の経済効果がなくなった」とか「地方の公共投資が無駄」ということはない。

    ところが公共投資単独のケインズ流の乗数効果に、公共投資で造られるインフラによる誘発投資効果(先週号で説明したサミュエルソン流の誘発投資の拡張版)を加味すると、個々の公共投資によって乗数効果に違いが生じることが考えられる。まず話を進める前に全般的な公共投資の効果について述べる。公共投資は、経済的利益を求める民間は行わないが、国民にとって有意義な投資である。したがって公共投資は、もっぱら国や地方自治体が行う。もし公共投資が直接的に金銭的利益が出る投資なら、それこそ民間が行えば良いのである。

    公共投資は、治山・治水、環境保護工事、学校などの公共施設建設というグループと、港湾・空港、道路といった交通インフラの整備に大別される。だいたいにおいて前者は直接利益を生まないが国民の安全を守ったり人々に安心を与える投資であり、後者は受益者が特定できない公共物への投資という定義ができる。ただ最近では、後者の一部に関して運営だけでなく経営投資主体をも民営化する方向にある。具体的には鉄道、高速道路、空港である。


    誘発投資(サミュエルソン流の誘発投資ではなく、筆者が唱える誘発投資の拡張版。これからの説明で特に断りがない場合は、誘発投資とは筆者が唱える誘発投資の拡張版を指す)の関連で、特に筆者が取上げるのは交通インフラの整備である。もっともこの区分けもそれほど厳密なものではない。治山・治水によっても住宅地や農地が生まれ、新たな投資が行われたり、学校建設によって商店街ができるといった誘発投資効果がある程度考えられるからである。しかし誘発投資が大きいのは、やはり交通インフラへの公共投資と考える。

    新しい交通インフラの完成によって、その沿線や周辺に住宅や商店、そして工場が建設されることは、ごく普通に見られることである。これらが公共投資に伴う民間の誘発投資である。したがってその新しい交通インフラがどこに建設されるかによって、このような誘発投資の規模が大きく異なることが考えられる。常識や経験で考えても、大都市圏、特に東京周辺に建設された方が誘発投資効果は大きい。最近の例では、東京の新しい地下鉄や筑波エクスプレスの完成によって、駅の周辺が再開発され、民間投資を呼込んでいる。

    一方、地方の交通インフラ整備でも一定の誘発投資は生む。しかし大都市圏にはとてもかなわないのが実情である。たとえ地方に工場団地が整備され、高速道路が建設されても、なかなか工場の進出が進まない。実際、マスコミを中心に、地方の交通インフラ整備は無駄と決めつける意見が多い。しかしこれについては来週号でまた取上げ、反論することになる。


  • 誘発投資はゼロサムか
    たしかに公共投資の予算が限られているのなら、誘発投資の大きい案件を優先すべきという意見は説得力がある。ただ筆者は、このような誘発投資の性格と全体的な効果というものをもっと吟味すべきと考える。新たに建設された道路や鉄道の沿線に、住宅や商店が建設されることは事実である。しかしそれらは別のところに建設された可能性があるものも多いと考えられるのである。たまたま新しい道路や鉄道が開通したため、そこに建設されたということが十分考えられる。つまり新しい道路や鉄道の沿線に行われた民間投資の分だけ、他の地域への投資が逆に減っているとも考えられるのである。

    公共投資の誘発投資にも、先週号で取上げた規制緩和に伴う誘発投資と似た現象が考えられる。携帯電話の普及に伴う誘発投資があっても、一方で携帯電話に需要を喰われた産業分野の投資が減るのと同様の現象である。今年開かれた愛知万博でもよく似た現象が起っている。愛知万博は盛況で、公共投資としては成功したと言われている。しかし一方でディズニーランドとユニバーサルスタジオの客が減っている。おそらく他の地方のテーマパークも入場者が減っていると思われる。

    誘発投資がこのような性格を有しているとしたなら、仮に公共投資に伴って新たな誘発投資が起っても、一方に他の民間投資の減少がある。したがって国全体で見れば、ネットの投資額はプラスマイナスがゼロか、あるいはプラスだとしてもたいした額にはならないと筆者は考える。公共投資の誘発投資を声高に叫ぶエコノミストや識者は、一方のこの投資の減少を軽視、あるいは無視しているのである。たしかにこの投資の減少の方は、影響が長期に渡り把握が難しい。

    サミュエルソン流の生産力の限界で起る誘発投資が幻で、筆者が唱える拡張版の誘発投資が極論としてゼロサムということが有りうる。この場合、公共投資の乗数効果は、まさにケインズ流の乗数効果だけになる。先々週号で、正統派のケインジアンが誘発投資を軽視、あるいは無視する話をしたが、これまでの説明で、これが決して異端ではないことがご理解できよう。

    筆者は公共投資に伴う誘発投資はゼロサムではなく、ある程度のプラスが残り、さらに公共投資を選ぶことによって少しはこのプラス自体も大きくなると考える。したがってやはり効果的な公共投資を推進すべきというのが筆者の考えである。しかし公共投資に伴って誘発される投資を決して過大視しない。やはり公共投資が経済に及ぼす影響で一番大きい要素は金額である。したがって「地方での道路建設は無駄であり、経済効果のある公共投資に限定せよ」と声高に叫ぶ人々にはとても同調できない。


    また世間に従来型の公共投資を徹底的に否定する風潮がある。特に地方の場合がやり玉に上がる。従来型の公共投資が、誘発投資をほとんど生まないことがこの理由であろう。しかしそもそも公共投資の誘発投資のトータルの効果が、これまで説明してきたように、それほど大きなものではないとすれば話は大きく変わってくる。

    極端なケースでは、誘発投資を生む公共投資と従来型の公共投資の乗数値に違いがないということになる(むしろ逆に従来型の公共投資の乗数値の方が大きくなる事が考えられ、これについては来週号で説明する予定)。また従来型の公共投資には雇用機会の提供という重要な働きが一方にある。さらに誘発投資を生む公共投資のほとんどは、立案から実施まで長い年月を必要し、機動性に著しく欠ける。したがって景気対策として行われる従来型の公共投資は、決して否定できないものである。



来週は、乗数値の低下を取上げる。

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05/10/17(第409号)「誘発投資の拡張版」
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05/9/26(第406号)「大谷氏への公開質問状」
05/9/19(第405号)「デマの検証」
05/9/13(第404号)「選挙結果の雑感」
05/8/29(第403号)「今回の総選挙を読む」
05/8/22(第402号)「今回の総選挙の沿革」
05/8/8(第401号)「中国経済の本当の脅威」
05/8/1(第400号)「中国の為替戦略」
05/7/25(第399号)「経済のグローバリズムの行末」
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05/7/11(第397号)「郵政法案と小泉政権の行方」
05/7/4(第396号)「経済のグローバリズムと競争の公正」
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05/6/20(第394号)「公的年金とセイニアーリッジ」
05/6/13(第393号)「日本国民全員がばん万歳の政策」
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05/4/25(第387号)「鎖国主義への誘惑(その2)」
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05/4/4(第384号)「法律と現実社会との間」
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05/3/14(第381号)「資本とグローバリズム」
05/3/7(第380号)「貿易とグローバリズム」
05/2/28(第379号)「マスコミの暴走」
05/2/21(第378号)「マスコミが流す誤った概念」
05/2/14(第377号)「日本のマスコミの権力指向」
05/2/7(第376号)「日本のマスコミの体質」
05/1/31(第375号)「財政当局の変心」
05/1/24(第374号)「経済成長の条件(その2)」
05/1/17(第373号)「経済成長の条件(その1)」
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04/6/14(第348号)「対談の論点」
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